やりきれないフェチの話。

これもまた昔話です。今から30年近く前、デパートメントHが渋谷のOn Air Westで開催されていた頃です。
いつもは有名な縄師さんのお手伝いで参加していましたが、この日は誰かから頼まれて緊縛ショーではなく、ラバーフェチイベントのお手伝いとして参加していました。

まぁもう目のやり場に困るようなラバーの衣装。衣装はピッチピチだし女性の身体の線は出るし、下着無しで直接身にまとっているので諸々透けてというか、まぁ見えちゃうわけです。
そんな刺激的な会場の中、明らかに風情が違う方がおりました。

どう見ても普通の雨合羽。近くで見るとゴム地が厚め。年齢は70を超えている男性の方。上半身裸に雨合羽を羽織り、顔はじっとりと汗をかいていました。ステージでのショーに合わせて観客が盛り上がるなか、その人は動くでも無くショーを見つめるだけでした。

ステージから人が捌けてまた参加者同士が楽しそうに会話を楽しむ中、その人はその場に佇むだけで誰とも会話を交わしていませんでした。お手伝いでありましたが、その人に興味を持った私は話しかけてみました。
「こんばんは。ここのお手伝い出来ている者です。今日は何でこれを知ったのですか?」
「はい、エロ本にこれの紹介記事があって、調べたら今日はゴムの日だと判ったので来てみました。」
「ラバー、お好きなんですか?」
「好きというか・・・これが凄く興奮するので。」

「何かきっかけでも?」
「私、学徒動員で南方の島に行っていたんです。密林で戦闘するのに草むらに隠れて敵が来るのを待つんですが、向こうは毒虫がいて、半袖でいたら刺されて下手をすると死んでしまうし、長そででも針が鋭いので刺されてしまうんです。急な豪雨とかに耐えられるよう雨合羽は厚手で丈夫なので、それを羽織って草むらに隠れるのが普通なんです。でも、蒸し暑いし軍服とか着ていられないので裸に雨合羽を羽織るようにしたんです。敵はいつ来るかわからない、こちらが襲っても逆襲されて死んでしまうかもしれない。湿気が多くて雨合羽が肌にべったりと纏わりつく。そんな異常な中で、何故かすごく興奮してしまって・・・」
「幸い、生き延びて日本に帰ってきてもあの時の肌にべったりと雨合羽がまとわりつく感覚が忘れらず、妻に隠れてこっそりと裸に雨合羽を纏って興奮を思い出していたんです。たまたまさっき話したエロ本の記事でこうした集まりがあると判ったので、ここなら自分の異常な感覚や興奮を隠さなくていいと思い、来てみたんです。」

全く想像もしなかった参加理由でした。
言ってみれば、生死の有無もわからない。敵に見つかって殺される前に毒虫、毒蛇にやられる危険がある。敵に見つかっても殺される。
そうした異常な中で覚えてしまったアブノーマルな性的興奮。
人間の種の保存本能から起こった性的興奮であったとしても残酷な快感を植え付けるものだと思ったものでした。

他のスタッフに呼ばれたため、お礼を言ってその場を離れ、少し経って戻ってきた時にはその方はいなくなっていました。
戦地に行かなければ覚えなかったであろう特殊な興奮。知ってしまったことが悲劇なのか否かはわかりません。
でも、知らなくても良い、知らなくても生きて行けることを考えると、知らなくても良かったんじゃないかと今でも思います。

追記
この方は時代として強制的に仕方なく。ということでした。
しかし、言葉巧みに、しかも無責任にアブノーマルな行為を礼贊し、自分の快感、快楽のためにその世界に引きずり込もうとする人間がが一定数いる。知らなくても良いことを教え、不幸に導く。
そうした現状とこういう連中に怒りを覚える私であります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?