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the origin

 「今夜、お前たちを殺す」
 その手紙が来たのは、とある新興宗教の総本山だった。
 「教祖様、これは殺人予告です。私達は何をしたら良いでしょうか」
 「そうです。もしかしたら内部に密告者がいるかもしれません。あるいは…」
 「そう焦ることはない」
 教祖は厳かな声色で幹部たちをたしなめた。
 「私達なりの出迎えをすれば良い」
 「それはつまり…」
 「原点回帰だ。裏切り者には粛清すべき、と」
 「分かりました。さっそく…」
 「まあ、落ち着きなさい。もしかすると、わたしたちの仲間になりたいのかもしれぬ」
 「と、いいますと…」
 幹部は怖がりながらそう言った。
 「お前たちにはこの宗教の成り立ちを伝えていなかったな」
 「成り立ちですか」
 「私は超能力で人を殺したことがある」
 教祖の発言に幹部たちは背筋を凍らせた。
 「なに、単純なことだ。洗礼の一種だ。バプテスマは知っているだろう? それと同じことだ」
 「では、なぜ私達は生きているのでしょうか」
 「言っているだろう、私には超能力がある。能力がある人間を見極めることができる。君たちは選ばれたのだよ」
 厳かな声色で話す教祖を見て、幹部たちは恍惚な表情で聞いてきた。
 「さて、この手紙の主に洗礼を施すとするか」
 「承知しました。すぐに探していきます」

 「なぜ…捕まらなければならないのか!」
 「あ、お巡りさん、この人です。」
 警官の隣には男女二人がいた。一人目は自称霊媒師を語る男、二人目は物理学専攻の女。
 「友達の父親が行方不明になってると聞いて調べてみたんです。そしたらここがヒットしたんで警察呼びました。あ、殺人予告は私達じゃないですよ。別の人がやったと思います。指紋判定すればわかると思いますけどね」
 「あなたたち、洗礼と称して拉致監禁させて金品を奪っていたそうじゃないですか! そして、高額商品を老人に売ったり、余った金はタックスヘイブンで隠してたじゃないですか!」
 男は自慢げに言う。ほとんどが、警察があらかじめ調べていたことだが。
 「なぜ、ここが分かった!」
 「GPSですよ。友達からもしかしたら狙われるかもって相談を受けてたので念の為つけておいたんです」
 女はキャンディを舐めながらゴミを見るような目で言った。
 「じゃ、あとは警察におまかせしまーす」
 二人組の男女は手を振りながらその場を去った。

 「今日の仕事はどうだった? 俺のおじさんが刑事やってて良かったぜ!」
 「50点ぐらい」
 「低っ!」
 「今度はもう少し頭使う仕事が欲しいな」
 男女は言い争いながら総本山を後にした。


No.9632バプテスマ
No.6149殺人予告
No.5950原点回帰

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