どうしても願わずにはいられなかった-ついったお題SS0305-

お題:流れ星


さほどの進学校でもないところに限って文武両道を謳いがちな気がしている。僕が入学した高校も例外ではなく、本分たる学業と並行して、3年間通じて何かしらの部活動に所属することが義務付けられていた。中学時代は名前だけ化学部の幽霊部員だったため、今回もそのポジションを狙いたいところだ。しかし、今聞き流している部活紹介の内容からすると、どうやら文化部の活動もそれなりに盛んらしい。しきりにコンクールやら出展やらの参加実績や実演が眼前で繰り広げられる。どこか僕の安息の地はないものか、そう思っていたところに、福音が響いた。

「天文部です。西校舎4階、空き教室でお待ちしています」

同類だ。そう思った。
なぜこんなことをしなければいけないのかというオーラを隠さず、活動内容を詳らかにせず、体裁として活動場所のみを明かす。僕には分かる。ここの天文部、明らかに、まともに活動をしていない。
そうと決まれば早かった。その日の放課後にまだ入ったことのなかった西校舎に足を踏み入れ、鼓動の速さを階段のせいにして、天文部と雑に貼り紙をされた引き戸に手をかけ、そっと開ける。

「やあ! ようこそ天文部へ! 活気横溢とした種々の部活動が軒を連ねる中、こんな場末によく来たものだ! もちろん入部でいいのだろうね? あぁ、安心してほしい。部活動としての活動は主に夏季と冬季に限定される。そのうえ、現状部員が私一人ときた。今年誰も入らなければ休部と相成るところだったから、まさしく君は救世主だ! どうだい? 放課後の徒然なる時間を有効活用しつつ、私と、流星群を見てみないかい?」


部屋を間違えたかと思った。
しかし、彼女、あぁ、先輩の瞳にすら星を見てしまった僕には、引き返すという選択肢はなくて。惚けているうちに片手の入部届けを引き抜かれ、未だに引き戸から離せずにいた手を引かれて空き教室、いや、部室へと招かれたものだった。


そんな出会いから、もうすぐ丸2年になる。

主に夏と冬に観測される流星群を見に行く以外本当に天文部らしいことはせず、ただあの空き教室が僕の居場所になった。先輩はいたりいなかったりで、居る時も構われたりほっとかれたりと、適度な距離感を保てていたように思う。これに至るまで、一切の言及はない。互いが、互いの空気感で心地よい距離感にあった。そんな日々は、そう、僕にとって安らぎだった。今日を以て、この空き教室の主は僕となる。いつも通りのやりとりと簡単なお礼を先輩と交わし、別れてからなんとなくここに足が向いた。ふと、殆ど役割を持たない黒板の隅に白が浮かんでいることに気付く。


〝またね☆ミ〟


あぁ、本当に、あのひとにはいつまで経っても敵わない。ずっと1枚上手にいて、届かなかった。だから、届かないと思っていたんだ。
僕が怖気付いてどうしても言えなかった再会を願うひとことを、こんなところで流れ星に託していくだなんて。ずるいじゃないか。

また、会いましょう。きっと、どこか……いや、そうだな。夏を楽しみにしていてもいいですか?

そんなことを考えながら、イマイチ線が定まらない流れ星を書き足す。再会の願いを、ちいさな流星群に乗せて。届きはしないだろうけど、届くことも願いながら。


今年は部員募集無しだな。僕で最後でも、それはそれでいいじゃないか。
高校最後の年、先輩はいなくても、きっとこの空き教室で、楽しく過ごせることだろう。