再開
イヤホンから流し込む全ての音楽をあなたと重ねて生きていたあの頃を思い返していた。他人に心の中の一番恥ずかしい部分を打ち明けることを少しずつ諦めていくと同時に、最近はどうも本が読みきることが億劫になっていた。何も心に響かない。この世界の何一つも僕を感動させてはくれない。そして次第に、生きる理由の一つでもあった作詞作曲活動でさえも、もはや僕の支配下から逃げだして行くようであった。しかしそんな中でも微弱な電流を信じて、ただ穴の開いた心を抱きしめるように、友人の姉が所有していたアコースティックギターに無心にナイロン弦を張っていた。負けそうになる。昨日までの自信家の僕からは決して出てくることのないような言葉が、本音の顔をして喉を這いつくばってあがってくる。負けそうになる。ただ、微弱な電流を信じて。
そう僕は、創造力を失ったのではない。忘れていたのだ。長きにわたる会話の中で。優しさを探していく旅の途中で。流行なんてと吐き捨てていた感性を。
そして僕は今日思い出したのだ。人と合わせなくてよい音楽を。決して他人に理解されてはいけない音楽を。複雑で誰もが目を背けない音楽を。彼らから借りた詩心によって表現が大好きになったことを。流行には、僕に愛されて止まない彼らの生き血が絶対に流れていることを。マスターピースを崩し倒す快感が至上の喜びだったことを。
そしてまた僕は忘れていきたい。
今日ここに綴った全てを、
またいつか思い出したい。
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