『グランド・ブルテーシュ奇譚」を語る

 『グランド・ブルテーシュ奇譚』(バルザック著 宮下志朗訳 光文社古典新訳文庫)という短編集の中に『グランド・ブルテーシュ奇譚』(・・・きたん)があります。
 バルザックという名前は、YOUTUBEの映画監督黒澤明の対談動画で黒澤明が「あのバルザックの仕事(量)には頭打たれるね。」と語っていたことから身近に感じるようになりました。ちょっと調べただけでも、バルザックの仕事量は膨大で、一人の人間が書いたとはとても思えない作品量です。
 バルザックと言えば『ゴリオ爺さん』を読むべきだとは思いましたが、まずは短編をと思い本作品を読むことにしました。
 今後この本を読むであろう人の興味を削がないために、本作品の内容については触れません。ただ「あそこにはだれもいないと、きみは十字架にかけて誓ったではないか。」という一文が、この事件の当事者の置かれた状況の異常性を物語っていると感じました。

 外国の小説を読むとき、登場人物の名前を覚えるのに苦戦しています。これは、ロシア文学でなくても、英文学でも仏文学でも同様で、名前の文字数の量ではなく、名前自体に馴染みが薄くてしっくりこないというのが原因だと思います。そこで、本文を読んでいるときに登場する人名や特定の個人を表す名詞(例:「○○の運転手」)にはその単語の左横に線を引くようにしました。教科書や参考書でない本に線を引くのは気が進みませんでしたが、やってみると意外に効果がありました。長編なら本のカバーの裏や本のはじめの方のページに登場人物一覧がありますが、本作品のような短編にはないため、登場人物の目印としてすごく便利でした。

 上記の黒澤明の対談動画中で黒澤明は、バルザックの書き方に言及しています。彼は、まずとにかく作品を書き上げるのだそうです。急いで書くので文字も汚く、内容も不十分なようです。これが第一稿になります。
 そして、それをすぐ印刷に回します。すると、大きな紙に印刷された自分の第一稿が手元に来るので、それに手を入れます。原型がなくなるくらい手を入れてまた印刷に回します。黒澤明は「実にいいやり方ですね。印刷屋はたまんないだろうけど。」と言っていましたが、たしかに作品の生産性が高まるし、頭に沸いて来るアイディアが消える前に紙に定着させることができるいい方法です。
 しかし、この方法はあバルザックがこのようなことができる環境にいたからで、一般の人にはそういう手法は使えないでしょう。ところが、現代でもその気になれば似たような手法を使うことができます。それは、パソコンのワープロソフトを使うことで、まず、大雑把亜に作品をワープロで打ちます。首尾一貫していようがいましが、登場人物の取り違いがあろうがあるまいがとにかく第一稿を打ち切ります。
 そして、それを自分が読める最小のポイント数でA3位の大きな紙に印刷します。印刷後、数日置いて冷静になったところで、そのA3の第一稿を推敲しするという作業を何回か繰り返します。結果的に第十稿以上になるかもしれませんが、そこは作品の産みの苦しみだと思ってやり抜きます。
 このやり方で問題となるのは、A3の用紙を印刷できる家庭用プリンタが手に入るかどうかですが、無理ならA4でも仕方ありません。パソコンも含めて初期投資はけっこうかかりますが、試す価値はあると思っています。
 なお、推敲は紙の上でする方が目が疲れません。バルザックに近づくくらい大量の作品を書くつもりなら、目は大切にしないと。

以上

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