色褪せる夏

セミの鳴く青空

彼女がトンネルを抜けると、閑散とした古びた村が広がっていた。
駆け寄れば届く距離に彼はいた。
さらっと会釈する彼と、深々とお辞儀をする彼女。
言葉を交わすより先に二人は南へ歩を進めた。
川を渡り、森を抜け、日を跨ぐ。
彼がぽとりと言葉を垂らせば、くすりと笑う彼女がいた。

何度夜を迎えたのか、いつかの日が沈む頃。
家屋を隙間を縫い進み、かのトンネルにたどり着いた。
彼はふらっと手を振って、彼女はまた深々とお辞儀をして、
濃い暗闇を潜り抜けた。

彼女はトンネルの先に手紙を置いて、
夏と共に去っていった。

『彼は 生きてたよ』


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