見出し画像

モノの値段

 子供たちが独立してから滅多に行かないファミレスに行った。テーブルには、「割引」「お得」「もらえる」「貯まる」などなど、宣伝文句をうたった卓上看板やラミネート・シートが所狭しと置かれ、テーブルの真ん中にもシールが貼ってある。レジにも似たような案内・様々な支払い方法が、「〇〇ポイントもらえる」の宣伝文句をつけて並んでいる。

 TVでは、同じホテルにチェックインしようとする夫婦が、隣の夫婦と値段が大きく違うことに驚き、安い方の奥方が比較サイトの名前をささやいていて教えるコマーシャルが流れる。

 先日旅行の手配をしようとネットで調べると、乗り物の切符から宿の予約まで、「お得な切符」「お得なセット」など、様々な割引制度の宣伝があふれていた。JRの切符では、みどりの窓口が近隣駅に無く、急に必要だったので、結局アプリを2つ入れることになり、ほぼ「正規料金」を払うハメになった。ちなみに、JR四国・西日本・東海・東日本の4つのシステムは連携しておらず、駅券売機、2つのアプリと、3つの方法で購入することになった。

 多くの通販サイトも似たようなもので、「お得に買う」ためには、専用アプリをダウンロードし、「会員登録」することが必須になる。

 不信感で気の進まないまま個人情報を入力し、やむなくアプリを使い始めると、しばらくしていろいろな「お知らせ」が来る。来ないように設定するが、多くの場合、アプリには広告がついてくる。アルゴリズムで、高齢者向けの広告が多い。インプラント、育毛剤、グルコサミン・・・葬式や墓の広告でないだけ、まだマシな方かもしれない。

 邪魔なので❎ボタンを押して消そうとするが、スマホの狭い画面では、小さく目立たない❎ボタンを押そうにも、指が滑って広告が表示されてしまう。簡単には❎ボタンが押されないように「工夫」がしてあるように思えるのは、ひがみ?

 JR・航空会社や宿では、昔から繁忙期と閑散期、あるいは早めの予約で値段が違っていた。しかし、ネットの普及とポイント制度の急拡大で、最近は同じモノやサービスの値段が、買い方次第で著しく異なってきた。

 先日、東京から出る寝台特急の売り切れ切符が、「正規料金」の3倍近くの価格でフリマアプリで売買されたという報道があった。価格は需要と供給で決まる?売る方も売る方だが、買う人がいる以上、市場原理に沿った正規取引ということになるのだろうか? この寝台特急の切符は、発売即売り切れが常態だと言う。

 本来『一物一価』、つまり同じモノやサービスの値段は、同じであるはずだと思ってきたが、どうやら違って来たようだ。一体、どれが「正しい価格」なのか?「お得な価格」「割引価格」「ポイントがつく価格」は本当に「お得」で、「正規料金」を払うのは「賢くない消費行動」、あるいはバカなのか?

 ポイント制度は、顧客を囲い込むマーケティング手法の一つだ。ポイントカードもグループ化が進み、いずれ数社のポイントカードに集約されるのだろう。複数のカードも持ち歩くのは面倒だし、囲い込まれるのは、決して心地良い顧客体験ではないと思うし、何より、モノやサービスの価格設定の実態やあり方が、正しい方向に向いているのか大いに疑問に思う。

 詐欺広告の横行、アプリを通じたフィッシング、アルゴリズムのプライバシーへの侵入、それと並行して進む顧客囲い込み・・・ネット時代の消費をめぐる環境には、う〜んとうなることが増えてきた。(了)

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?