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【※R18】煩悩フレンチトースト(BL)

詳細

※こちらはR18BLシナリオとなっております。
未成年の方、BLやR18作品が苦手な方はブラウザを閉じていただきますようお願いいたします
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【ジャンル】BL ラブストーリー ※R18表現あり
【人数】2〜3人
【比率】男:3(又は男:2・女:1)
【上演時間】60〜70分

あらすじ

海堂燐は幼馴染の天堂圭に想いを寄せている。
いつから好きだったのか、好きになったきっかけはなんだったのか、そんなことを聞くのは野暮だと決めつける程度には長年の片想いを拗らせ続けていた。

「フレンチトーストが食べたい」
圭がそう燐に伝えるとき、それは圭が失恋した合図。
その傷を埋めるようにしてフレンチトーストを作る燐は、いつからかフレンチトーストに自分の想いを押し付けるようになる。

しかし圭は、そんな燐の想いも露知らず「好き」と言われたら誰だろうと付き合ってしまうフッ軽恋愛体質の持ち主だった。

そんな圭を嫌いになれずひたすらに想い続けるも、恋人を取っ替え引っ替えする行動に我慢の限界を迎えてしまった燐は…ー!?

拗らせ男子と恋愛フッ軽男子、2人が導く恋の行方は…?


「だから、これからも好きでいてくれ。こんなどーしようもないオレを」

登場人物

海堂燐(カイドウリン)
本作主人公。県内の普通科高校に通う高校2年生、圭と幼馴染。
圭に長いこと片想いをしていて色々拗らせている。年の割に落ち着いていて色気がある。
圭が恋人と別れる度にフレンチトーストを作らされているため、フレンチトーストを作ることが得意になってしまった。
(燐(M)はモノローグ)

天道圭(テンドウケイ)
とある大学の経済学部に通う大学2年生。燐と幼馴染。
面がいいのと優しさで割とモテるので彼女が途絶えない。恋愛体質。浮気されたり裏切られても怒らない。「まぁ、仕方ないか」ですべてを解決させている。(人は自分の思い通りにならないと理解しているため、妙に冷静なときがある)
燐の気持ちには気付いていない、鈍感。
(圭(M)はモノローグ)

柴田(シバタ)
圭の友達、いいやつ。ツッコミ要員。愛称はしばやん。
浮気する人にとんでもない偏見がある。
結構ズバズバ言うタイプだが、友達思い。女性演者が演じても良い。女性が演じる場合は台詞を女性向けに変更も可。演者2人の場合は燐が兼役。


本編


圭「フレンチトーストが食べたい」

燐(M):口から溢れたその言葉は、泣き疲れた自分を癒やしたかったのか
ただ、腹が減って空腹を満たしたかったのか
分からないながら、俺はフレンチトーストを作った

燐(M):大好きな人が、食べたいと言ったから
叶えたいと思った

燐(M):家にあったパンと卵と牛乳、砂糖にメープルシロップ
それだけの食材で、ネットで調べたレシピ通り作っただけのそれを
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、美味しい、おいしい…って食べる君を
愛おしいと、想ったんだ


『煩悩フレンチトースト』


場面:燐の家。
リビングでテレビを見て寛ぐ圭。
燐はキッチンで料理をしている。


燐(M):休日の昼下がり、俺はキッチンでフレンチトーストを作っている
何故かといえば、予定の無かった来客が家に来るなり「フレンチトーストが食べたい」って叫んだからだ

燐「圭くん、そろそろできるよ」
圭「おー」

燐(M):食べたいと叫んだ張本人はソファに座ってテレビを見ていた
彼、天道圭は所謂(いわゆる)幼馴染というやつで、今でもよく遊んでくれる

圭「うまそ〜」
燐「あ、圭くんお皿出してくれる?」
圭「オッケー」

燐(M):休日に予定が無ければこうして遊びにきたりするけれど、今日は約束をしていなかった
珍しくないことなのだけど、約束も無しに来てフレンチトーストを作るようお願いするのには、必ず理由がある

圭「皿、これでいいか?」
燐「うん、ありがとう。盛り付けるから、飲み物準備してて」
圭「分かった、燐はいつも通りでいいのか?」
燐「うん」
圭「そんじゃやるか!」



圭「うっひゃ〜凄い盛り付けだな!」
燐「だって袋の中にフルーツ沢山入ってたから」
圭「まぁ?燐なら?上手いこと盛り付けてくれるかな〜と思ってさ」
燐「……」
圭「写真撮って映え投稿しとくわ!」
燐「…ご自由にどうぞ」
圭「……よし、オッケー!食うか!」
燐「うん、いただきます」
圭「いただきまーす!
…………美味しい!」
燐「そう?良かった」
圭「燐、腕あげたか?」
燐「どうかな?多分、作るのに慣れただけだと思うよ」
圭「そうなん?」
燐「誰かさんが振られる度に、フレンチトースト作ってくれ〜!…って言うから」
圭「んぐっ!?」
燐「あ〜ほら、コーヒー飲んで」
圭「………はぁ、はぁ…死ぬかと思った…」
燐「大袈裟だなぁ」
圭「お前な、サラッと人の傷を抉るようなこと言うなよ…」
燐「だって事実じゃん」
圭「……まぁ、な」
燐「付き合って半年か〜今回は長かった方じゃない?何で別れちゃったの?」
圭「それがさ〜オレ、浮気されてたらしいのよ」
燐「穏やかじゃない話が始まりそうなのに、何でそんな井戸端会議みたいなテンションなの?」
圭「いや、浮気されてんの別れてから知ったから〜なんか1周回ってウケてきてさ」
燐「うわそれ最悪」
圭「別れたときはさ、オレのこと男として見れなくなった〜って言ってたのに」
燐「よく浮気されてるって気付いたね?」
圭「だってさ〜別れてすぐに他の男と腕組んで歩いてたんだよ、嫌でも浮気してたって分かるじゃん」
燐「そう、だね…」
圭「確かに最近デート誘ってもノリ悪かったし、一緒にいてもつまんなそーにしてたからな。浮気疑うべきだよな〜」
燐「……別れる前から浮気されてるって気付いてたでしょ」
圭「……」
燐「やっぱり…」
圭「えぇ、何で分かったの?エスパーじゃん、怖ぁい」
燐「圭くん、嘘つくとき鼻触る癖があるから」
圭「え?マジ?」
燐「マジ、小さいときからそう。嘘つくときは絶対鼻触ってる」
圭「知らなかった、オレそんな癖あるんだ…」
燐「普通気付かないし、誰かに言われなきゃ知らないよ」
圭「た、確かに…!」
燐「それより浮気のこと、気付いてたなら言及すれば良かったのに」
圭「それな、オレもそう思う。だけど、出来なかったな〜
だってさ、好きなやつのこと最後まで信じたかったから」
燐「………はぁ」
圭「溜息デカ!」
燐「超が付くほど優しいのは分かってたけど、ここまでくると才能」
圭「?あんまり褒められてる気がしないな?」
燐「褒めてないよ、呆れてるの」
圭「ひっでぇな!」

燐(M):でも、そんな人を好きになったのは俺だ

燐(M):いつから好きだったのか、好きになったきっかけはなんだったのか
恋愛において、1番野暮な問いだろうと思う
ありきたりなことを述べるなら「気がついたら好きだった」だ

燐「元カノの愚痴くらい出てくるかと思ったのに」
圭「お前、性格悪いな」
燐「浮気されて捨てられたら、普通は愚痴の1つも出てくるもんだけどね?」
圭「うーん…分かんねぇ、もう終わったことだから」
燐「………」
圭「…あ、何か怒ってる?」
燐「…だって圭くん、傷ついただろ…」
圭「……オレの代わりに怒ってるのか」
燐「…そうだよ」
圭「そっか…燐は優しいな。オレさ、お前のそういうとこ、結構好きよ?」

燐(M):ーーその好きは、俺と同じ『好き』じゃないくせに

燐(M):心の掃き溜めに嫌味を1つ、こぼした





キッチンで後片付けをする燐。


燐(M):フレンチトーストを食べて、少しの雑談をしてから圭くんは帰った
これからバイトに行くらしい
彼がいなくなったリビングは静かだ
ただ食器を洗う音だけが響いている

燐(M):ーー振られた、別れたと聞いて安堵した
…って言ったら、圭くんなんて言うだろう

燐「幻滅、だよなぁ……」

燐(M):好きになって何年だとか、あのときああされたから好きになったとか
よく語られる年数マウントとか、きっかけ自慢とか
そんなもの、俺にはない
圭くんの全部が好きだから、本当は自分だけ見てほしいし
落ちるなら俺に落ちてくれと、思いもする
恋人ができたと聞く度嫉妬に駆られ、胸の中がざわざわするあの嫌な感覚をどれだけ味わっても
幼馴染、という線を超えられない

燐(M):その線を超えた先に得られるものが、圭くんに嫌われてしまうことなら
いっそこのまま、幼馴染を続けたほうが安全だ

燐(M):振られたと聞く度安堵して、恋人ができたと聞いたら嫉妬してを繰り返す

燐(M):圭くんを好きでいて、幼馴染を続けることの代償がこんなに辛いと思わなかった




場面:映画館にある待合スペース
椅子に座って雑談中の圭と燐、圭は携帯を触りながら話している。


圭「オレさ、彼女できたわ」
燐「…………は?」
圭「いやだから、彼女できた」
燐「別れてから…そんなに経ってないじゃん…」
圭「確かに!でも好きって言われて嫌な気はしないし、フリーだったし?まぁ、いいかな〜って思ってさ」

燐(M):好きって言われて、嫌な気はしない……ーー
それって、俺が言っても同じなんだろうか
俺が先に言っていたら、状況は違ったんだろうか

圭「来週デートするんだけどさ、何がいいか燐にアドバイスを貰おうと思って」
燐「…それでわざわざ、映画観に行こうって俺を誘ったの?」
圭「映画観に行こうって言ったのは、燐と映画観たいから誘ったんだよ。
アドバイスもらうのはついでみたいなもんでさ」
燐「………そう、なんだ…」

燐(M):頭では理解をしている
圭くんが好きなのは女の人で、俺のことは幼馴染の可愛い弟って認識で
俺と映画観たいっていうのも、友達みたいに仲が良いからで
それ以上の気持ちなんて

圭「燐はさ、デートするときどこに行くんだ?」
燐「え?」
圭「華の高校2年生なら、デートくらいするだろ?最近の若い子はどこ行くのか気になってさ」
燐「圭くんもまだ若いと思うけど」
圭「細かいことはいいのよ!で?どこ行くの?」
燐「えーっと…ファミレスでご飯食べたり、ゲーセンで遊んだり、映画観たり……カラオケとか?」
圭「へぇ~」
燐「ショッピングも行ったりしたかな…?」
圭「なるほどぉ?お前やっぱりモテるのな」
燐「?なんで?」
圭「そんだけ沢山デートしてんだったらモテ男じゃん?知らんけど」
燐「いや、知らんけどって…」

燐(M):今、俺がした話…覚えがないんだろうか
全部圭くんと一緒に行ったところなんだけど
特に反応がないところを見ると、高校の子とデートしたって思ってるんだろう

燐(M):今日映画行ったことも、家でフレンチトースト食べたことも
俺にとっては、立派なデートなんだけど
……それを特別に思っているのは俺だけなんだな

圭「燐さ、そんなにデートしてるなら好きなやついるだろ?」
燐「!…何急に」
圭「いや、オレから彼女とか元カノの話とかはしてるけど…燐からそんな浮いた話、聞いたことないな〜と思ってさ」
燐「…………」
圭「なぁなぁどうなんだ?」
燐「何が?」
圭「だから〜好きなやついるのって話を」
燐「(遮って)あ、シアター開場したみたいだよ。行こう?」
圭「え、あ!ちょっ、置いてくなよ〜」





場面:大学の食堂
友人の柴田と向かい合って昼食を食べている


圭(M):はぐらかされた、気がする

柴「え、何の話?」
圭「いやぁ、幼馴染の話」
柴「はぐらかされたって、何を?」
圭「うーん、好きな人の話?」
柴「ほう」
圭「この間映画行ったときにさ、好きなやついるの?って聞いたら、答えてくれなかった…というより、誤魔化された感じ?」
柴「…あ〜」
圭「あの反応からして、絶対いると思うんだよな〜」
柴「言いたくなかったんじゃん?」
圭「え〜何で?」
柴「いや、知らんけど…」
圭「長い付き合いだし、オレにできることがあったら協力したかったのに」
柴「短期間で彼女取っ替え引っ替えしてるやつに相談なんてしたくなかろう」
圭「失礼な!言っとくけどな、オレは浮気したこともないし!自分から振ったこともないのよ!?」
柴「いやそこよ」
圭「はい?」
柴「お前とは高校からの付き合いだけどな、お前は感情のベクトルが低い」
圭「……どういうこと?」
柴「浮気しないのは至極当然として!振ったことないのは、お前が人に興味無いからじゃねぇの?って話」
圭「え…うーん…そうなのか…?」
柴「付き合っててさ、好きな人の好みを知る努力とか、相手の喜ぶことを考えたりすんじゃん?でも、それがどちらか一方だけになってくると、不満になったりするわけさ」
圭「うん」
柴「その不満が女を浮気させたり、別れる原因の1つになると俺は考えてる。
これはさっき言った感情のベクトルに関わることで」
圭「つまり、オレのベクトルと相手のベクトルが同じじゃなかった?」
柴「正確には、ベクトルを合わせようとしなかった…」
圭「……オレが?」
柴「お前のように賢いやつは嫌いじゃないよ」
圭「それ人に興味無いってなんの?」
柴「よ〜く考えてご覧なさい天ちゃん?これまで付き合ってきた彼女をどう思っていたのかを」
圭「………」
柴「この間別れた彼女のこと、俺に話してくれたことあったやん?」
圭「ん?あぁ」
柴「天ちゃんさ、元カノが好きだったロックバンドの曲、聴くことすらしなかったろ?」
圭「何故分かった」
柴「同級舐めんな」
圭「興味無かった」
柴「あ〜ほら」
圭「いや、今のは」
柴「(被せ気味に)バンドに興味無かった?」
圭「…」
柴「バンドに興味無くても、好きな人の好きなもの聴いてみるか〜ってなってないだろ?」
圭「あー…はは、仰る通りですわ…」
柴「お前が振られたり、浮気される原因はそこだと思うよ、俺は。
面は良いし、優しいし、連絡はマメだし、リードしてくれるし、頼りになるし…」
圭「えー?照れちゃうな」
柴「最後まで聞け?褒めてねぇのよ」
圭「褒めてねぇの!?」
柴「えー…つまり、付き合ってみると好きのベクトルが違うから、その違いがどんどん大きくなって最終的に振られたり、浮気されるわけ。
浮気相手の方が自分に対するベクトル高ければ、彼女の比重も必然的に浮気相手に傾きやすい」
圭「そういうもんかね?」
柴「ま、今のは俺の仮説だから100%正しいとは言い切れないが…その顔を見るにあながち間違いじゃないだろ?」

圭(M):確かに、オレは自分から好きになって告白したことがない
いつも相手から告白されることが多かったし、単純に「好き」って言ってもらえたことが嬉しかったから断る理由もなく、とりあえず付き合ってしまう

圭(M):しばやんが言うような、人に興味がないというよりは「執着がない」と言った方がしっくりくる気がする
別れを告げられても「別れたくない」って思ったことがない
「仕方ないよな」「気持ちは変わるから」
オレの好きが執着を含まない「好き」で、相手と同じ「好き」にならないのは、仕方のないこと
それが理解されることは無いんだろうと思う

柴「まぁ好きでもない奴に告られてすぐオッケーするのもどうかと思うけど、天ちゃんもうちょい怒ったほうがいいわ」
圭「?」
柴「はぁぁー…浮気されてんだからもうちょっと怒ってもいいんじゃない?」
圭「怒ってもどうにもならんのに?」
柴「元も子もないこというな、お前は」
圭「知ってるか?女って浮気しても罪悪感ないらしいぜ」
柴「はーい、それは束縛気質なメンヘラに多いだけだと思いまーす」
圭「まぁ、とにかく!もう終わったことだよ」
柴「相手に罪悪感ないなら、咎めても仕方ないってこと?」
圭「そもそもオレの好きと合わなかったのが原因だろ?オレにもそうさせた責任はあると思うよ」
柴「いい子ちゃんめ」
圭「なんだよ、いい子ちゃんって(笑いながら)」
柴「まぁこれを機に、お前は今カノとの付き合い方をちゃんと考えろよ?」
圭「分かった、ちゃんと考えるよ」

少しの間

柴「でもさ、俺ちょっと感動したわ」
圭「何に?」
柴「幼馴染の話、お前も人に興味持てるんだな〜って」
圭「しばやん、オレをなんだと思ってんの?」
柴「今までお前からそんな話は聞いたことないからな。自覚ないだろうから言っとくけど、付き合ってる最中の話あんましてこないぞ」
圭「なん…だと…」
柴「別れた後の話くらいしか聞いたことないわ、普通は惚気話すんのよ」
圭「………オレ、普段何の話してる?」
柴「いやそっからかーい」





場面:燐の家。
燐は自分の部屋で携帯を眺めている。


燐(M):「彼女ができた」と告げられてから、1ヶ月が過ぎた
関係は良好らしく、今日は3度目のデートだとメッセージが飛んできていたので
苦し紛れに「頑張ってね」のスタンプを送った

燐(M):ーー今頃彼女さんと楽しんでるのかな
日が落ちて夜になると不安になって考えなくていいことまで考えてしまう

燐(M):何で圭くんは好きでもない人と付き合うのか
付き合うこと、別れることに躊躇(ちゅうちょ)していないように思う
好きって言われて、悪い気はしない…か
でも結局いつも振られてしまうのだから
いい加減、誰彼構わず付き合うのをやめたらいいのに

圭『フレンチトーストが食べたい』

燐(M):ーー…断れなかった
フレンチトーストが食べたい、そう言うなら叶えたいと思った
でもいつしかそれは、純粋なものではなくなり
圭くんの気持ちよりも、自分の気持ちを押し付けるものに変わった
ーー煩悩に塗れた(まみれた)、フレンチトースト

SEインターホン

燐「…?」

燐(M):日付が変わろうかとしているこんな時間に、一体誰が来たんだろう?
何か緊急でない限り、非常識だと思うのだが
念の為、インターホンのカメラを確認する

燐「…!圭くん…?」
圭「夜遅くにわりぃ…寝てたか?」

燐(M):インターホン越しに聞こえる彼の声は普段と変わらないように聞こえるが、少し落ち込んでいるような気がした

燐「今開けるから待ってて」

燐(M):戸を開けると、圭くんはバツの悪そうな顔をして

圭「よう」

燐(M):とだけ言って、苦笑いをした

燐「話なら中で聞くよ、入って」
圭「…ありがとう」





リビングのソファに腰掛ける圭。
燐はキッチンに飲みものを取りに行っている。


燐「お茶でいい?」
圭「あぁ、うん」
燐「…今日、デートだったんでしょ?」
圭「うん」
燐「喧嘩でもしたの?」
圭「いや喧嘩じゃなくて…逃げられたというか」
燐「逃げられた…?」
圭「何を言ってるか分からないと思うが、オレもよく分からねぇ…でもこれだけは分かる」
燐「?」
圭「振られたってことは」
燐「……………」

燐(M):彼女から送られてきた長文の謝罪メッセージ
要約すると、こうだ
『元カノが浮気したのは、自分が圭くんと付き合うために浮気相手を紹介したからで
罪悪感に駆られ、付き合うのが辛くなった』と

燐「……勝手だ、こんなの」
圭「そうか?」
燐「だって…!もしかしたら圭くんの元カノ、浮気しなかったかもしれない…」
圭「うーん…どちらにせよ、時間の問題だったと思う。メッセにも書いてあるじゃん、元カノから恋愛相談受けてたって」
燐「……」
圭「女の子って怖いなぁ、燐も気をつけろよ?」
燐「俺はそもそも好きじゃない人と付き合わないから大丈夫」
圭「うっ、今のはグサッときた…」
燐「…フレンチトースト、食べる?」
圭「いや、晩飯食って酒も飲んでお腹いっぱいだから今日はいいや」
燐「そっか」

燐(M):メッセージには、こうも書かれていた
圭くんが浮気した元カノを悪く言わず、寧ろ好きになってくれて感謝していると聞いたとき
自分がやってしまったことがどれほど悪いことで、人を傷付ける行為だったかを痛感したと
その罪悪感からデートの途中で逃げ、この長文を送ってきたというところだろうか

圭「まさかホテルでシャワー浴びてる間に逃げるとは思わないもんなー」
燐「…………は?」
圭「だって彼女がホテル行きたいっていうからさ、それってつまりはそういうことじゃん?」
燐「まぁ…うん、そうだね」
圭「男は馬鹿だから、誘われたら期待しちゃうんだよ…据膳食わぬは男の恥!って言うし」
燐「……まさか、圭くんが落ち込んでたのって…そういう…?」
圭「いやいや!振られたのも結構デカいよ!?でもさー逃げるとは思わないもん」

燐(M):圭くんがあまりにも人の誘いや好意を断らなさすぎて、これを優しさと取るべきか、無関心と取るべきか思いあぐねている
人から好意を受け取れば付き合うし、誘われれば体の関係さえ躊躇しない
どうしてそう軽く捉えるのか分からない
そうやって軽く考えないでほしい
…でもそれは、俺が圭くんを好きで…俺以外見てほしくないっていう我儘なんだ
どんな相手と付き合うか、そういう関係になるかなんて当人たちの問題だから
俺が口を出す理由なんて……ーー

圭「その気になってたのになー…」

燐(M):何気なく呟いただろうその一言に、形容し難い何かが渦巻くのを感じていた
その気になってた………?
好きになってたってこと…?元カノと変わらない最低な相手なのに…

燐(M):そんな相手に取られてしまうなんて嫌だ
『幼馴染』という自分と彼の繋がり、特別だと思いたくて縋っていた…守ってきたのに…
そんなの、いらない………ーー



燐「ーー…じゃあ、俺としようよ」
圭「え?何を?」
燐「セックスだよ」
圭「………は」

圭(M):ーー今、何と仰いましたのこと…!?

燐「したかったんでしょ?」
圭「そりゃ…!据え膳だったし、したくないってのは嘘になるけど」
燐「じゃあいいじゃん、俺女役やるから」
圭「いやいやいやいや待て待てまて!」
燐「…脱げないんだけど」
圭「脱げないようにしてんだよ、何してんの」
燐「据え膳食えなくて悶々としてる圭くんの据え膳に俺がなろうとしてる」
圭「ばっっか!お前…!そんなこと言っちゃいけません…!」
燐「なんで?」
圭「なんでって…お前はまだ未成年だし、手を出したらオレが捕まっちまうだろ」
燐「………っふ、ふはは…!」
圭「…なに、笑って」
燐「(遮って)大人みたいなこと言うんだね?でも、今はそれ…聞きたくない(圭を押し倒す)」
圭「っ…!燐…!」
燐「……」
圭「何すんだよ…!離せ…!」
燐「嫌だ、離さない」
圭「っ、燐…どうしたんだよ…」
燐「煩いな、ちょっと黙って」

圭(M):そう言って、燐はオレにキスをした
何をされたか分からなくて動きが止まる

圭(M):「キスされた」ってことを動き出した思考回路で理解するまでに、燐は何度も唇を重ねてきた
甘やかすような、確かめるような…でも貪欲な口付け
あんなに冷たい目をしていたのに、唇も吐く息も熱くて
「溶かされる」…そう錯覚した

圭「ん、燐…ちょっ…と……んん!?」

ーー燐、圭にディープキスをする
(リップ音や舌を絡めた水音をたてる感じにしていただければオッケーです。尺は演者さんにおまかせします)

圭「んっ…はっ…!お、まえ……!」
燐「何初心な反応してるの?初めてじゃないくせに」
圭「な、に言って…!」
燐「今まで付き合ってきた人とも散々キスやらセックスしてきたんでしょ?なのに顔真っ赤にしてさ…俺より経験豊富なんだから、リードしてくれないと困るよ?圭くん?」
圭「っ!だから…!オレはお前とそういうことは…!」
燐「じゃあ、これ何?」
圭「ぁっ…ーー」
燐「キスしかしてないのに反応してるじゃん」
圭「それは…」
燐「期待されてるってことかな、これ」
圭「り、ん…!待てって…!やめ…っ!」
燐「やだ、やめない」
圭「…っ…!ぁ、触るな…!」
燐「そんな顔して言われても、説得力ないよ」
圭「や…!……っ、ぁ……!」
燐「さっきより固くなってきた…先端が好き?」
圭「ひっ……!」
燐「ふふ、分かりやすい…」
圭「り、ん…」

圭(M):腕に力が入らない
燐を止めたい、やめさせなきゃいけないのに
自分ではない手で触れられるのが、気持ちよくて抵抗できない
人に触れられるのって、こんなに気持ちよかったっけ…?

圭「っ、ぁ……」
燐「…声、我慢しなくていいよ?」
圭「ぅっ…!」
燐「あぁ、ごめんね?耳も弱いの?」
圭「っ!ばか…!ほんとに、やめろっ…て…!」
燐「どうして?」
圭「ど、うして…って……それは……」
燐「………」
圭「っ……」
燐「答えられないなら、続けるね」
圭「ちょっ…!」
燐「元カノとヤれなくて悶々としてるんだったら、出しちゃった方がいいでしょ?」
圭「!ま、待って…なに…」
燐「……手じゃなくて、こっちの方がいいよね」
圭「ーっ!?り、ん…っ!だめ、くち…っぁ…!」
燐「んっ…」
圭「ぃっ…や…!そこ、きたな…ぃ…!」
燐「ん〜…?…大丈夫、汚くないよ」
圭「ぁ…燐……?」
燐「…圭くん、イきたくなったら口に出してね」
圭「!燐…!まっ……ひっ…!!」

圭(M):ーーどうして、そんな辛そうな顔するんだ
半ば強引に弱いところを責めてきて
意地悪をいうのに
……なんでお前の目は、そんなに…悲しそうなんだよ…

圭「あ、ん…っ……!り、ん…だめ、だっ…て……」

圭(M):ーー突き放そうと思えば、突き放せるのに
あの辛そうな、今にも泣き出しそうな表情(かお)が
焼き付いて、離れてくれない
あんな顔されたら、突き放すなんて…できない…!

燐「ん…(水音)」
圭「ぁっ…や…!吸うな……っ!」
燐「んんっ…すご……ビクビクしてる」
圭「ほんとにっ…や、め……!」

圭(M):燐の口の中、舌、吐息まで全部熱くて
気を抜けば、果ててしまいそうで
僅かな理性の中で、力なく燐の頭を掴んだ

圭「りんっ…!おねがい…!離しっ……!」
燐「我慢しなくていいよ、ほら…(咥えて吸い上げる)」
圭「んあっ…!も、む…り…!」
燐「(夢中で吸い上げる)」
圭「やだっ…!はなし、て…!りん…!」
燐「んっ…!(奥まで咥える)」
圭「っ!ひっ…ぁ、ぁ…!…あぁっーー…!!」
燐「んんっ…!!」
圭「(呼吸を荒らげる)」
燐「っ……ん…(飲み込む)」
圭「…っ、り、ん…お前、まさかっ…飲んだ…?」
燐「………の、んだ…」
圭「ま、じ…か……っ…」

圭(M):気持ちよさの余韻で身体に力が入らない
息を整えている一方で、罪悪感を抱いていた
幼馴染に、あんなことをさせてしまった
思い出して身体がまた疼きそうになる
最低だ……

燐「……っ……ぅっ……!」

圭(M):苦しそうな声が聞こえて、燐の方を見る
今にも泣き出しそうに胸元をおさえている燐の姿が、目に入った

圭「…燐………?」
燐「ーーちがっ………!こんなこと、俺………」
圭「燐、どうしたんだ…」
燐「こんなこと、したかったわけじゃ…!」
圭「お、おい…大丈夫か…」
燐「(圭の言葉を聞かず)ごめん、圭くんごめん…」
圭「な、なんで謝んの…?」
燐「俺、幼馴染でいるの…むりだ…」
圭「ーー…え……?」
燐「………圭くんと幼馴染でいるの、辛いんだーー」





場面:大学構内のベンチスペース(外)
ベンチに座り、ぼーっと空を眺める圭。


圭(M):あれから2週間。
ーーどうしていいか分からなくて、燐には会っていない
なんで燐があんなことしてきたのか分からないまま、あの言葉を脳内で反芻している

燐『………圭くんと幼馴染でいるの、辛いんだーー』

圭(M):彼女と別れた噂が早々に広まったせいか、間を空けずにまた別の人から告白されたりもしたけど
初めて断った

圭(M):今までは、好きって言われたら嬉しくて
すぐにイエスって言っていたのに
それができなくなった

圭(M):あのときの、燐の顔がチラついて
胸が少し、痛くて
……単純じゃなくなった、複雑だ
だから分からない、オレには

圭「うーん…わけ分かんねぇ」
柴「何が?」
圭「いや、幼馴染が辛いってなんだ?ってずっと考えててさ…何が辛いんだろ?って。
幼馴染が辛いから、キスしたりえっちなことすんのってどういう心理なんかな〜とか」

圭(M):………ん?オレ今、誰に向かって話してる?

圭(M):声がした方に顔を向けると、しばやんが立っていた
オレを見る目が「え?お前マジか…無いわぁ」と言っている

圭「やめて!オレをそんな蔑んだ(さげすんだ)目で見ないで!?」
柴「お前、振られたばかりで落ち込んでるかと思えば…ついに幼馴染に手を出したんか…しかも未成年」
圭「違う!いや!違わないけど違う!!話せば分かる!」
柴「なーにが話せば分かるだよ、分かんねぇよ」
圭「お願い!お前にそんな顔されたら大学で生きていけない!」
柴「いや生きていけない範囲狭いな!」
圭「ちゃんと話せば分かる!というか話聞いて!!」
柴「喚くな!騒ぐな!しがみつくな!分かったから!」



柴「………なんつーか、お前の話は聞いてて飽きないわ」
圭「それは…褒めてないよな」
柴「いいと思うよ、存在が滑らないって」
圭「良くねぇよ」
柴「モテる男はツライネ〜」
圭「…………」
柴「ドラマみたいな話だよ。新しい彼女が元カノに浮気相手を紹介してて、別れた瞬間自分から告白して付き合うとかさ」
圭「そうね」
柴「だけどお前の優しさによって、自分のやってしまったことを悔いて別れを切り出した…振った男をホテルに残して」
圭「あぁ」
柴「振られた現実を幼馴染に伝えたら、慰めとばかりに気持ちよくされちゃって」
圭「なんかその言い方やだな」
柴「事実だろ〜…ったく、話聞くだけで疲れたわ」
圭「……ごめん」
柴「……で、突然言われたわけか。
『幼馴染が辛い』って」
圭「そうなんだよ、急にどうしたんだろう…あいつ…」
柴「………」
圭「オレと一緒にいるのが嫌なのかねぇ」
柴「…………え?」
圭「え?」
柴「お前、正気か……?」
圭「正気だけど」
柴「嫌われたかなぁ?って思ってる…?」
圭「それ以外に幼馴染が辛い理由ってある?」
柴「だぁあっ、この鈍感!俺はな!お前みたいな顔のいい鈍感が嫌いなのよ!」
圭「えぇ、何急に…怖っ!」
柴「顔と優しさでモテやがって!いいよな!?モテるやつは!」
圭「お前イケメンに何されたんだよ」
柴「うるせぇな!彼女取られたんだよ!クソったれ!」
圭「八つ当たりやめて!?」
柴「………すまん、正気失ってた…半年も前の話なのに…」
圭「いや…あのさ、鈍感って?」
柴「言葉そのまんまの意味ですけど」
圭「オレってそんなに鈍感?」
柴「鈍感だろ、幼馴染にキスされてえっちなことされて、挙句『幼馴染が辛い』って言われて尚、嫌われたとしか思えないって」
圭「えぇ…」
柴「嫌われるようなことしてるのは幼馴染の方だしなぁ…自暴自棄になって後先考えてなかった気はする、知らんけど」
圭「オレは燐を嫌いになったりしないぞ」
柴「あーうん、言うと思ったけど敢えて聞くわ。天ちゃん、えっちなことされて嫌じゃなかったの?」
圭「うーん…それもよく分かんねぇんだよ、最後までヤッたわけじゃないし…ただ…」
柴「ただ?」
圭「されたこと思い出して自己嫌悪はしてる」
柴「え、自己嫌悪することあるか?」
圭「……いやあのー…他人からすれば、燐を嫌いになると思うんだけど、嫌いにはならなくてさ」
柴「あー…つまり?」
圭「……オカズにしてごめん!!」
柴「薄々そうじゃねぇかなとは思ってたよ、もうなんも驚かんよ、うん」
圭「申し訳ないしかないわ…」
柴「いやぁ…そんな思い詰めることないと思うけどな、自然なことでは?」
圭「えぇ?」
柴「それが嫌だったならトラウマなんだけど、オカズにしちゃうってことはよ」
圭「うん」
柴「………好きなんだろ、多分」
圭「……………え」
柴「は?」
圭「オレが…?」
柴「もし好きでもないのにオカズにしてんだったら、お前がとんでもねぇ性癖持った変態ってことだよ。まぁ、稀にそういう奴もいるけど」
圭「オレが燐を…好き………………」
柴「…………あーあ、本当はお前が自分で気づかなきゃ意味ねぇんだぞ?」
圭「……………………」
柴「全く俺ってば、友達思いのいいやつだよなぁ〜!」
圭「……………………」
柴「………いや、何か言えよ」
圭「………ごめん」
柴「……腑に落ちないか?」
圭「うん、あんまり…」
柴「……お前さ、幼馴染くんの気持ちは考えたことあるか?」
圭「え?」
柴「幼馴染とはいえ、振られる度に話聞いてくれて、お前の我儘聞いてくれてさ〜。
嫌な顔されたことないんだろ?」
圭「無い、と思う」
柴「フレンチトーストまで作ってくれるなんて、普通だと思うか?幼馴染とはいえ俺は嫌だぞ、そんなめんどくさいこと」
圭「…確かに……」
柴「手間も時間もかかること、どうでもいいやつにやらないだろうとは思わんかね?」
圭「…つまり、燐は…俺のことが好き…?」
柴「そうだろうと思うよ」
圭「……………(溜息)」
柴「どうした、クソデカ溜息だな」
圭「今まで知らなかったとはいえ、オレ…燐に酷いことしてるな」
柴「…してるな。そのー…燐くん?」
圭「うん」
柴「あー…燐くんがいつからお前を好きなのか分からんが、相当我慢してたんだろうなぁと思うよ」
圭「…………」
柴「…ま、幼馴染っていう特等席を失うのが怖くて、甘んじた結果でもあるけど。
ただ、お前が新しい恋人を作るたびに傷ついてただろ。もし自分が好きって伝えたら、付き合えてたかなぁとか淡い期待もしただろうし」
圭「尚更最低じゃん…?」
柴「さっきも言ったけど、燐くんが幼馴染の関係を崩したくなかった結果でもあるからな。
天ちゃんだけが悪いわけじゃねぇよ?
たださ、見境なく恋人作っちゃうお前を一途に好きでいてくれるなんて凄いよ」
圭「ほんとにな」
柴「お前のことが好き過ぎて、大分拗らせてる気はするがな」
圭「……オレ、どうしたらいい?」
柴「そうねぇ。
幼馴染には戻れないってのは、分かるよな?」
圭「うん、分かってる」
柴「それを分かった上で、天ちゃんがどうしたいかじゃねぇかな?
あとは自分の気持ち自覚して、どう折り合いをつけるか…だと思うよ」
圭「…しばやん、難しいことばっかり言うなぁ」
柴「…ちょーおまけして答えを言ったつもりなんだが?まだ足りんか?」
圭「………いや、十分だよ。ありがとうな」
柴「……今度なんか奢れよ、焼肉とかでいいからさ」
圭「あらやだ!図々しい!」
柴「やかましい!なんならドリンクバーとデザートつけてもらわな採算が合わないんだよ」
圭「分かったよ!今度全部付けた焼肉奢ってやるわい!」
柴「え、お前まだ授業あんだろ!?」
圭「サボる!明日ノート見せて!」
柴「コノヤロー!ケーキバイキングも追加だ!」
圭「はは!分かったよ、じゃあな!」
柴「…ったく、今度は上手くやれよー!」
圭「おう!」





場面:燐の家付近。
学校からの帰り道を歩く燐。


燐(M):ーー2週間、か
あれから圭くんがうちに来ることはなく、俺も連絡が取れずにいる
あんなことをして今更、お互い忘れて元の『幼馴染』になんて、戻れるわけがないと分かっていたから

燐(M):今頃、新しい彼女ができてよろしくやっているだろう
振られても、フレンチトーストを作る必要なんかないんだ

燐(M):振られたのは、俺なんだ…ーー

燐「…?」

燐(M):家の前について、玄関に灯りがついていることに気付く
ドアノブに手をかけると、鍵が開いていた
…あれ、母さん…今日仕事のはずじゃ……

燐「…?母さん、帰って………っ!?」
圭「!よっ!おかえり!」
燐「…………け、い…くん…?なんで…」
圭「あー植木鉢の下に鍵あったから、それで入った。
あれ、危ないからおばさんにやめろって話とけよ〜」
燐「…………それ使って入っておいて、よく言うよ…」
圭「入る前におばさんに電話して許可もらったぞ、オレは。不法侵入じゃないぞ」
燐「…………なんの用?」
圭「……うん?」
燐「用があったから来たんでしょ?」
圭「………まぁ、ちょうどいいや!ちょっと座って待ってろ」
燐「はぁ?」
圭「いいから!」



リビングのソファに腰掛ける燐。
キッチンでは圭が料理をしており、完成品を持って燐の前に出す。

圭「ほら、お待たせ!」
燐「…!これ…」
圭「…フレンチトーストなんて、作るの何年ぶり?って感じだな。いつもは作ってもらう側だし」
燐「まさか、これのためにうちに来たの?」
圭「そうだよ、お前に食べてもらおうと思ってさ」
燐「………」
圭「燐みたいな盛り付けはできないから、シンプルだけど…たまにはいいだろ」
燐「どういうつもりなの?急に…」
圭「その話はさ、食べてからにしよう。
一口でいいからさ」
燐「………いただきます」
圭「…」
燐「…美味しい」
圭「そうか、良かった」
燐「……(黙ってもくもくと食べ続ける)」
圭「そんなに美味いか?」
燐「うん」
圭「………オレさ、今まで燐が作ってくれたフレンチトーストを美味しいとしか思ってなかったけど」
燐「……」
圭「あのフレンチトーストには、オレを好きって気持ちが詰まってたんだな」
燐「っ……!」
圭「…ありがとう、燐の気持ちを踏み躙るようなことばっかりしてたのに…好きでいてくれて」
燐「…………」
圭「…気が付かなくて、ごめんな」
燐「謝ることじゃないでしょ…。それに、謝らなきゃいけないのは俺だし」
圭「…お互い様ってことか?」
燐「違う、俺が悪いよ」
圭「なんで?」
燐「……取り返しのつかないこと…したから…」
圭「それって、幼馴染に戻れないことか?」
燐「それだけじゃないよ…合意の無い行為に及んだこととかさ。
あれはただの暴力だよ、感情の押し付けだって同じだ」
圭「……」
燐「俺は圭くんが好きだよ。いつから好きだったかなんて分からないくらい…。
でも好きだからって免罪符にはならない、許されていいことじゃないよ、あれは」
圭「…そうだな」
燐「圭くんを傷つけて、幼馴染っていう繋がりまで…この手で壊した…いや違うかな…特別だと思いたかったそれをいらないって思っちゃったんだ。
その関係の先に俺の求めるものは、手に入らないって気付いたから」
圭「……幼馴染に戻れないこと、後悔してるのか?」
燐「……(首を横に振る)してない。
幼馴染を続ける方が、俺は辛かったから。後悔してるのはそのやり方…自暴自棄になって、八つ当たりしたし…好きなら、気持ちを先に言うべきだった」
圭「燐……」
燐「今更もう遅いけどね」
圭「………」
燐「好きになってごめんね」
圭「!……そんなこと、言うなよ」
燐「ごめん……」
圭「違う、謝らせたいわけじゃない…オレを好きになったことに、ごめんなんて言ってほしくないんだ」
燐「………」
圭「だってオレは、好きになってもらえて嬉しいから」
燐「それは、幼馴染としての好きじゃなかったんだよ」
圭「知ってるよ。そうだと分かった今も嬉しいと思ってる」
燐「あんなことしたのに?」
圭「確かに合意が無いのは駄目だけど、オレのことめっちゃ好きってことだろ?
愛されてんだなぁって思うよ」
燐「……それは、今まで付き合ってきた人たちに好きって言われたときと同じ嬉しいって気持ちなの?」
圭「……いや、違う。元カノとはまた別だな」
燐「じゃあ、何?」
圭「それは、フレンチトーストに気持ちを込めたつもりだけど」
燐「……(一口食べる)」
圭「どうだ?」
燐「……俺、振られたんじゃないの?」
圭「なんでそうなる…?」
燐「フレンチトースト食べるときって、振られたとき…だったから…」
圭「………」
燐「………」
圭「はぁぁ…」
燐「え、なに」
圭「いや、同じやり方って案外伝わらないんだと思ってさ」
燐「?」
圭「今なら、燐の気持ち少しだけ…分かる気がするよ」
燐「それって」
圭「(リップ音)」
燐「ん!?」
圭「………合意無かったから、これでお互い様になるか?」
燐「なっ…!」
圭「大体、振ったらもう来ないだろ」
燐「た、確かに…それはそう、だけど…」
圭「なんだよ?」
燐「…だって、俺……男だし」
圭「ん〜あんまりそういうのは、気にしないなぁ」
燐「俺のこと、可愛い弟くらいなんじゃ…」
圭「まぁ、昔はそう思ってたこともあるけど今は違うよ」
燐「………」
圭「あー…ごめん、言い方狡いな…ちゃんと言うわ」

圭「ーー好きだよ」
燐「っ……!」
圭「…信じられないって顔だなぁ」
燐「……あれだけ、恋人取っ替え引っ替えしてるの見たら…誰だってそうなる…」
圭「確かに!
でも嘘じゃないってこと、燐が1番分かってくれてると思うんだけど」
燐「なんでそう思うの?」
圭「何やっても好きでいてくれた燐だから、分かってるかなって」
燐「…」
圭「それに、鼻…触ってないしな」
燐「………っ、ほんと狡い…」
圭「え?そうか?…ぁー…ごめんな?」
燐「本当に狡いよ…だって俺、振られたと思って…圭くんとは、どうにもならないんだって…」
圭「諦めようと思った?」
燐「(頷く)……でもそんなこと言われたら、諦められない」
圭「………はは、泣き虫は変わんないのな」
燐「……っ、誰の…せいだよっ……」
圭「うん、オレのせいだ。
だから、これからも好きでいてくれ。こんなどーしようもないオレを」
燐「……勝手なこと、ばっかり」
圭「うん、勝手なんだオレ」
燐「いつも俺だけ振り回されて」
圭「うん、いつも振り回した」
燐「でも…それでも、圭くんがずっと好き」
圭「……うん、ありがとうな」
燐「新しい彼女できる度嫉妬してた、でも嫌われて幼馴染でいられなくなるのが怖くて…」
圭「うん…」
燐「早く別れればいいのにって、ずっと思ってた」
圭「うわ、酷いな」
燐「振られる度、フレンチトースト作って…そのフレンチトーストにずっと、自分の気持ち押し付けてた」
圭「………」
燐「誰彼構わず付き合わないで、早く俺の気持ちに気付いて…あんな人達よりも、俺が…俺の方が、圭くんが好きなんだって………。
煩悩まみれなんだ…今まで食べてもらった、フレンチトースト……」
圭「……そっか」
燐「…慰めなんかじゃ、なかったんだ」
圭「…そんな不器用なやり方も、お前らしくて好きだよ」
燐「……え…」
圭「煩悩だらけでもいいよ、それはオレを好きだって気持ちだろ?」
燐「………」
圭「……オレ、今まで自分から振ったことないんだけど、振られるのは仕方ないって思ってた。
ほとんどオレのせいなんだけどさ、人の気持ちって変わりやすいと思ってたから…。
でも、燐はずっと変わらずにいて…それが嬉しいんだ」
燐「圭くん…」
圭「元カノたちに好きって言われて『嬉しい』って思ったのとは、全く違うんだよ。
ーーこうやってさ」
燐「!」
圭「……抱きしめたり、頭撫でたり…したい感じ?…あとさ、キスもしたい」
燐「え」
圭「してもいいか?」
燐「ぇっ…と…」
圭「(おでこにキスする)」
燐「っ…!……俺、良いって言ってない」
圭「顔がイエスって顔だったから」
燐「………ふふ、なにそれ」

圭、燐笑い合う

圭「それで……燐、返事は」
燐「(被せて)ねぇ、口にはしてくれないの?」
圭「……お前なぁ…」
燐「駄目なの?」
圭「〜〜っ……!それ、狡くね?」
燐「さっきのお返し」
圭「ったく…しょーがねぇな」





場面:燐の家
リビングで寛ぐ圭、キッチンでは燐がフレンチトーストを作っている

燐「圭くん、できたよ」
圭「おー!」

燐(M):幼馴染でなくなった俺たちは、変わらずお互いの家を行き来している
関係性が変わっても、やることはあまり変わらない
それが心地良くて、安心する

燐「はい、どうぞ」
圭「ありがとな!」
燐「それじゃ、いただきます」
圭「いただきます!
……ん〜やっぱり燐の作ったフレンチトースト美味いわ」
燐「そう?」
圭「うん!」
燐「……そういえば、なんでフレンチトーストだったの?」
圭「え?」
燐「振られたらいつもフレンチトースト食べるみたいになってたけど、なんでなのかなぁって」
圭「あれは…初めてできた彼女に振られたショックと腹が減ってたのとタブルパンチでさ」
燐「うん」
圭「たまたま目に入ったフレンチトーストがめっちゃ美味そうだったから、食べたいって言った」
燐「それはきっかけだよね?別に毎回じゃなくても良かったじゃん」
圭「オレにとっては特別だったんだよ、あの時泣きながら食ったフレンチトーストが」
燐「そうなの?」
圭「まぁ、燐っぽくいうなら…煩悩まみれのフレンチトースト?」
燐「あー…はは、そうだね」
圭「でもそれが、オレにとって特別になってたんだよな。
味が良くてお腹がいっぱいになって満たされたんじゃなくて、燐がオレを好きだって気持ちで満たされてたんだって」
燐「………」
圭「鈍感だからそういう好きとかには気付かなかったけど、空いた穴を埋めてもらって満たされたから、振られたらその穴を埋めるためにフレンチトースト食べたいって言ってたんだと思う」
燐「そう、なんだ」
圭「お前の好きをいっぱいもらって、いつのまにかオレも燐を好きになったんだなぁ」
燐「………よく躊躇い(ためらい)もなく、そんな恥ずかしいこと言えるよね」
圭「そうかぁ?恥ずかしくないけどな」
燐「………」
圭「…ふふーん、照れてんの?」
燐「〜〜〜っ!その言い方ムカつく」
圭「(笑う)燐のそういうとこ好きだよ」
燐「…」
圭「今度は拗ねてる?」
燐「別に、拗ねてないし」
圭「そっか」
燐「…俺にとっても、特別だったかも」
圭「ん?そうなん?」
燐「泣きながらフレンチトースト食べる圭くんを、愛おしいと思ったんだ」
圭「………」
燐「フレンチトースト食べたいって言われたときは、なんで?って思ったんだけど、あんなに泣いてるのを見たら、どうにかしたいと思っちゃって」
圭「まぁ、あの泣き方酷かったもんな」
燐「目も鼻も真っ赤にしてたもんね」
圭「あはは…」
燐「だから尚更、だったのかな。
まぁ、それも好きな人が望むことをしたいって気持ちからできたことだけどね、好きじゃなかったらやらないし」
圭「それ、オレの顔見て言ってくんない?」
燐「………やだ」
圭「(笑う)燐のそういうところも、好きだよ」




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