8/11

第2章 戦争の放棄(第9条)
【砂川事件:最大判昭34.12.16=百選II No.163】18-10、予23-8、同5-13
四条の内容「そもそも法9条は・・・わが法の特色である平和主義を具体化した規定である。すなわち、9条1項においては「•・・」と規定し、さらに同条2項においては、「・・」と規定した。かくのごとく、同条は、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているのであるが、しかしもちろんこれによりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。恋法前文にも明らかなように、・・・平和のうちに生する権利を有することを確認するのである。しからば、わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として然のことといわなければならない。すなわち、われら日本国民は、憲法9条2項により、同条項にいわゆる戦力は保持しないけれども、これによって生ずるわが国の防衛力の不足は、これを憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と義に頼することによって補ない、もってわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。そしてそれは、必ずしも原判決のいうように、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではなく、わが国の平和と安全を維持するための安全保降であれば、その目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実情に即応して適当と認められるものを選ぶことができることはもとよりであって、意法9条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではないのである。」
9条2項の「戦力」とは「そこで、右のような法9条の趣旨に即して同条2項の法意を考えてみるに、同条項において戦力の不保持を規定したのは、わが国がいわゆる戦力を保持し、自らその主体となってこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条1項において永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起こすがごときことのないようにするためであると解するを相当とする。従って同条2項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。」回30-14
<解説>
本判決は、外国の軍隊が「戦力」に該当するか否かについて、数判所の審査外とはしてない。国23-8(3) 2項後段関係
9条にいう「交戦権」とは、敵の兵力の殺傷・破壊の権利など、国際法上交戦国が国家として持つ権利の総称をいう(長沼事件第一・札幌地判昭48.9.7=百選INa165)。
第2戦争の放棄
21

【「交戦権」の意味】

限定放棄説・全面放棄説との関連性
具体例
交戦状態に入った場合に、交戦国に国際法上認められる権利をいう
侵略戦争の場合の国際法上の交戦権の否認を意味することになる
※全面放棄説もこの説を採り得る
限定放棄説からはこの説と結び付き、国の兵力・軍事施設を殺傷・破壊
したり、相手国の領土を占領したり、
船舶の臨検・尊捕を行うこと
国家として戦争を行う権利、戦いをする権利
全面放棄説はこの説と結び付きやす

※これに対しては、2項後段は1項または2項前段の趣旨を別の言葉で表現しているに過ぎなくなってしまうとの批判がある

をいう

【9条のまとめ】
司24-14、〒26-8、28-13、予29-9

甲説
乙説《注〉
内説
結論
侵略戦争のみを放棄
自衛戦争、侵略戦争ともに放棄

第1項
侵略戦争のみ放楽

自衛戦争、侵略戦争ともに
放棄
内容
「国際紛争を解決する手段としての戦争」とは、侵略戦
手を意味する
(理由)従来の国際法上の用語例

「国際紛争を解決する手段としての戦争」には格段の意味がない
理由)侵略戦争と自衛戦
手の区別は困難
22項にいう
1目的」
侵略戦争放棄という目的
正義と秩序を基調とする国際半和を誠実に希求するという目的

戦力と交戦権
侵略戦争のための戦力保持は許されず、交戦国が持つ諸権利は否定される
一切の戦力の保持が禁止され、交戦権も否定される(交戦権の意味に争いあり)

批判
①日本国憲法には、文民条項(※66日)以外に戦争ないし軍隊を予定した規
②前文の平和主義の精神に合致しない
③自衛戦争と侵略戦力の区別が困難であり、2項が
13(予3-9)
④自衛戦争を認めるのであれば、なぜ「交戦権」を否認したのか
①第1項で侵略戦争のみを放楽し、他方、全体として全ての戦争を放棄したとするのはあまりに観念
②他国の侵略に対する配慮
同3-13(¥3-9)
①従来の不戦条約や国際連合規約などの国際法規によれば、「国際紛争を解決する手段としての紛争」とは、侵略戦争のは
がなく、非現実的である②他国の侵略に対する配慮
がなく、非現実的である同3-13(¥3-9)
(注)
9条2項の「前項の目的」とは、1項全体を指す、あるいは戦争放楽に至った動機を一般的に指すとする説もある。
※政府は、9条1項で放棄されるのは侵略職争のみであるが、2項の「前項の日的を達するため」にいう「前項の目的」とは戦争を放棄するに至った動機を一般的に指すに出まる
(「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」する目的にまでかかる)と考え、2項

第2章 戦争の放棄(第9条)
では一切の戦力保持が禁止され、結果、自衛戦争も放棄されると考えている。
3.自衛隊関係
(1) 合憲性注)
【長沼事件第一審:札幌地判48.9.7=百 INo.165】
自衛隊は9条2項にいう「戦力」に当たる。
【長沼事件控訴審:札幌高判昭51.8.5】
<判旨>
自衛隊が一見極めて明白に9条2項にいう「戦力」に当たるとはいえない。
〈解説〉
最高裁(最判昭57.99)は、訴えの利益の点について原判決を維持し、法問題に立ち入らなかった。
これまで自術隊の合意性を争う訴訟がいくつか提起されたが、最高裁判所は一貫して判新を回避しており、今までのところ、この問題についての最高裁判所の判例はない。

  1. 「自衛のための必要取小限度の実力」は、「戦力」には当たらない(政府解釈)。同19-13

  2. 政府見解によると、戦力に当たる実力部隊と自力に留まる実力部隊との区別基準が問題となる。
    この点、他国に侵略的な脅威を与える攻禁的武器(例えば、攻撃用航空機器)は保持できない、あるいは性質上相手国の国土に壊滅的効果を与える武器(例えば、大陸間弾道ミサイル、長距離爆撃機)の保持は認められない。

  3. さらに、政府は、純粋に国土を守るために用いられる核兵器については性質上保持することは可能であるが、唯一の被爆国として「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則の観点から保持しないと説明している(なお、「持たず」、「作らず」という部分は、核兵器の不拡散に関する条約2条、原子力基本法2条により法定されている)。

(2) 自衛隊と民法90条
百里基地訴訟(最判平.6.20=百選IN166)は、自衛隊の合憲性に正面から答えることを回避している。同18-10
(3) 在日米軍基地が攻撃を受けた場合の共同行動をどのように説明するか。
米国は集団的自衛権の行使と考えるが、日本政府は「自国と密接な他国が侵略された場合、自国の侵略と同じく他国まで出かけて防術する」集団的自衛権の行使は日本国法上許されないとし、在日米軍基地への攻撃は日本領域の侵犯行為であり、日本国に対する攻撃であるとして、それに対処することは日本の個別的自衛権の行使であるとされてきた。
そして、自国と密接な関係にある他国に対する武力攻婆を自国が直接攻撃されていないにも関わらず、実力をもって阻止する権利という国際連合憲章上の集団的自衛権について、日本国政府は、「日本国憲法はあえてこの権利を制限している」と解釈してきた。
ところが、政府は、自衛権発動要件として「わが国に対する急迫不正の侵害がある場合」を挙げていたところ、閣談決定により、これを変更し、①「わが国あるいはわが国と密接な関係のある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から殺される明白な危険がある場合」を要件とした。
さらに、②これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他の適当な手段がないときに、③必要最小限度の実力を行使することを認めた。
そして、日米安保体制を具体化するための法案として、限定的な集団的自衛権の行便に必要な自衛隊法等の一括改正を行った平和安全法制整備法と自衛隊の海外派兵を閣談決定によ
23
第2党
戦争の放棄

り可能とする国際平和支援法(なお、恒久法である)が制定された。
(4) 重要影響事態安全確保法について
これは、従来、周辺事態法と言われていたものであり、名称が変更された。
従来、周辺事態に対する支援等が「後方支援」に限定されていたが、要件が緩和され、適用範囲が「周辺事態」から「重要影響事態」(「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」)に変更された。
さらに、戦闘の現場でなければ、アメリカ以外の国への支援も可能となった。
(5) 自衛隊の海外派兵
1992年に制定された「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO協力法)」の下に自衛隊は何度か海外に派遣されている。
PKO協力法は、紛争当事国の合意があり、武力行使を日的としないから、合意である。
アメリカで発生した9.11事件を背景に、テロ対策特別措置法が制定され、アメリカのアフガン戦争における後方支援として自衛隊の艦隊がインド洋上の公海に派遣され、給油活動を行った。さらに、イラクの人道支援・復興支援を目的とする「イラク復興支援特別措置法」が制定され、安全確保支援活動としてイラク戦争において支援がなされた。
政府は、国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊員が、自己または自己とともに現場に所在するわが国の要員の生命もしくは身体を防衛することは、自己保存のための自然的権利であり、必要な最小限度の武器の使用は、法上許されるとしている。回19-13
24

第3章 国民の権利及び義務
第3章 国民の権利及び義務
概説
1. 消極的権利と積極的権利
消極的権利とは、国家の不作為を要求することを内実とする権利をいう。
積極的権利とは、国家に対して積極的作為を要求することを内実とする権利をいう。
【具体例】
2.人権の類型論

消極的権利
積極的権利
具体例
①新聞記者が取材源を秘匿すること
②わいせつの疑いのある写真集を輸入すること
③公園で集会をすること
④街頭で署名活動を行うこと
①条例に基づいて公の情報の公開を求めること
②ある意見を掲載した新聞社に対してその反論文の掲載を求めること
個人の活動の自由
(自由権)
①精神的自由(321など)
②経済的自由(322など)
③人身の自由(§31など)
※ブライバシー権や自己決定権もこの分類に含まれる
参政権
選挙権(§15)
国務請求權•受益權
①裁判を受ける権利(§32)
②計願権(816)
社会権
①生存権(825)
②教育を受ける権利(526)
③勤労の権利(労基本権は、これが生み出された思想的側面を強調して、通営社会権に分類される)(§28)
包括的基本権
幸福追求権(§13)
法の下の平等
平等権(§14)
3.制度的保障
(1) 総論

  1. 制度的保障とは、自由権とは異なる一定の制度に対して、立法によってもその核心ないし本質的内容を侵害することができない特別の保護を与え、当該制度それ自体を客観的に保障していると解される場合をいう。

  2. その目的は、「法律の留保」を伴う基本権の本質的内容である制度の核心を立法権による侵害から守ることを主眼としている。
    とすると、伝統的な「法律の留保」の思想を否定している日本国憲法の下では、その作用する範囲も法的意義も著しく限定されたものと理解するべきである。具体的には、人権保障を強化するものでなければ、残存させる意味がないとされる。

  3. 伝統的な制度的保障論は、制度が人権に優越し、制度の核心に触れない限り人権制限をすることが許されるという、人権の保障を弱める機能を営む可能性がある。

  4. 伝統的な制度的保障論を採用するにしても、①立法によっても奪うことができない「制

25
第3弾
国民の権利及び義務

度の核心」の内容が明確であること、②制度と人権との関係が密接であるものに限定するべきであるとする学説がある。もっとも、これらの制度の核心が何かは問題となる。
(2) 類型
ア.人権保障が一定の制度を前提としている場合→大学の自治、私有財産制度イ.人権保障が一定の制度を特に忌避している場合→政教分離
※ 制度のあり方について、広い立法裁量は、アの類型の制度的保障に当てはまるが、イの類型の制度的保障に当てはまらず、立法裁量の余地はない。
4.人権の享有主体
(1) 天皇
ア。天皇の享有主体について
天皇及び皇族も「国民」に含まれるが、皇位の世と職務の特殊性から必要最小限度の特例が認められる。
(理由)天皇に認められる各種特例は、法が認めている皇位の世襲制によって説明することが可能であるから、天皇を「国民」から除外する必要はない。
イ.制限される人権の範囲
¥4-1

財産譲渡ま
たは譲受の自由
選挙権および立候補の自由
政治活動の自由
職業選択の自由
外国移住の自由
固籍離脱の
自由
特定の政党に加入する
目由
内容
国会の議決
が必要であるから(8
8)、認められない
国政に関す
る権能を有
していないしていないから、認めから、認められないられない同25-14
国政に関す
る権能を有
天皇は象徴としての地位があり、その職務に専念するべきであるから、認められない
天皇は日本国及び日本
国民統合の魚徴であるから、認められない
天皇は日本国及び日本
国民統合の象徴であるから、認められない
天皇は象徴としての地位を有すること、および国政に関する権能を有していないから、認められない
なお、表現の自由、学間の自由、婚姻の自由、財産権なども一定の範囲で制約を受ける。
同29-12
ウ、皇族の選挙権
皇族は、選挙権を有しないものと解されている。
(2) 法人
ア。総論
【八幡製鉄政治献金事件:最大判昭45.6.24=百選INo.8】同22-1、¥24-8、予30
- 9
《事案》
八輪製鉄株式会社は特定の政党に対して政治資金の寄付をしたが、これについて同社の株主であるXが同社の取締役Yに対し損害賠償責任を追及する訴えを提起した。
<判旨〉
会社に権利能力が認められる場合の例「会社は、・・・自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであって、ある行為が一見定款所定の目的
26

第3章 国民の権利及び義務
とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところであるといわなければならない。そしてまた、会社にとっても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、その意味において、これらの行為もまた、間接ではあっても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。
災害数援資金の寄附、地域社会への財産上の奉仕、各種福祉事業への資金面での協力などはまさにその適例であろう。会社が、その社会的役割を果たすために相当な程度のかかる出をすることは、・・・株主その他の会社の構成員の予測に反するものではなく、したがって、これらの行為が会社の権利能力の範囲内にあると解しても、なんら株主等の利益を害するおそれはないのである。」
政治資金の寄付と会社の権利能力「以上の理は、会社が政党に政治資金を寄附する場合においても同様である。」すなわち、政党「の健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではないのである。論旨のいうごとく、会社の構成員が政治的条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄附が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためでなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄附をする能力がないとはいえないのである。・・・要するに、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである」。「恋法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ認められたものであることは、所論のとおりである。しかし、会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はない。のみならず、憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。論旨は、会社が政党に寄附をすることは国民の参政権の侵犯であるとするのであるが、政党への寄附は、事の性質上、国民個々の選挙権その他の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものではないばかりでなく、政党の資金の一部が選挙人の買収にあてられることがあるにしても、それはたまたま生ずる病理的現象に過ぎず、しかも、かかる非行為を抑制するための制度は厳として存在するのであって、いずれにしても政治資金の寄附が、選挙権の自由なる行使を直接に侵害するものとはなしがたい。」「所論は大企業による巨額の寄附は金権政治の弊を産むべく、また、もし有力株主が外国人であるときは外国による政治
干渉となる危険もあり、さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが、その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきことであって、憲法上は、公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得」ない。回4-2
第3章
国民の権利及び義務
27

<解説>

  1. 本判決は、法人の人権亭有主体根拠について、法人は社会において自然人と同じく活動する実体があり、とくに現代社会における重要な構成要素であることを理由とする見解を採用していると解される。もっとも、判例は、法人の活動が自然人を通じて行われ、その効果も自然人に帰属するという点をあげていない。

  2. 法人は、全ての人権について、自然人と同程度の保障を受けるとはされていない。同26

-2(予26-1)
【税理士会政治献金事件:最判平8.3.19=百選 I No.36】
同20-4、22-1、¥24-
8
<事案>
南九州税理士会(Y)は、総会において、税理士法改正運動に必要な特別金とするため、各会員から特別会費5000円を徴収し、全額南九州各県の税理士政治連盟(政治資金規正法上の政治団体)へ配布する等の内容の決議をしたが、Yの会員Xは特別会費を納入しなかった。その後、Xを除外した役員選挙が実施されたので、Xは特別会費納入義務の不存在などを求めて提訴した。
<判旨>
会社の権利能力と税理士会の権利能力との関係「会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され・、さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げない」。
「しかしながら、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その日的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。」
税理士会について「税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない」。したがって、「税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その日的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。」
税理土会の権利能力「そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、水のような考慮が必要である。」「税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す会費を納入する義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。
したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。」政治資金の寄付について「特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての固人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべき
28

第3章 国民の権利及び義務
である。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(規正法3条等)、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。」「法は、49条の12(現49条の11)第1項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制度等について権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとしているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。」
あてはめ「そうすると、・・・公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり・・・、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないとこるである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法49条2項(現
6項)所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。」予30-9結論よって、本件決議は「被上告人の目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効である。
<解説)
本判決が、営利法人たる会社と結論を異にした理由は、①税理士会が実質的には強制加入の団体であったこと、②その構成員である会員には、様々の思想・借条及び主義・主張を有する者がいることが当然に予定されていること、③そのために会員に要請される協力義務にも制限があることであるとされる。
本判決が、「政党など規正法上の政治団体に対して金員を寄付をすること」に限定して、これを、「税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、・・・税理士会の日的の範囲外の行為」であると判示していることから、最高裁は、「政党など規正法上。
の政治団体への金員の寄付」と税理士法49条の11にいう官公署に対する建談や答中とを区別したうえ、法人の目的に関連する活動は建議や中の延長線上の行為として、これを肯定したものと解されている。
【団体の性格】
公益性の有無
公益団体は政治的中立性と非営利性が強く要求される
→目的の範囲はかなり狭い

①任意加入団体構成員は、自由に脱退できるから、本来の目的を明白に困
害する活動を除いて、法令に違反しない限り、団体のきまりに明示された目的と異なっても、正規の手続に従い決定された活動であれば、ほぼすべてが目的の範囲内である
強制加入と
任意加入の違い
②強制加入団体
構成員は、自由に脱退できないから、強制加入性を持つ公益法人の権利能力は、他の任意加入団体に比し、その活動について目的との合理的関連性が厳格に求められることになり、構成員の自由の保障が最大限、尊重される必要があ

③事実上の強制
加入の場合
構成員が脱退するのは困難であるので、構成員の自由保障の観点から、団体の目的の範囲は、定款、内規等、設立の根拠となる規定上の日的と合理的関連性のあるものに限られる
29
第3号
国民の権利及び義務

【群馬司法書士会震災支援寄付事件:最判平14.4.25】 20-4、30-3、同5-2
<事案>
群馬司法士会(Y)は、炭災により被害を受けた兵庫県司法士会に対して復興支援のための拠出金として3000万円を寄付すること、そのため会員から登記申請1件当たり50円の復興支援特別負担金の徴収を行うことを決議したが、Yの会員Xはその決議の違法・無効を理由に決議の不存在確認の訴えを提起した。
判旨>
本件拠出金の徴収目的」「原審の適法に確定したところによれば、本件拠出金は、被災した
兵庫県司法者士会及び同会所属の司法士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てん又は見舞金という趣旨のものではなく、被災者の相談活動等を行う同司法書士会ないしこれに従事する司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったというのである。」本件拠出金の寄付は司法士会の権利能力の範囲内である「司法昔士会は、司法士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが・・・、その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。そして、3000万円という本件拠出金の額については、それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても、阪神・淡路大農災が装大な被害を生じさせた大災害であり、早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考恵すると、その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。したがって、兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは、被告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。」規範「そうすると、被上告人は、本件拠出金の調達方法についても、それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべきである。」あてはめ「これを本件についてみると、被上告人がいわゆる強制加入団体であること(司法書士19条)を考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の政治的又は宗教的立場や思想
条の自由を害するものではなく、また・・会員に社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから、本件負担金の徴収について、公良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。」
<解説>

  1. 本判決は、甚大な被害が生じた阪神淡路大震災下で、群馬司法書士会による兵庫県司法

  2. 昔士:会への特別負担金の拠出の強制が問題となった事であり、南九州税理士会事件とはその性質を異にする。

  3. 本判決は、南九州税理士会事件とは異なり、強制加入団体の寄付行為が構成員の思想・良心の自由に関わるが触れることなく、目的の範囲を広くとって決議は目的の範囲内で合法とした上で、それを会員に強制することが公序良俗に反しないかを検討する構成をとっている。

  4. 本件事件、南九州税理土会事件のいずれにおいても、最高裁は言及しないが、私人間効力の問題であるとの見解がある。他方、両団体は、法律により強制加入団体とされており、それに依拠した紀律権が行使されることから、法律により授権された公権力を行使するものと捉えて直接適用を考えることが可能とする見解もある。仮に、私人間効力の

30

第3章 国民の権利及び義務
問題とした場合、団体の紀律権と会員の「人権」の対抗問題となる。
<参考>
本判決には、反対意見があり、①本件決議による協力義務が「厳しい不利益」であり「協力義務の限界を超えた無効なものである」との評価や②「本件拠出金については、被災した司法者土の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てんや見舞金の趣旨、性格が色濃く残っていたものと評価せざるを得ない」との評価をしている。
論文マテリアル
〜法人の人権享有主体性〜
法人も、自然人と同様、社会の重要な構成要素として実在しているため、権利の性質上可能な限り、人権保障が及ぶ。
イ.法人に認められる人権(注)
¥4-1

包括的基本権
精神的自由
経済的自由
通正手続条項
受益権
義務
内容
①名誉権・プライバシー
②平等権
①宿教の自由
司21-1
②集会・結社・
その他・切の表現の自由
③通信の移密
④学間の自由
居住・移転・職業選択の自由、営業の自由
①適正手続
②住居の不可侵
③公平迅速な裁
判を受ける権
利•証人審間
権・弁護人選
任権
①請顊権
②国象賠償論
求権
③裁判を受ける権利
制税の
義務
第3京
国民の権利及び義務
〈注〉
具体的には、定款に記載された法人の目的に照らして、その人権亭有主体性が判断される。
ウ.法人に認められない人権

  • 一定の人身の自由(生命や身体に関する自由)

  • 社会権

  • 選挙権・被選挙権

(3) 外国人
ア.外国人
外国人かどうかは、日本国籍を有するかどうかにより区別される。
【マクリーン事件:最大53.10.4=百選I No.1】25-1
〈事案〉
外国人✕は在留期間を1年とする上陸許可を得て入国したが、入国後、Xは、無届で転職し、またベトナム反戦、出入国管理法案反対、日米安保条約対等のデモや集会に参加した。その後、法務大臣YはXの在留期間の更新申請を許可しなかった。そこで、Xは処分の取消・効力の停止を求めた。
<判旨>
外国人の入国の自由「憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人がわが国に入国することについてはなんら規定していないものであり、このことは、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものと
31

されていることと、その考えを同じくするものと解される。したがって、憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、所論のように在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもないと解すべきである。」
外国人の在留期間の更新権「出入国管理(現出入国管理及び難民認定法)上も在留外国人の在期間の更新が権利として保障されているものでないことは、明らかである。」法務大臣の裁国「法務大臣は、在留期間の更新の許香を決するにあたっては、外国人に対する出入国の答理及び在留の規制の甘的である国内の治安と普良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由の当香のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼議など諸般の事情をしんしゃくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の賞任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができないものと考えられる。このような点にかんがみると、出入国管理令21条3項所定の『在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断における法務大臣の裁量権の範囲が広汎なものとされているのは当然のことであって、所論のように上陸拒否事由又は退去強制由に準ずる事由に該当しない限り更新申請を不許可にすることは許されないと解すべきものではない。」
製量権の逸脱となる場合」行政庁の「処分が違法となるのは、それが法の認める裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限られるのであり、また、その場合に限り裁判所は当該処分を取り消すことができるものであって、行政事件訴訟法30条の規定はこの理を明らかにしたものにほかならない。・・・これを出入国管理令21条3項に基づく法務大臣の『在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断の場合についてみれば、右判断に関する前述の法務大臣の裁量権の性質にかんがみ、その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして逆法となるものというべきである。したがって、裁判所は、法務大臣の右判断についてそれが違法となるかどうかを審理、判断するにあたっては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるとすることができるものと解するのが、相当である。」不許可において視されたもの本件において、「上告人の在留期間更新申請・・・を許可しなかったのは、…・・政治活動が重視されたものと解される。」外国人の人権亭有主体性「思うに、憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。
しかしながら、前述のように、外国人の在の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求するこ
32

とができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその数量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがって、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当であって、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当不当の面から日本国にとって好ましいものとはいえないと評価し、また、右行為から来当該外国人が日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、右行為が上記のような意味において法の保障を受けるものであるからといってなんら妨げられるものではない」。29-5、同2-1結論よって、「被上告人の本件処分を逆法であると判断することはできない」。
<解説>

  1. 外国人は人権有主体とされるものの、その保障の程度・限界は日本国民と同様というわけではない。回21-1

  2. 外国人の在留期間更新につき法務大臣の裁量の範囲は限定的ではなく広い裁量が認められている。

論文マテリアル
〜外国人の人権有主体性~同29-論、
予1一論
人権は人であるがゆえに認められうる前国家的性格を有し、日本国法は国際協調主義(前文、98条2項)を採用しているから、人権は、権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除き、外国人にも保障される。
イ. 不法入国者
人たることにより当然有する人権は不法入国者といえどもこれを有する(最判昭
25.12.28)。
ウ、問題となる人権
判例上、外国人に保障が及ばないとされるものに、入国の自由、在留の自由、生存権、選挙権、公務就任権がある。外国人にも裁判を受ける権利が保障されるため、日本国民に比べて裁判を受ける権利の保障の程度に差を設けることは許されない。同26-2(国
26-1)
ア法の下の平等
「わが無法14条の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するのが相当である。」(最大判昭39.11.18)
※ ①理論上人権享有主体性の有無の問題と、②人権有主体性があることを前提に外国人であることを理由にどこまで制限が可能かということは、全く異なる問題であることに注意が必要である。
→学説上、外国人の人権京有主体性の問題を②の問題として、アプローチしようとする見解がある。その際には、(a)問題となっている人権の性質、(特別永住者であるか、旅行者であるか等、外国人の種類について、検討する必要があるとしている。

(イ) (国政・地方)選挙権・被選挙権・公務就任権
i. 国政選挙権・被選挙権
【外国人の国政選挙権=最判平5.2.26】
「国会議員の選挙権を有する者を日本国民に限っている公職選挙法9条1項の規定が憲法
15条、14条の規定に違反するものでない」とした。
【外国人の被選挙権=最判平10.3.13】(要旨)
国会議員の被選挙権を有する者を日本国民に限っている公職選挙法10条1項は憲法15条、市民的及び政治的権利に関する国際規約25条に違反しない。
ii.地方選挙権
【外国人の地方参政権:最判平7.2.28=百選INo.3】目23-14、同25-1、同5-19国民主権原理における国民及び93条2項の「住民」の意味「恋法15条1項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、越法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものにほかならないところ、主権が『日本国民』に存するものとする憲法前文及び1条の規定に照らせば、恋法の国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法15条1項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、地方自治について定める法第8章は、93条2項において、地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の更員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙するものと規定しているのであるが、前記の国民主権の原理及びこれに基づく法15条1項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法93条2項にいう『住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。」回23-14、回2-1国人の地方選挙権の許否「このように、憲法93条2項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、法第8章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって意の問題を生ずるものではない。」¥29-5
解説>
憲法93条2項はわが国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙権を保障し
34

第3章 国民の権利及び義務
たものとはいえないが、一定の外国人について法律をもって付与する措置を講ずることは越法上禁止されているものではない。
ii.公務就任権
【外国人管理職選考受験拒否事件(公務就任を前提とした外国人であることを理由とする昇格差別):最大判平17.1.26=百選I No.4】
回18-15、回23-1
<事案)
特別永住者であり、かつ、東京都に保婦(保健師)として採用されたXは、課長級の管理職選考試験の受験を日本国籍を有していないとの理由で受験を拍否された。そこで、
Xは受験資格の確認、損害賠償を求めて、提訴した。
<判旨>
在留外国人の地方公務員の任命資格「地方公務員法は、一般職の地方公務員(以下「職員」という。)に本邦に在留する外国人(以下「在留外国人」という。)を任命することができるかどうかについて明文の規定を置いていないが(同法19条1項参照)、普通地方公共団体が、法による制限の下で、条例、人事委員会規則等の定めるところにより職員に在留外国人を任命することを禁止するものではない。」
任命資格と14条もっとも、地方公務員法「の定めは、普通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないとするものではない。また、そのような取扱いは、合理的な理由に基づくものである限り、憲法14条1項に違反するものでもない。」あてはめでは、本件取扱いは、合理的な理由に基づくものであるか問題となるところ、「地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については、※のように解するのが相当である。すなわち、公権力行使等地方公務員の職務の遂行は、住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに事実上大きな影響を及ぼすなど、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである。それゆえ、国民主権の原理に基づき、国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであること(法1条、15条1項参照)に照らし、原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり、我が国以外の国家に帰属し、その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである。」「そして、普通地方公共団体が、公務員制度を構築するに当たって、公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができるものというべきである。」予29-5、同3-11
結論「そうすると、普通地方公共団体が上記のような管理職の低用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。そして、この理は、前記の特別永住者についても異なるものではな
第3章
国民の権利及び義務
35

い」とし、結論として、本件措置は、「合理的な理由に基づいて日本の国籍を有する職員と在留外国人である職員とを区別するものであり」、「労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではない」とした。
<解説>

  1. 本判決は、地方公共団体の裁量権行使の限界について言及していない。同18-15

  2. 本判決は、特別永住者について一般在留外国人とは異なる取扱いが求められることを否定した。同18-15、同23-1

  3. 本判決は、外国人の公務就任権の保障の背について判断していない。同18-15

  4. ←本件は、昇任に関する処遇を問題とするので、外国人の公務就任権の法上の保障の有無に関わらず、平等原則の適用を受けるから、公務就任権の有無を判断する必要はなかった。

  5. 本判決は、判旨中「公権力行使等地方公務員」が当該地方公共団体の管理職に含まれることを前提としている。同18-15

  6. 本判決は、「上告人の管理職のうちに、企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行うにとどまり、公権力行使等地方公務員には当たらないものも若干存在していたとしても、上記判断を左右するものではない」として、原審の判断を殺した。
    (ウ) 社会権
    外国人には、労働基本権の適用があり得る。同23-10社会保障関係法令の国籍要件が原則として撤廃されたので、現在では議論する実益はあまりない。
    【塩見訴訟:最判平元.3.2=百選 I No.5】

司19-2、25-1
5条との関係 憲法25「条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、同条の規定の趣旨を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするから、同条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するに適しない事柄である」。「加うるに、社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、当該外国人の展する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される。したがって、(国民年金)法81条1項(当時)の障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきであ」って、「憲法25条の規定に違反するものではない。」同26-10(¥26-6)
14条との関係 また、「法81条1項の障害福祉年金の給付に関しては、廃の認定日に日本国籍がある者とそうでない者との間に区別が設けられているが、・・右障害福祉年金の給付に関し、自国民を在留外国人に優先させることとして在留外国人を支給対象者から除くこと、また廃族の認定日・・・において日本国民であることを受給資格要件とすることは立法府
36

第3章 国民の権利及び義務
の裁量の範囲に属する事柄というべきであるから、右取扱いの区別については、その合理性を否定することができず、これを法14条1項に違反するものということはできない。」
<解説>

  1. 本判決は、在留外国人に対する社会保障について定住外国人であるか否かで区別はしていない。同19-2

  2. 本判決は、憲法14条1項の規定の趣旨が外国人にも及ぶことを前提としている。同19-

  3. 2

  4. 本判決は、在留外国人に対する社会保障上の施策として、特来的には法律を改正して国籍要件を課すことが望ましいとは判示していない。同19-2
    【永住外国人の生活保護受給権:最判平26.7.18=平26判No.11】

<事案)
永住資格を持つ外国籍の女性が、生活保護申請を却下した市の処分は違法だとして、市に処分の取り消しを求めた。
<判旨>
「旧生活保護法は、その適用の対象につき「国民』であるか否かを区別していなかったのに対し、現行の生活保護法は、1条及び2条において、その適用の対象につき「国民」と定めたものであり、このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民』とは日本国民を意味するものであって、外国人はこれに含まれないものと解される。」同29-10(予29-6)
「そして、現行の生活保護法が制定された後、現在に至るまでの間、同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず、同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。」「したがって、生活保護法を始めとする現行法令上、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。」
「また、本件通知は行政庁の通達であり、それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保設が事実上実施されてきたとしても、そのことによって、生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく、・・我が国が難民条約等に加入した際の経緯を楽しても、本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得るものとは解されない。なお、本件通知は、その文言上も、生活に困窮する外国人に対し、生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に、それとは別に事実上の保護を行う行政措置として、当分の間、日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続きにより必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。」
「以上によれば、外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づ
<受給権を有しないものというべきである。」
「そうすると、本件却下処分は、生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって、適法である。」
国民の権利及び義務
37

( 指紋押捺を拒否する自由
【指紋押捺拒否制度の合憲性:最判平7.12.15=百選I No.2同25-3(予25-2)
<事案>
アメリカ合衆国国籍を有し現にハワイに在住する被告人が、昭和56年11月9日、当時来日し居住していた神戸市灘区において新規の外国人登録の申請をした際、外国人登録原票、登録証明書及び指紋原二葉に指紋の押なつをしなかったため、外国人登録法の右条項に該当するとして起訴された。
<判旨>
みだりに指紋の押捺を強制されない自由について「指紋は、指先の紋様であり、それ自体では個人の私生活や人格、思想、条、良心等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある。このような意味で、指紋の押なつ制度は、国民の私生活上の自由と密接な関連をもつものと考えられる。憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許されず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される」。しかしながら、右の自由も、「公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受ける」。同3-2
あてはめ指紋押なつ制度は、「外国人登録法・・・が立法された際に、同法1条の「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」という目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として制定されたもので、その立法目的には十分な合理性があり、かつ、必要性も肯定できるものである。また、・・・本件当時の制度内容は、押なつ義務が3年に一度で、押なつ対象指紋も一指のみであり、加えて、その強制も罰則による間接強制にとどまるものであって、精神的、肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではいえず、方法としても、一般的に許容される限度を超えない相当なものであったと認められる。」
結論したがって、指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項、18条1項8号は意法
13条に違反しない。同3-2
<解説>

  1. 本判決は、「目的、必要性、相当性が認められ」、「その取扱いの差異には合理的根拠がある」ことを理由に14条に違反しないとし、さらに「指紋は指先の紋様でありそれ自体では思想、良心等個人の内心に関する情報となるものではないし、同制度の目的は在留外国人の公正な管理に資するため正確な人物特定をはかることにあ」り、「外国人の思想、良心の自由を害するものとは認められない」とし19条にも違反しないとしている。

  2. 現在では、出入国管理法において、入国審査の際、指紋採取が義務付けられている。

(水) 外国移住の自由と外国波航の自由(再入国の自由)及び入国の自由
【外国人の出国の自由:最判昭32.12.25=百選1-A1】同19-8、22-1
「遺法22条2項は「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」と規定しており、ここにいう外国移住の自由は、その権利の性質上外国人に限って保障しない
38

という理由はない。に、出入国管理令25条1項は、本邦外の地域におもむく意図をもって出国しようとする外国人は、その者が出国する出入国港において、入国審査官から旅券に出国の証印を受けなければならないと定め、同2項において、前項の外国人は、旅券に証印を受けなければ出国してはならないと規定している。右は、出国それ自体を法律上制限するものではなく、単に、出国の手続に関する措置を定めたものであり、事実上かかる手続的措置のために外国移住の自由が制限される結果を招来するような場合があるにしても、同令1条に規定する本邦に入国し、又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理を行うという目的を達成する公共の福祉のため設けられたものであって、合憲性を有するものと解すべきである。」
【森川キャサリーン事件:最判平4.11.16=百選I-A2】(要旨)回22-1
我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されていない。
<解説>

  1. 本判決は、内容的には、定住外国人と一時滞在外国人とを区別しないで、一律に外国人の再入国の自由の権利性を否定し、指紋押捺拒否を理由とする法務大臣の再入国拒否処分を合法と認定した。

  2. なお、外国人には入国の自由は保障されない(最大判32.6.19)。もっとも、外国人が意法上の権利の主体としての地位が認められるのは、入国した後であると考えれば、入国の自由を外国人の人権として議論するのは、誤りであり、当然、入国の自由は認められない。特別永住者は、現に日本に住んでおり、入国している以上、入国の自由は問題となり得ない。

5.特別な法律関係における人権の限界
(1) 公務員
公務員の人権制限の根拠は、公務員関係の存在と自律性を法秩序の構成要素として認めていることである(※15、873④)。
←猿払事件(最大判昭49.11.6=百選INo.12参照)
(2)在監者
在監者の人権制限の根拠は、在監関係と自律性を法秩序の構成要素として認めていることである(818、831)。
【被拘禁者の喫煙禁止:最大判昭45.9.16=百選1-A4】同22-2
<事案>
公職選挙法違反の容疑で逮捕され未決拘禁を受けたXは、刑務所において喫煙を希望し請願者を提出したが認められなかった。そこで、Xは、18条の苦役を課せられたことを理由に、国家賠価請求を提起した。
比較考「そして、右の制限が必要かつ合理的なものであるかどうかは、制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられる具体的制限の態様との量のうえに立って決せられるべきものというべきである。」決勾留者の人権制約「未決勾留は、刑事訴訟法に基づき、逃走または非証隠滅の防止を目的として、被疑者または被告人の居住を監獄内に限定するものであるところ、監獄内においては、多数の被拘禁者を収容し、これを集団として管理するにあたり、その秩序を維

持し、正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。このためには、被拘禁者の身体の自由を拘束するだけでなく、右の目的に照らし、必要な限度において、被拘禁者のその他の自由に対し、合理的制限を加えることもやむをえないところである。」回3-1
あてはめ「これを本件についてみると、・・・監獄の現在の施設よび管理態勢のもとにおいては、喫煙に伴う火気の使用に起因する火災発生のおそれが少なくなく、また、喫の自由を認めることにより通謀のおそれがあり、監獄内の秩序の維持にも支障をきたすものであるというのである。右事実によれば、喫煙を許すことにより、罪証隠滅のおそれがあり、また、火災発生の場合には被拘禁者の逃走が予想され、かくては、直接拘禁の本質的目的を達することができないことは明らかである。のみならず、被拘禁者の集団内における火災が人道上大な結果を発生せしめることはいうまでもない。他面、煙草は生活必需品とまでは断じがたく、ある程度普及率の高い嗜好品にすぎず、喫煙の禁止は、煙草の愛好者に対しては相当の精神的苦を感ぜしめるとしても、それが人体に直接障害を与えるものではないのであり、かかる観点よりすれば、喫煙の自由は、憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない。したがって、このような拘禁の目的と制限される基本的人権の内容、制限の必要性などの関係を総合考察すると、前記の喫煙禁止という程度の自由の制限は、必要かつ合理的なものであると解するのが相当であ」る。同3-1結論「(旧)監獄法施行規則96条中未決留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定が悪法13条に違反するものといえないことは明らかである。」
<解説>

  1. 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は、酒類を除く嗜好品(540I)および使用許可(※411④)について明文で規定している。

  2. 本判決は、旧監獄法施行規則96条が監獄法に直接根拠を有していないことについて問題にはしなかった。

  3. 本判決は、特別権力関係論については言及していない。

※特別権力関係論同23-2
特別権力関係論とは、特別の公法上の原因(法律の規定または本人の同意)によって成立する公権力と国民との特別の法律関係を「特別権力関係」という観念で捉え、そこにおいては、以下のような原則が妥当するとするものをいう。
すなわち、(a)公権力は包括的な支配権を有し、個々の場合に法律の根拠なくして特別権力関係に属する私人を包括的に支配することができること(法治主義の排除)、(b)公権力は、特別権力関係に属する私人に対して、一般国民として有する人権を、法律の根拠なくして制限することができること(人権の制限)、(特別権力関係内部における公権力の行為は原則として司法審査に服さないこと(司法審査の排除)である。
しかし、(イ)日本国憲法は、「法の支配」の原理を採用し、(基本的人権の尊重を謳い、(国会を「唯一の立法機関」(§41)としており、違憲審査権も裁判所に認めている(381)から日本国法ではこの古典的な特別関係理論は妥当しない。同29-1、同1
-1
また、特殊な法律関係といっても様々な関係があり、それらを特殊な法律関係として一律に捉え、同様の人権制約が妥当すると解するのは相当でない。同1-1(国1-
1)
40

特別権力関係が成立する場合としては、法律の規定に基づくもの(例えば、受刑者の在監関係)と本人の同意に基づくもの(例えば、公務員の在勤関係、国公立学生の在学関係)があった。回23-2
特別権力関係は、権力服従性という形式的要素によって包括し、人権制約を一般的、観念的に許容する点が不当であるとされている。同23-2
【よど号ハイジャック記事抹消事件:最大判昭58.6.22=百選 INo.14】
<事案>
拘置所に勾留、収容されていたXらが、私費で定期読していた新聞の記事(「よど号」
乗っ取り事件)について、拘置所長が墨で塗りつぶして布した。そこで、Xは、(旧)監獄法31条2項、監獄法施行規則86条1項の規定、昭和41年12月13日法務大臣訓令及び昭
和41年12月20日法務省矯止局長依命通達は、法19条並びに意法21条の各規定に違反し無効であり、国を被告として損害賠償請求を提起した。
<判旨>
未決勾留者の人制約「未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであって、右の勾留により拘禁された者は、その限度で身体的行動の自由を制限されるのみならず、前記逃亡又は罪証隠滅の防止の目的のために必要かつ合理的な範囲において、それ以外の行為の自由をも制限されることを免れないのであり、このことは、未決勾留そのものの予定するところでもある。また、監獄は、多数の被禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたっては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、この目的のために必要がある場合には、未決勾留によって拘禁された者についても、この面からその者の身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることは、やむをえないところというべきである(その制限が防票権との関係で制約されることもありうるのは、もとより別論である。)。そして、この場合において、これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右の目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである」。
関読の自由「そこで検討するのに、およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいてくことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。それゆえ、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が窓法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可を定めた憲法19条の規定や、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法13条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。しかしながら、このような閉読の自由は、生活のさまざまな場面にわたり、極めて広い範囲に及ぶものであって、もとより上告人らの主張するようにその制限が絶対に許されないものとすることはできず、それぞれの場面において、これに越する公共の利益のための必要から、一定の合理的制限を受けることがあるこ

もやむをえないものといわなければならない。そしてこのことは、閲読の対象が新聞紙である場合でも例外ではない。この見地に立って考えると、本件におけるように、未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の鬩読の自由についても、逃亡及び罪証
隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、前記のような監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも、一定の制限を加えられることはやむをえないものとして承認しなければならない。しかしながら、未決勾留は、前記刑事司法上の目的のために必要やむをえない措置として一定の範囲で個人の自由を拘束するものであり、他方、これにより拘禁される者は、当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから、監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図 等の関読の自由を制限する場合においても、それは、右の日的を進するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。」規範「したがって、右の制限が許されるためには、該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。」
合表限定解釈「ところで、(旧)監獄法31条2項は、・・・を定めている。これらの規定を通党すると、その文言上はかなりゆるやかな要件のもとで制限を可能としているようにみられるけれども、上に述べた要件及び範囲内でのみ閲読の制限を許す旨を定めたものと解するのが相当であり、かつ、そう解することも可能であるから、右法令等は、志法に違反するものではないとしてその効力を承認することができる」。
長の裁量「そして、具体的場合における前記法令等の適用にあたり、当該新聞紙、図者等の閲読を許すことによって監獄内における規律及び秩の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が存するかどうか、及びこれを防止するためにどのような内容、程度の制限措置が必要と認められるかについては、監獄内の実情に通し、直接その街にあたる監獄の長による個個の場合の具体的状況のもとにおける裁量的判断にまつべき点が少なくないから、障害発生の相当の蓋然性があるとした長の認定に合理的な根拠があり、その防止のために当該制限措置が必要であるとした判断に合理性が認められる限り、長の右措置は適法として是認すべきものと解するのが相当である。これを本件についてみると、・・・同所長の判断に量権の進脱又は用の法があったとすることはできな
い」
<解説>

  1. 本判決は、被拘禁者の新聞紙等の閲読の自由の制限の合意性について、より制限的でない他の選び得る手段があるかどうかという基準によって判断していない。同22-2

  2. 本判決は、相当の蓋然性の判断の基準を採った上、施設の長の裁並判断の合理性の存否を審査する方法によっているが、施設の長は職務上規律侵害行為等を『未然に100%防止」することを目指し、制限は過度になりやすいことを考慮すると、この判断方法は「運用いかんによっては基準の厳しさを弱めるおそれ」がある。

42

第3章 国民の権利及び義務
【在監者の言書の発言:最判平18.3.23】22-2
<事案>
国会議員に対して送付済みの請願書などの取材を求める旨の内容を記載した新聞社宛ての昔の発信を(1日)監獄法16条により不許可とした。そこで、原告は、刑務所長の手紙の送付の制限により、表現の自由を侵害され、精神的苦痛を被ったと主張して、被告国に対し、国賠法に基づき、感謝料を請ました。
<判>
法令違憲の検討「表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的にかんがみると、受刑者のその親族でない者との間の書の発受は、受刑者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該信書の内容その他の具体的事情の下で、これを許すことにより、監獄内の規律及び秩序の維持、受刑者の身柄の確保、受刑者の改善、更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があると認められる場合に限って、これを制限することが許されるものというべきであり、その場合においても、その制限の程度は、上記の障害の発生防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。そうすると、監獄法46条2項は、その文言上は、特に必要があると認められる場合に限って上記信書の発受を許すものとしているようにみられるけれども、上記昔の発受の必要性は広く認められ、上記要件及び範囲でのみその制限が許されることを定めたものと解するのが相当であり、したがって、同項が憲法21条、14条1項に違反するものでない」。
本件に適用したことについて]「前記事実関係によれば、熊本刑務・・所長が、上告人の性向、行状、熊本刑務所内の管理、保安の状況、本件信書の内容その他の具体的事情の下で、上告人の本書の発信を許すことにより、同州務所内の規律及び秩序の維持、上告人を含めた受刑者の身柄の確保、上告人を含めた受刑者の改善、更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があるかどうかについて考慮しないで、本件価書の発信を不許可としたことは明らかというべきである。•・・そうすると、熊本刑務所長の本件信の発言の不許可は、裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用したものとして監獄法46条2項の規定の適用上達法であるのみならず、国家賠償法1条1項の規定の適用上も違法というべきである。」
<解説>
本判決は、21条の主張を退けながら、具体的事茶との関係で数量権用があったものとして、国家賠償を認めた(刑事収容施設法126条~145条参照)。29-1
(3) 未成年者

  1. 憲法第3章の規定は未成年者にも当然適用される。しかし、人権の性質によっては、社会の構成員として成熟した人間を対象としているものもあり、それに至らない未成年者にはその保障の範囲・程度が成年と異なる場合がある(参政権(§15皿)、婚外の自由、財産権など)。同21-1、田4-1青少年保護育成条例などによる条例による制限も認められる。

  2. これらの制限は、本人の利益のため、合志とされることが多い。確かに、未成年者は判断能力が未熟であり、完全な自律的主体ではないが、しかし、潜在的な自律主体であること、自律的主体になるための判断能力は試行錯誤を通じて養われるから、合志性は慎車に判断すべきである。

43
第3章
国民の権利及び義務

③ その一方で、未成年者は、精神的・肉体的に未成熟なことから、成人とは異なった特別の保護を必要とする場合があり、このような趣旨から、憲法は児童の酷使を禁止している(527日)。同26-2(¥26-1)
6. 私人間における人権保障とその限界
本来、悪法は、国家と国民との間を規律するものであるところ、私人間においても適用さ
すなわち、私人間で人権を保護するのは、国民代表の制定した議会制定法である。しかし、現実社会の議会は、利害対立が激しく、迅速適切に人権の保護がなされるとは限らない。そこで、憲法により私人間において人権を保護できないか。
【三菱樹脂事件:最大判昭48.12.12=百選No.9】21-2、5-2
<事案>
XはY(三菱脂株式会社)の採用試験合格後、3カ月の試用期間を設けて採用されたが、採用試験の際、学生運動歴等に関し虚偽の申告をしたとして、試用期間の満了直前に、本採用拒否の告知を受けた。そこで、Xは雇用契約上の地位の確認、賃金支払を求める訴えを提起した。
<判旨>
法の私人間効力に関する考え得る見解「憲法19条、14条の規定は」、「同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。このことは、基本的人権なる観念の成立および発展の歴史的浴革に徴し、かつ、恋法における基本権規定の形式、内容にかんがみても明らかである。のみならず、これらの規定の定める個人の自由や平等は、国や公共団体の統治行動に対する関係においてこそ、侵されることのない権利として保障されるべき性質のものであるけれども、私人間の関係においては、各人の有する自由と平等の権利自体が具体的場合に相互に矛盾、対立する可能性があり、このような場合におけるその対立の調整は、近代自由社会においては、原則として私的自治に委ねられ、ただ、一方の他方に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ、法がこれに介入しその間の調整をはかるという建前がとられているのであって、この点において国または公共団体と個人との関係の場合とはおのずから別個の観点からの考慮を必要とし、後者についての憲法上の基本権保障規定をそのまま私人相互間の関係についても適用ないしは類推適用すべきものとすることは、決して当をえた解釈ということはできないのである。」「もっとも、私人間の関係においても、相互社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難いが、そのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない。何となれば、右のような事実上の支配関係なるものは、その支配力の態様、程度、規模等においてさまざまであり、どのような場合にこれを国または公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるばかりでなく、一方が権力の法的独占の上に立って行なわれるものであるのに対し、他方はこのような裏付けないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣の関
44

第3章 国民の権利及び義務
係にすぎず、その間に画然たる性質上の区別が有するからである。」同1-2(チ1-
1)
本判決の立場「すなわち、私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によってその是正を図ることが可能であるし、また、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的
許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によってこれをすることができないことは、論をまたないところである。」
雇用の拒否」「法は、思想、借条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇備するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、糸を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。法14条の規定が私人のこのような行為を直接禁止するものでないことは前記のとおりであり、また、労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない。また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない。」
企業者による調査の違法性「右のように、企業者が雇備の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して達法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。もとより、企業者は、一般的には個々の労者に対して社会的に後越した地位にあるから、企業者のこの種の行為が労働者の思想、信条の自由に対して影響を与える可能性がないとはいえないが、法律に別段の定めがない限り、右は企業者の法的に許された行為と解すべきである。また、企業者において、その屈備する労働者が当該企業の中でその円滑な進営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、そのために採否決定に先立ってその者の性向、思想等の調査を行なうことは、企業における星体関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇備制が行なわれている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない。のみならず、本件において問題とされている上告人の調査が、前記のように、被上告人の思想、宿条そのものについてではなく、直接には被上告人の過去の行動についてされたものであり、ただその行動が被上告人の思想、信条となんらかの関係があることを否定できないような性質のものであるというにとどま
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第3章
国民の権利及び義務

るとすれば、なおさらこのような調査を日して違法とすることはできないのである。」同28-1(予28-1)、同29-4(¥29-2)、33-1企業者の解雇の自由に対する制約もっとも、「企業者は、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いったん労働者を雇い入れ、その者に雇体関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない。労働基準法3条は、・・・労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される。」「このことは、法が、企業者の雇備の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業者の自由を広く認める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重視して、その保護のために、一定の限度で企業者の解雇の自由に制約を課すべきであるとする態度をとっていることを示すものといえる。」留保解約権の行使と入れの拒否「本件においては、上告人と被上告人との間に3か月の試用期間を付した屋備契約が締結され、右の期間の満了直前に上告人が被上告人に対して本採用の拒否を告知したものである。」「思うに、試用契約の性質をどう判断するかについては、就業規則の規定の文言のみならず、当該企業内において試用契約の下に雇備された者に対する処遇の実情、とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものである。・・・したがって、被上告人に対する本件本採用の拒否は、保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない。」「ところで、本件雇備契約においては、右のように、上告人において試用期間中に上告人が管理職員として不通格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権が留保されているのであるが、このような解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他上告人のいわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行ない、適切な判定資料を十分に集することができないため、後日における調査や観察に基つく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであって、今日における屈備の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。しかしながら、・・・法が企業者の雇の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨にかんがみ、また、雇
備契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考え、かつまた、本採用後の雇関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇備関係に入った者は、本採用、すなわち当該企業との雇関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇備しておくのが適当でないと判断することが、

第3章 国民の権利及び義務
上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」
本件の調査「思うに、企業者が、労働者の採用にあたって適当な者を選択するのに必要な資料の蒐集の一方法として、労働者から必要事項について申告を求めることができる・・・以上、相手方に対して事実の開示を期待し、秘匿等の所為のあった者について、倍頼に値しない者であるとの人物評価を加えることは当然であるが、右の秘階等の所為がかような人物評価に及ぼす彩響の程度は、秘等にかかる事実の内容、秘匿の程度およびその動機、理由のいかんによって区々であり、それがその者の管理職要員としての適格性を否定する客観的に合理的な理由となるかどうかも、いちがいにこれを論ずることはできない。また、秘匿等にかかる事実のいかんによっては、秘匿等の有無にかかわらずそれ自体で右の適格性を否定するに足りる場合もありうるのである。してみると、本件において被上告人の解雇理由として主要な問題とされている被上告人の団体加入や学生運動参加の事実の秘匿等についても、それが上告人において上記留保解約権に基づき被上告人を解雇しうる客観的に合理的な理由となるかどうかを判断するためには、まず被上告人に秘匿等の事実があったかどうか、秘陸等にかかる団体加入や学生運動参加の内容、態様および程度、とくに達法にわたる行為があったかどうか、ならびに秘匿等の動機、理由等に関する事実関係を明らかにし、これらの事実関係に照らして、被上告人の移等の行為および秘匿等にかかる事実が同人の入社後における行動、態度の予測やその人物評価等に及ぼす影響を検討し、それが企業者の採否決定につき有する意義と重要性を築し、これらを総合して上記の合理的理由の有無を判断しなければならないのである。」
<解説)

  1. 本判決は、憲法の定立する法原則は社会生活のあらゆる領域において同じように尊車され実現されるべきであるとはしていない。

  2. 本判決は、人権規定を媒介する一般条項の活用が、「社会的許容性の限度を超える侵害」の場合というあいまいな基準の下に置かれており、さらに具体的事案に対する判断内容も労働者の思想信条の自由という重要な人権に対して消板的であるため、無効説に近いものといわざるを得ないとの批判がある。

  3. 本判決は、いわゆる国家類似説を否定している。

  4. 企業が特定の思想信条を有する者をそれを理由に雇用することを拒むことができたとしても、そのことから直ちに本採用を拒否することはできない。同18-3

  5. 具体的な立法又は民法の一般条項の適切な運用を通じた私的人権侵への対応を要請している部分が、本判決が間接適用説を採ったといわれる箇所である。
    【昭和女子大事件:最判昭49.7.19=百選 I No.10】18-3、21-2

〈事案〉
Y私立大学学生は、学内で、無届けで政治的暴力行為防止法(政法)反対の署名を集め、許可なく外部政治団体に加入申込み中であったため、Y大学の「生活要録」に違反するとして自宅護を申し渡された。しかし、Xは学外集会において本件の事実経過報告を行い学則に違反したことを理由に、退学処分を受けた。そこで、Xは身分確認の訴えを提起した。
第3章
国民の権利及び義務
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<判旨>
私立大学と学生の諸々の自由「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。特に私立学校においては、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針とによって社会的存在意義が認められ、学生もそのような伝統ないし風と教育方針のもとで教育を受けることを希望して当該大学に入学するものと考えられるのであるから、右の伝統ないし夜風と教育方針を学則等において具体化し、これを実践することが然認められるべきであり、学生としてもまた、当該大学において教育を受けるかぎり、かかる規律に服することを義務づけられるものといわなければならない。もとより、学校当局の有する右の包括的権能は無制限なものではありえず、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものであるが、具体的に学生のいかなる行動についていかなる程度、方法の規制を加えることが適切であるとするかは、それが教育上の措置に関するものであるだけに、必ずしも画一的に決することはできず、各学校の伝統ないし校風や教育方針によってもおのずから異なることを認めざるをえないのである。
これを学生の政治的活動に関していえば、大学の学生は、その年令等からみて、一個の社会人として行動しうる面を有する者であり、政治的活動の自由はこのような社会人としての学生についても重要視されるべき法益であることは、いうまでもない。しかし、他方、学生の政治的活動を学の内外を問わず全く自由に放任するときは、あるいは学生が学業を疎かにし、あるいは学内における教育及び研究の環境を乱し、本人及び他の学生に対する教育目的の達成や研究の遂行をそこなう等大学の設置目的の実現を妨げるおそれがあるのであるから、大学当局がこれらの政治的活動に対してなんらかの規制を加えること自体は十分にその合理性を首肯しうるところであるとともに、私立大学のなかでも、学生の勉学専念を特に重視しあるいは比較的保守的な校風を有する大学が、その教育方針に照らし学生の政治的活動はできるだけ制限するのが教育上適当であるとの見地から、学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもって直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。」同28
-1(予28-1)、予3-1
あてはめ「そこで、この見地から被上告人大学の前記生活の規定をみるに、・・・同大学が学生の思想の穏健中正を標榜する保守的傾向の私立学校であることをも勘案すれば、右要録の規定は、政治的目的をもつ署名運動に学生が参加し又は政治的活動を目的とする学外の団体に学生が加入するのを放任しておくことは教育上好ましくないとする同大学の教育方針に基づき、このような学生の行動について届出制あるいは許可制をとることによってこれを規制しようとする趣旨を含むものと解されるのであって、かかる規制自体を不合理なものと断定することができない」。
<解説>
本判決は、社会通念に照らして、不合理と解されるような学生の自由に対する制限は許されないとしている。
【女子若年定年制事件:最判昭56.3.24=百選 INo.11】 同18-3
<事案>
女性✕らが勤務するA会社がY会社に営業譲渡され、その後、両会社が合併したところ、
48

第3章 国民の権利及び義務
Y会社の就業規則は男子の定年年齢を55歳、女子の定年年齢を50歳と規定していたため、
50歳に達したXは、定年退職を命じられた。そこで、Xは雇用関係存続確認を求めて訴訟を提起した。
<判旨>
「上告会社においては、女子従業員の担当職務は相当広範囲にわたっていて、従業員の努力と上告会社の活用策いかんによっては貢献度を上げうる職種が数多く含まれており、女従業員個人の能力等の評価を離れて、その全体を上告会社に対する負度の上がらない従業員と断定する根拠はないこと、しかも、女子従業員について労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認めるべき根拠はないこと、少なくとも60歳前後までは、男女とも通常の職務であれば企業経営上要される職務行能力に欠けるところはなく、各個人の労働能力の差異に応じた取扱がされるのは格別、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないことなど、上告会社の企業経営上の観点から定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由は認められない・・・事実関係のもとにおいて、上告会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である(法14条1項、民法1条の2(現2条)参照)。」
<解説>
原審は、理由のない定年制は定年制自体の通用力を失わせ、また、従業員の職業生活に対する希望と活力を失わせる弊害を生ずるので、男女の平等が基本的な社会秩序をなし、定年制自体の性質を考慮すると、定年における男女差別についてはその合理性の検討が強く求められる、としている。
【和山事件:最判平18.3.17】回28-1(予28-1)
<事案)
入会地払下げ当時の部落民(入会権者)の女子孫Xらは、入会権者の資格を世主及び男子孫に限定する人会部落の慣習及び会則が公序良俗に反して無効である等と主張して、人会地の管理処分を行う入会団体Yを被告として、会員たる地位を有することの確認と補償金の支払を楽めた。
<判旨>
「入会権の内容である使用収益を行う権能は、入会部落内で定められた規律に従わなければならないという拘束を受けるものの、構成員各自が単独で行使することができる」。「このような入会権の内容、性質等や…・・本件入会地の入会権が家の代表ないし世帯主としての部落民に帰属する権利として当該入会権者からその後者に承されてきたという歴史的
沿革を有するものであることなどにかんがみると、各世帯の構成員の人数にかかわらず各世帯の代表者にのみ入会権者の地位を認めるという慣習は、入会団体の団体としての統制の維持という点からも、入会権行使における各世帯間の平等という点からも、不合理ということはできず、現在においても、本件價習のうち、世帯主要件を公序良俗に反するものということはできない。しかしながら、本件慣習のうち、男子孫要件は、専ら女子であることのみを理由として女子を男子と差別したものというべきであり、…・・性別のみによる不合理な差別として民法90条の規定により無効であると解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。男子孫要件は、世帯主要件とは異なり、入会団体の団体としての統制
第3章
国民の権利及び義務
49

の維持という点からも、入会権の行使における各世帯間の平等という点からも、何ら合理性を有しない。このことは、A部落民会の会則においては、会員資格は男子孫に限定されていなかったことや、被上告人と同様に和山について入会権を有する他の入会団体では会員資格を男子孫に限定していないものもあることからも明らかである。・・・そして、男女の本質的平等を定める日本国憲法の基本的理念に照らし、入会権を別異に取り扱うべき合理的理由を見いだすことはできないから、・・・本件人会地の人会権の歴史的沿革等の事情を考慮しても、男子孫要件による女子孫に対する差別を正当化することはできない。」
【国労広島地本事件:最判昭50.11.28=百選 I No.145】
P311参照回18-3
労働組合員の組合への協力義務について、「問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。」としている。¥3-1
【百里基地訴訟:最判平元.6.20=百選INo.166】 P503、564参照
司21-2
「国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経及び内容において実質的にみて公権力の発勤たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎないものと解する。」
<解説>
本判決は、例外として、「特段の事情」がある場合には、直接適用の余地を残しているといえる。同21-2

直接適用説
無適用説
問接適用説
内容
法の人権規定は私人間においても直接適用される
選法の人権規定は特段の定めがある場合を除いて私人間には適用されない
民法90条の公序良俗規定などの私法の一般条項を媒介にして、憲法の人権規定を私人間において間接的に適用する
理由
客観的法秩序である
法は、公法・私法に通ずる法は国家対国民の関係を他説への批判照
律する法である

批判
の原則の否定になる
②国家権力に対抗するという人権の本質を変質ないし希
薄化する結果を招くおそれ
①私法の国家化をもたらし私社会的権力による人権侵害に人権価値を導入して行う私法的自治の原則及び契約自由対し、何らの救済も認められ
ないとするのは妥当ではない振幅が大きく、解釈によって
の一般条項の意味充填解釈は
は他説と変わりがなくなる
理論的
背景
人権は全ての法秩序に妥当するべき価値である
・国家と社会を分離する自由主
義国家論

【私人間効力に関する学説のまとめ】
同19-3、同25-2

※直接適用説のうち、私的自治の原則により、人権の効力は私人相互間の場合にはその本
50

第3章 国民の権利及び義務(第10条)
質的な核心が侵されない限度で相対化されることを認める見解は、こうした相対化を認める限度において、直接適用説といっても間接適用説に類似したものになる。同1-2
※ 以上三説の他に、私人相互間の社会的力関係から一方が他方に優越し、事実上者が前者の意思に服従せざるを得ない場合、恋法の人権規定を私人間においても適用ないし類推適用するとする説もある。しかし、この説に対しては、こうした関係は法的裏づけないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優越関係に過ぎず、国又は公共団体の支配が権力の法的独占に基づいて行われる場合とは性質上の相違があるとの指摘がある。同19-3
論文マテリアル
~私人間効力〜
私的自治を維持しつつ、社会的権力から個人の人権を擁護するために、人権規定は私法の一般条項(民法1条、90条等)を通じて私人間にも適用される。
第10条★
第10条(国民の要件)
日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
&趣旨
3章で国民の権利および義務を規定するにあたって、その前提として、権利義務の主体である国民の範囲を確定することが理論上必要となる。
そこで、本条は、日本国民たる要件を法律で定めることを明示している。
注解
「法律」

  1. 「法律」とは、国籍法である。

  2. 国籍の定め方には生地主義と血統主義とがある。日本の国籍法は、血統主義を採用している。したがって、血統主義からは、両親が日本国籍を持つ場合、子どもは日本国籍を取得する。他方、親の一方のみが日本国籍を持つ場合、国籍法は、両親のいずれか一方が日本国籍を有すればよいとしている(父母両系血統主義)。なお、以前は父系優先主義を採用していたが、女性差別撤廃条約を契機として父両系血統主義に変更された。

【国籍法達憲判決:最大判平20.6.4=百選INo.26】P78参照
「法10条の規定は、国籍は国家の構成員としての資格であり、国籍の得に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する必要があることから、これをどのように定めるかについて、立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。」
51
第3京
国民の権利及び義務

第11条★★
第11条(基本的人権の有)
国民は、すべての基本的人権の有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
&趣旨
本条は、第3章の「国民の権利及び義務」の総則規定として、基本的人権の普遍性、不可侵性、永久性を規定している。
注解
1. 総論
本条は、人権の不可侵性、永久性を逃べているが、そこから具体的な法的意義ないし効果を導くことは困難であると解される。
2.人権の国際的保障
第二次世界大戦以前には人権を国際的に保障する制度は構築されておらず、第一次世界大戦後に国際連盟が結成されたが、人権問題は専ら国内問題とされていた。予27-7第二次世界大戦後、国際連合において採択された世界人権営言は、国際社会における人権に関する規律の中で最も基本的な「言」であるが、法規能性を有していない。国27-7第二次世界大戦後、国際連合において採択された国際人権規約は、世界人権官言の内容を基礎として、これを条約化したものであり、法規能性を有している。¥27-7
第12条★
第12条(自由・権利の保持の責任とその濫用の禁止)
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれ
を利用する任を負ふ。
&趣旨
本条は、この法が保障する自由及び権利は「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」
(897)であることから、国民がその自由及び権利の保持に絶えず努力し、用することなく公共の福祉のために利用すべき責任を負うと定めている。
注解
1. 総論
【チャタレイ事件:最大32.3.13=百選I No.51】 P185参照
「憲法の保障する各種の基本的人権についてそれぞれに関する各条文に制限の可能性を明示していると否とにかかわりなく、法12条、13条の規定からしてその濫用が禁止せられ、公共の福祉の制限の下に立つものであり、絶対無制限のものでないことは、当裁判所がしばしば判示したところである」。
<解説>
本判決は、12条が権利・自由の制限根拠となるとみなしている(最大判昭38.5.15=百選INa.38参照)。
52

第3章 国民の権利及び義務(第11条~第13条)
2. 各論

  1. 12条は、直ちに法的効果を生ずるものではなく、意法の適用における道徳的指針ないし心構えを示すものであり、12条のみを根拠として、一定の行為を直ちに権利濫用であるとして制限することはできない(通説)。

  2. 本条は、公共の福祉を害する行為を禁じたものであり、公共の福祉を促進するように人権を行使する義務を課したものではない。

第13条 ★★★
第13条(個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉)
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、大の尊重を必要とする。
食趣旨
本条は、人間社会における価値の根源が個人にあるとし、「個人の尊重」原理を宜言し、!
方では利己主義を排し、他方では全体主義を否定するものである。すなわち、本条は個人の尊厳と人格価値の尊重を賞言したものである(最大判昭23.3.24)。
注解
1. 包括的基本権
(1) 幸福追求権
【賭博行為:最大判昭25.11.22=百選 I No.15】
「賭博行為は、一面互に自己の財物を自己の好むところに投ずるだけであって、他人の財産権をその意に反して侵害するものではなく、従って、一見各人に任された自由行為に属し罪悪と称するに足りないようにも見えるが、しかし、他面勤労その他正当な原因に因るのでなく、単なる然の事情に困り財物の獲得を幸せんと相うがごときは、国民をし
て怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風(遺法27条1項参照)を害するばかりでなく、甚だしきは呆行、脅迫、殺傷、強盗その他の副的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらあるのである」ので、「公共の福祉に反する」。
【被拘禁者の喫煙禁止:最大判昭45.9.16=百選1-A4】
P39参照
「喫煙の自由は、法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない」。
53
第3章
国民の権利及び義務

(2) 新しい人権
ア.総論
【幸福追求権の内実】
同24-1

人格的利益説
一般的行為自由説
内容
憲法13条は、個人の人格的生存に不可な人権を包括的に認めている
法13条は、広く一般的行為を行う自由(あらゆる生活領域に関する自由)を認めている
理由
①歳法13条が一般的行為を広く認めているとすると、人権のインフレ化が起こり、人権の高位の価値が相対的に低下する
②人権の固有性
①個人の人格的生存に不可な人権と限定的に解すると、人権保障の範囲が狭くなり過ぎるおそれがある団24-1
②個人の人格的生存に不可な人権であるかどうかは、抽象的相対的なものである
補足
①この説は、「新しい人権」の承認について、種々の要素を考慮して、慎重に決することを求める見解である日24-1
②この説であっても、公共の福祉による制約
③この説にいう「人格的生存に不可欠」という基準は不明確であり、喫運や髪型・趣味の自由については、論者により、人格的生
春に不可であるか否か結論が異なってい
④この説において、人格的関連性が希薄な行為については、それが人格の核を取り囲み、その人らしさを形成しているため、一定の憲法上の保護を及ぼすべきであるとされ、平等原則、比例原則の観点から、法上の問題とされる場合もある
この説は、幸福追求権の内容について「人格的生存」にとって不可欠という要件で限定しない。しかし、この説を採ることは、当該自由や権利の保障の程度という点で、「人格」との関連性を考慮することと矛盾しない。すなわち、一般的行為自由説は人格的生存に関わらない行動の自由については相対的に弱い保
辛を認め、緩やかな審査基準が妥当するとし
イ.各論同19-4(ア プライバシー権
【「宴のあと」事件:東京地判昭39.9.28=百選No.60]
正当な理由がなく他人によって私事を公開されない自由「近代法の根本理念の一つであり、また日本国憲法のよって立つところでもある個人の尊厳という思想は、料互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保護されることによってはじめて確実なものとなるのであって、そのためには、正当な理由がなく他人の私事を公開することが許されてはならないことは言うまでもない・・・。このことの片鱗はすでに成文法上にも明示されている」。
憲法上の権利性」「私事をみだりに公開されない」ということ「の尊重はもはや単に倫理的に要請されるにとどまらず、不法な侵害に対しては法的救済が与えられるまでに高められた人格的な利益であると考えるのが正当であり、それはいわゆる人格権に包摂されるものではあるけれども、なおこれを一つの権利と呼ぶことを妨げるものではない」。
侵害された場合の効果「いわゆるプライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利として理解されるから、その侵害に対しては侵害行為の差し止めや精神的苦痛に困る損害賠償請求権が認められる」。
プライバシー害とされる場合「私生活の公開とは、公開されたところが必ずしもすべて真実でなければならないものではなく、一般の人が公開された内容をもって当該私人の私
54

第3章 国民の権利及び義務(第13条)
生活であると誤認しても不合理でない程度に真実らしく受け取られるものであれば、それはなおプライバシーの侵害としてとらえることができるものと解すべきである。けだし、このような公開によっても当該私人の私生活とくに精神的平穏が害されることは、公開された内容が真実である場合とさしたる差異はないからである。むしろプライバシーの侵害は多くの場合、虚実がないまぜにされ、それが真実であるかのように受け取られることによって発生することが予想されるが、ここで重要なことは公開されたところが客観的な事実に合致するかどうか、つまり真実か否かではなく、真実らしく思われることによって当該私人が一般の好奇心の的になり、あるいは当該私人をめぐってさまざまな職測が生じるであろうことを自ら意識することによって私人が受ける精神的な不安、負担ひいては苦痛にまで至るべきものが、法の容認し難い不当なものであるか否かという点にある」。
「そうであれば、・・・プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられるためには、公開された内容が(イ私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、(口一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること、ハ一般の人々に未だ知られていないことがらであることを必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とするが、公開されたところが当該私人の名誉、信用というような他の法益を侵害するものであることを要しないのは言うまでもない。」
<解説>
プライバシーの本質は、秘置性にあるので、判旨の(口)を重視すべきである(「石に泳ぐ魚」事件:最判平14.9.24=百一Na62参照)。
公開を欲するか香かについて、二般人の感受性を基準に判断している。同23-3(¥23
第3章
国民の権利及び義務
【前科照会事件:最判昭56.4.14=百選No.17】目28-2、同1-3
<事案>
Xは訴外A自動車学校の技術指導員であったが、地位保全仮処分命令の申請により従業員たる地位が仮に定められていた。これに関し、Aの弁護士Bは弁護士法23条の2第1項に基づいてXの「前科及び犯罪歴について」京都市のC区役所に照会したところ、C区役所より道路交通法違反、業務上過失傷害、家行等の前科歴がある旨の回答を得た。そこで、
AはXに対して解屈を通告した。これに対して、Xは京都市を相手取り、名誉・プライバシー侵害を理由に損害賠償を提起した。
<判旨>
「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、借用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであって、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名
等に記載されている前科等をみたりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではない
55

が、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。本件において、原審の適法に確定したところによれば、京都弁護士会が訴外D弁護士の中山により京都市伏見区役所に照会し、同市中京区長に回付された被上告人の前科等の照会文者には、照会を必要とする事由としては、右照会文音に添付されていたD弁護士の照会申出に「中火労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあったにすぎないというのであり、このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」
<解説>
多数意見は、「プライバシー」の用語を用いておらず、前科情報がプライバシー権により保護の対象となるか明示していないが、今日の最高裁判所は、多数意見においても「プライバシー」の用語を用いている(最判平7.9.5、長良川事件報道訴訟:最判平15.3.14=百選
I Na67)®
<参考>
伊正己裁判官は補足意見として、「本件で問題とされた前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、それに関する情報への接近をきわめて困難なものとし、その秘密の保護がはかられているのもそのためである。もとより前科等も完全に秘置されるものではなく、それを公開する必要の生ずることもありうるが、公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であっても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限って公開しうるにとどまるのである。」と述べている。
【ノンフィクション「逆転」事件:最判平6.2.8=百選 INo.61】¥5-2
<事案>
Xは傷害致死及び傷害の罪で起訴され、陪審議の結果、Xは懲役3年の実刑判決を受けた。そして、Xは服役し、仮出獄し、沖縄でしばらく働いた後に上京し、都内のバス運転会社に就職し、その後、結婚したが、会社にも麦にも前科を秘匿していた。しかし、Y
は、Xの裁判の階員であったことから、自己の階審員としての経験を綴った「逆載」と題する著作を執筆し、ノンフィクション作品として高い評価を受け受賞もした。そこで、
Xは本件著作の中で実名が使用されたため、「前科にかかわる事実」が公表され、精神的苦痛を被ったことを理由にYに対して損害賠償の請求を提起した。
<判旨>
前科等に関する事実を公表されない自由「ある者が刑事事件につき被疑者とされ、さらには被告人として公訴を提起されて判決を受け、とりわけ有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは、用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりに右の前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するものというべきである」。「この理は、右の前科等にかかわる事実の公表が公的機関によるものであっても、私人又は私的団体によるものであっても変わるものではない。そして、その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有するというべきである。」
56

第3章 国民の権利及び義務(第13条)
前科等に関する事実の公表が許される場合「もっとも、ある者の前科等にかかわる事実は、他面、それが刑事事件ないし刑事裁判という社会一般の関心あるいは批判の対象となるべき事項にかかわるものであるから、事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められるような場合には、事件の当事者についても、その実名を明らかにすることが許されないとはいえない。また、その者の社会的活動の性質あるいはこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判あるいは評価の一資料として、右の前科等にかかわる事実が公表されることを受しなければならない場合もあるといわなければならない」。「さらにまた、その者が選挙によって選出される公職にある者あるいはその候補者など、社会一般の正当な関心の対象となる公的立場にある人物である場合には、その者が公職にあることの適否などの判断の一資料として右の前科等にかかわる事実が公表されたときは、これを違法というべきものではない」。
規靼「そして、ある者の前科等にかかわる事実が実名を使用して著作物で公表された場合に、以上の諸点を判断するためには、その著作物の目的、性格等に照らし、実名を使用することの意義及び必要性を併せ考えることを要するというべきである。」「要するに、前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあるのであって、ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない。なお、このように解しても、著作者の表現の自由を不当に制限するものではない。けだし、表現の自由は、十分に尊車されなければならないものであるが、常に他の基本的人権に優越するものではなく、前科等にかかわる事実を公表することが憲法の保障する表現の自由の範囲内に属するものとして不法行為責任を追求される余地がないものと解することはできないからである。」あとはめ「以上の見地から本件をみると、まず、本件事件及び本件裁判から本件著作が刊行されるまでに12年余の歳月を経過しているが、その間、被上告人が社会復帰に努め、新たな生活環境を形成していた事実に照らせば、被上告人は、その前科にかかわる事実を公表されないことにつき法的保護に値する利益を有していたことは明らかであるといわなければならない。しかも、被上告人は、地を離れて大都会の中で無名の一市民として生活していたのであって、公的立場にある人物のようにその社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として前科にかかわる事実の公表を受忍しなければならない場合ではない。」「本件著作は、陪審制度の長所ないし民主的な意義を訴え、当時のアメリカ合米国の沖縄続
治の実態を明らかにしようとすることを日的としたものであり、そのために本件事件ないしは本件裁判の内容を正確に記述する必要があったというが、その目的を考慮しても、本件事件の当事者である被告人について、その実名を明らかにする必要があったとは解されない。…・・その上、上告人自身を含む階審員については、実名を用いることなく、すべて仮名を使用しているのであって、本件事件の当事者である被上告人については特にその実名を使用しなければ本件著作の右の目的が損なわれる、と解することはできない。」結論「以上を総合して考すれば、•・・本件者作において、上告人が被上告人の実名を使
第3章
国民の権利及び義務
57

用して右の事実を公表したことを正当とするまでの理由はな」く、「不法行為責任を免れない」。
<解説>
本判決は、「プライバシー」という用語の使用を避けている。
【「石に泳ぐ魚」事件:最判平14.9.24=百選 INo.62】
<事案>
Xは、発行の月刊誌に掲載されたA執筆の小説、「石に泳ぐ魚」中の登場人物である「朴里花」に付与された人物像、すなわち、①顔面に現れた完治の見込みのない腫瘍、②父の日本国外におけるスパイ容疑での逮捕歴、③高額の寄付を募る新興宗教団体への入などのうち、①、②は自らの属性と同じであり、「朴里花」なる人物モデルはXであること、
③は虚構であり、結果、XはYによりプライバシー、名誉、名誉感情を侵害されたとして、
Yに対し損害賠償、小説の出版差止めを求めた。
<判旨>
損害賠償請求について「本件小説中の「J』と被上告人とは容易に同定可能であり、本件小説の公表により、被上告人の名誉が毀損され、プライバシー及び名誉感情が侵害されたものと認められ」、また、「本件小説の公表により、被上告人は精神的苦痛を被ったものと認められ」るとして、数判所はYの損害賠償支払義務を認めた。
差止め請求について「人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は特来生すべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。」
あてはめ「被上告人は、大学院生にすぎず公的立場にある者ではなく、また、本件小説において問題とされている表現内容は、公共の利害に関する事項でもない。さらに、本件小説の出版等がされれば、被上告人の神的苦痛が倍加され、被上告人が平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるおそれがある。そして、本件小説を読む者が新たに加わるごとに、被上告人の精神的苦痛が増加し、被上告人の平穏な日常生活が害される可能性も増大するもので、出版等による公表を差し止める必要性は極めて大きい」といえ、「本件小説の出版等の差止め請求は肯認されるべきである。」「原審の確定した事実関係によれば、・・・本件小説の出版等により被上告人に重大で回復
難な損害を被らせるおそれがあるというべきである。したがって、人格権としての名誉権等に基づく被上告人の各請求を認容した判断に違法はなく、この判断が憲法21条1項に違するものでないことは、・・・明らかである。」
<解説)
本件小説のモデルはただの一般人であるが、Xを知る読者が少数であるとしても小説を読んでXを特定でき、さらに作中人物の言動などとXのそれとを結び付けることができる者がいるのであれば、権利侵害の問題となり得る。
58

第3章 国民の権利及び義務(第13条)
【長良川事件報道訴訟:最判平15.3.14=百選 INo.67】
〈事案〉
Xは殺人、強盗殺人、死体遺棄等により起訴された、時18歳の刑事被告人である。その裁判の最中、出版社は仮名を用いて、✕の法廷での様子、犯行態様の一部、経歴や交友関係等を雑誌に掲載した。そこで、XはかかるYの記事が少年法61条の禁止する推知報道に当たるとして、女に対し損害賠償請求訴訟を提起した。
<参照条文)
少年法61条は「家庭裁判所の審判に付された少年は少年のときした罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ほう等によりその者が当該事件の本人であることを推することができるような記事又は写真を新開紙その他の出版物に掲載してはならない。」と規定している。
<判旨>
記事の掲載行為と名誉毀損・プライバシー侵害の有無「本件記事に記載された犯人情報及び
履歴情報は、いずれも被上告人の名誉を毀損する情報であり、また、他人にみだりに知られたくない被上告人のプライバシーに属する情報であるというべきである。そして、被上告人と面識があり、又は犯人情報あるいは被上告人の歴情報を知る者は、その知識を手がかりに本件記事が被上告人に関する記事であると推知することが可能であり、本件記事の読者の中にこれらの者が存在した可能性を否定することはできない。そして、これらの読者の中に、本件記事を読んで初めて、被上告人についてのそれまで知っていた以上の狙人情報や履歴情報を知った者がいた可能性も否定することはできない。」「したがって、上告人の本件記事の掲載行為は、被上告人の名誉を毀損し、プライバシーを侵害するものであるとした原審の判断は、その限りにおいて是認することができる。」少年法61条の推知報道に当たるか「なお、少年法61条に違反する推知報道かどうかは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべきところ、本件記事は、被上告人について、当時の実名と類似する仮名が用いられ、その経歴等が記載されているものの、被上告人と特定するに足りる事項の記載はないから、被上告人と面談等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、被上告人が当該事件の本人であることを推知することができるとはいえない。したがって、本件記事は、少年法61条の規定に違反するものではない。」回27-4、回5-3不法行為の成否「ところで、本件記事が被上告人の名誉を毀損し、プライバシーを侵害する内容を含むものとしても、本件記事の掲載によって上告人に不法行為が成立するか否かは、被害利益ごとに違法性阻却事由の有無等を審理し、個別具体的に判断すべきものである。すなわち、名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるとき、又は真実であることの証明がなくても、行為者がそれを真実とずるについて相当の理由があるときは、不法行為は成立しないのであるから
・・、本件においても、これらの点を個別具体的に検討することが必要である。また、プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するのであるから・・・、本件記事が週刊誌に掲載された当時の被上告人の年齢や社会的地位、当該犯罪行為の内容、これらが公表されることによって被上告人のプライバシーに属する情報が伝達される範囲と被上告人が被る具体的被害の程度、本件記事の日的や意義、公表時の社会的状況、本件記事に
第3章
国民の権利及び義務
59

おいて当設情報を公表する必要性など、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要である。」
<解説>

  1. 社会的に耳日を集める事件については、その背景や家庭環境などの報道や分析が重要であることから、身推知性を緩やかに認定することは、少年犯罪についての報道自体を著しく制約する。

  2. 成人については、時事的報道の時点では表現の自由が優越し犯罪者の社会復帰の利益は、自己が公共の関心を呼び起こした帰責性を理由に、犯罪者の社会復帰の利益が譲歩する。
    他方、少年の場合には、やり直しがききやすい子供が健全に成長発展するためにある程度の特別扱いが政策的にも求められていることに加え、報道原因となった自己の帰責性についても、触法精神障害者の場合と同様、通常の成人による犯罪とは違った評価の余地がある。

  3. 本件の問題の核心は、本人を特定する報道が犯罪に関する問題を公共的に論ずるために必要かどうかという点にある。

  4. 差戻控訴審は、仮名報道が凶悪かつ残忍で重大な犯罪事実に関するものであることを重視して、不法行為の成立を否定した。
    【江沢民早大講演会事件:最判平15.9.12=百選I No.18】

司23-3(予23-1)
<事案>
D大学において江沢民中華人民共和国国家主席(当時)の講演会を開催するに先立ち、参加者の学籍番号・氏名・住所・電話番号を記入した名簿の写しを視庁の要請に応じて提出したところ、当時同大学の学生✕(本件上告人)はプライバシー侵害を理由に同大学に対し損害賠償請求を提訴した。
<判旨>
学籍番号・氏名・住所・電話番号を秘匿される利益は法的保護の対象となるか「本件個人情報は、D大学が重要な外国国資講演会への出席希望者をあらかじめ把握するため、学生に提供を求めたものであるところ、学籍番号、氏名、住所及び話番号は、D大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。」同3-2
あてはめ「このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。本件
講演会の主催者として参加者を募る際に上告人らの本件個人情報を収集したD大学は、上告人らの意思に基づかずにみたりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ、同大学が本件個人情報を察に開示することをあらかじめ明示した上で本件
講演会参加希望者に本件名簿へ記入させるなどして開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ、それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては、本件個人情報を開示することについて上告人らの同意を得る手続を執ることなく、上
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