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シーズン5:第12話 愛のために Never My Love

本エピソードの脚本、制作陣は本当に見事な仕事をしたと思う。拉致されたクレアは酷い暴力を受けるのだけど、ドラマの視聴者は圧倒的に女性が多く、レイプ被害に遭っている人もいるかも知れない。原作通りに映像化するのはかなり厳しいものがあったと思うのですが、そこをクレアの脳内に創り出された「セーフハウス」を登場させることで、空想世界と断片的な事件の記憶を交互に映し出し、暴力の描写を抑え、クレアの心情を視聴者に伝えることに成功しています。

原作ではクレアが強すぎて、ドン引きしてしまいましたので、私はドラマの演出の方が繊細で好きです。(笑)それに「セーフハウス」の映像は60年代の家庭風で、クレアの家族の衣装もその年代の服装になっていますが、ジェイミーはさほど変わらない服装。ちなみに、タイトルの “Never My Love” は部屋にながれている音楽。

「セーフハウス」にある物はドラマ『アウトランダー』を象徴するものになっています。クレアの赤いワンピースはシーズン2のレッドドレス、ジェイミーがクレアを包むのはもちろんフレイザーのタータン。ジャーメインが遊ぶ玩具はトンボだから、”Dragonfly in Amber” から。クラシックな陶器やグラス・ワインボトルはシーズン2のイメージ?ビッグハウスの絵もあるし、後からクレアがオレンジを手に取るシーンも。オレンジといえばシーズン2の国王とのシーンですよね。クレアが森でウサギの幻を見るところも、シーズン3冒頭のカローデンで瀕死のジェイミーが見たものと同じだったり。それにジェイミーが “Don’t be afraid. Just two of us now.” とクレアに言うセリフはシーズン1から。

クレアが拉致されたのは、Dr.ローリングスの名で新聞に掲載された記事を実行に移している女性たちに夫を拒まないよう、記事がデタラメだとクレアに謝罪させるためでした。(理由が原作とは全く違う)診療室の道具箱を見ただけでそんなことを見抜いたライオネルにちょっとびっくり。連れの男たちは皆、Dr.ローリングスの記事に憤慨しているということで、クレアは手荒に扱われます。負けていないクレアが相手をののしるのを聞いた信心深いテビは「魔女に呪われる」と恐れ、彼女を助けようとするのだけど、実際にはクレアが言った通り、「私に手を触れたら全員死ぬ」事態になるところがシュールです。

クレアと同じ時代から来たらしいドナーはどこに行ったのだろう。クレアの助けが欲しいはずなのに。ここは次のシーズンに続くポイント。

元の世界に戻ったはずのブリアナとロジャーが石を通っただけで、元の場所と時間に目覚めるのも不思議。この理由は後のシーズンで明かされるのかな?リッジに戻る途中で燃ゆる十字架に気付き、一行は急いでリッジに帰ります。

リッジの男たちを集め、戦いの準備をして出発するジェイミー。キルトを身にまとい、ハイランド人の戦闘装束で鋭い眼光がカッコイイ!そしてもう一つ、私が好きなのはイアンも又、モホーク族のヘッド・ペインティングで戦いの準備をするところ。彼が優秀な戦士に成長しているのがわかるシーン。

リッジの男たちがブラウンの手勢を襲うシーンはカッコ良くてシビれる。ロジャーも遂に人に手を掛けた。そして救出されるクレア。あまりの姿を見てショックを受けるジェイミー、そして彼女の匂いで暴行を悟った彼が「何人だ?」と訊き、「わからない」とクレアが答え、”Kill Them All.” とジェイミーが全員の殺害を命じるところもシビれるシーン。クレアが不殺傷の誓いに縛られるため、彼女の代わりに殺すのは俺だとジェイミーが言い、それに続けて、イアンとファーガスも自らが代わりに手を下すと続くシーンも好き。

リッジに戻ったクレアを抱きしめるブリアナ、そして瞳で通じ合うマーサリとクレアの抱擁はジンとくる。クレアの入浴を手伝うブリアナだけど、今の母を簡単に救うことはできないと悟りながら1人にしてあげるシーンも好き。クレアの苦悩が素晴らしい演技で伝わる。

この後の各シーンは原作のシーンからそのテイストを切り出して繋いでいる感じで、短時間に多くを詰め込み過ぎな印象。

クレアが寝室で吐露する苦悩の強がり大セリフは見せ場なのにすぐに場面転換してしまうし、ブリアナとロジャーのシーンは無理に尺の無い中で投入しなくてもいいのじゃないかとか。ジェイミーがブラウンの死体をブラウンズヴィルにたった1人で運ぶのはあまりに無謀だし、こんな時に往復で1週間近くもクレアを1人にしないでしょ、と思うし。最期の2人の寝室のシーンは「君は勇敢だ」だけでは説明不足に感じるし。

そんな中で、「俺が君から離れるとき、最期の言葉が愛してるじゃなくても、言う暇がなかったと思って欲しい」とクレアに言葉をかけるジェイミーのシーンはグッときます。嵐がやってきそうな空模様がシーズン6を予感させるエンディング。


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