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僕と死神の1日

僕の名前は進藤。高校1年生。

内気で人と話すのが苦手で、家族とも上手くいかず、学校もなじめずにいつも1人で過ごしていた。
そんな人生に絶望し、自殺することにした。
事前に少しずつ買っていた睡眠薬と水道から捻り出した水をコップに入れた。
見たくもないテレビを流し、食べたくもないがお腹は鳴り続けてうるさいので、カップラーメンを一気に胃の中に入れた。
深夜になると睡眠薬を大量に服用して意識を失った。
「これで俺はあの世に行ける。もう苦しまなくて済むんだ。」
しかし進藤は死ぬ事が出来なかった。


目を覚ますと、朝になっていた。
起き上がると目の前に女の子が座っている。
見覚えのないその女の子は高校生くらいで、金髪ショートヘアの美少女である。
黒くて長いマントを纏っていて、大きな鎌を持っていた。
コスプレのような格好をしているので、進藤はヤバい奴が来たと思った。
「ハロー!進藤!死ぬのに失敗しちゃったね!元気?」
「なんで僕の名前を知ってるの?しかも僕の部屋にどうやって入ってきたの?ってか死のうとしてるんだから、元気な訳ないだろ!?」
「私は死神!貴方の命を奪いに来たんだけど、余りにも寂しい人生を送ってるから、最期くらい幸せにしてからサクッと命を奪おうと思ってるんだ★」
「死神?とうとうヤバい幻覚まで見えてきたのか。仮に本当に死神だとして、僕は死神にまで同情されるってやっぱり寂しい人生を送ってるんだな。」
「そうだね。今は生命力も弱まってて今にも死にそうだけど、かろうじて生きている状態だよ。このまま死ぬ事も出来るけど、どうする?今の寂しい人生に悔いは無い?」
「悔いはあるに決まってるよ!でも僕は人生に希望を持てないんだ。」
「死神がこんな事を言うのも、変かもしれないけどさ。1日しか一緒に居られないけど、最期に私と思い出を作るというのはどうかな。」
「死神なのに一緒に思い出を作ってくれるの?命を奪う存在と楽しい時間を過ごすのってなんだかおかしいね。そう言ってくれるなら僕は一緒に過ごしてみたい。」
僕は思ったよりもすんなりとこの奇妙な状況を受け入れていた。誰かと一緒に過ごすことが久しぶりで嬉しかったからだ。
「そうと決まれば出かけよう!」
死神がそう言って、僕の手を引いた。


外は12月という事もあり、とても冷えていた。
「今日はいい天気だね!近くの公園に遊びに行かない?」
「うん、そうだね。そうしよう!」
何だか楽しくなって、死神と僕は公園に出かけた。公園には沢山の人がいて、ピクニックをしたりサッカーをしたり、縄跳びをしたりと自由に遊んでいた。
「皆楽しそうだね。」
「そうだね。この公園は広いし日曜日だから沢山の人が来てるんだ。」
「私達も遊ばない?バドミントンがしたいかも!」
「良いね!じゃあラケットを買いに行ってくる…って、ええ?!」
死神は近くでバドミントンをしている3人グループに声をかけて既に仲間に加わっていた。
「進藤ー!何やってんのー?こっちにおいでよー!」
「いつの間に仲間に入ってるの!?」
僕は仲間に入りたかったが、どう言えばいいか分からず、立ち尽くしていた。
「ほら、ボーっとしてないで遊ぼうよ。こっちにきて!」
死神がグイッと僕の腕を掴んで連れてきてくれた。
3人のグループのメンバーは僕のクラスメイトだった。話したことはないけど、元気で明るい人達で、僕とは違うタイプだから仲良くはなれないだろうと思っていた。
「あれ?同じクラスの進藤くんだよね。この子と一緒に公園に来たの?」
3人の中でもリーダー的な立ち位置の最上くんが話しかけてきた。
「そうなの。突然バドミントンがやりたいって言って話しかけたみたい。突然ごめんね?」
僕は3人にそう言った。
「良いよー!女の子と公園で遊ぶとか初めてで嬉しいし!」
笑顔でそう言ったのは、ムードメーカーの明田くんだった。
「皆で遊ぶ方が楽しいしね。ラケットは順番に使えばいいし。」
クールな印象の白井くんも静かに受け入れてくれた。
「初めてだけど、楽しみだな。」
僕は皆にそう伝えたが、内心ワクワクしていた。公園でクラスメイトと遊ぶのは初めてではしゃいでいたのだ。


「それじゃあ早速いくよー!よいしょー!」
死神はシャトルを空高く上げて打った。
彼女はとてもマイペースだが、その自由奔放さが心地良かった。僕のコミュ力ではこんな風に一緒に遊びに誘うことは出来なかったから。
「えー!早い!待ってー!」
明田くんは笑いながら打ち返していた。みんな死神とのやりとりを笑顔で見守っている。
可愛くて明るくて天真爛漫な死神っておかしいけど、魅力的だなと思ってぼんやりと見ていた。
「進藤!疲れたから私と代わってー!」
そう言うとラケットを僕に渡してきた。
「僕に打てるかな。ちょっと待ってくれる?」
ラケットを振る練習をして、打てるかシュミレーションをしていた。
「失敗しても大丈夫だよ。こうやって斜めに振ってみて。」
白井くんが打つ真似をして、僕に優しく教えてくれた。
シャトルを打とうとすると、スカッと外してしまう。
最上くんはプッと吹き出して笑った。
僕は悔しくて何度も打ち返そうと試みたが、1度も当たらなかった。
「こっち来て立って!」
死神がそう言うと僕は死神の方へと向かった。
「こうやって、腕を振って!」
死神が僕の後ろにピッタリと立ち、僕の右腕を掴んでラケットの振り方を教えてくれた。
普段女の子と会話する事もないのに、こんなに女の子と密着している状況にドキドキしてしまった。
「あれ、進藤くん顔真っ赤だよ!さては緊張してる?」
明田くんが僕をからかって、ニヤニヤしていた。
「そりゃそうだよ!女の子と普段話す事もないんだもん。」
照れくさそうにそう答えると、みんな笑いながら頷いていた。
「分かる!俺も緊張してるもん。」
「俺も男兄弟しか居ないから女の子と話した事ない!」
2人も照れくさそうにそう話してくれて、
「分かるわー!」と僕も笑いながら答えた。
死神は楽しそうな4人の姿を静かに見つめていた。


ラケットを交代しながら、冬の寒さを忘れて、のんびりとバドミントンを続けていた。
喋りながら楽しく続けていると、夕方5時のチャイムが鳴っていた。
「あ、そろそろ家に帰らないと!」
「俺も!親に怒られる!」
「夕ご飯の手伝い頼まれてるんだった!やべー!」
3人がそう言うと、帰る準備を整えていた。
「今日は仲間に入れてくれてありがとう。また明日学校でね!」
僕はみんなにそう伝えた。
明日はもう来ないけど、クラスメイトだからそういう挨拶が適切だと思った。
「進藤くんと仲良くなれて嬉しいよ。また明日学校でね!」
「バドミントンまた一緒にやろうな!」
「暗くなる前に気をつけて帰ってね。」
みんな、優しい言葉をかけてくれた。
小走りで3人は家路に向かって行った。


「死神。今日は生まれて初めて友達が出来て、楽しく遊べたよ。良い思い出を作ることが出来たのは、君のおかげだ。どうもありがとう。」
「私も楽しかったよ。バドミントンってこんなに白熱するもんなんだね。新しい発見だったわ!」
死神もバドミントンが楽しかったみたいで、鼻歌を歌いながら歩いていた。
「死神だけど、女の子と遊ぶのも初めてだったんだ。こんなに楽しいんだね。」
「死神だけどは余計だけどね。恋愛はもっと楽しいよ!」
「え!?そうなの?」
「知らんけど。」
「知らないのに言ったのかよ!」
「今日が最期だから恋愛は経験出来ないだろうからそう言ってみた。でも今までの寂しい人生で終わるよりは良かったでしょ?」
「もちろんだよ。友達が出来て、とても嬉しかった。」
「恋愛はしてみたいとは思わないの?」
「うーん。よく分からないし、楽しい思い出が出来ただけで幸せだった。悔いは無いよ。」
「そっか。それなら良いんだ。じゃあもう時間だから、最期に向かう準備をするよ。」
すっかり周りは暗くなっていて、夜になっていた。死神と一緒に家へと向かって歩いた。
「最期に向かう準備について説明するね。最期は誰にも見られないように、進藤の部屋で行なうよ。部屋ではあの世に通じるゲートを作るの。そのために私が持っていた鎌を使うよ。」
ペラペラと業務連絡を伝えるように、死神は僕に説明を始めた。
「鎌でゲートを開くと、真っ暗なトンネルが目の前に現れるから、進藤はそこをくぐってね。その時は何も考えないでただトンネルをくぐるようにしてね。トンネルをくぐると机と椅子が置いてあるから、その椅子に座ってね。机には水が置いてあるから、その水を一気に飲み干して。」
淡々と説明をしているが、情景が目に浮かんで来るのが不思議だった。僕は想像すると、少し怖くなったが静かに頷いていた。

「部屋に着いたね。鍵を開けてくれる?」
「うん。分かった。」
いつものように部屋の鍵を開けて、死神を先に部屋へと入れた。
僕は段々と近付く終わりになんだか恐れを感じながらも、最期に向かう準備に取り掛かることに集中することにした。
「今から鎌を振って、ゲートを開けるね。」
「分かった。」
死神は呪文を唱えて、あの世のゲートを開けようとしている。
何だか怖い雰囲気というか、奇妙な光景で臆病者の僕は逃げ出したいような気持ちになっていた。
昨日まであんなに死を望んでいたのに、今は全然気持ちが変わっている。
友達が出来て、生きたい気持ちが強まってきていることに気付いた。

「あれ、ゲートが開かない。ちょっと待ってくれる?」
ゲートが開かないため、死神は動揺している様子だった。
鎌を別の方向に振り回したり、別の呪文を唱えている。
このままゲートが開かなければ良いのに、いつしか進藤は強く願うようになっていた。

再度ゲートを開こうとすると、ゲートが開くどころか、何も反応しなくなった。
「進藤、よく聞いて。これは私の失敗ではなくて、あなたが運命を変えたんだよ。」
「どういうこと?」
「今日最期の日として私は進藤に生きるチャンスを与えたよね。」
「うん、分かってるよ。」
「今日友達が出来て、楽しく遊んで、幸せな一日を過ごした事で進藤の生命力は強くなったんだ。だから、ゲートをくぐることは出来なくなったの。」
「生命力が強くなるとゲートをくぐって、あの世に行く事は出来ないんだね?」
「そうなの。だから進藤は死ぬ事が出来ない。それに今は死を望んでいないよね?」
「うん。今は友達と遊んだり、死神の言っていた恋も経験したいと思ってる。それに死ぬのが怖いんだ。」
「それは健全な生命に回復したってことなんだ。死神としては生命を奪うべきなんだけどさ、進藤のピュアな気持ちや楽しんでいる姿を見て、感情移入しちゃったんだよね私。」
「じゃあ僕はこれからどうなるの?」
「私が生命を奪えないからこのままこの世で明日を迎えて、何もなかったかのように毎日を過ごす!それで私は進藤の目の前には二度と現れない。サヨナラ。」
「死神と二度と会えないのは寂しい。でもそれ以上に生きたいと思えるようになった事は嬉しい。僕の生命を守ってくれてありがとう。」
僕は死神と別れるのが寂しくて、でも生きたいと思えている自分が嬉しくて涙と笑顔で顔はぐちゃぐちゃになっていた。
「死神と言っているけど、君は天使だ。誰がなんと言おうとも。」
死神は眉間に皺を寄せながら苦笑いをした。「何それ、天使とかキモいんだけど!あと顔ぐっちゃぐちゃで汚い!」
死神は進藤につられて、笑いながら大粒の涙を流していた。
「君だってぐちゃぐちゃな顔してるじゃない!僕のこと言えないよー!わーん!」
2人で大声で泣きながら、ゲラゲラと笑った。


「「いつまで道草食ってるんだ。早く帰ってきなさい。」」

どこからか男性の声が響いていた。
「ちょっと待って!すぐ帰るから!」
死神がそう答えると、僕に死神が話した。
「もうこれでお別れ。昨日と今日はほんとに楽しかったよ。ありがとう。これからは楽しく生きてね。死神だけど、応援してる。」
そう言うと、死神は僕のおでこにキスをした。
「う、うん!ありがとう!死神も元気でね!」
死神はニッと歯を出して笑うと、姿を消した。
僕は泣きながら、死神に手を振った。


朝起きると、いつものように朝がやってきた。
身支度を整えて外に出ると、「おはよう!」と僕に声をかけてきた。振り返ると昨日遊んだ3人が居た。
「よし、昼休みはバドミントンやろうぜ!」
最上くんがそう言うと、僕は大きく頷いて一緒に学校へと向かったのだった。

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