ついったーお題SS「昼寝」「独占欲」+診断ネタ

【お題】

・昼寝
・独占欲
・恋と書いて辛抱と読む
https://twitter.com/ril_0214/status/1233666816217501697?s=21


【はじまりはじまり】


「あそびにきたよー」

そんなふんわりとした空気感で、カメラに映る彼女はにこにことこちらを見る。アポも何も無いが、そろそろ慣れてきたところだ。土曜日に押しかけてくるのがこれで3回目、かつ先週「またね」と言われている。今回はこちらも多少の準備が出来た。


彼女と仲良くなったのは偶然だった。
入学式で隣に座ったと思えば私の膝の上にあった本の話題を持ちかけてきたのだ。端的に言えば、互いが互いにとって大学で初めて出来た友人だった。私も彼女も遠方から単身でこの地に足を踏み入れたという環境も作用したらしい。

とはいえ、彼女と私の決定的な違いは、その社交性だ。同じ学部にいながら眩しいほどの笑顔とコミュニケーション能力で瞬く間に友人を増やす彼女と、元来人付き合いが苦手な性質故にひたすら講義室の隅で本を読む私。それでも彼女は、私の傍にもいてくれた。こういうところが人に好かれるのだろうと実感をもって理解したものだった。

そんな彼女と、住んでいる学生マンションのエントランスで出会ったのが先月の話だった。
本屋とコンビニの袋を携えた私と、エコバッグをパンパンにした彼女。生活感が見えると同時に、あなたは料理も出来るのかと感嘆した。

「いっつもそんなの食べてるの!? かわいい女の子の健康に良くないよ! うちおいでよ! ごはん一緒に食べよ?」

そんなことを言われながら引っ張られてしまっては、抵抗する術はなかった。
1人分って結構難しいからさーちょうどよかったー等と言いながら、決して広くはないキッチンに立ってくるくると作業をする様子は見ていて飽きない。あっという間に一汁三菜が出てきて目を丸くした。誰かの手作りごはんが久しぶりでとてもおいしかったことをよく覚えている。食卓を囲みながら買ってきた本の話をしていると、本当に趣味がよく合うことが分かった。同時に、私の蔵書に興味を持ってくれた。

「読みに来たら?」
「いいの!?」

そんなこんなで、ご飯を食べたり本を読んだりするだけの行き来が始まってから今日で3度目、という訳だった。

彼女はいつも簡単なおかずを携えて来てくれた。流石に返さないと申し訳ないということで、市販品だけどアフタヌーンティーの準備をした。セッティングをしてから部屋に招き入れると、本物だ! と輝く彼女の笑顔が眩しい。まずはと紅茶を淹れ、軽いお菓子に手を伸ばす。料理をしたわけではないけれど、用意したものを美味しそうに食べてくれるのが堪らなく嬉しい。お菓子も美味しくて幸せに包まれる。

そうしていると、彼女の素振りがいつもと違うことに気付いた。表情が暗い、というか、眠いのか? 目元の陰は隈だろうか。疲れているのかと問いかけると、そうだねーと間延びした返事が来る。少し間を置いて、ちょっと寝かせてと来た。

いや待て。

一緒にいるとなんか安心しちゃってさーほっとすると眠くなるよねーなんて言いながらクッションに沈むんじゃない。あぁもう寝つきが早い! 幼児か! 何をそんなに疲れていたんだろう? だったら今日来ないで休めば、

じゃあ、何で来てくれたんだろう?

いや待て。落ち着こう。
私は今まともに考察できる状態じゃない。彼女には決して悟られてはならないが、精神状態的にどうしたってバイアスがかかるんだ。とりあえず私の仕事は、すやすやと眠る彼女にブランケットをかける事だ。

ふわりとかけたブランケットの温かさで、少し表情が緩んだ気がするのもきっと気のせいだろう。
この顔を知るのは私だけ、だったらどんなにいいか。少なくとも、この空間には私だけだ。束の間でも、堪能させてもらおう。

芽生えてしまったこの想いは決して叶わないものだ。だから、貴女には絶対に伝えない。伝えることで今が壊れるよりも、抱えることで私の心が壊れそうになる方がずっといい。


だから、せめて、想うことだけは許して欲しい。


おわり