某ゲームの妄想恥文

『恋心(藤堂平助 千鶴)

平助はとても不機嫌だった。

今日は千鶴と2人で出かけるはずだったのに邪魔がはいったからだ。

「なんだぁ、平助ぇ、その不機嫌面は?」

本当は平助の気持ちなどとっくに気がついているはずの原田左之助がニヤニヤ笑いながら聞いてくる。

その顔を見て平助の不機嫌さはますます増していく。

「別にっ!不機嫌とかじゃねぇし。」


「平助くん、ごめんね。ほんとはいやだったんだよね、私と出かけるのなんて・・・。」


平助が不機嫌なのは自分のせいだと勘違いしている千鶴は瞳に暗い影を落としながら的はずれな事を言う。


「ちっ、ちげぇよ。千鶴が悪いんじゃないって。俺の心の問題っつうか、なんで左之さんがついて来るんだよ。」


けっきょく、自分が不機嫌になった原因を明かしてしまう平助。


「ほう、平助ぇ、俺がいちゃ迷惑なのかよ。」


「そうなの?平助くん?」


左之助のニヤニヤ顔と困惑ぎみな千鶴の顔を交互に見やり平助は小さく溜息をつく。


「ちげぇよ。もういいからさ、楽しもうぜ千鶴!!」


半ば自棄気味な心境だったがこれ以上千鶴の困惑気味な顔をみたくなかった。


”俺は千鶴の笑ってる顔がすきなんだ。だから、左之さんのことは敢えて目をつぶってやらぁ”


そんな事を心の中で呟きながら左之助に恨めしそうに視線を送る。


左之助はその視線に気がついたがニっと笑うと平助と千鶴の間に入り2人の肩に手を回して言う。


「んじゃっ、三人で街中見物と洒落込もうぜ。」


”ちきしょう!!千鶴の肩から手を離せ左之さんっ!!”



やはり虚しく心の中で呟く平助だった。


だが、しかし、男、藤堂平助は反撃を忘れない。と言っても左之助と千鶴の間にわってはいるという子供染みた事だった。

「いくぞっ!千鶴っ!!」

「うんっ、平助くんっ!」

平助は千鶴の手をとり走り出す。

左之助は少々呆れ気味な顔をしてからその後を追う。


「なぁなぁ、千鶴、これ見てみろよっ。」

平助が千鶴に見せたもの。

それはカラクリ人形。


とても可愛らしいカラクリ人形達が動きまわっている。


「わぁ、可愛い。」

千鶴はニコリと笑いながら眺める。


”やっぱり、千鶴の笑顔は可愛い”

平助は心の中で思う。

そして、その笑顔を眺める。






━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─



じっと見つめる平助の視線にさすがに鈍感な千鶴も気がつく。


「どうしたの?平助くん?」


問われて平助は動揺する。

「いっいや、別にっ・・そのっ・・あははは・・。」


引きつりながら笑う平助を見かねた左之助が助け舟?をだす。


「千鶴があんまり可愛く笑うから見とれてただけだよなっ、平助。」


”おいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!左之さんっ!!助け舟になってねぇってぇっ!!”


平助の心の叫びを知ってか知らずか左之助は続ける。

「実はよ、俺も見とれてたんだぜ。」

「はっ、はっ、原田さんっ・・・・。」


千鶴が顔を真っ赤にしながら言う。


「お前は笑ってたほうが俺も平助もみんなもいいとおもってんだから。なぁ、平助?」


左之助は平助に目配せする。


”一応、助けられたのか?”

平助は疑問に思いながらも左之助の目配せに答える。

「そっ、そうだよっ!!お前が笑うと俺達は安心するんだ。だからお前はいつも笑ってろ。なっ!!」

「平助は特になっ。」


左之助はいたずらっぽく平助に笑いかける。


”ちょっ!!やっぱ左之さん、面白がってるっ!!”

「よっ、余計な事言うなよっ左之さんっ!!」


「あっ、ありがとうございますっ。」


左之助に平助が抗議しようとした時千鶴がそう言って頭を下げる。


「いやっ、礼なんていらねぇって、なっ、左之さん。」

「おっおう。平助の言う通りだぜ。」

千鶴の反応が少し予想外だったためか、2人は焦りながら答える。

その様子がおかしかったのか千鶴がクスクスと笑う。


2人も千鶴の笑いにつられて笑う。


「もう少し他のところも見て回ろうぜっ。」

平助が千鶴を促す。


「うんっ。原田さんも行きましょう!!」


千鶴が言うと左之助はニっと笑って言う。


「わりぃな、2人とも。そういやそろそろ巡察終わりで新八のヤツが屯所に戻ってくるんだ。その後、ちと2人で出かける約束があってよ。」


「え、じゃぁ、平助くんも一緒に帰ったほうがいいんじゃ?」

「いやっ、平助抜きで2人きりで大事な話があるからよ。平助ぇ、ちゃんと千鶴を案内しろよっ、わかってんな?」


”用事があるなら最初からついて来なけりゃいいのに”


心の中で呟きながら平助は返事を返す。

「左之さんに言われなくてもちゃんと案内するよ。しんぱっつあんによろしくな。」


「おう、つたえといてやるぜ。じゃぁな千鶴。平助じゃ頼りないかもしんねぇが楽しんでこいっ。」


「ちょ、頼りないとか言うなよなっ!!」

「へいへい。じゃぁな。」

そう言うと左之助は踵を返し屯所に向かった。


2人きりにされた2人はしばしボ~っとしていたが平助が千鶴に手を差し伸べると千鶴は少しとまどいながらその手をとった。


「まったく、左之さんにも困ったもんだよな。」


「そうだね。」


言って千鶴はクスクス笑う。


「おっ、千鶴、あそこで茶でも飲んでこうぜ。」


平助は千鶴の手を引きながら茶店に入る。


「お団子二皿頼むわ。」


平助が大きな声で頼むと茶店の店主が返事をする。

「千鶴も座れよ。ほらっ。」

自分の隣に座るようにトントンっと長いすを叩く。

千鶴はニコっと笑って静かに平助の隣に腰を下ろす。



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.*・゚ 


お団子とお茶が出てくると平助はニンマリと笑みを浮かべて食べ始めた。


「千鶴も食えよ。」


そう言って平助は皿を千鶴の前に差し出す。


千鶴はやはりクスクス笑いながら団子をとる。


千鶴が一口食べると平助が言う。


「美味いか?千鶴?」


「うん、美味しいよ。」


団子を二串食べ終わると平助は満足してないのか千鶴の皿に残っている一串を見つめている。


それに気がついた千鶴は皿を平助の方に寄せる。


「平助くん、食べて。私、一串で充分だから。」


「あっ、いや、でもさ。」


平助はしまったと慌て断ろうとする。


「ほんとにいいのっ。平助くんに食べてほしいんだから。ねっ」


千鶴の言葉に平助は困り顔で笑う。


「千鶴は人の事よく見てるよな。俺なんか目先の事しか見てないからさ、あとでこうしとけばよかったとか、あんな事言わなきゃよかったとか思うことばっかでさ。」


「そうかな?でも、私だって後悔する事いっぱいあるよ。その度に落ち込むし。みんな何かしら悩みながらだよ。私は平助くんらしくて好きだな。」


”好き・・・。”


「平助くんの笑顔や行動は私に元気をくれてるんだよ。ほんとうにいつもありがとう。」


”ああ、お友達としてとか言うヤツか・・・・。”


平助は浮かれ気分と落ち込み気分が入り乱れる。


何か、ちょっと寂しくなって千鶴に差し出されていた皿から団子を取ると一気に口の中に放り込んだ。


案の定、喉に詰まらせる平助。


千鶴が慌ててお茶を差し出す。


それを手に取りお茶を勢いよく流し込む。


「平助くん、大丈夫?」

少し気恥ずかしい気がしたがここでだまるのもなんだよなとか悩みながらも言葉を発する。


「おっおう、ありがとな千鶴。団子、喉に詰まらせて死んだとか情けねぇ事にならくてすんだぜ・・・あははは・・・。」


平助は無理矢理ひきつった笑顔をつくる。


「そうだね。」


言って千鶴も笑う。


「じゃぁ、もう一回りして屯所に戻るか。あんま遅くなると土方さんに怒られちまう。それに俺、今日夜番だからさ。」


「そうだね。じゃぁ、行こうか。」


「おう」


平助は代金を払いたちあがって、千鶴に手を差し伸べた。

その手を千鶴は取る。


2人は残り僅かな2人の時間をあちこちの店を回り楽しく会話しながら歩く。


1件の簪屋の前で千鶴の足がとまる。


千鶴が見つめる簪をみると、桜の花弁が形どられたものだった。


「欲しいのか?」


平助が千鶴に尋ねると。

「ううん、ただ可愛いなぁって思っただけ。行こう、平助くん。」


「おっ、おお。」


平助は歩きながら考えていた。


”やっぱ、千鶴だって女の子だもんな。確かにあの簪は千鶴に似合いそうな可愛い簪だった。よしっ!!”


平助は千鶴の手を離した。


「どうしたの?」


千鶴が驚いて尋ねる。


「あ、ちょっとそこでまってろ。茶店に忘れものしたからさ、走ってとりにいってくるから。」


そう言い残すと平助は元来た道を戻っていった。



さっきの簪屋の前に来ると平助は桜の簪を手にとりソレを買うと急いで千鶴のもとへと走りだす。


買った簪は懐に大事にしまいこんで。


千鶴は大人しくその場でまっていた。


走ってくる平助を見つけると呼びかける。


「平助く~ん。」


千鶴の傍までくると平助はニコっと笑い。


「待たせて悪い。さぁ、屯所にかえろうぜぇ。随分遅くなっちまったから土方さんに怒られちまう。」


そう言ってまた千鶴の手をとって屯所への道を急いだ。


屯所の前まで来ると左之助が立っていた。


「平助ぇ!!遅いっ!!」

そう言うと平助の頭にゲンコツが落ちる。


「ってぇぇぇ。」


「何してやがった。刻限ギリギリで冷や汗かきそうになったぜ。」


「ごめんって左之さん。俺が忘れものしちまってさ、取りにいったりしてたら遅くなっちまったんだよ。」


「とりあえず、お前ら土方さんとこいって帰ってきた事知らせて来い。」

2人は左之助に促されて土方のもとに知らせにいった。


ぎりぎりだったが刻限には間にあったのでお咎めは無しだった。


「平助、ちょっとはこいつの立場も考えて行動しろよ。」

「わかってるって。つか、左之さん、しんぱっつあんと出かけてたんじゃないのかよ。」

平助の言葉に左之助はドキリとした。

すかさず、平助の首に手を回し押さえ込む。

「いった、痛いってぇ左之さんっ!!」


左之助は小さな声で平助に耳打ちする。


「千鶴にちゃんとつたえたのか?お前の気持ち。俺が気利かせてやったのに何の進展もないみたいだが。」


”!!!!”

「そっそんなもん、別にいいじゃん!!左之さんにはかんけぇないだろう。」

「ほう、じゃぁ、俺にも横恋慕の機会はあるわけだな。」


「なっ!!それだけはさせねぇ!!」



2人のやりとりを見ていた千鶴がクスリと笑う。


「ほんとにお2人仲がいいんですね。」

また、的外れな言葉に平助は脱力する。

コレには左之助も苦笑いするしかなかった。


「あのぅ、平助くんも原田さんもどうしたんですか?私何か変なこといったかな?」

「いや、何もねぇよ。」

千鶴に優しく左之助が言う。

そして、平助に向き直り言う。


「平助、千鶴を部屋まで送り届けてやれ。俺はほんとに新八と出かけるからよ。じゃぁな、千鶴。」

「はいっ。」

左之助がさったあと平助はブツブツと呟く。


「左之さんに言われなくてもそのつもりだったてぇのっ!!」

その様子をみて千鶴はクスクス笑うのだった。

「んじゃ、部屋まで送る。」

「うんっ。」

平助と千鶴は並んで廊下を千鶴の部屋と向かう。


部屋の前まできて千鶴が部屋の中に入り襖を閉めようとしたとき、平助は懐から例の簪をだした。

「ほらっ、お前にやる。」

千鶴はその簪を見て目をまるくした。


「あのっ、嬉しいんだけど、私、今男装中だし、付けられないけどいいの?」


平助は二カッと笑って言う。


「このまますっと一生男装のままとかじゃねぇんだし、女のかっこうに戻れたら付けてくれればいいから。」


平助の言葉に千鶴は微笑み言う。


「ありがとう、平助くん。その時まで大事にしまっておくね。」

「おっおう。あっ・・あのさ、もし女の姿に戻れてこの簪つけた時は最初に俺がみたいなぁなんてな。」


「うんっ、約束するよ。必ず平助くんに一番にみせるね。」


たぶんこれは平助なりの愛の告白だったはずだったが敵は然る者色恋にとんと疎いと見える。


平助は、少し苦笑しながらいう。


「おうっ、約束な、千鶴。じゃぁ、俺、行くな。」

「うんっ。巡察気をつけてね。」

「おう、ありがとな。」



こうして、2人の仲は進展せず、平助の恋は前途多難な感じだったが、平助は今は千鶴の笑顔が見れたことが嬉しくてたまらなかった。




END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?