満月×紗夜異形化if #フォロワーステラナイツ0123

「僕」は今、願いの決闘場で満月の鉤爪となって戦っている。実体としての体は宿で眠っているはずだ。
星の騎士の在り方として、武器たる者は戦いの全てを知る必要はない。ただ、知る権利はある。僕は後者を選んだから、こうして満月の戦い方を見守っている。幼い白騎士を支えて勇気づける様子に、僕の方が嬉しくなっていたりしたのだけれど。そんなほのぼのとした風景も序盤までだった。

今、満月は戦闘不能だ。

敵の兵士、いや、その亡霊か。かなり強い。こちらで火力として渡り合えるのは赤を宿す満月と、彼岸花の彼。その彼は先刻、最後の力で殴りに行って、相手の返す刀で散っていった。幼い白騎士も、もはや肩で息をしている。手に持っていたハンマーが先程よりも小ぶりに見えた。
……先程明かされた予兆で、彼女は攻撃範囲に入っていたはずだ。保つ、だろうか。

すると、満月の思考が流れ込んでくる。随分と考え込んでいるらしい。敵の体力に対して、攻撃手段があまり多くないようだ。
戦闘不能状態からの復帰方法は2つ。共通項は、僕らがひとつ、歪みを背負うこと。区別される要素としては、生存を重視するか、攻撃を重視するか。あとは、「消えない傷」の有無。
分かっちゃいたけど、満月、どうも僕が傷を負うのが我慢ならないらしい。それで、耐えられなかったら、とどめを刺せなかったら、きっとその場で世界が終わると言うのに。
……ここから、聞こえるだろうか。

目の前の空間に手を伸ばす。
満月、満月、僕は……僕らは大丈夫。何を選んでも、一緒なのは変わりない。でもね、ここで負けると、もう一緒にはいられなくなる。だから、ね、満月。

どれだけ手を伸ばしてもこちらは届かないのに、謝罪の言葉だけが流れ込んでくる。いいんだよ。君が選んだなら、僕は受け入れよう。それが、君の相棒としての仕事だ。その後のことは、君を守る者としての、僕の仕事になるだろう。

予兆されていた襲撃が発動し、弾丸の雨が小さな体に襲いかかる。ぎゅっと目を瞑り、ハンマーで頭を守っているようだが、かなりの数が撃ち込まれたようだ。ぎりぎり耐え抜いたようだけど、もはや次はない。どんな攻撃でも吹き飛ばされてしまうような、そんな危うさがある。そして、彼女ひとりでは、この場で敵を打ち崩すことはできないだろう。


……満月、覚悟決めたな。

彼女の姿を見て悟ったのだろう。謝罪と、怒りと、殺意が流れ込んでくる。こんなにも強い感情が、満月の中にあったのか。願いというのはこんなにも、満月を奮い立たせるのか。赤を宿すに相応しい、熱い、熱い感情の波に呑まれる。


それが、僕の左目を焼いた。

起き上がった満月は腕も地面に付け、猫のような風体になっていた。顔は、わからない。何を思っているのかも。敵の眼前まで移動し、「赤熱鉄柱ぶん回しの刑」に処す。攻撃に歪みの効果が付与され、幼い騎士の応援も合わせるとこの一度に限り強い攻撃力を持つようになる。僕で--より鋭く凶悪になった鉤爪で力の限り切りつけ、敵の命を刈り取る。そして、はたと元のステラドレスに戻った。勝ちの目は十分。ああ、泣かないで、満月。さあ、勝って、帰ろう。
残った2つの攻撃できっちり敵を沈めた。よし。えらいぞ満月。帰ったら、いっぱい褒めてやらないとね。

あの部屋で目が覚めた時、満月はいなかった。
目を開けているはずなのに暗い左側の視界に納得しつつ、鏡を見る。
そこには、満月があった。
満月の左目のように綺麗に澄んだ金色ではなく、クレーター等の影までご丁寧に再現された、月そのもの。外から見るとぼんやりと光っているらしい。満ち欠けもするのだろうか。まあ、それは、また後で。

もしかしたらと思い、左側を向くと満月がまだ天板に突っ伏すようにして眠っていた。
良かった。無事みたいだ。
ひとまず近くにあった手拭で左目を覆う。不格好だけど、今は仕方ない。これはきっと、起きたばかりの満月に見せるものでは無いから。

「・・・んん、」


一度こたつから出て、満月を後ろから抱きかかえるように座り直す。
「おはよう、満月。よくがんばったね」
いつものように撫でてみせるが、くるりとこちらを振り返られてしまっては為す術もない。
「・・・さ、や、ああ、わたし、わたし・・・・・・」
「落ち着いて満月。大丈夫、大丈夫。痛くないよ。それにね、大した傷じゃない。満月と一緒にいられなくなるより、ずっとね」
そのままきつく抱きしめる。満月が落ち着くように、逃げないように。今の満月に、あまり僕の顔を見せないように。
「ああ、痛くないんだ。本当だよ。不自由もあまりない、と言えば嘘になるかも知れない。でもこれは、僕らが決めた道だから。ね、満月。何よりも、君が泣くのが、悲しいのが、一番堪えるなぁ……」
「・・・わたしの、せいなのに、そんなこと、言わないで。だめ。わたしの、せいにして。お願い、お願いだから! 紗夜・・・!」


わたしを、きらいになって。

頭から冷水を被ったような心地になった。
その言葉を絞り出すに至るまで、あの戦いで、満月の中に何があったのだろう。あの場で僕に流れ込んでくるのはステラナイトとしての思考の共有だけだから、それ以外の部分はわからない。

「わたし、ね、紗夜、すき。でも、だから、紗夜に、わたしを、背負ってほしくない。だいすき、だから・・・」

分からないけれど、どうやら僕は随分と愛されているらしい。
今更君を嫌えって? 随分言うじゃないか。その上背負って欲しくないときた。こちらはあの夜から、もう決めているというのに。

「満月」

抱きしめていた手を緩めて、満月と顔を合わせる。ああほら、涙でぐしゃぐしゃだ。一度袖で拭って、その手で手拭を外す。変わらない視界の中で、目玉がこぼれ落ちそうな程に驚いた満月の顔がたまらなく愛おしい。

「ほら、お揃い」

ウインクの時に瞑るのが左目でよかった。この茶目っ気が、月の衝撃に引っ張られてはいけない。

「ねえ満月、僕ね、君が大事だよ。背負うなと言うなら、あの夜から、きっと全てを背負ってる。なのに今更取り消せなんてさ、無理な話だと思わないかい? 僕の心も、この目も君で満たされてるのに」

また、満月の目からぼろぼろと涙が溢れてきた。
うーん、この夜空色、雨が降っても綺麗なのか。

「戦う前に約束しただろう? ずっと一緒にいるって。もう忘れちゃった?」
ぶんぶんと首を横に振る満月。なら、それでいいじゃないか。
「じゃあ、帰った時にやることもうひとつ。僕に似合う眼帯を一緒に選んでくれない? 流石にこれで外には出られないからさ」
「わかった。でも、紗夜、おねがい。家では、それ、つけないで」
「……見ていて辛くない?」
「いいの。わたしの、罪、だから。あと、おそろいみたいで、ちょっと、うれしい、かも・・・」
最後の最後、どれだけ小声でも聞き逃さなかった。言った後に余程恥ずかしかったのか、耳をぺたんこにして胸元に顔を埋める満月が愛おしくて、大切で仕方ない。
「……ははっ! 確かにお揃いだ! 最高じゃないか! 僕、満月の目が大好きなんだ」
そのままもう一度きつく抱きしめた。そして、腕の中のかわいい仔猫の背中をゆっくり叩く。

「疲れただろう。もう少しおやすみ」

今度は、良い夢を見られますように。