関東美修会 ~Les Enfant Terrible~ 華の章 序章

東京、新宿。
かつて化け物どもが徘徊するとされていた時間、午前2時。
眠らない街が、終わらない享楽に溺れ、
誰もがその瞬間を、後の日々の慰みとする街、時間。

月も風も無い、澄みやかな夜空の下、
「彼」は確かにそこに居た。
闇から生まれ落ちたかの様に、忽然と。
しかし、始めからその場に居た様でもあった。

薄汚れた黒いニット帽に、長くなった漆黒の髪。
整然とした軍服の様なジャケット。
鍛え上げられた下半身を、不釣り合いな細いシルエットのパンツに包み、
悠然とその場に。

そして、その全身は無数のTATOOに彩られている。
さりげなく異形の様であり、さりげなく普通の様でもある。
爽やかな微笑を浮かべながら。

世界でも有数の歓楽街となった新宿の夜。
「彼」は薄汚れた路地裏に居た。
華々しい光に溢れた表の顔ではない、
舞台裏の奈落の様な、そんな路地裏に。

「モンスーン(季節風)」
この街の雰囲気の様な、冗談めいた軽い口調、しかし、その瞳は鋭利な眼光を湛えている。
軽々しく触れたのであれば、物体すらも切り刻む様ですらあった。
笑顔とも、侮蔑とも見える様な、アイマイな表情。

「今はまだ、取るに足らない」
「がしかし、このまま行けば、」
「厄介な事になる、な。」

その刹那、「彼」は瞬時に、寸分の狂いも無く、
全く同じ3人の「彼」になる。
しかし、次の瞬間には、また「彼」一人。

その動きは、予定されていた調和の様にも、
全く予想すら出来ない、異質な現象の様にも。

「さて、微風なのか、それとも(季節風)なのか?」
「彼」は虚空に問いかける。
その眼光は、戻らない答えを待ち続けている。

「滾らせてくれるのか、否か?」

「お手並み拝見と行こう」

足早に去り行く彼の足下は、まるで古いTVの様なチラツキ、
ノイズが走っていた。

無かったハズの風が「彼」の足下にのみ、小さなウズを巻く。

そして、忽然と。
生まれ出た闇へ、また、還る。

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