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一線を超えたら「終わる」という覚悟 〜自分にも他人にも〜 (1912文字)

 令和6年7月24日(水)22:00からTBSで放送された『水曜日のダウンタウン』の中の「ドッキリの仕掛人は、モニタリング中にターゲットのエグい秘密知っちゃっても一旦は見て見ぬフリする説」で、漫才師きたたかのの高野正成(たかのまさなり)さんが、後輩のコント師ガクヅケの木田さんの楽屋泥棒を隠しカメラ越しに偶然見てしまったときの挙動を、逆ドッキリとして放送していました。

 この企画の意図は、逆どっきりを仕掛けられた高野さんの困った姿を面白がるというものだったのだろうと思いますが、結果的には感動のストーリーになりました。

 まず高野さんが、木田さんが楽屋(大部屋で大人数が共同使用している楽屋)泥棒している姿を見た直後の言動から感じるのは、「どれほど親しくても、他人のものに手を付けた(一線を超えた)奴を見逃すことはできない。」という倫理観に裏付けられた強い信念です。
 これと対照的な展開が「隠蔽体質のTBS」の件(くだり)で、番組制作側は「木田さんの楽屋泥棒のことは、見なかったことにする。」という方針を高野さんに伝えます。

 テレビ局から仕事をもらっているとはいえ、不正を見逃していいのかと葛藤(「かっとう」 心の中に、それぞれ違った方向あるいは相反する方向の力があって、その選択に迷う状態。)する高野さん。高野さんは思わず、「クソかTBS」と言い犯罪を隠蔽しようとする行為を呪います。

 楽屋では、何人かの芸人がカネがなくなったと騒ぎになり、そこに高野さんが加わります。その楽屋には犯人の木田さんもいて、高野さんは、TBSの「当該楽屋泥棒事件については不知とする。」という方針を聞いているので、被害者の芸人さんらから「何か見ていないか?」と情報提示を求められても言葉を濁してはっきり言えません。

 そして、なんやかんやあってドッキリの隠しカメラ映像をみんなで見ることができるようになったとき、高野さんは木戸さんの背後に地下より小声で「(犯人はオレだと)言え。自分で言え。全部映っている。」と自白を促しますが、それに逆らう木戸さん。
 そして、そのカメラ映像に木戸さんが楽屋泥棒をしている姿が映し出されたとき、高野さんは木戸さんの後頭部を右手で強く平手打ちします。その強い衝撃に画面からはずれる木戸さん。高野さんは「(みなさん)すいません。(犯人は)木戸です。」と後輩木戸さんの犯行を語り、自ら木戸さんに引導を渡します(「引導を渡す」 最後の決意を宣告してあきらめさせること。)。

 高野さんは、楽屋で木戸さんの犯行だと分かる展開になりかけたときから終始涙目でしたから、かわいい後輩の積みを暴くには逡巡(「しゅんじゅん」ためらうこと。)していたようです。でも、「犯罪は犯罪、誰かがこれを暴かなければならない。その嫌な役はおれがやる。」と思い切ったようです。

 その後、なんやかんやあって、高野さんにドッキリがバラされました。
 そもそもが、この楽屋の芸人さん全部がドッキリの対象だったので、話がややこしくなりますが、最終的には高野さん1人へのドッキリだったのだということが明かされました。

 ドッキリがバラされたとき、高野さんは「(じゃ、木戸は)盗ってないの?」と何度も確認していました。
 ついさっき後輩の窃盗を告発し絶望感に苛(さいな)まれていたのに、それがドッキリだと分かった後の安心感。もはや感情の整理も抑制もできなかったことでしょう。

 そんな中、高野さんや木戸さんが属するマセキ芸能社所属で仕掛人の1人だったジグザグジギーの池田勝さんが、事情を知っているのに貰い泣きしていました。
 42歳でベテラン芸人の池田さんが貰い泣きしていたのは、高野さんの精神的に追い込まれた状況と低きに流れない(「水が高いところから低いところに流れるように、人間はより楽な方へ流れていくものである」という意味。)その姿勢に感動したのでしょう。
 高野さんは、TBSの方針どおりに「楽屋泥棒があったなんて知らなかった。」と言い通すことができました。仮に、楽屋泥棒の件を知っていたことがばれても、TBSから口止めされていたと言い逃れることができます。
 それにTBSの方針に逆らったら、扱いにくいタレントとして今後仕事が減ることになるでしょう。筋を通したのは、普通の立場の人間として立派ですが、仕事を貰う立場の人間としてはより立派な態度だったと思います。

 高野さんは剣道の有段者です。武道では「心・技・体」ということがよく言われますが、彼こそ剣道をやるに相応しい「心」(精神)があると思いました。


#推しの芸人 #きしたかの #高野正成 #ガクヅケ #ジグザグザギー

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