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夜討ち朝駆け 西山事件 (1981文字)

 『たかじんのそこまで言って委員会』(現『そこまで言っていいんかいNP』(読売テレビと制作会社ボーイズとの共同制作)の最高顧問だった故三宅久之さんが、生前同番組内で毎日新聞の新聞記者時代のことをお話しておられました。
 三宅さんが若手の記者だったころ、政府要人の自宅に夜討ち朝駆けをしていたそうです。
 で、それを繰り返していたところ、段々と当該要人の家で朝食をご馳走になり、その要人用のクルマに乗せてもらって国会に行くようになったそうです。この政府要人のクルマに乗って国会に行くことを「ハコノリ」と言うそうです。
 この話について、「食事をご馳走になるというのは利益供与を受けたことにならないのか。」という問いに対して故三宅さんは「そんなことないんですよ。朝食っていっても焼き魚とか焼き海苔とか対したものはなかったしね。」と答えていました。

 新聞記者は民間人なので、贈収賄の罪には問われませんが、食事を御馳走されるというのは利益供与を受けたといえます。そうなると、記事の信憑性とか公平性が疑われます。報道は国民が情報を共有し正しい投票行動を行う上で重要な機能を持っています。ですから、国家権力や取材対象からの利益供与などあってはなりません。
 しかし三宅さんは、そういうことよりも政府要人の懐に入り込むところまで記者として頑張ったという自負があったのでしょう。
 「自分の頑張りに対して相手が開襟(きょうきん)を開き(「胸襟を開く」は、「心中をうちあける。」の意)、特別な扱いをしてくれた。」ということを自慢したいという気持ちは理解できます。それも自分の仕事の一つの成果だと言えないことはありません。
 しかし、相手は政治家ですからそんなことは百も承知でしていることでしょう。
 近頃また人気がでてきた故田中角栄さんの本には、田中さんが如何に相手の心根を突く術を知っていたかがたくさん書かれています。
 他の政治家の方々も、田中さんほどではないにしてもかなり人心を操る技術を持っているでしょう。
 そう思うので、三宅さんの話を聞き、失礼ながら不愉快になりました。三宅さんは相手を見くびり過ぎです。若いときにそんな利益供与を受けたのは、まぁ仕方ないとしても、かなりの高齢になられた後もその話を何の反省もなく得意げに話すというのでは、情け無さすぎます。三宅さんは当時、ご自分のことを「恐れ多くも後期高齢者であるぞ。」と言っておられました。
 高齢者は一般的に65歳以上の方をいい、65歳から74歳までの方を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者というそうですから、上記の発言は75歳より高齢だったのでしょう。
 その程度の分別しかない人間が、政治どころか物事を正しく語れないだろうと思いました。

 毎日新聞といえば、西山事件(にしやまじけん)がありました。
 西山事件は、沖縄密約事件又は愛無償密約漏洩事件とも呼ばれ、1971年に、外務省の女性事務官が当時不倫関係にあったとされる西山記者にそそのかされ機密を漏洩した事件です。
 この事件は、西山記者が肉体関係を利用した情報取得をしたのであり、やり方がハレンチだということから週刊誌的な関心が集まり、結果毎日新聞の不買運動が展開され毎日新聞社の経営が傾きました。当時の日本の女性の多くは西山記者を蛇蝎(「だかつ」へびとさそり。人が恐れきらうもののたとえ。)の如く嫌ったと思います。

 西山事件の詳しい内容はネットで探していただくとして、私はこの事件について①西山記者が取材内容を目的外使用した点(新聞に掲載するのではなく、野党の国会議員に渡したこと。当該野党議員は国会で追求しました。②西山議員が情報提供者を守れなかったこと。が大きな問題だと思っています。
 この①の国会追求の際に当該野党議員が持っていた外務省の書類の印鑑から情報漏洩者が特定されました。その結果当該外務省女性事務官の家庭は崩壊しました。最近もある農協職員がテレビ取材で内部告発したところ、画像内に写っていた小物や家具等から本人が特定され、当該農協職員は農協にいれなくなり退職したということがありました。
 こんなことがあったら、取材に応じる人など大きく減少するでしょう。

 世の中で起きていることを有権者が知り、それに基ずいて投票行動をするために報道というシステムがあるはずですが、それは新聞社やテレビ局がしなければならないわけではありません。
 現在はネットがあるので、オールドメディアはいつでもいなくなってもらって構いません。
 その場合、残された問題はフェイクニュースの排除方法と、どのネットニュースが正確なのかを見分ける審美眼の必要性、というのが課題になるだけです。

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