追放殿下は隣国で、セカンドライフをおくります! 〜セルフ追放されてやった元王太子の、ケモミミもふっ子と送る王族じゃできない10の事〜【漫画原作脚本】 第二話

場所:森の中。

アルド(何でこんな所に獣人が……? いや、それよりも)

 目前の敵を見て。

アルド(強いな、この魔獣。レングラムほどではないけど)

 手がビリビリと少ししびれている。

アルド(王太子である俺に剣を仕込んだ騎士団長、レングラム。俺の事を思ってだって事は分かってても、あの人の修行は厳しかったからな。子ども相手にも手を抜かないから、グリントなんて途中から剣の鍛錬に出なくなったくらいだし。でもまぁ)

 目の前を見れば、どう猛な牙をむき出しにした四匹の獣たち。
 クマよりも大きく狼のような風貌。

アルド(だから今こうして手がしびれてても、剣を握っていられるわけだ)

 敵が「グァウッ!」と吠えながら、こっちに向かって飛び掛かってくる。
 向かってくる鋭い爪を剣で往なしながら、相手の動きを観察する。

アルド(レングラムが言ってたっけ。『一撃から手がしびれた状態で尚訓練を続けるのは、ベストじゃない状況下でも剣を振る事ができるようにするためだ』って)

 腕に一撃食らわせたが、魔獣はかたく傷はつけられていない。

アルド(今回は後ろに守るべきものも背負ってるんだし)

 自分の中の力を練り上げ、まるで膜の張る様にそれを剣へと這わせる。

アルド「なるべく早く――片付ける!」

 地を蹴って敵に急接近、こちらから攻撃を仕掛ける。

 魔力を伴った斬撃は、今度は魔獣の固い皮膚を斬った。
 最初の一匹が断末魔が聞こえ倒れる中、二匹目にも一太刀浴びせる。
 すると傷を負った二匹目共々、後の二匹も警戒心を抱いて距離を取る。

アルド(強い相手を警戒する知能はある。しかもこの魔力。もしかしてコイツラ)

 魔獣たちの足元から、氷がベキベキと音を立てながら這ってくる。

アルド(魔法特性……やっぱりこいつら、希少種か)

 飛んできた氷のつぶてを剣で叩き落す。

アルド(魔獣の中でも魔法が使える特異体。俺が得意とする火に弱い氷の魔法が相手だから、敵としてはまだマシだけど)

アルド「こんな所で火を使ったら、下手をしたら山火事だ。できれば使いたくないんだけど」

 次に生成された氷のつぶては、明らかに数が増えている。
 後ろにある庇うべきものの存在をチラリと確認して。

アルド「はー、仕方がないか。魔法制御、苦手なんだけどな」

 飛んでくる氷たちは、3匹分で計20弱。
 それを真っ直ぐ見据えるアルド。

アルド(イメージは、火の壁だ。それを一閃した刃の切っ先に『置いてくる』)

 飛んでくる、氷のつぶてたち。

アルド「『火よ退《しりぞ》けよ』」

 瞬間、空を払った俺の剣の切っ先――自分と魔獣の間の場所に高密度の炎が高く立ち上がり、盾となって飛んできていた氷がすべてそこで蒸発した。
 が、炎はすぐに下火になる。

アルド「『火よ』」

 自分の魔法を剣に這わせながら、下火になった火の壁を突っ切り、突然の炎に怯んだ敵たちの懐へと入る。
 敵影に一撃、二撃。敵の首を切り落とす。

アルド「特異体には、対属性魔法を付与した剣の方が効く。始めてやったけど、レングラムの言う通りだったな」

 ズシンという音を立てながら倒れる魔獣たち。
 しかし一拍遅れて、周りの木々にも剣に纏わせていた火が燃え移っていた。

アルド「あー……」
アルド(苦手なんだよなぁー、剣と魔法を両立させるの。レングラムは、よくあんなに普通の事みたいにやってのけるけど)

 流石は騎士団長、と言いながら頭を掻きつつ。

アルド「風よ」

 剣に風の魔法を這わせて、円を描くように周りを剣でひとなぎ。
 まずは燃えている範囲の木々をスパンッと切る。
 それが地につく前に次の魔法。

アルド「風よ」

 地面に落ちる前にすべてを更に切り刻み、おがくずみたいになったそれの上から。

アルド「水よ」

 水を落として鎮火させた。
 お陰で周りに燃え移りはもうない。

アルド「よし」

 頷いて、剣を鞘に納めながらクルリと踵を返し、背中に守っていた子に目を向ける。

 驚いたように目を見開いていた少女は、アルドの視線に気がつくとビクッと震えて耳を伏せ体を丸める。

アルド(警戒してるか。まぁこんな小さい子だし、彼女の場合、訳アリだ。色々と仕方がないとは思うけど) 

アルド「怪我は……っと」

 ゆっくりと彼女の前にしゃがみ込んで気がついた。

アルド「擦りむいてるな」
アルド「実はちょっと悩んだんだけど、王都で馬車に乗る前に携帯食と一緒に買っておいてよかったよ」

 肩に下げていたカバンを開け、青い液体が入った小さな小瓶を出す。

アルド「とりあえずこのポーションな」
 
 蓋を開けてやってから渡してやれば、彼女は不思議そうにそれを見つけた。

アルド「飲むんだよ。それで痛いのは大抵消える」

 飲む真似をしながらアルドが言えば、ためらいがちに瓶に口をつける。

 彼女の体がボウっと光り、手足についていた擦り傷がすべて消える。
 少女は驚いた顔で手をワキワキと動かし始める。

アルド(もしかして、ポーションを飲んだのは初めてなのか? 作れない人間は買わないといけないけど、低級なら安いし、平民でも飲むのはそう珍しい事じゃないってシンが言ってたけど……いや、少なくともここでは姿を隠して生活しないといけないもんな、獣人じゃあ)

アルド「ところで親はどうした? どこかに隠れてるのか? だったらそこまで連れていくけど」

 黄金色の獣耳を頭にペタンと伏せていた少女が、肩をビクリと震わせてから、絶望を映した薄紫色の瞳でアルドを見上げる。

少女「クイナ、お母さんとの約束破っちゃったの。だから人間に、鍋にして食べちゃう……?」
アルド「は?」

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