こうして一人は二人になった #フォロワーステラナイツ04E2

ビビアナ×フィーリスペアの出会いを妄想しただけのにじそーさくSS


宿舎の部屋の扉を蹴破らんばかりに現れたのは、嵐のような男だった。

「ビビアナァ! てめえ今回はマジで許さねえからな!!!」

そしてそのまま、着いてこい、いいから来いとだけ言われ、向かう先すら伝えられること無く歩いている。

「へーへーさーせんっした。でも殺ったのは確実にアタシが1番多いぜ? そこんとこどーなのよ、リーダー」
「だっからタチ悪ぃんだよ! 勝手に場荒らしやがるだけなら速攻クビだってのによぉ」

すたすたと何処かに向かいながら怒ったり頭をがしがしと掻きむしったりと忙しそうなリーダーにひとつ笑ってみせる。

「ハハッ! これがアタシのやり方だからな! 悪く思わねえでくれや!」
「そうもいかねえんだよ。てめえの強さは、危うい」
「おうおう舐めてくれんじゃねえか。アタシが弱ぇってか?」
「話を聞けバカ。強いからこそ危ういんだ。だから、」

バカとはなんだという言葉は、歩みと共に喉元で止まる。

「オイ、何でここに用があんだよ」
「てめえの為だよ」

ノックを3つ。入室を促す声に応じて扉を開ける彼に続く。あんまり、この部屋には近寄りたくねえんだけどな。
なんせこの部屋の主は、アタシが所属する分隊の長は、

「遅くなりました、ビクトル隊長。ビビアナ隊員をお連れしました」
「ああ、ご苦労。よく連れてきてくれたね」

ビクトル・バレロ。親父だ。


あとはおふたりの話なので、なんて訳の分からねえ気の利かせ方をしやがったリーダーを睨みつけ、そのままの顔で親父に向き直る。人のいいような顔した笑顔がうざってえ。

「久しぶりだなあビビ。また随分と派手にやったそうじゃないか」
「最早フィールドに立つことのない貴方には関係の無いことだ」
「……今の俺が戦場に降りるとはどういう意味か、考えてから物を言えよ」
「へーへー、すっかり牙の抜けたこって」

アタシが好きだったのは、強い親父だ。
無論指揮に文句はねえ。でも、同じ戦線に立って共に戦うのが夢だった。それすら、この人は分かってて言いやがる。だから嫌いだ。

「んで? わざわざリーダーまで引っ張り出して世間話させようってんじゃねえよな? とっとと終わらせてくれや」
「つれないなあ」

誰のせいだと思ってんだ。とは言わない。
ひとつ咳払いをすれば、空気が変わる。ここからは、上官との対峙だ。

「さて、ビビアナ隊員。ここ数度の君の単騎行動ぶりが余りにも目に余ると、班および小隊の者から報告が上がっている。そこで、君にうってつけの師を用意した」
「師、ですか。戦い方は全て、貴方に教わった筈ですが」
「ああ、腕は充分だ。しかし、ここを鍛えれば、お前はもっと強くなる」

人差し指で己のこめかみを2度叩く仕草に、思わず顔を顰める。反論は、背後で鳴るノックに遮られた。アタシの事などお構い無しに迎え入れるところを見るに、「師」のお出ましだろう。
するりと入ってきたのは、スーツに身を包んだ細身の女だった。結われた髪の白銀と、皺の感じから、親父と同じくらいの歳だろうと思われる。

そのままアタシの隣まで来ると、思いのほか長身であることがわかる。

「ご機嫌よう、ビクトル・バレロ隊長。すっかり智将になった貴方から直々の招集、光栄ですわ。こちらが?」
「ああ、ようこそお出でくださった。その通りです。自慢の娘なのですが、これがまた私に似てすっかり猪突猛進になってしまったものですから、是非あなたに躾け直していただきたくて」
「ふふ」

かつ、と革靴をひとつ鳴らして体ごとこちらを向く女。視線だけ向けると、先程までのしおらしさは何処へ行ったか分からない程大声で笑いだした。

「かっかっか! 不服でしかねえ、といった顔だねえ。教わることなんて何も無い、とでも言いたいんだろうさ。相当な腕なんだろうねえ。ビクトルの娘なだけある」

とはいえ、上官命令だよ。と言いながら右の手袋を外す。

「フィーリス=コテングリーさ。どうぞよろしく」

舌打ちをどうにか堪えて、差し出された右手に重ねる。

「ビビアナ・バレロ。どーぞ、よろしく」

握る力が意外と強い。掌の感触が戦場に立つもののそれだ。案外やれる奴なんだろうか。


そんな事を考えていたら、いつのまにか手を強く引かれ足を払われひっくり返されていた。

見開いた目と目の間、眉間に銃のハンドサインを突きつけられる。天井が見えていたのもつかの間。視界いっぱいに不敵な笑みが映る。

「いいかい、最初の授業だ。『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』。あんたは私を知らなかった。それにここがホームだから、こんだけ無警戒だったんだろう。私はそれらを含めて、あんたを知っている。だから倒せた」

先程まで銃口だった指先が、くるりと開いて差し出す形になる。

「空っぽなら全部詰め込んでやるさ。あんた、もっと強くなるよ。付いてくるかい?」

素直に、負けた、と思った。
今のところ、戦線での窮地は無い。裏を返せば、学べる事も殆どなかった。火花散るフィールドに、マンネリを見ていた。
この人から何かを得られれば、見える世界が変わるかもしれない。

「よろしく頼むわ、フィーリス、さん」

差し出された手を取って、ふわりと引き上げられた。


ここじゃあごく限られた話しか出来ないと、「騎士」の任務を命じられるのは、少し先のお話。、