三段噺怪文書チャレンジ-公園、猫、オルゴール-

深夜の公園の静けさが、どうにも恋しくなる時がある。

夏の終わりに彼女と別れてから早半月。夜でもちょっと暑いね、なんて笑いながら過ごしていたこのベンチも、今では少し肌寒い。
この息が白く染まるのも、そう遠い先ではないのだろう。

彼女との別れは、半ば決まっていたようなものだった。それを受け入れ、笑って別れた、はずだった。なのに今またこうして、1人彼女と過ごした公園で、誰を待つ訳でもなく過ごしている。

そうしていると、たまに猫が寄ってくる。
遠くから見ていたり、足元に伏せていたり。何ならベンチの隣に座ることだってある。そういう時は一声かけて撫でさせてもらうのだ。人肌恋しいなんて柄ではないが、彼女が可愛がっていた模様の子だったりすると、やはり愛着が湧いてしまう。

そんな無為な時間を度々過ごしているわけだが、ここに来る時に、必ず持ってきてしまうものがある。
スマホ、家の鍵。それはそう。それらの必需品と一緒に、ポケットに小さな箱を突っ込む。そして、深夜の公園で1人開いて聞き入るのだ。

別れ際に彼女に渡されたオルゴール。

30秒もない程度の旋律がくりかえされるそれはどうにも切なくて、これを笑って渡し、別れた彼女の表情とどうも結びつかなかった。彼女も何か、思うところがあったのではないかという邪推すら湧いてくる。

現状、これだけが僕と彼女を繋ぐ縁の糸だ。
彼女は「また会おう」と言った。また、があるのだ。それがいつになるかわからないのだから、こうして頻繁に待ってしまう。女々しい野郎だと笑ってくれ。そうしてでも、君にまた逢いたいんだ。

僕は「また」を信じる。だから、それが叶ったら、「また」、あの夏の日々のように、たのしい時間を過ごそう。待っているよ。