百万回の祈りの先 #21フォステ0529

私と言う存在は、実の所ひどく曖昧だ。

例えば、決闘場の中央に咲いていた時と騎士である時とで本質とされる花章が全くの別物になる。女神から受ける定義が変わるのだ。
或いは、決闘場では要らぬと捨てた灰被りの名が、新たな世界では再び口をつく。私を取り巻く「物語性」が、私の存在をより強くするから。

そしてここ、基幹世界に於いてはただの学生だ。

容姿からそれらしい年齢を名乗ってみたものの、究めるものの前では人種など些事だと言わんばかりの校風では、自己紹介を補足する記号でしかない。歳は重ねるものであるとは限らない。しかし、わざわざそれを万人に言う必要はない。それを許容しながら、ただ芸の道を究める。それこそがイデアグロリアの都合の良さだった。

だから、彼にも話していなかった。
私の時が止まっている事を。

何故彼と同じ願いを持った運命共同体として騎士の契約を交わすに至ったのか、初めはとんと見当もつかなかった。しかし、ひとつの戦いを終え、幾日かの時間を共にした今では分かる。私が王子様に焦がれ、あの夜の永遠を欲するのと同じ。彼も欲しいのだ。

御伽噺の「シンデレラ」は、魔法が解けた後、町中を探した王子様に見つけ出された。もうひとつのガラスの靴をぴったりと合わせ、そのまま城に迎えられたと言う。

決闘場に貴賓室の幻覚を見せて王子様を迎え入れたり、王子様を追いかけるあまり魔女となっていたりする時点で、私の在り方は歪んでいる。それによって、物語は歩みを止めている。過ぎる時間の遅さすらもどかしくなる程、私を追いかけてくる彼の方がずっと真っ直ぐだ。

幾度の夜明けの先、共に立つ戦いの果て、願いを叶えた暁に、成長した彼は私を迎えてくれるだろうか。

「楽しみにしているわね、トリス」

ガラスの靴はここよ。きっと、ずっとね。