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『用心棒』と『荒野の用心棒』

 先日NHKBSで故黒澤明監督の『用心棒』を放送していましたので、この作品を元に作られたといわれている故セルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』とを比較してみます。

 私は「リメイクはオリジナルを超えられないし、パート2以降の作品はパート1を超えられないのが原則である。」と思っていますが、『用心棒』と『荒野の用心棒』に関しては、どっちが優れた作品か簡単に言えないような気がします。とにかく、以下書き進めてみます。


1 設定

  両作品とも、公権力による治安機能がなくなってしまっている無法の町が舞台になっています。そこに何処の誰とも知れない腕利きの男がやってきて、町を牛耳る悪党どもの対立を煽って衝突させます。私は、町が暴力で汚染されているという環境にいたことがないのでこの状況を想像できませんでしたが、アメリカ対ソビエト連邦の冷戦時代には多くの人に現実感のある設定だったのかも知れません。『』

2 人物造形

 両作品とも、主人公は善人なのか悪人なのか明確ではありません。ただ、顔かたちや映画序盤での言動から、観衆は主人公が悪人ではなさそうだと感じ取ります。
 一方、両作品とも敵役の方はみるからに悪人で、観衆は最終的には主人公と対決して敗れることを期待します。ただ、悪役は2グループいるので、観衆は、最終決戦で主人公の相手がこの2グループなのかそれともどっちか一つのグループに絞られるのか物語終盤まで分かりません。
 あと、物語を説明する役目と主人公を支援する役目を持つ居酒屋の主人と、死体処理埋葬準備でこの町の殺伐さを強調し最終決戦のお膳立てに手を貸す葬儀屋は、物語進行に重要な役割を与えられているので、丁寧な性格描写がされているようです。

3 物語

 「二大勢力の激突を誘発し、両方とも消滅させる。」という物語は、米ソ対立下での北半球諸国の国民の多くが好感を持って受け入れたと思います。この物語は実現性があまりに少ないはなしですが、映画作品として示されると多いに興味が湧いたものと思います。
 核武装した超大国の対立と、宿場町での悪の勢力の対立。この状況の類似性は、映画公開当時の観客の魂を掴んだことでしょう。逆にいうと、この映画(『用心棒』の方ですね。)の企画が企画会議によく通ったなぁ、と思います。権力を持つ者の顔色を伺う重役などがいると、反対しそうなものですが。
 

4 暴力シーン

 『用心棒』では、切り合いと拳銃の発砲それに主人公への暴力行為が、劇中の暴力シーンになります。『用心棒』では、映画冒頭で犬が人の手首を加えて小走りに来るシーンが、その手首の主に加えられた暴力内容を暗示するなど、間接的な暴力描写があります。
 『荒野の用心棒』では、銃撃シーンと主人公への暴力行為が主な劇中の暴力シーンになります。ただ、『用心棒』がモノクロ作品であるのに比べ『荒野の用心棒』がカラー作品なので、出血や流血の描写や殴られたときに飛ぶ汗飛沫などボクシング映画でパンチの威力の描写に似た描写が、生々しい感じです。
 どちらの作品も、暴力シーンをそれまでになく強い調子しで描いていますが、物語を米ソ冷戦と重ね合わせて観る観衆には目的達成の前には単なるリスクの強調程度にしか思えなかったでしょう。

5 作品の革新性

 一番の革新性は、主人公がまったくの善人でもなく、またまったくの悪人でもなさそうだという、掴み所がない性格設定というところにあると思います。
 両方の作品の主人公とも、ダークヒーローに分類されるのでしょが、プロセスはどうあれ結果は町から悪人どもを排除したわけで、「過程よりも結果」という考えをとるのであれば主人公はヒーローです。でも、「結果よりも過程」という考えをとるのであれば主人公は悪人です。
 どっちっが正しいのかなど簡単には言えませんが、これらの映画公開当時は「過程よりも結果」と考える人たちが多かったのでしょう。

6 クライマックス

 両作品とも、主人公と悪役との最後の決闘がクライマックスになります。
 『用心棒』では、主人公の持つ日本刀対悪役の持つ拳銃。
 『荒野の用心棒』では、主人公の持つ拳銃対悪役の持つライフル銃。
 どちらも、主人公が武装的に不利ですが、主人公は工夫してその不利を帳消しにします。その結果、両作品とも悪役は二番手となる武器を持っておらず、主人公に負けてしまいます。

 そして、主人公は悪役に勝利して町を去っていきます。
 主人公が町に来た目的は、町を平和にすることではなかったと思うのですが、とにかく主人公は目的を達して町を出て行きます。

 ヒーローは敵がいなくなると同時にヒーロー自身もいなくなるべきなのかもしれません。現代の戦隊ヒーローものでも、巨大な敵を倒し終えると、主人公達は去っていきます。

以上

#用心棒 #荒野の用心棒

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