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風の記憶


小さな港町の空で赤い傘に会った
『何してるの?一緒に遊ぼうよ』
『買ってくれたばかりなのに、女の子が強い風にあおられて手を離してしまったの』
悲しそうだったから、僕は小さな竜巻になって赤い傘を女の子の家の金木犀にふんわりと下ろしてあげた
『ありがとう』
傘と女の子は同時に言った

雨も止んで気持ちよく空を駆けているとタンポポの綿毛がやってきた
『なにしてるの?一緒に遊ぼうよ』
『私は何処までも遠くへ行きたいの』
『遊んでくれたら遠くまで連れて行ってあげる』
しばらく綿毛は楽しそうにクルクル回っていたが
とうとう目が回って落ちていった
そこは、仲間のタンポポがたくさん咲いていた
『ありがとう』
地上のタンポポも笑ってる

吊り橋は強い風で左右に揺れていた
足を踏み外した男の子が橋にぶら下がっている
手には妹のために摘んだタンポポの花が握られていた
町の大人たちが伸ばした手から
男の子の手はすり抜けた
瞬間
僕は橋の下から思い切り男の子に体当たりした
男の子はお母さんの手に戻った
皆が奇跡だと叫んでいた

空高くゆっくりと白い雲が流れていく

『君は勇敢だね そしてやさしい』
風の精が声をかけてきた
『これからやってくる黒雲はこの町を消滅させてしまうんだよ。たくさんの雨を降らせて、川をあふれさせ、やがては皆海に帰ってしまう。私にはどうしようもできないんだ』

向こうから大きな真っ黒い雲がやってきていた






















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