オタクのお金で、致しおり【後】


前回のあらすじ

 わたし、私立文系大学卒だというのに彼女ができたこともなければ本番性行為をしたこともないその辺によくいる普通の異常独身男性25歳! いっけなーい遅漏遅漏! 今日も趣味のお風呂巡りをするために、夕暮れ時から電車を乗り継いで東京都内まで遊びに来たんだった! 先を急がなきゃ!


 朝食で食べ損ねた食パンを口にくわえながら全力疾走する私。日々の疲れからか、不幸にも白塗りの高級浴槽に追突してしまう。愚息をかばいすべての責任を負ったしおりに対し、投げ銭の主、ご来賓が言い渡した示談の条件とは・・・。くろしおりの卒業式に一同驚愕。その衝撃の内容にガマンの汁が止まらない――



 彼女の足ほどきで無事果てた後、私はその達成感に満たされていた。事後のシャワーを浴び終えた我々は再び衣服をまとい、ベッドに腰かけて残された時間を過ごす。どうだった? 良かった、など他愛もない感じの雑談をした記憶がある。ほどなくして電話が鳴り、彼女が応答している。ああ、ついに終わったんだな。初めての高級浴場だったけれど、なんやかんやで楽しかったなぁ。


 この後は再び主催やご来賓の方々と合流して、都内某所で卒業式を――




 卒業――




 あれ、何を卒業するんだったっけ・・・?





 あ"!!!!!!!!!!!!




ーーー




ーーー

以下本文



ーーー




 皆様に謝罪しなければならないことがあります。




 この度、「しずなみ氏が他人の金で卒業してくる」という企画に付随する形で、私にも同様の体験をさせていただく流れとなりました。前編に記した通り、企画は無事、昨年某日に実行されました。


 ・・・ここまで読了いただいた方々は、もうお気づきでしょう。前編の最後を思い出してください。私は確かに果てました。初めての高級風呂で果てました。それはもう気持ちの良かったものです。何の悔いもございません。


 だがしかし、一番大切なコトをし損じておりました。"卒業" です。


 己の怒張を彼女に奉納することなく、中の温もりを知らぬまま、あくまで私個人の性的管轄であるところの足で果て、終わりました。

 詰まるところ、私は今回の目的を完全に見失っていた次第です。背信行為と呼ばれても何ら反論の余地はございません。私の卒業を期待して私財を投じていただいた皆様、本当に申し訳ございませんでした。

 ここまで読んでいただいた上でなお、もし私に弁解の余地を頂けるというのであれば、どうか一つだけ述べさせてください。


「80分、意外と短い。」


 もちろん私も当初は "卒業" を勝ち取る意思をもって入浴しました。しかしながら行為の道中、私は個人的性癖を満たす方へと傾倒。結果、時限的恋愛の猶予をこれに消費し尽くしてしまったのです。

 この世は有限です。私に与えられた時限的恋愛の猶予は80分。それは約100億年*1といわれる太陽の寿命に対して一瞬にも満たず、仮に約85年*2を数える日本人の平均寿命と比べても、その占める割合は1/558450に過ぎません。

 しかし、そんな刹那にも計画が必要だったのです。カリキュラムに沿って正しい履修をしなければ、卒業は出来ません。いつどこで、どんな段階で何を履修して、どのようにして卒業に漕ぎつけるのか。初めの計画が重要なのです。

 これを怠った結果、私は場当たり的な欲求満喫ツアーを敢行してします。本番に割くべき時間を捻出できないまま、ついに"卒業" を逃してしまいました。事実上の留年そのものです。実際、入浴中の私による欲求展開の後手後手さ加減は、前編を読んでいただいた各位は既にご存じでしょう。


 ・・・と、このように書いていると、どうも私が入浴行為に対し後悔一色のように思われるかもしれませんが、それは否定させていただきます。今回の企画を経て私は非常に満たされています。ご安心ください(?)

 個人的性癖で果てた経験はさることながら、他人とゆっくり湯船に浸かった時の安堵感も忘れられません。なんなら、もう本番とかそういうの考えないで、ただダラダラと湯に浸かってるだけで過ごすのもアリなのでは? などと思ってしまうくらいに、私は人肌に飢えていたのかもしれないのでした。


 今後、一連の企画(特にしずなみ氏のレポート)に触発され、新たな世界へ旅立とうとするオタクがこれから幾人か現れることでしょう。


 しかし性欲の風に吹かれ、勢いのままに湯へ飛び込んでしまえば、私と同じ反省をすることになってしまいます。それは無装備で旅立つレベル1縛りな勇者と何ら変わりません。縛って気持ちいいのはその手の専門店だけ。準備なしの入浴にはヒートショックを起こす危険性もあるのです。

 ヒートショックを避けるには「かけ湯」が欠かせません。そのかけ湯として、私が得た反省点を以下にまとめたく存じます。

 何にせよ私も一度だけの経験を基にした反省です。有益かどうかはわからないし、その道の有識者から見れば的外れな内容かもしれませんが、どうか、勢い余ってその手の空間に足を踏み込む前に、こういうことを念頭においておけばより満足感が得られるんだろうなと言うことを、知っていただければ幸いです。

 ・・・念を押しますが、あくまで一度きりの経験で得た知見ゆえ、不十分な点、的外れな点が見受けられると思いますが、その辺りはどうかご容赦ください。


反省


 此度の経験で、私には以下のような反省点が露見しました。


①時間的計画性の無さ

 先述した段落にも記しましたが、高級風呂は時間制です。その恋は有限であることを念頭に置いておかねばなりません。

 "営み" には、その手順について不文律があるようです。挨拶、抱擁、接吻、入浴、合体・・・。別にこうしなければならない決まりでもなければ、例外なぞ多数あるでしょうが、大体はこのような流れで進んでいく印象があります。これらの手順を限られた時間にどう展開するか。ギッチギチにダイヤを組み込む必要はありませんが、やんわりとながら、予め考えておくに越したことはないでしょう。

 でなければ、私のように「好きなプレイを履修していたら本番に割く時間が無くなっちゃった」という事態に陥ってしまう懸念があります。それでは勿体ない・・・。


②人見知りの皮を剥ぐ、没頭力を身に着ける

 時間的計画性の他に、私にはもう一つある能力が不足していました。それは「この空間に没頭する」ことです。前編において、私は重い人見知りを引きずったまま、ただ自分の欲求を一方的に受けてもらい、果ててしまいました。正直、相手と打ち解けきれたかと言われると、肯定できません。

 この空間における理は至って明確。入浴した先で偶然恋に落ちた異性とおっぱじめる、ただそれだけ。しかし、おっぱじめるためにはその世界観を短時間で飲み込み、その空間の人間としてふるまう必要があったのです。人見知りは、この空間においてただの邪魔者です。

 あるとき、高級浴場のことを「テーマパーク」と表現する人をみて、言い得て妙だと思いました。夢の国で人は夢を見るのです。いま、自分はは夢の中にいる。当時の自分には、そう思い込む力がありませんでした。それは台本を用意しないまま舞台に上がるようなもの。即興劇を難なく演技するほどの技量なんて人見知りの自分が持ち得るわけがありません。なら台本を用意して、役になりきるしかないのです。普段の自分とは違う「客」という人格になりきるのも、人見知りを振り払う一つの手なのではないかと思います。

 これから本番が待ち受ける中、待合室でその時を今か今かと待つしずなみ氏の様子を、私は卒論前編において、

 私の会計から少し遅れて、しずなみ氏が待合室にやって来た。私の隣で、同じアンケートに答え始めるしずなみ氏。「へー! こんなことまで指定できるなんて凄いね!」など、すこぶる興奮気味だった。私はただ「そうだね」と小さく相槌を打つことしかできなかった。彼の持つ、その場の環境を全力で楽しめる性格というのが、私には眩しかった。

と書きました。

 後で聞いた話では、彼はテンションを上げるために半ば無理やりそういう振舞いをしていたとか。結果から言えば、彼の振舞い方が正しかったということは、私と彼の論文を見比べてみれば一目瞭然でしょう。


③ "営み" は "コミュニケーション" であるという意識の欠落

 コミュニケーションを辞書で引くと、『ことば・文字・身振りなどによって、意思・感情・思考・情報などを伝達・交換すること』とあります。

 されたいこと、したいことは言葉にしないと伝わらない。割り切ってしまえば客商売、ゲストである自分に意思表明の義務があります。中途半端な羞恥心で意思表示を曖昧にしたところで、何も得られません。ひとえに「受け身」と言えど、何もしない受けと、相手の攻めを誘発できる受けは違います。悲しくも私は前者でした。

 いくら受け身でも、受け身なりに自分の希望を言わなければ、相手だってどう動いていいのかわかりません。彼女も自分とスキンシップを図るため、距離感を詰めるため色々なアプローチを図ってくれたではないですか。でもそれに対して自分は人見知りだなんだと言い訳をして、柵を乗り越えることができなかった。

 コミュニケーションは難しいけれど、相手が心を開いてる以上、自分が一歩を踏み出すしかない。その努力は惜しんではいけないなと痛感しました。これを今後改善しようと前向きになれたという点で、入浴の効用は大きいと言えましょう。


④相手の情報を仕入れ、コミュニケーションの手札を増やすべきだった

 コミュニケーションを盛り上げる手立ての一つに、「相手に関心を持つ」というものがある*3そうです。これが出来ていれば、本番中、より相手と打ち解けられていたのかなと言う反省があります。

 私は人見知りを言い訳にして、ろくな会話を取れないまま、自分の性癖のためだけに彼女を動かしてしまっていたところがありました。


 相手に関心を持つためには、その場の会話であったり、事前の情報収集などが有効な手段としてが挙げられるでしょう。正直なところ、私はこの手立てを完全に怠っていたのです。

 例えば事前の情報収集について、その店のサイトに掲載されている彼女のプロフィール欄には、文字通り彼女の情報が載っています。身体的特徴はさることながら、出身地や趣味なども、簡易ながら情報が上げられています。

 この情報を元に、例えば「〇〇出身なんですか? 〇〇といえば・・・」などという話しかけが出来ていれば、より彼女とも打ち解けたコミュニケーションが出来ていたのかな・・・という思いがありました。そのような相手の情報を引き出すための手段は、公式サイトや写メ日記などで用意されていたのです。「作戦は準備が9割」本当にそうだと思います。


⑤意思表示の手段は「会話」だけではない

 自分の意思表示が手薄だった話は先述した通り。彼女とより親密なコミュニケーションが取れてれば良かったねと言う内容でしたが、実は意思表示の手段は、彼女との直接的な会話以外にもあったのです!

 前編を思い出してください。店に到着し、決意表明をして、入店し、お会計を済ませ、番号札で呼ばれるまでの間にやっていたこと・・・。

 そう、アンケートの自由記入欄

 アンケートにはいくつかの設問が用意されていた。「自分の氏名」「敬称はどうするか」「接客中の着衣の有無」「髪型・メガネなど装飾の要望」「その他自由欄」といったものだ。

 その他自由欄、まさにこれを活用すべきでした。何を隠そう、私はこの自由記入欄を空欄にしたまま提出してしまったのです。大学の講義とかでありがちな「最後に何か質問ありますか?」に対して何も出てこないタイプの人ですね。

 例えばこの自由記入欄に「初体験ゆえお手柔らかに願う」とか「足が好きです」とか書いておけば、相手方もより動きやすかったはず。これを有効活用できなかったデメリットは小さくありません。羞恥心は捨てよう!


⑥せっかくの機会だから、したことないことをすべきだった

 今回、私は足で果てました。これについて悔いはありません。ただ、せっかく特殊風呂に来たのだから、特殊風呂でしか出来ないようなプレイにも手を出すべきだったなぁという気持ちがあります。

 もちろん足で果てる行為だってこういう場所に来なければ体験できないでしょう。ただ、例えば愚息を胸に挟んでもらう(彼女は大変な名山をお持ちでした)とか、ガンガンにドSで攻めてもらうとか、潤滑液でドロッドロになりながらイチャコラするとか、それこそ合体行為だってそうです。この機会にしか出来ないプレイが他にもあったと思います。どうせならやってもらえばよかったなぁ。


 これが今回の経験を通じて感じた反省点です。上記6点に気を付ければ満足度100%を得られるかと言われれば、私自身2度目のソレを経験していないゆえその点は保証できませんが、頭の片隅に入れておくだけでも違うのかなと思います。あくまで私的な反省点の羅列としてお読みいただけると。

 ・・・またいつか、特殊なお風呂屋さんへ赴く機会があったら、多少は今回よりまともな立ち回りができるかなあ。お読みいただいた方にも役立てば、作者冥利に尽きる次第。

 


感想と総括


 前編から引き続きお読みいただいた方々、長らくのお付き合いありがとうございました。以上が、『オタクのお金で、致しおり』のレポート本編と振り返りになります。お楽しみいただけましたでしょうか。


 感想としては、それは「面白かった」の一言に尽きます。


 思い返せば、しずなみ氏の企画が立ち上がり、流れ弾で自分も行くことになり、気づいたら企画当日・・・といった具合で、正直なところ、あまり自分から企画にコミットしていた自覚がないまま時は過ぎていきました。企画の進行や集金手続等も、殆どしずなみ氏に丸投げ状態でした。彼には頭が上がりません。

 そして企画当日の流れは前編にまとめた通り。結果としては、私は合体に至ることなく果て、皆さんから託された目的を成し遂げることが出来ないまま終了時間を迎えるという、期待を裏切るものとなってしまいました。その点については本当に申し訳ありませんでした。


 けれど一連の活動によって、知見を広げることの楽しさも味わうことが出来ました。

 オープンチャットで得られた有識者からの知見は実に興味深いものです。有識者オープンチャットとは、企画について様々な調整をするためにしずなみ氏が用意したもの。私としずなみ氏の他、風俗に行き狂いしている某氏や、その手のお店に詳しい知識を持つ方々数名で構成されています。詳細はしずなみ氏の卒論で。

 企画にあたって必要となる、今まで意識すらしてこなかった内容の数々がそこにはありました。彼女の選び方だったり、お店ごとの特徴やシステムの傾向だったり。


 中でも私個人で印象に残っているのが「指毛を剃る」というもの。お風呂屋さんに行くにあたり、身だしなみを整えた方が良いという話になりました。その際整えるべき対象として挙げられたのが、(切ったりヤスリがけしたり)、体臭(オタクは身体をゴシゴシ洗え!)、整髪(髪を整えたり、髭を剃ったり、女子高生を拾ったり)などなど。そしてその中に指毛も含まれていたのです。

 要は適切な体毛処理によって清潔感が得られるというものですが、指毛の存在なんて今まで気にしたことなかっただけに、その指摘は衝撃でした。

 世間一般の人たちはそこまで考えて身体のメンテナンスをしているのか、自分が如何に無知だったかを思い知った次第です。って僕の中では結構大きい知見なんですけど、実は皆さん当たり前のように指毛剃ったりしてるんですかね。知らないの自分だけ。僕の不潔具合が露呈した。忘れてください。

 予めのアドバイスもあり、おかげでいつも以上に丁寧にシャワーを浴び、身体をゴシゴシし、体毛を剃りつくしてお風呂へ向かうことが出来ました。もちろん乳首の回りに生えてた毛も剃りました。そり!

 ・・・よくよく考えれば、普段から人と会う時はそれくらい身なりを整えるべきなんですよね。一連の企画で得た学びの一つです。

 

 あと何というか、オプチャの方々、会話の仕方が上手すぎる。話の流れの中で、私が的外れな発言をしてしまうタイミングがあったのですが、それを汲んだうえで簡潔な返事が返ってきたりして感動しました。その節はありがとうございました。


 こういった点も含めて、様々な経験を得ることが出来ました。やってる当時はテンションも高くなく、澄ました顔で過ごしていた感も否めませんでしたが、後で思い返せば、実に面白い体験をしたなと思うことができます。

 卒業という一番の肝心どころは逃してしまいましたが、仮にこれが自腹で欲に任せての入浴とかだったら、ここまで丁寧な感想を抱くことはなかったことでしょう。感動も反省も、この企画があったからこそ意識することが出来たのです。その点において、関係者各位には頭が上がりません。本当にありがとうございました。

 私の卒論はこれにて終了となります。あまり自分の書く文章の面白さについて自信はありませんが、もし面白くお読みいただけたのであれば、夜更かししてパソコンとお見合いした私が報われます。


 最後までのお付き合い、本当にありがとうございました。


Special Thanks


・投げ銭していただいた皆様

・企画主催、進行等に携わっていただいたオープンチャットの皆様

・私の企画担当を進行してくれたしずなみ氏

・ご来賓の皆様

・足の性癖に付き合ってくれたお風呂屋さんの彼女

・一連の文章を書くにあたり参考にした、オタクブログ複数

・and you...




この場を借りて、お礼申し上げます。





END





* 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
* 誤字脱字の修正・読みやすさ等の改善のため、事後的に本文への加筆・修正を加える場合がございます(前後編含め)。悪しからずご了承ください。


あ~ 修士課程の論文が楽しみだなぁ~~~~


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