【ネタバレあり】兎、波を走る

できれば、ネタバレなしで見ていただきたい作品です。のこり、大阪は明日の千秋楽と、それから博多座公演と、全体の折り返し地点は過ぎていますが。

お初、NODA・MAPさん!!
見てみたいと思いつつどうにも敷居が高そうで、長年見れなかったのですが、ようやく観劇する事ができました。
高橋一生さんはじめ見たすぎるキャスト陣の皆様。
豪華すぎ。舞台じゃなくテレビドラマでも、これは見ようかとなる。
だけど、これは絶対テレビではできないし、劇場で見てほしい内容でした。
演劇って面白いな〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!と強く強く思いました。表現の方法って本当にいろいろあるんだな。むしろ演劇やりたくすらなる。一瞬だけかじりましたが、そういうのもおこがましいくらいの軽い趣味の範囲だったので、全力で挑まなくてはいけないものとして覚悟して臨みたい、というレベルで、演劇やりたい、と思わせてくれる内容でした。
打ち震えながら、感想を書いています。

テレビに出てるような役者さんが出てるお芝居ってどれもそうなんですけど、まず普通に身体能力に驚かされる。カメラで切り取り、ズームされるお芝居もあんなに繊細なのに、舞台に立ってもそんなに動けるのかとびっくりする。
うさぎの高橋一生さんと、アリスのお母さんの松たか子さんが初対面して取っ組み合いになるとことか、多部ちゃんアリスと(だったと思う)滑って舞台のツラまで来てうつ伏せで向かい合うとことか!
卵ふみつぶして蹴ってホールインワンとか!
上手すぎるよ〜。演技しながらあんな緻密な動きできるのだけで十分感動する。
サーイローックーーホォームズー♪もよかったな。
大倉さんのいちいちやかましい挙動も。なんであんな面白いんだろ??

小道具大道具が、そう使うか!!と思うようなのばかりで新鮮でした。地面に置いた縄をうにょうにょとさせてるのも、最初は??だったけど、波に見立ててるのか、とわかったら、次は糸電話(逆探知※物理)になったり、赤外線センサーや鉄条網になったり。
映像の使い方もおもしろかった。後ろの大きい幕に映すだけでもいいのに、人物だけを別の布で切り取って浮かびあがってるように見せるのとか。
楽屋を走り抜けるのもめっちゃ面白かった。
人が隠れられるスクリーンの原稿用紙から、いろんな作家さんが現れたり消えたり、消えなかったり。
それから、透明なシートが貼られた大きいフープ。
テーブルになったり螺旋階段になったり。
アリスとうさぎが晩酌してたときは大皿と小皿だと思ったけど、お母さんと晩酌してるときは時計になってた。
学校の椅子もパソコンになったり。
シンプルに面白かった。発想が自由だなぁ。

セリフ回しがめちゃくちゃ面白い。気を抜いたらすぐ置いていかれそうなスピードの言葉遊びの連続。楽しくて気持ちいい。意味はよく分からない。ナンセンスなだけかもしれないし、重要な意味が隠されてるのかもしれない。かと思ったら、突然暴力的な言葉になって、さっきまでもっと気軽に見ていたはずなのに、空気が一瞬で変わって、このお芝居の本題ってなんだろう、どれが言いたいことなんだろうと、どんどん引き込まれていく。

お話は、不思議の国のアリスをベースに、ピーターパンもピノキオも出てきて、いつの間にか軍隊になってて、アリスはいつまでも行方不明だし、かわいいうさぎさんもいつの間にか痛みを感じない訓練を経てスパイになってて、シーンが変わるごとにあれ?どうなった?どっちだ??これは誰の記憶だ???と、どれが現実か幻想か、過去か未来かわからないシーンの連続。しまいにメタバースも、AI作家も出てきて、わからない。今のセリフ、わからなかったわ。って冒頭からキャストさんが言ってましたが、本当にわからない。その通りです。
何かを揶揄しているようで、テーマがいくつも重複してもいるようで、気がつけばずっとこの物語を、登場人物といっしょに探検していた気がする。
印象的な言葉やエッセンスがたくさんあるけど、なにもかも断片的にしか見えない。不思議で、なんだこれは?と思いながら見てるんだけど、目が離せなくて、答えはいつ示されるだろうか、そもそもちゃんと答え合わせしてくれるのかと、アリスやうさぎといっしょに迷子になってる気分。怖いけど、安全が担保されたスリルのような、奇妙な心地だった。
他にも、思い出の遊園地が買収されようとしてるマダムとか。次々出てくる個性の強い作家さん達とか。どこかで聞いたような芸術家の16分の1とか128分の1の血を引いたとかなんとか。
何度か繰り返される「ドキっとした」というのはきっと心臓の鼓動のことだよね。
リアルすぎるハートの兵隊。
子どもなんかクソ喰らえ、母親なんてクソ喰らえ。
この世は母親を有り難がりすぎてる。
とかとか。
分からないことと印象に残ることだけが点々と出て来て、ひとつも繋がらないままで進んでいく。進んでいるのか?

チェーホフのシェイクスピアも、そんなに詳しい訳ではないのですが、教養ある方々にとっては更に面白いのだろうな。勉強したくなる。

台本読みたい。売ってたのに、台本だって気が付かずにスルーしてしまって、買わずに帰ってきてしまって大後悔。出版社も品切れだそうで、ずっと中古で探しています。。

前半は笑える場面ばかりだったけど、緊張感あるところが多くなって、不穏な空気がどんどん濃くなってく。
ストーリーの正体に気がついたら、なんの揶揄だろうと思ってたシーンが揶揄でなくド直球で、可愛らしいアリスが可愛ければ可愛いほど、お母さんが必死であればあるほど切なくなってきて、ものすごい衝撃だった。パレードも、軍隊っぽいのも、USA-GIもぜんぶそのままじゃないか。社会派作家と劇中で茶化されてたけど本当にそうだよ。めちゃくちゃえぐられる。普段考えないようにしてきた事、大っぴらに話すことがタブーとされるような事、多くの人が目を背けたいと思っている事を、傷口に塩を塗るように押し付けてくる。確かに、忘れて生きてるし、私には関係ないことだと、考えないようにしています。十分過ぎるくらいはっきりと答え合わせしてくれた。

かわいいタイトルにしちゃって、ファンタジーかな〜、どういう話なのかな〜?といたって軽〜い気持ちで見に来たら、ボーっと生きてんじゃねーよ、とノーガードなとこに強烈なのをくらってしまった。

拉致問題について、自分の考えを持ったことも、何か考えたことも無かったと思います。遠巻きに
可哀想だな〜とだけ。
だけど今回、多部さんの切ない声を聞いて、後悔してる罪人の顔をした高橋さん、その人と会話する松さんを見て、もうほんとにほんとに、いたたまれない気持ちになった。実在してるんだもんなこの物語は。
戦争や原爆については義務教育の中にしっかり組み込まれているし、毎年ニュースでやってるしで身体に染み付いているけど、このことについてはいまいち触れた記憶がない。
何人か戻ってこられてたのも、いつ頃のことかはっきり思い出せない。
なんと言っていいのか今も正直分からないけど、私は事件自体知らなさすぎるので、知ることから始めたいと思います。
何かの運動をして欲しいとか、そういうんでなくて、ただ知っててほしい、知っていなくちゃいけないというようなメッセージだと感じました。
もうそうするしかない世界。
不条理な世界。
でも実在してる世界。
最後に、腕の中がからっぽな松さんで舞台は締められて、アリスはまだ帰ってきていない。
苦しすぎる。

脚本やセットが素晴らしいのもだけど、
役者さんが、お名前を存じ上げない方もみんな凄かった。怖いくらい。
それでもやっぱり、有名な役者さんって本当にすごい。そりゃぁ有名だもんね、ドラマ主演ばっかりやるよね〜。
松たか子さん、しばらく、誰だろう?と思って見てました…。わからなかった。声も若いし、テレビよりもずっと小顔で、細くて、少女のようでした。動きがキビキビのキレキレだったので…。あのお母さんは若いお母さんの役だったのかしら?魅力のある方ですね。目が離せないし、引き込まれました。

高橋一生さん。おんな城主直虎でハマって、以降も全部は追えてないけど、出てると聞けばぜひとも作品を見たくなるお方。絶対いつか生で拝見したいと思ってて、でもすでにめちゃくちゃ有名な方だし次々ドラマのご予定が入るみたいみたいだし、舞台なんて出ないだろうなぁと思っていたら、ちょこちょこと舞台出演もお見かけするように。劇団☆新感線に出演されると聞き、運良くチケットも降ってきたのに、コロナで大阪公演全中止になってしまって、それから3年越しの、ようやくの実現でした。
テレビで見るのと変わらないかも、と思ったのですが、この広さの空間で?それってかなりすごいことなのでは。
遠ーーーいお席だったのですが、迫力ありすぎて、びっくりしました。もっと近い席だともっともっと圧があるんだろうな。そんなお席でも、私は終演後なかなか立ちあがれなかったのですが。大丈夫でしたか、前方の方。
舞台狭いんじゃないかと思うほど演技が大きくて、ずっと走り回ってて、セリフの抑揚や緩急の付け方も飽きがこなくて、この方の言動は特に逃しちゃいけない!と思わせる、ものすごいエネルギーのある方でした。
ハマるまでにも何度もドラマではお見かけしてたのに、全然印象に残ってなかったのは(すみません)、それぞれの世界のキャラクターに徹して、完全に別の人間になっていたということなんではないかなと思っています。
カーテンコールではしゅんとしたような、消耗しきったお顔で、まだ役を離れていないようでした。楽屋に戻ってもホテルに戻っても、ずっとお役のままなんだろうな。
辛いお役だとは思いますが、大千秋楽まで頑張ってほしいです。

多部未華子さん。唯一、初観劇ではないお方。大人計画でお見かけしたはず。
とにかく可愛いな〜というのと、演技が吹っ切れてるというのか…。見た目の印象と演技が違いすぎて、驚いたのを覚えています。演技の振り幅もすごい。酔っ払ってクダ巻いてるのと、袋に入れられてお母さん呼ぶのと違いすぎる。因みに前回観劇のときは、ヤンキーみたいなキャラだったと思う。ほんとに同一人物ですか!?
その上で、心にくるお芝居されるなぁと。袋に入れられて、お母さん、お母さんと必死に呼ぶ声はこれ書いてても泣けてくる。そこから涙腺崩壊してしまって、ずっと泣いてたな。
あんまり周りではグスグス言ってなかったんですけど、みなさん泣かなかったのでしょうか…?

大倉孝二さん。なんとも、味があって大好きです。この方が出ている作品は間違いなく面白い。どちらかと言うと弱そうなお顔立ちなのに、(すみません)ものすごい頼りがいを秘めておられますよね。
飄々とした、気弱、朴訥、残忍、おちゃめ。なんでもできる。本当はどんな性格なのか、全く想像がつかないですね。似てるキャラをいくつもされてますが、〇〇みたいなキャラ、では片付かない人物が毎回出来上がっていて、顔は同じでも同一人物には見えないので本当にすごいなと思います。

見終わって、出口が混んでたのでロビーのベンチにしばらく座ってたんですが、隣に座ったマダムが、あれはダメだわ、観客のことなんにも考えてないわ、最初の15分はよかったけど途中から何回も時計見たわ、と、お気に召さなかったようで、グチグチと言っておられました。
伝わらない人も居るんだなと思うと同時に、たしかに楽しい気軽なお芝居を期待して見に来られてるなら、かなりツライ内容だったろうなとは思いますが。

私は最高のキャストで、最高の内容だったと思います。
楽しいエンタメを味わいに来ているのに、言わば平和学習や道徳の授業のようなものを体験させられるとなると、なぜ気持ちのよくない思いをわざわざお金を払ってまでしなくちゃいけないのかと言う声が聞こえてきそうですが、このお芝居はお金を出してでも見る価値があると思う。(そのできごとを伝える為に設立された施設や、現場を残すための維持管理費等として支払うことには賛同します。当事者の方の講演会や、そこに常識の範囲の謝礼が発生するであろうことにも。)
テーマこそ重いし、見てる間は涙も流れるし、辛い気持ちにもなりましたが、見終わった後はなぜかめちゃくちゃ心地よくて、いいもの見たなという気持ちでいっぱいでした。
俳優さん達の技術や、熱というか圧というか、それを見られる一番の題材を選んであるだけ、というようにも思いました。
簡単で楽しいだけの内容は、見終わったあとは心地よいですが、程よく毒と謎のあるものの方が、ずっと心に残りますよね。
兎、波を走るというタイトルも、見終わった後なら理解できました。直後は字面そのまま、スパイが海を渡ったことだよねと思っていましたが、ことわざとしては、理解の浅い人の例えでもある、とのことで…。
どこまでも抉られる思いでした。






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