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起死回生

 「ゾンビが現れたぞ!」
 突如として出現した怪物によって、⚫⚫市は壊滅状態にあった。周辺の市町村ーーいや、日本全体もしくは世界全体でこのようなパンデミックが発生していた。
 その怪物を撃退する方法や抗体の研究など、世界が一丸となって倒そうとしているがまだ確立していない。

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 ⚫⚫市⚫⚫大学 体育館
 ここはゾンビから逃げてきた人たちのある意味シェルターのようなものだ。
 「外の様子は?」 
 「まだ、こっちには来てないみたいです」
 彼らはありとあらゆる手段を使って、ゾンビから生き残ろうとしていた。
 「ハザードマップシステムによると、ここから北東にシェルターがあったはずですが…応答がありません」 
 「おそらくやられたんだな」
 ここは臨時の作戦室も兼ねている。
 「ここに来るのも時間の問題かもしれない。すぐに自衛隊と銃火器の手配を」
 「承知しました!」

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 「どうしよう! ゾンビが来てるって!」
 「体育館まで逃げましょう! そこはシェルターになっているはず。それにまだゾンビたちは気づいてないみたい」
 チアリーダーの言葉で部員たちは気配を消すようにして体育館へ向かった。
 大学にはチアリーディング部があり、たまたまここに居合わせたのである。
 「たぶんゾンビたちは正面から来ると思う。だから、裏口から行くよ」
 「分かりました」
 彼女たちは裏口へと向かった。
 すると、それに気づいたゾンビの1体がこちらに向かってきた。 
 「マズイ! バレた!」
 「早く逃げなきゃ!」
 部員の一人がつまづき転んでしまう。ゾンビまでの距離はもう目の前に…
 その時、チアリーダーは持っていたペットボトルの水をかけた。威嚇のつもりだった。
 すると、ゾンビは恐ろしい顔をして後ずさった。まるで何かに怯えるように。
 「さあ、早く!」
 転んだ部員をすぐに捕まえて、チアリーディング部全員が裏口から体育館へ到着した。

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 彼女の読み通り、正面玄関には無数のゾンビたちがいた。自衛隊による防衛と銃火器の轟音が体育館内に響く。正面玄関にはバリケードが築いており、そこから銃撃を行っていた。バリケードの外は見えないが、おそらくゾンビの死体とゾンビ、そしてこちらに逃げ込む人々がいるだろう。
 「君たちは…」 
 司令官と思しき精悍な男性がチアリーダーに話しかけてきた。
 「ここのチアリーディング部です。部員は全員無事です。あっ、あそこの裏口から入ってきました」 
 「なるほどな。生還者がいたとは…」
 「たまたまです。ゾンビのテリトリーにいなかっただけです」 
 「ゾンビ関するなにか情報はないか? 今のところは弱点の頭を狙うことという情報しかない」
 司令官はそう言った。そこまで切羽詰まった状況であることはチアリーディング部全員が察した。
 あたしは目を瞑った。
 想像力を働かせるのよ。
 ゾンビは不死身ではない。でも、あの人が言っていたことが本当なら頭を狙えば大丈夫。あとは…。
 ふと、あの光景を思い出した。それは、ペットボトルの水がゾンビに降りかかったとき。確かあのゾンビは怖がっていた。
 「もしかして…」
 「何か分かったか?」
 「時間稼ぎならできそうです。今から私の意見を言わせてください」
 チアリーダーはチームのメンバーに、すべての蛇口にホースを繋いで水を最大限出すことと、消防車を呼び、消防用の水を出すよう指示した。
 「何で水を出すんですか? 先輩」
 部員の一人が尋ねた。
 「見てたと思うけど、あのゾンビたち…水を怖がっていたのよ。これって狂犬病の症状によく似ているわ。親戚に獣医がいてね、実際に見たことがあるの」
 「つまり…」
 「ゾンビのウイルスは狂犬病をベースにしているんじゃないかと思うの。でなければあんなに水を怖がる理由が思いつかないわ」
 「では、そのことを司令官たちに伝えましょうよ!」
 チアリーダーは頭を振った。
 「たぶん彼らもわかっていると思う。そうですよね」
 チアリーダーは司令官に話しかける。 
 「ああ、それはわかっている。だが、従来のワクチンではどうにもならないのだ」
 「それでも未だにワクチンができてないのは、別の理由があるってことですよね」
 また、想像力を働かせるのよ、あたし。
 目を瞑ったときに見えたビジョン。それは、裏口から入っていったとき、バリケード越しに見たゾンビに襲われる人の姿。その時、ゾンビは首筋を噛んでいた。
 「吸血鬼のも含まれていた…?」
 「そうか、ポルフィリン症か!」 
 司令官は納得したかのように話し始めた。
 「今回のゾンビは、狂犬病+ポルフィリン症の可能性が高い。つまり、これら2つの抗体を打てば…」
 「ゾンビにならずに済むと…」
 「よし、狂犬病とポルフィリン症の抗体ワクチンの手配を進めろ」 
 「それが、輸送経路上にゾンビの大群がいます」
 裏口に来るのも時間の問題と思われた。だけれど、やっでみる価値はあるかもしれない。チアリーダーは思い切って話した。
 「裏口からのルートに変更してください。えっと、地図上だとここからここがショートカットできます」
 「ですがゾンビが来たら…」
 「そのための水です。裏口の外には蛇口があります。それをホースかなにかに繋いでゾンビを怯ませるんです」 
 「分かりました。ルート変更命令を出します」
 「ルート変更した場合の時間は?」
 司令官は部下に質問をする。
 「えっと、ざっと30分以上はかかるかと…」
 「まずいな、このままだとここも壊滅する可能性がある」
 司令官の言葉にチアリーダーは、
 「だったら私も戦います。銃火器は使えませんが弓矢であればできます。高校は弓道をやってましたから」
と言った。司令官は困惑した顔を一瞬見せたが、何かを決意したように彼女に答えた。
 「分かった。いいか、ゾンビの頭を狙え。もし、君がゾンビになったら容赦なく殺す、いいな」
 「分かりました」
 あと、30分耐え抜いてみせる。
 チアリーダーはそう決意し、弓道部の部屋を目指し、弓矢を持って帰ってきた。
 「無理はするなよ」
 「分かってます」
 彼女は正面玄関に向けて走った。

 後に彼女は英雄として称えられることとなるのは、言うまでもない。

No.3504ハザードマップ
No.1702チアリーダー
No.794想像力

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