理系の怨霊撃退法2
「『それ』を見たのはいつになりますか」
「確か、車を走らせていたときです。何か黒いものが横切って、それで急ブレーキをかけたんです」
「その『黒いもの』の特徴は?」
「えっと…動物のようなそうでもないような…」
「うーん、曖昧ですね」
「とにかく横切ったのは事実です。なんとかしてくれませんか」
「分かりました。では、車のルートと走っていた場所の地図をお借りしてもいいですか。あと、できればドライブレコーダーがあればいいのですが」
「ドライブレコーダーは準備できませんが、車のルートを示した地図ならあります。…あった、これです」
「ありがとうございます」
俺は除霊師。数々の霊を除霊してきた…というのは1割方本当で、残り9割は助手が全て解決していた。
「で、次の依頼は何?」
キーボードを叩きながらキャンディーを頬張るのが俺の助手だ。物理学専攻の天才である。
「これだ」
俺は依頼者から貰った車のルートを示した地図を彼女に渡した。
「現場は見通しがいい直線道路。道路の周りは、ビルや建物等で整備されているから動物が出るというのはないな」
「じゃ、何?」
「こっちが聞きたいんだけど」
彼女は俺が渡した資料をパラパラとめくった。するとあるページで手が止まった。
「ここの住所…確か1年前玉突き事故があった気がするんだよな。あと、2年前も…。似たような事故があったような」
「負の連鎖ってやつ?」
「まあ、そんな感じだな」
彼女は書かれていた住所をキーボードて叩き、過去に起こった事故、事件について調べた。
「このあたりはあり得ないぐらい頻繁に事故が起こってるな」
「すごい数だな」
1年の件数だけでも100をゆうに超えている。
「これは現場見たほうが良さそうだ」
俺と助手は事故があった場所に来ていた。見通しがいい直線道路、信号機あり、車道の横にはたくさんの建物やビルが並んでいた。
「横断歩道はなし、と」
「ドラレコがあればなあ」
「黒いものが横切る…か」
助手が腕を組みながら考え込んでいた。
すると、カアカアとカラスの鳴き声が聞こえてきた。
「ここにもカラス出るんですね」
「カラス…」
助手が何かに気づいた。
「事故当時、天候はどうだった?」
「そういえば曇り空で雨が降るか降らないか、そんな微妙な天気だった。…ほら」
俺はスマートフォンで天気を調べた。どうやらここの地区は事故当時、曇り空で降水確率50%とあった。
「なるほどね」
助手が現場を離れようとしたとき、俺はあることに気がついた。
「そういえば、ここクルミとか銀杏の殻結構落ちてますね。近くの街路樹から取ってきてるんですかね」
「そうか、その可能性もある」
助手は腕組みをやめて、現場をあとにした。
「何か分かったんですか?」
「なんとなくだけど。ただドラレコがないからなんとも言えない」
そして彼女は続けた。
「あくまで霊とは関係ないという仮定で進める。犯人はカラスだ、それも大群の」
「カラス?」
「事故当時雨が降るか降らないかの微妙な天気だったんだろ? とある鳥類は雨が降りそうなとき低空飛行をするんだ。それと、落ちていたクルミや銀杏。カラスは硬いものを意図的において身を取り出す習性がある、と聞いたことがある」
「つまり、たまたまカラスの大群が横切ったのが原因ってことですか」
「そういうこと。よく見たらこの辺は飲食店が多い。当然生ゴミも多くなる。カラスのいい餌場になっているんだろうな、ここ」
「じゃ、事件解決ってことで!」
「待て」
俺は助手に呼び止められた。
「ドラレコの画像次第では、本当の霊の可能性もあるぞ」
「あ」
すっかりドライブレコーダーの存在を忘れていた俺は、この事故をドライブレコーダー次第として一旦ペンディングすることにした。
「じゃ、カラスの大群の場合は?」
「行政の窓口に相談すればいいでしょ」
助手は呆れた顔で俺を見た。
No.4042急ブレーキ
No.2275現場
No.1154負の連鎖
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