第1回勉強会(2020.10.19)より 第3話

(勉強会の議論を連載していきます)

宇宙産業に向かう大学生
第一回目の勉強会の三人目のスピーカーは東京理科大学の学生Hさんだ。東京理科大学では、文科省から専用予算を受け「宇宙教育プログラム」という1年間の特別授業を行っている。東京理科大学の学生だけでなく、学外からも応募できる。異なるバックグラウンドの学生が集まり1年間共に学ぶ。講師は宇宙に関する様々なフィールドで活躍している学内外の人たちだ。Hさんはこのプログラムを受講し、受講後も翌年以降の受講生のサポートをしている。また宇宙に関わるサークル活動に参加し、その活動で宇宙建築賞というコンペティションにチャレンジしたこともある。火星居住施設と農場施設を合わせて設置し炭素循環を実現させるというものだが、そのようなアイディアはまさに地上で役立つように思う。
そんなHさんが、投資家向けの勉強会で話をしようと思ったのは2つ大きな理由があった。ひとつは彼が今、建築学科に在学中でありながら子供に宇宙教育を行う“起業”をはじめるところであったこと、もうひとつはこれまで宇宙に関わってきて、30年後、50年後を考えた宇宙開発にどうして投資が難しいのかという想いを持っていたからだ。

木組みの研究
Hくんは建築学科に所属し卒論のテーマとして木組みを選んだ。宇宙を学び起業をする一方で日本の神社仏閣を作る伝統的な技法について研究をしていると聞くと驚くかもしれない。しかし木組みというのは釘や金具を用いず、木の組み合わせだけで互いにかかる力をうまく制御しており、Hくんはそれが宇宙での建築にも役立つのではないかと考えている。たとえば月面で構造物をつくるためには、地球から運ぶのではなく宇宙で手にはいるもの(例えば月面の砂を使ったコンクリートなど)を用いる必要がある。そしてその資源の利用は持続可能な循環を考えなければならない。次に作業が安全である必要がある。そうすると「単一の材料で簡便に構造を組み上げることができ、しなやかでありながらも組み替えや解体が可能な構造を実現する木組みの技術は、3Dプリント技術との掛け合わせや他材料への応用により宇宙分野で欠かせない技術になる」と考えている。
 生まれた時にはモバイルが普及していたHくんの世代にとって、宇宙開発は身近になっている。特に気象衛星や測位衛星、観測衛星は、自分たちの生活を変えたもので、なくてはならないと理解している。
「気象衛星は天気予報の精度だけでなく災害、洪水、台風の予想精度が上がり防災・減災の観点からも価値のある技術だと思います。また測位衛星については、我々日本人が頼っているGPSは、これがあることで成り立っている製品、 サービスなどビジネス的な価値を生み出しています。そして地球観測衛星による衛星画像を身近なアプリでも見られるようになり、他の国が何かしていないか監視できる様になって戦争などの抑止に貢献していると思います。今回のコロナウイルスが世の中を変えた時、衛星画像をAIと掛け合わせて解析を行った情報が公開され、人々の動きや状況を宇宙から広域的に観測できています。そしてまだ実現されていないのですが、閉鎖空間において持続可能な生活を維持することについて宇宙分野は様々な取り組みが行われています。たとえばISSでは微小重力であるため、自分が吐いた息が自分の周りに留まり窒息しないよう空気の循環の技術が優れています」と、Hさんは自身の年齢の倍ぐらいの年代の投資家に丁寧に説明した。

宇宙が地上の問題を解決する・・・宇宙投資の価値
Hさんは投資家にもっと宇宙開発の価値を評価して欲しいと考えている。それは宇宙開発という一分野にとどまらず、地上で我々が抱えている様々な問題の解決に繋がると思うからだ。新たなリソースという面だけでなく、地上と異なる環境である為にできること、例えば重力がない中では、歩行に困難がある人もそれをディスアドバンテージとすることもなく活動できるだろう。多くの宇宙飛行士が同じことを指摘したように、国境のない宇宙空間から地球をみることで、気候変動をはじめとした環境問題、食料問題など個々の国だけで解決できない問題に対し、新たな解決策を探ることができるのではないかと考えている。
また世の中が宇宙に投資することのリターンを議論していることに対し、Hくんは自分たちの将来にとって宇宙は必要だとシンプルに感じている。人がまだ知らない、開拓されていないところに向かっていくのは、人類が成長することに対する本能であり、必然だと思っているからだ。それに伴う科学技術の発展だけでなく無限の資源もある。そういう探究をやめてしまうことは、人間としての追求をやめてしまうことと同じように思える。
ところがそのような無限の可能性に立ち塞がっているのが、スペースデブリ(宇宙ゴミ)だ。地球のまわりには過去に打ち上げた衛星や事故によって無数のゴミが漂っている。正確には漂っているのではなく、地球の自転にあわせピストルの10倍の速度で周回している。これらは、衛星の安全を脅かすだけでなく、下手をすると今後誰も安全に宇宙にでていけない環境にしてしまうかもしれない。次から次へと新しい衛星は打ち上げられ、ますます測位衛星がある前提で様々なサービスや事業が提供されているのに、今まだ明確な対応策も解決策もない。今や宇宙に関することは誰もが影響をうけ、将来に責任を負う時代であり、Hくんはもっと多くの事業や投資の意思決定をしている人に宇宙のことを知って欲しい、そして将来どうあるべきか一緒に取り組んで欲しいと考えている。卒論を抱えるなかでHくんが宇宙教育の起業を思い立ったのも、今は教育が最も重要と考えた為だ。

月は誰のものか?
それまで聞いていた参加者の一人がこんなことを聞いた。「こんなことを考えながら聞いていました。月は誰のものでしょうか?」そして言い直した「あるいは誰のため・・・という言い方が良いのかもしれません。昔の話ですが、ある時世界中が累積債務に苦しみ、ある人が言ったんです。“南極は誰のものか?あそこには資源が山のようにある。それを担保にしたら、今地球上でおきている債務問題はほとんど解決する”と。月にもおそらく様々な資源がある、物理的な資源だけでなく知の探究においても、それをどうやって一緒に開拓し広げていくか、ということだと思うのですが、一方で地上での戦いを月にまで持っていくのか、 というような雰囲気もあります。さて月は、どういう形で我々人類が、関わっていくべきでしょうか?」
実際今、月の利用等については法律面などを含む専門家が世界中から集い議論が行われている。月の利用を行う時代が迫る中、Hさんはどのような議論が行われていても、(各国ベースではなく)人類として、地球全体にとっての月の活用を考え、人類が進出し生存でき、活用できる環境として考えていって欲しいと述べた。それを通し、世界平和について考えたいし、そういう考え方を自分たちより次の世代に伝えていきたいそうだ。
H君の世代が年金を受け取る年になるまで40年、或いは50年ある。半世紀あれば国境もかわるかもしれない。そのような中で本当の意味でのリターンのある投資とは何だろうか?その頃人類は平和に月を有効利用し、人類の経済圏を拡大できているだろうか。そのように考えたとき投資家はどのように投資判断を行うべきだろうか。


#宇宙投資 #宇宙投資の会

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