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日本のシビックテックの先を走るコミュニティのこだわり/Code for Kanazawa(後編)

Photo by Toshiya Kondo @civictech forum(CC-BY)

「貢献した人をHEROにすべき。頑張った人が報われるのは当然のことだと思います。」

Code for Kanazawaの代表理事である福島さんは、当たり前のように話していました。

前編「強い想いが仲間と流れをよびよせた」はCode for Kanazawaの活動について紹介しましたが、後編はCode for Kanazawaの理事のこだわりを中心に紹介したいと思います。

Code for Kanazawaの理事には、複数のこだわりがあり、そのこだわりを聞いていると、Code for Kanazawaの活動は、理事のこだわりに守られているように感じるんです。

そんな理事のこだわりの一つは「メンバーを尊重し、活動できる場作りに専念しよう」というもの。そうでないと「オープンでフラットで多様性をもって活動できない!」と言っています。

理事は、プロジェクトメンバーとして活動に参加することはありますが、理事という立場でCode for Kanazawaの活動に参加することや、プロジェクトに口をだすことはありません。プロジェクトはメンバーに任せ、理事という立場では、メンバーが活動しやすい場を創ることに専念しています。

活動しやすい場を創るためにも、「貢献した人をHEROにすべき」というこだわりをもっており、それは活動をしてくれているメンバーにとって、とても嬉しいこだわりだと思います。

例えばCode for Kanazawaから始まって、現在75都市にひろがっている5374.jp(ゴミナシ)というアプリの全てのソースには、初期開発メンバーの名前が残っています。

Code for Kanazawaの理事のこだわりを聞いていると、なんだか暖かさを感じ、理論だけでは再現できない、コミュニティにおいてとても大切なものがあるような気がします。

そんな、理事のこだわりの幾つかをご紹介したいと思います。


■「市民」としてのポジションを明確にしたポリシー

シビックテック活動を継続していくと、いずれ「法人化したほうがいいだろうか?」と考えるタイミングに出会うコミュニティもあるかと思います。Code for Kanazawaは活動を開始した10ヶ月後に法人化しています。

設立当初から、活動を継続的に続けていくためにも、法人化はしようと話し合っていたそうですが、タイミングがきたらっと考えていたそう。5374.jp(ゴミナシ)というサービスを生み出し、全国に広がり始めた段階で、法人化をしたとのことでした。

シビックテックの非営利団体として、法人化している団体はあまりないと思います。いずれそのタイミングがきたら、Code for Kanazawaのポリシーが役に立つこともあるかもしれないので、ここで紹介したいと思います。

このポリシーをみて、とてもすばらしいと思う点は、協働の姿勢です。行政との協働もそうですが、現在その地域で活躍しているプレイヤーと競合にならないようにという意向が、以下の2項目から伺えます。
 ・民間ができることはできるだけ民間に任せる
 ・Code for Kanazawaしかできないことをする

これからの時代は、行政に頼るのではなく、その地域で暮らしている民間の会社や行政、そして市民との共助の世の中になると思います。そんな世の中で「市民」として関わっていくポジションをよく考えられていると思います。

Code for Kanazawaの具体的な活動に関して質問してみました。

「仕様書に落として作るような仕事は、委託事業のようになるのでやっていません。それは民間事業者がうける仕事だと思っています。Code for Kanazawaとしての活動は、シビックハックナイトといわれる市民が集まる場の提供や、オープンデータコンテストであるアーバンデータチャレンジの地方拠点の1つとしての活動をし、それらの場で生まれたプロジェクトなどになります。また行政とは、シビックテック活動の啓蒙として、行政職員へのオープンデータの教育を行なったり、学生にアプリ開発を教える塾を開いたりしています。」(福島氏)

ご紹介したポリシーはあくまでCode for Kanazawaのポリシーです。参考にすることはあっても、ただの真似ではダメだと思います。もちろん、違う意見もあると思います。

福島さん自身、このCode for Kanazawaのポリシーを紹介する際、いつも最後に、

「これをみなさまに押し付けるつもりはありません。これはCode for Kanazawaとして掲げているポリシーです。他の地域の方はそれぞれのポリシーを作って活動していってくれたらと思っています。」(福島氏)

とコメントしています。

また、こちらのポリシーには、産学官民の「学」について触れられていないのですが、これは活動をする中でポリシーから抜けていることに気付き、現在はその部分も意識して活動の幅を広げているそうです。7月11,12日には、石川県にある大学院大学JAIST(北陸先端科学技術大学院大学)で、学生とともに、シビックハッカソン「新幹線×CIVIC TECH/創ろう未来の北陸!!」を開催するとのことです。

Code for Kanazawaもまだまだ道半ばです。活動資金については悩みは絶えず、現在5374.jpなどのマネタイズなども視野にいれ、試行錯誤しています。


■メンバーを尊重し、活動できる場作りに専念している理事の存在

ポリシーがあるだけではうまくまわりません。Code for Kanazawaのすばらしいところは、そのポリシーを守り続ける「理事の存在」だと私は思います。

Code for Kanazawaは、代表理事の福島さんが一人ひとり説得して口説き落として始まったのですが、その際、Code for Americaを知っている人は1人もいなかったそうです。(※Code for Americaとは、Code for Kanazawaが立ち上がるきっかけとなったアメリカの団体です。)

ポリシーにも書かれている「中立・公益」の立場で活動するコミュニティをやっていきたいのであれば、多様性はとても重要になります。違う考えや経験をもっていたり、スタンスの違う人たちが集まることで、意見の対立は起きますが、それは公共性を高めるためにとても重要なことです。福島さんは最初の理事を口説く際、多様性に関してはとても気を使ったそうです。

9人の理事は、エンジニア、デザイナーなどIT関連の人は多いものの、映像作家、学生、カフェのオーナーなど様々なタイプ(職業、年齢)の人で構成されています。その9人で、自分たちの考えるシビックテックを話し合い、先ほど紹介したポリシーを決められました。

「自分がつくったCode for Kanazawaのポリシーをもとに、理事のメンバーでとことん議論しました。なので、Code for Kanazawaのポリシーに関しては共通認識をもっている自信があります。理事みんなで議論したポリシーだからこそブレないし、共通認識をもてる。何かを考える際、常にここに立ち返ります。もしも自分自身が見失ったとしても、1人できめたわけではないポリシーなので、他の人がCode for Kanazawaが目指しているシビックテックに立ち返らせてくれます。間違っていたら間違っているとはっきりと言われます。」(福島氏)

と力強く語られる福島さんからは、間違っていたら間違っているといってくれる理事という存在がいるからこそ、安心して活動ができているという、理事への信頼と自信を感じました。

ただ、Code for Kanazawaの理事は、理事として活動には参加しません。理事としては、理事会で現在の事業内容(やっていること)と今後の事業内容(やろうとしていること)の確認をするのみです。その中で引っかかるところ(ポリシーとずれているところなど)があれが議論となるそうです。

現在、Code for Kanazawaはメンバーが広がり、プロジェクトチームが数多く生まれるようになりました。理事会で「理事としてプロジェクトに介入し、リリース前にはサービスをチェックした方がいいのでは?」という話があがったことがあったそうです。それは、Code for Kanazawaが「みんなに使われるデザイン」というものにこだわっており、そのこだわりを担保するためです。しかし、理事会での結論は以下のようになったそうです。

「理事はただ最初にCode for Kanazawaに関わった人にすぎない。だから途中からプロジェクトに関わって口を出す権限はない。ダメなデザインだったら使われないだけ。そこにプロジェクトチームが気づいたら相談がくるはず。その時には相談にのろう。だからそれまでは好きにやらせよう。」(福島氏)

中立、公益な立場で活動するためには多様性が重要で、そのためには、理事としての立場ではプロジェクトに関して口をださず、メンバーを尊重し、活動できる場を作ることだけに専念していこう!と、改めて理事会で話し合われたそうです。

話は少しかわりますが、福島さんは、理事を口説き落とす際、こんな反応をもらったことがあるそうです。

「Code for Kanazawaのような活動が必要だとは思っていたけれど、自分から立ち上げようとは思わなかった。Code for Kanazawaを立ち上げたいと言ってくれてありがとう。このような活動に関われる場を創ってくれてありがとう。」(理事)

この理事の言うように、場があることはとてもありがたいことだと思います。1人でやっていけることには限界があります。Code for Kanazawaのメンバーはお金をもらって活動しているわけではありません。それぞれのメンバーの想いで、補いあい、助けあいながら、やれる時にやっています。これはCode for Kanazawaというコミュニティがあるからこそ実現できていることです。そんな風に自分のスキルを活かせる活動にかかわれる場(環境)があるというのが、メンバーが感じているCode for Kanazawaの一番の価値なのかもしれませんね。

Code for Kanazawaの理事の「活動のできる場作りに専念しよう」という結論は、求められているもの(使われるもの)を作ることにこだわっている理事からすると「求められていることを実直にしている」だけで、自然の流れからでた結論な気がします。


■貢献した人はHEROになるべき

ポリシーには書かれていないですが、理事の中で共有されている「こだわり」もいくつかあるそうです。その1つは「貢献した人はHEROになるべき」というものです。

例えば、5374.jpは2日間のハッカソン的に作られ生まれた作品ですが、その場に関わった方たちの名前は今でもクレジットとして残っています。そして、サブドメインとして運用されている全国の75都市の5374.jpのコードの中にも残っています。そういった気持ちって嬉しいし大切ですよね。

HEROにするコツについて質問したところ、

「とにかく任せることです。プロジェクトリーダがやりたいようにやらせること。理事の役割は、書類上の申請などを書くことと、プロジェクトリーダーが楽しくやっていけるように時々フォローするぐらいです。」(福島氏)

との回答でした。プロジェクトに関して基本的に理事は口を出さないため、大切なステークホルダーとの打ち合わせも、プロジェクトに関しての発表をするのも全てプロジェクトのリーダになります。

先日読んだ、「真のリーダは決断をくださない」という記事でこのような文章がありました。

「ビジネスでは、当事者意識が何よりもパワフルなモチベーションにつながります。その当事者意識の核となるのが、自分で判断できること。」(記事より引用)

ビジネスでなくても、当事者意識は何よりもパワフルなモチベーションになると思います。お金などの外発的動機付けをもらっていない活動ほど、モチベーションなどの内発的動機づけは大切なはず。

きっと、「やりたい人がやりたいことをしていて、頑張った人は報われるべき」という純粋な考えであり、モチベーションのためといった計算などないとは思いますが、自然にやっていることが理にかなっているのは、素晴らしいの一言です。 

(5374.jpが生まれた開発の様子:H.Miyata, K.Ikagawa, Y.Takagi, Y.Ono) 


■地域におけるイノベーションを起こすステップを着実に踏んでいる金沢

福島さんのお話を伺い、私はある言葉を思い出しました。以下は「協働のまちづくり」や「市民主体のまちづくり」を専門にされている東京大学の小泉教授が地域におけるイノベーションを起こすためのオープンプロセスについて語った言葉です。

「まずは、相互に情報をやり取りし、共通の課題や到達すべき目標像を掲げ、ビジョンを共有する必要があります。(中略)その際、違う考えやナレッジをもっていたり、スタンスの違う人たちが集まることで、意見の対立が起きるということが重要。対立点を解決することは、まさにイノベーションそのもので、そうした過程を経ることでまちづくりやコミュニティ活動の公共性が高まります。
次のステップとして議論の内容を外に対して情報発信し、オープン化することで、新たなリソースを取り入れていきます。グループに外から新たなプレーヤーが加わる、あるいはグループからスピンアウトして新たなコミュニティが生まれる、そうしたダイナミズムがさらなるイノベーションを生み出します。」(小泉氏)

 ※「オープン化が持続可能なコミュニティを作る」記事より引用

いま、日本では、行政はいままでどおりの活動ができなくなっており、産学官民が協働し、一丸となって地域をよくしていくというイノベーション(変革)が求められています。

Code for Kanazawaは、そのイノベーションを起こすためのオープンプロセスのステップを着実に踏んでいると感じました。

多様性のある9名の理事でポリシーについてとことんと話し、共通の課題や到達すべき目標像(自分たちの考えるシビックテック)をあげながら、ビジョンを共有しています。次にCode for Kanazawaとして5374.jpを作ることで自分たちは何者かを発信し、Meetupイベントなどを行うことで、地元のITに感度の高いNPOの人たち(新しいプレイヤー)が加わります。そうしたダイナミズムから石川県庁からは新たにオープンデータが生まれたりもしました。

そして、5374.jpというサービスは各地に同じサービスを作るエンジニアの新しいつながりも作りました。そのことで、5374.jpがどんどん改良されていくという新たなダイナミズムも生まれました。
(※Code for Kanazawaの詳しい活動に関しては、前編の「強い思いからの行動が、仲間と流れをよびよせた」を参照ください)

Code for Kanazawaは縦のコミュニティ(同じ地域の違うレイヤーのコミュニティ)と横のコミュニティ(同じ興味をもつ各地域のコミュニティ)の両方の交流を持っています。

そのことは、さらなるダイナミズムを起こすための条件が揃っている気がし、次はどんなイノベーションが生まれるのか、楽しみです。

Code for Kanazawaのすごいところは、(たぶん)計算して動いてないと思うんですが、理論的にも正しいと言われているステップを踏んでいることです。それができているのは、多様性をもった理事でしっかりとビジョンを共有してから、仲間を集めたという始まり方が大きく影響している気がしています。

Code for Kanazawaのポリシーが素晴らしいということを言いたいのではなく、ビジョンが共有されていることが素晴らしいのだと思うんです。

ポリシー自体は、活動される地域、人によって価値観が違うので、「Code for Kanazawaのポリシーは俺とは違う!」と思う方はいると思いますし、いていいと思っています。ただ、一緒に活動する仲間も同じように考え、そのビジョンを共有して活動を広げるということが大切なのだと思います。

だから、例えば、こういった他の地域のポリシーをみて違うと思ったら、一緒に活動しているメンバーにも見せて考えを共有し、新しく「自分たちのポリシー」を話し合ってみてもらえたら…と思います。

話し合った結果、同じ考えをしていることがわかれば、より一層仲間意識は高まり、自分の行動にも自信がつくと思います。

もしも違った場合は、とことん話し合ってみてください。それができれば、お互いを理解して進むことができ、長い目で見た時、きっとその時に話したことがよかったと思えるはずです。


■蛇足

Code for Kanazawaは、話を聞いていると、ポリシーの他にも、活動する中でいくつかの細かいこだわりをもっていて、そのこだわりは、理事会の話し合いや雑談の中でシェアされているようです。

ポリシーとして明文化しなくても、想いが共有されている状態がまた素晴らしいですよね。

ポリシーにない細かいこだわりとは、多様性のあるオープンでフラットな組織であること、協業ではなく協働という姿勢、使われるデザインの提供、貢献したひとはHEROになるべきなどです。

まず、そういった想いのシェアがあり、次に無理のない範囲で出来ることを行動に移し、継続していく。継続してやっていくためにも、興味があることを楽しくやっていくこと、頑張った人が報われるべきという、単純で当たり前のことを実直にやっている結果が今なのだと思っています。

また、イノベーションを起こす1つの条件は「開かれた環境」「多様性」です。Code for Kanazawaは、ポリシーにある公共性を保つため、その点を念頭において活動しているからこそ、常に流れも生んでいる気がします。

前回紹介したCODE for AIZUと、今回紹介したCode for Kanazawaは全く違うアプローチでシビックテック活動をされています。2つに共通する点は、継続しているからこその「今」であり、どちらも短期的な成果を考えて活動しているわけではないところでしょうか?

そして、流れを大切にし、無理をしない範囲でやれることをすることが、継続的な活動につながっている気がします。

CODE for AIZUの藤井さんの言葉を借りると「小さくても継続していくことで、その熱量が対流し構造が生まれていく」のかなっと。

つまり、どの地域でもいえることは、

「小さなことでも、いま自分たちが出来る事をやっていく。」

私はこれが継続するコツであり、自分達の理想の姿に近づく近道だと思います。 「無理をして動くこと」は継続の可能性が低く、いつか息切れをしてしまいます。 シビックテックは継続していくものだからこそ、焦りは禁物なのだと思います。

もしも、無理して動いてしまっているかも?なんて思った方は、一度立ち止まって流れを観察してみてください。

流れを観察するには、いろんな方との「対話」が一番なのだと思います。その際には、できるだけ違うタイプの人を選ぶといいかもしれません。

そして、CODE for AIZUの藤井さんのいう、流れ、相対関係、意志のバランスについて考えてみても、何かが見えるかもしれません。


(※この記事は2015年7月9日に以下で掲載された記事の再掲載となりますhttp://thewave.teamblog.jp/archives/1039565346.html)

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