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民法Ⅰ 29 取消しと登記

1 Xは前提として、Bの詐欺により、8月28日にXB間の売買契約を取り消した(民法「以下、法令名省略する」96条、120条、121条)。そのことから、土地甲の所有権はXに戻り、同月30日にBからYに土地甲の所有権移転登記が経由されている。以上を鑑み、Xは、Yに対し、所有権(206条)に基づく妨害排除請求権としての所有権移転抹消請求権を請求することができるか。

 他方で、Yは、Xの請求の反論として、当該請求が認められるには、①Xに所有権があること、②Yに登記が移転していることが必要である。しかし、XB間の売買契約(555条)がなされ、所有権が移転している。そのため、Xは、①の要件を充足していないとの反論が考えられる。

2⑴ Xは、Yの反論に対し、本件契約について詐欺を理由に取り消していることから(96条1項、120条)、本件契約が遡及的に無効となり(121条)、①の要件は充足するとの主張が考えられる。

   他方で、Yは、Xのこの主張に対し、自身が96条3項の「第三者」に該当するため、Xは対抗することができないとの反論が考えられる。

   ここで、Yが96条3項の「第三者」に該当するかが問題となる。

 ⑵ 96条3項の趣旨は、取消しの遡及効を制限することにより、特に害される第三者を保護する点にある。そうだとすれば、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で詐欺による法律行為に基づいて取得させた権利について新たに独立の法律上の利害関係に入った者をいう。すなわち、取消前の第三者と解する。

 ⑶ 本件では、まず、Yは、XB間の契約の関係者でないし、相続も発生していないことから、当事者及び包括承継人以外の者である。次に、Xが本件契約を取り消したのは8月28日であり、YとBの売買契約は8月30日である。そのため、Yは、取消し後の第三者にあたる。

⑷ したがって、Yは96条3項の第三者に該当しない。

⑸ そのため、①の要件が充足されるように思える。

3⑴ そこで、Yは、177条の「第三者」に該当することから、Xは前記所有権の復帰によって、Yに対することができないとの反論が考えられる。

   ここで、Xは、詐欺の取消による所有権復帰を取消後の第三者に主張するために登記を要するか否かが問題になる。

 ⑵ 96条3項の第三者は、取消前に取引をするか、取消後に取引をするかは偶然の事情であるから、取消後の第三者も保護に値する場合がある。取消の遡及効は法的な擬制に過ぎない。実質的には、取消によって復帰的物権変動が観念でき、意思表示の相手方を中心とした二重譲渡類似の関係にあると考えることができる。また、詐欺による意思表示を取り消した者は、取消後速やかに登記を戻すべきである。

   したがって、取消後の第三者と詐欺による意思表示を取消した者は対抗関係に立ち、第三者は、登記を備えた場合に権利を取消権者に優先すると解する(177条)

   また、この第三者は、不動産取引について善意者、悪意者どちらも正当な利益を有する者に該当する。なぜなら、善意者、悪意者は自由競争の枠内にいるため認められる。そのため、背信的悪意者はその自由競争内の枠外にいるため正当な利益を持つ者に該当しない。

⑶ 本件では、Yは取消後の第三者にあたり、8月30日にBからYへ所有権移転時をしている。他方で、Xは8月28日後にBに対し、抹消登記手続等の事実はない。そのため、Xは登記を備えておらず、取消後の第三者に所有権の復帰を対抗できない。

4 よって、Xは、Yとの関係で①を充足しないので、Xは当該請求をすることができない。


以上






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