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上げ底まんじゅう

 円安の中、GWに海外旅行した人の帰国インタビューが、TV各局で放映されていた。節約したのが、「お土産」という声が多かった。

 さて、私が、旅行のお土産と言って思い出すのが、「上げ底まんじゅう」だ。大きな箱に入った饅頭まんじゅう羊羹ようかんが多かったと記憶している。子供だった昭和の時代、観光土産品は、庶民の重要な買い物の一つだった。

 近所の人が観光地に出かけると、そのおすそ分けで、お土産をもらった。箱を開けると、饅頭が整然と並び、兄弟で一人何個と取り分を決めた。箱の厚みから、2段目があるかと期待したが、波型の段ボールの上に一列並んでいるだけの、いわゆる「上げ底」が多かった。箱の大きさと中身が釣り合っていなかった。

 滅多に観光旅行をしなかったので、自分で買ったことはなく、頂き物が多かったが、観光地の饅頭や菓子は「上げ底」という確信が形成された。

 最近の観光地でも、平積みの陳列台にはご当地の名前をかんした土産品が並んでいるが、クッキーなどの焼き菓子や、密封したジュレなどが主流で、饅頭や羊羹はややひっそりしている。主流品は入り数(箱に入っている商品数)は少ないのに高価で、伝統品は比較的低価で、何より、箱が薄く小さくなった気がする。

 でも、一度は試しに、こういう観光地の名前を打ち出したお土産を買ってみたいと言う誘惑はある。

 最近は、産直コーナーを併設した道の駅の人気が高い。でも、お土産に大根や玉ねぎを買う人はいないから、自家消費用だろう。

『上げ底、メガネ、額縁、十二単じゅうにひとえ・・・』

 さて、「上げ底まんじゅう」には、辛い過去があるようだ。1966年(昭和41年)2月、景品表示法で、「観光土産品に関する規約」が設定された。

 いずれも、観光土産品の過大包装、内容物の不当表示を規制するものだが、その「手口」は、っていて呼び方もふるっている。いわく、「上げ底、メガネ、額縁、十二単じゅうにひとえ・・・」上げ底と十二単はわかりそうだが、メガネ・額縁というのは、透明なフィルムで窓のようなところだけに中身の商品があり、あとはからの包装とのこと。そう言えば経験あるような気もする。

 ちなみに、当時、宅地建物取引で「ぎまん的広告」というのが横行していたそうだ。たとえば、「駅から十分」と大書きしたチラシ広告は、「10ふん」ではなく(実際はクルマで30分)、悪徳不動産屋は「駅からじゅうぶん」の距離と逃げた。圧倒的に多かった不動産取引の後に摘発の対象になったのが、実は観光土産品だったと言う。

『どこへ行ってもマカデミア・ナッツ』

 その昔、重たいトランクを下げて旅行に出かける人に、「どちらへ?」と聞くと、大抵嬉しそうに「外国へ」という答えが返ってきた。それで、行き先はハワイに違いないと分かった。男だけのグループで、「韓国」などと答えると、旅行目的を怪しまれた時代だ。

 旅行に行ってお土産を買うのは、どうも日本人の長い習慣のようだ。特に食べ物となるとその傾向が強いようだ。台湾や韓国などアジア人も同じ傾向のように思うが、欧米人は絵葉書や小さいキーホルダーなどが多いように思う。でも、他人が行った観光名所の絵葉書をもらってもあんまり嬉しくないし、食べ物の方が実利が大きいとも思う。

 出張では職場に、家族旅行では近所にお土産を買う。行き先が海外だと、大抵マカデミア・ナッツを選び、ハワイでなくても免税店に並んでいると決めてしまう。近年では、お土産選びで悩むのを嫌って、出発時に買い込んだり、果ては出発前に日本で買って自宅に届けるサービスまであるようだ。時代が変わればお土産の習慣も中身も買い方も変わる。しかし、なぜか、上げ底饅頭を開けた時の興奮と失望が、妙に懐かしく思い起こされる。

(了)

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