万有引力の法則について

前回書いた運動の3法則と同時期に発見(発想)された法則ですね。このあたりの法則は順番や時系列が曖昧で、ニュートン先生や当時の人に聞かないと分からないですね。そもそもエレメント説が信じられていた時代なので、発表は反論に対して完璧に返せる自信が無いと発表できなかったのでしょうから、ニュートン先生の頭の中では発表のずいぶん前からあったのかもしれませんが。ちなみに前回「原理」と「法則」の違いについて()の中に書きましたが、ニュートン先生はLEX(法則)として書いています。本のタイトルがプリンシピアであり、実験的な手法によって得られた法則はこの宇宙を構成する原理として認識していたのだと思います。なので、この時代は原理や法則という言葉に今ほどの意味はなく、文脈によって読み分ける必要があると思います。

前置きが長くなりましたが、万有引力の法則について考えていこうと思います。F=GmM/r^2ですね。Gが万有引力定数、mとMは2つの物体のそれぞれの質量、rが2つの物体の距離です。これも運動方程式の時と同じように関係しそうな物理量をかけて万有引力定数Gをかけただけというシンプルな近似式になっています。こんな大雑把な推測から出た式が、非常に良い近似になっているのだから驚きですよね。さらに言えば、この万有引力のモデルは電荷のクーロン力のモデルにもなっており、相互作用を考えるうえで非常に興味深い法則です。

youtubeでこんなコメントがありました。「重力が宇宙の果てまで届いているのは凄いですね。」とコメントしてありました。自分はこのコメントが正しくない可能性があると直感的に思い、考えてみました。このコメントでは議論しにくいので、議論がしやすいようにこのコメントで言う重力というのは万有引力の事を言っているのだと勝手に解釈します。地球の重力は万有引力と遠心力の合力で求めることが出来るという事は高校物理で習います。遠心力は慣性力ですので、地球外から見れば遠心力はないのでこの議論では無視できるとして考えます。

まず、万有引力の法則が近似式でしかないので、無限遠をそんな簡単に扱っていいのか?そもそも宇宙の果てって何ぞや?そう考えるのは普通の思考だと思うので、この2点について考えていきます。
まず、無限遠をそんなに簡単に扱っていいのか?という事ですが、結論を言うとダメです。理由は色々ありますが、わかりやすいものを書いていこうと思います。
 万有引力による位置エネルギーはU(r)=-GmM/rと習うと思います。この際に無限遠を位置エネルギーがU(∞)=0となるように取ったと思います。これの説明にr0を基準の座標としたら、U=-GmM/r+GmM/r0となるので、r0→∞とすればU(r)=-GmM/rとなって項の数が減り都合がいいという説明をしている先生やサイトを多く見かけますが、それはなるべくしてなったと考えるべきであり、それが無限遠を基準にした本当の理由ではありません。まずそういった人間にとって都合のいい理由が物理の真理を表しているという考え方が間違っています。では、どうして無限遠を基準に取るのか?答えは簡単です。目の前に物体があるとします。無限遠にある物体が今目の前にある物体に影響を及ぼしていると考えるのは不自然だからです。なので、無限遠では位置エネルギーが0になるような式を探して、万有引力の法則を考えているのです。
 (高校生にはイメージが付きにくいかもしれませんが、位置エネルギーというのは物体の運動を決める一つの束縛条件になっています。例えば、地球上では重力による位置エネルギーについて考えます。y軸方向の仕事はdW=F・dyで表せるので、U=-∫dW=-∫F・dyなので、U=-∫F・dyとなり、両辺yで微分すると、F=-dU/dyとなります。つまり、ma=-dU/dyとなるので、加速度aは位置エネルギーの影響を受けることになります。なので位置エネルギーが運動を決める一つの条件になっていることは何となくわかると思います。)
 無限遠の物体が目の前の物体に影響を与えるような式は変だという発想から位置エネルギーの基準点を無限遠にしている→無限遠では2つの物体に相互作用があっては困る→無限遠に万有引力が到達すると考えるのは不自然
という事が言えると思います。万有引力の式を数学的にみれば、どれだけ離れていても微小ながら万有引力が存在する事になりますが、それは万有引力の法則の発想から言うと不自然すぎるのです。万有引力の式だけを見て無限遠に到達すると言っている人は、物理をやっているんじゃなくて数学をやっている人です。それか勉強しすぎてその域に到達した人か。
 以上の話から言えることは、万有引力の法則はある程度近所で成立する近似式であり、宇宙の果てまで到達するかは議論や実験が必要である。先人の意図を最大限くみ取るなら、ある程度大きな距離離れた物に対して万有引力の法則を適用して根拠とするのは間違っているという事になると思います。なので、コメントの「重力が宇宙の果てまで届いているのは凄いですね。」というのは合っている可能性はあるけど、式だけからその結論を出すのは間違っている可能性があるという事になります。
 そもそも宇宙の果てって物理的にどういう意味なんだ?という事ですが、たぶん物理学者に聞いても人それぞれの答えが返ってくると思います。なぜなら、宇宙の果てについて結論を出すには現在の物理では知見が足りないからです。普通の生活では距離と簡単に言いますが、物理的に距離を考えるにはちゃんとした定義に沿って計算しなければなりません。例えば、相対性理論では空間座標に加えて時間の次元を考慮した4次元で距離が決められます。我々のいる宇宙に何次元まで含まれているのかは科学的に結論が出ていないので、必然的に距離を定義するのはまだできないはずです。屁理屈のように思えるかもしれませんが、距離の定義が万有引力の法則において重要であることを示します。
 まず、距離rのみを測定したとしたら誤差伝播の法則から、確率誤差Rは
R_F=2GmM/r^3×R_rとなります。r→0としたらR_F→∞になります。また、r→0でF→∞となるのは言うまでもありません。つまり距離r=0付近では、F=F±R_F=∞±∞となり誤差がマイナスの時は不定形なので、ある値に収束する可能性すらあります。つまりr=0付近ではどんな値でも出てくる可能性があるので、万有引力の法則が成立しているかを確かめる方法は無いです。仮に自分から無限遠の座標を1とする物差しがあったとしましょう。すると、座標としての距離だけを考えたら宇宙の果ては距離0.00….1程度のものになるでしょう。するとその物差しで言うと、万有引力は無限大に発散し、どのような値をとってもいい事になります。ついでに位置エネルギーも無限大になります。つまり物差しを変えたら、たしかに宇宙の果てに万有引力が到達している事になります。物差しを変えるだけで万有引力によって受ける影響が大きく変化することになります。いろいろツッコミどころはある例ですが、距離の定義が重要であることがわかっていただければ良いです。
物差しでの議論が正しいのだとしたら、無限遠にも微小ながら万有引力が到達すると解釈した方が良いのではないか?という事になりますが、そう解釈した場合太陽系や銀河系の運動が単調すぎるのです。すべての物体において万有引力の法則が成立するのですから、宇宙全体からの力を物体は受けることになります。すべての力の合力が0の点から少しずらすと加速度が生じ、物体は動き出すことになります。地球や月等は彗星や他の銀河の影響を受けてもっと複雑な運動をしても良いと思われますが、太陽の周りを楕円軌道の単調な運動をしています。何か巨大な質量をもった物体によって太陽系の外に出ないように束縛されているとしか考えられません。宇宙にはダークマターが沢山あると言われていますのでちょっとやそっとでは動かないとは思いますが、そもそもダークマターは万有引力の法則と実験結果から存在するとされているものであり、本当にあるのかはわかりません。万有引力の法則に根本的な欠陥があるから実験結果と合わない。だからダークマターが存在するかも怪しいと言う専門家もいるわけですから、素人には結論の出しようがありません。

まとめると、万有引力の法則の適用範囲はいまだわかっていないので、簡単に無限遠や宇宙の果てに適用するのは間違っている可能性があります。また、距離の定義が重要であり、この宇宙を測るのに適切な距離というのは何なのかもまだ結論は出ていない。「重力が宇宙の果てまで届いているのは凄いですね。」というコメントに対して一言で答えるなら、まだわかっていないという解答になります。

このような話になるのは、運動方程式や万有引力の法則が近似式なので、その近似がどこまでの精度なのかという議論が必要になるからです。一般人は無限遠というのは物理的何なのかを考えるよりも、万有引力の法則は近所で精度のよい近似式だという認識でいたほうが良いですね。

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