アルカンシェル


マイ初日までは情報遮断する派でして、今回もスカステ、Xなどは薄目で見てたのですがなんだかちらほらと、よろしくないみたいなお声が…
ソワソワしながら見てきましたが杞憂でした。
初見でこんなに泣く作品あまりなくて自分でもびっくりしました。なんかもう胸がいっぱいで。

コロナ禍とれいちゃん、宝塚


まず
コロナ禍が始まるのと同時にトップスターさんに就任したれいちゃんに、卒業作としてこの演目を贈ってくださるイケコ先生はやっぱり天才だし、最高だし、粋な方だなと思いました。ナチスドイツに占領されて自由を奪われた劇場、それでもドイツ軍人を含んだ見に来てくれる人のためにショーを続ける、ってコロナ禍の宝塚、コロナ禍のトップスターれいちゃん、そのまんますぎてそれだけで泣けました。
れいちゃん、トップさんになるのは当然初めてで、すでにそれまでとは違ったことをしなくちゃいけない状態なのに、コロナ禍というこれまたこれまでにない困難も同時にやってきて、きっとこうだろう、という予想が全然通らない、見てきたものと違うことばかりで戸惑いも多い在任期間だったと思います。

私はポーの一族から宝塚にハマったので初演のはいからさんには間に合っておらず、生で見たかったなぁと思っていたところに、大劇場再演の報せ。友の会だったか、プレイガイド貸切だったかでSS席を恵んでいただき、本当に本当に楽しみにしていました。それが、コロナのせいで消滅。当初は宝塚、中止にせずしばらく上演していましたよね。なので、はいからさんもきっとやってくれるだろう、初日ずらしても残り半分くらいはしてくれるだろう、と小出しに中止期間が発表されるのを毎日ヒヤヒヤして待っていたのを覚えています。
すべてが中止になって時間が止まったようになっていた時、タカニュで少尉と紅緒さんの姿でご挨拶されてたのが心が痛かったし、SS席が消えたのも辛かったし、再開された時はほんとに嬉しくて泣きながら見ましたが私のあの席は返ってこないし、大正ver.と浪漫ver.で何回ずつ見て、とせっかく計画したものが、誰のせいでもなく取り上げられてしまって、何よりも再開されても元の状態での公演はもう見られないんだなと感じましたし、実際そうでした。
それから私は「コロナなんて関係なかったお披露目公演」が無くなってしまった、という気持ちが強くて、未だに抜けられずにいるんですが、アルカンシェルは、呪縛霊になっている私を成仏させようとしてくれてる内容であるようにも感じました。
コロナ期間はカウント外ってことにして、いろんな制約が一応終わった2023年の5月から、改めてトップさん在任期間の時計がスタートして、元に戻った状態で任期を全うして、卒業してくれたらと思っていました。が、そうした矢先にご卒業の発表で、もう!?という気持ちでいっぱいで、コロナ関係ない期間をもっとれいちゃんに味わって欲しかったし、そういうトップスターれいちゃんを見たかったし、東西劇場のご挨拶いずれも謝る必要も心配もない状態で過ごしてほしかった。

けれど、コロナがなかったら、なんて言っても違う時代に生まれ直すことも出来るわけはないし、これが私たちの運命で、通らなければいけなかった道で、そんなこともあったね、と言って生きてくしかないし、受け入れるしかないし、それすら愛しているようでさえあると、トップスターを全うしようとしてるれいちゃんを見ていて、思うようになりました。
れいちゃんがトップにという時にどうしてこんな、と思ってるのは私の方だけで、れいちゃんはそんな呪縛はとっくに手放していて、今この状態で、このタイミングで、トップスター柚香光を全うされようとしてるんだなと。

作中で語られるとおり、生きるための無血開城もだし、劇場が監視下に置かれ自由に創作できなくなっても演劇やダンスを捨てるでもなく、(亡命した人はいたけど)ジャズが禁制になってもこっそりやろうとしたり、バルツァー中佐と契約しても逃げるでもなく任期はしっかり全うしようとしたりと、戦争というどうしようもない出来事に翻弄されて、マルセルやアルカンシェルのみんなも生まれた時代を呪ったかもしれないけど、生まれたからにはどんな時代でも、出会ったからにはどんな困難でも、乗り越えようと一生懸命生きるしかない。きっとれいちゃん自身そう思っていらっしゃったのではないかな、と感じます。

退団会見の清々しいお顔を見て、何か宝塚のほかにやりたいことがおありなんだろうなと思いました。誰に対しても何に対しても、ネガティブな感情がいつも全然見えなくて、ただただナチュラルにそこに居られて、未曾有の災害といえるコロナ禍に対しても同じ態度でいらして、本当にすごい方だなぁと思います。
現トップさんはじめ、たまきちやだいもんも、コロナ禍のあおりをくらったトップさんだと思いますし、みなさんそれぞれにコロナ禍を飲み込んで任期を全うされたと思いますが、れいちゃんは特にそれが強いように見えます。
東西完走、今作でなんとしても達成してほしいと願っていますが、最後まで叶わなくてもそれでもれいちゃんは何も恨まずに、美しく卒業して行かれる気がします。恨んでるかもしれないし、飲み込むのも大変に違いないだろうけど、そう見えない(ようにしている?)のがすごくかっこいいんですよね。

思えば、困難な状況はこれまでにも何度もあって、コロナだけが特別ではないし、これからもまたあるかもしれないのですよね。
そんなの無いに越したことはないですが、もしまたそんなことがあった時、恨みつらみを募らせるだけじゃなく、どうしたら周りの人に笑顔になってもらえるかを考えて生きるのが、美しくていいなと思います。
そうなったら私はまたグズグズな呪縛霊になってると思うのですが、もう少し早く、解放された自分になれるような気がします。
美しいれいちゃんみたいになれはしなくても、そうなれるように努めたいです。


新しいれいちゃん、宝塚



作品中、新たなアルカンシェルを、と何度も繰り返されるのですが、新しい宝塚を、とも読み替えることができると思いました。
珍しいはずの1本もの退団がゆりかさんに続き今回も、それもダンサーであるれいちゃんが。
なんと勿体ない、と思いましたが、考えてみればBE SHINING!! でもショーはやったし、プレお披露目DANCE ORYMPIAもショー、在任中の1本ものははいからさんのみ…れいちゃんはショースターだから、2本立てでショーをやって卒業してもらわなきゃいけない、と決めつけてしまっていたように思います。
ご本人の希望か先生方の希望かわかりませんが、ショースターのイメージが強いれいちゃんがお芝居重視作品でご卒業するというのも、なにか餞のようにも思えますし、本人もしくは誰かが望んで、れいちゃんはそれを受け入れたというだけなんでしょうね。

それにしても
タイトルがどうにも某バンドを彷彿とさせますねぇ…BE SHININGや写真集でも歌ってたし、どれが初出だったかうろ覚えですが、偶然なのでしょうけども退団迫ってきたらやたらこのバンド名がよぎってちょっとフフってなりました。れいちゃんもしかしてお好きなのかな…?
これもイケコ先生からのプレゼント?
雨の後の虹。
コロナ禍という暗黒の時代をくぐり抜けた私たちファンや歌劇のみなさんにとって、これほどに刺さるモチーフもないのかなと思います。

最後に

れいちゃん、ご卒業まであと1週間切りましたね。たくさん夢を見させてくれてありがとう。
どうか東京の千秋楽までお元気で、最後まで男役を楽しんでください。

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