夢の中でしか行けない場所、前編


夢の中でしか行けない場所がある。覚えている限りだと五つだ。


一つは、駅だ。温泉と直結している。

日によって違うが、箱根の小涌園のようなところで敷地は広く、露天風呂がある。駅から温泉までは橋で繋がっていたり、岩肌に造られた階段を登っていくと辿り着ける造りの時もある。

路線は自然豊かな田舎のローカル線と決まっている。本数が少なかったり終電が早かったりで、今から入浴したら今日中に帰れない!と焦った事もある。

夢は記憶と情報の整理なのだそうだが、心当たりがある。幼い頃、母が私と弟をそうした施設に連れて行ってくれた日の事だと思う。最寄駅からは一度電車を乗り換え、ディーゼルで二両編成の列車に揺られていった。乗り降りの際、ボタンでドアを開閉する。

残念なのは、実在するその施設は駅と直結しているわけではなく、着いた駅からはバスに乗り換えないと行けないという点だ。そんな施設があったらいいのにと、この夢には私の願望が混ざっているのだと思う。


二つ目も、駅だ。今度は田舎ではなく、都内のそこそこ大きいターミナル駅だ。

ホームは一階にあり、電車を降りたらエスカレーターで上がっていく。大抵は三階まである。上野駅の構造と近く、ecuteのような売店やレストランがある。階段やエスカレーターは中央に向かって作られており、山のようになっている事が多い。

四階があってそこが空港のようになっている事もある。動く歩道や保安検査場などがあり、そこをスーツケースを引いて歩いたり、荷物を送る手続きをした事もある。乗るエスカレーターを間違え、引き返せない!と焦った事も。

この夢にも心当たりがある。母の実家が遠く、夏休みや正月には家族で電車を乗り継いで帰省していた事からだろう。上野で必ず乗り換えなくてはならなかったため、その記憶が深く残っているのだと思う(今は東京まで乗り換えせずに行ける)。

長野や北陸など、なかなか訪れることのない地方へのホームがあったり、改札を出たその先の幅広いグレーの階段が出てくるのも、何となく上野っぽい。時たま空港が混ざるのは、大人になってから旅行も空港も好きになったからだろう。駅は三階まである事が多いのだが、羽田や那覇の空港が姿を変えて現れてくれているのだろうか。

どこのレストランに入ろうか、どこでお弁当を買おうか迷ったり、この電車に乗ればあの県まで行けるんだ!と案内を見て想いを馳せたり。夢の中では現実と同じように、ターミナル駅ならではの楽しさを味わっている。


三つ目も、また駅だ。正確に言うと駅を出ると広がる、バス停や商店街などのある風景だ。

これはかつて訪れたことのある箱根や熱海、鎌倉、尾道、松山などの再現だと思う(松山は路面電車だけれども)。最先端の都会と言うより、どこか昭和や平成初期の雰囲気が残るような風景だ。

この時の夢は、駅を降り立って背にし、「ここからバスに乗ってどこへ行こう?」と期待いっぱいになっている場面から始まる。見る回数がまだそう多くないので記憶は少ないが、二階建ての建物が連なるちょっと古ぼけたアーケードと、二階建てのバスが出てきたことがある。アーケードはまさに箱根駅や熱海駅のそばの商店街を思い起こさせる。二階建てのバスは、学生の頃に行ったイギリスのあの赤いバスだろう。

いかにも夢らしく、違うバスに乗ったはずなのに何度もループして、またスタート地点に戻ってしまったこともある。でも焦りや不安はなく、じゃあ今度はこのバスに乗ってみよう!ととにかく先へ行きたがっている。


これらの夢を見た時は大体楽しくてワクワクしている。そして今でも大きい駅、知らない駅や空港に来るとやっぱりワクワクしてしまう。ここからどこへでも行けるんだと、まだ行ったことのない地への期待、過去に訪れた素敵な地への親しみでいっぱいになる。


夢は、これまでの旅路の楽しい思い出を、時たま蘇らせてくれるのである。



<後編に続く>



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