十二年ぶりの恋

こういう遊びには慣れている。
慣れすぎていて、相手を探す目はかなり養われている。

ちゃんと探さなくてもいい。
今夜だけ。今すぐ近くで会える男。
普段は顔写真のない男には返事しない。
何故だろう。あの日は気の迷いだったのか。
プロフィールだけさっと目を通して、メッセージを始めた。

「今から会えますか?」
余計なことは何もやり取りしなかった。
話したのは待ち合わせ場所だけ。

第一印象は何か軽そう、そして人を小馬鹿にして見下ろすような眼差し。
「やりたかったの?」
一切隠そうとしない下心が美しく感じられた。

金曜日の夜、24時前。
駅前から離れているとはいえホテル街は賑わっていた。
私のいつものラブホは埋まっていて、何軒か渡り歩いた。
私の隣を乱暴な運転の車が通る。
「危ないよ」
そう言って、車道から遠ざけてくれる。
女に慣れている。私は遊び人が昔から好きだ。

三軒目で入ったホテル。
エレベーターの中でも下卑た笑み。
悪くない、そう思うくらいには私は汚れている。

ソファーに座る。
私は試したかった。この男がどう出るのか。
礼儀正しく「シャワーは先に」なんて言われていたら、こうやって文章に残そうとは思わなかった。

待ち合わせ場所で見た表情と同じまま、座る私を見下ろしながら胸を鷲掴むように揉まれた。
「エロイ」
そう何度も連呼していた。
優しさなんてどこにもない、愛情なんてあるはずもない。
けれど、それが痛くて気持ちよかった。
吐息が漏れる。目尻からうっすら涙が溢れる。
「エロイ」
この人は私を女としてしか見ていない。数年ぶりに感じた昂りに私は興奮を抑えられなかった。

所作はいちいち乱暴で雑。
こういうのが欲しかった。何で私が欲しいものがこんなにも分かるのか。あるいは、私がそういう顔をしていたのか。
飲んだ後、そう言っていたのにアルコールの味はしなかった。キスだけで相性が分かる。この男とはきっと最高に相性が良い。
されるがままで何も考えられなくて、目の前で下着を下ろされて現れたそれを迷うことなく口に含んだ。
「上手いね、気持ちいいよ」
遊んできた過去は汚点でしかないのに役立つこともある。私は「私の彼氏」以外なら満足させられる。もう十年も関係が続けば私のテクニックなんて何の意味も持たないから。
サービスしてあげる、喉の奥まで咥えてやった。私はまた試していた。
2回目の試しも彼はすんなり通過した。私の頭を掴み腰を動かし喉奥にぶち当ててくる。遠慮がない。自分の快楽しか考えていない。
合格、最高じゃん。私は言葉には決してしない。か弱く従順なM女のフリをする。だって、そうしたほうがもっと手酷く扱ってくれるから。そのほうが私ももっともっと気持ちよくなれるから。

触られてもいないのに下肢が濡れているのが分かる。性格は変わっても身体は変わらないらしい。この反応が目の前の男を喜ばせることに私は喜んでいた。 

下品。
床は私の体液で水浸し。そのままベッドに連れて行かれて押し倒された。電気?そんなものは最初から明るいまま。
白い壁、白い天井、白いシーツ、そして私の白い肌。
遠慮もなく突き立てられて頭がおかしくなりそうだった。奥を抉り取られるようにガンガン突き立てられる。気持ちいい。それしか考えられなかった。
こんなに気持ちよかったのは初めてだった。
欲しい、欲しい。私はずっとそう口にしていた。
三時間で四回交わった。休憩らしい休憩もなく、ひとつの昂りが終わればまたすぐに始まる。
逝き過ぎて狂いそう。最後のほうは本当に狂っていた気がする。

また会いたい。
一夜の関係がそうではなくなった。
私はあっさりラインと本名を教えた。彼も本名を教えてくれた。
「こんなことで嘘ついても仕方ないでしょ」
不誠実の中の誠実に彼氏とは全く違う価値観を見て惹かれてしまった。
プライベートなことをいくつか話した。時折彼の弱さと仄暗い影が見えてそこにもまた惹かれていった。

ホテルの前でさっとタクシーを呼び止めて私を乗せてくれた。かっこよすぎて胸が苦しかった。
こんなこと、彼氏は一生かかってもできない。

約十年、浮気のひとつもしなかった。男性とふたりきりで食事に行ったのも数える程度。
自分の心の中にまだこんな感情が残っていたことに呆れながらも嬉しく思う。まだ私は恋ができる。人を好きだと思い胸が高鳴る感情を忘れてはいない。

この恋はきっと幸せにはならない。でも、それは今の関係だって同じこと。
私は彼を好きになってしまった。それも私が一番興奮する形で好きになってしまった。
来月も約束している。
好きだと口にすることを私は止められない。でも、きっと行為中にしか言わない。そうすれば、身体が好きだと言う意味にしかとられない。でも、それでいい。
ふしだらで淫らで浅ましい、この恋は私の胸の中だけで楽しませて頂く。

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