藤井二冠の「4一銀」に見る囲碁の知名度とスポンサーの話
非常に生々しい題名ですが、囲碁を知らない人も知っている人も是非読んでもらいたいお話です。
なお、囲碁普及関係者は例外。とにかく読んで、現実と向き合わなければいけない。
レベルが10級の人間が思う、囲碁の知名度とスポンサーの話をここにつらつらと書いていく。
1.将棋界の激震
のっけから恐縮だが、自分は観る将である。将棋の対局の観戦が好きだ。囲碁好きには申し訳ないが、4/8は囲碁の十段戦ではなく、将棋の名人戦の方を見ていたくらいだ(斎藤先生の粘りの逆転劇を見て感動していた)。
指す腕前はというと……そっとしておいてほしい。
(囲碁以上にへっぽこである。ちなみに四間飛車一本の振り飛車党)
さて、最近の将棋界のビックイベントはというと、やはり藤井二冠の
「4一銀」
だろう。
この4一銀がでた対局が、将棋大賞の名局賞 特別賞を授与したことからこの対局のインパクトが分かるだろう。
しかも、2021/3/24に行われた対局が2021/4/1の将棋大賞の名局賞 特別賞を受賞したのだ。その威力たるや凄まじい。
しかし、この「4一銀」は、将棋界だけにこの威力を知らしめたわけではなかった。
何と、この指し手がツイッターでトレンド入りした。
ツイッターで将棋のプロ棋士や女流棋士の方々が、この「4一銀」について続々とツイートし、瞬く間に広がっていった。
人間は▲4一銀打っちゃいかんだろ...
— 勝又清和 (@katsumata) March 23, 2021
41ギンミエナイ。ニンゲンダモノ。
— 武富礼衣 (@ReiShogi) March 23, 2021
極めつけは、これである。
負けました。#藤井聡太 #4一銀 #神の一手 #竜王戦 pic.twitter.com/zo99HebCqq
— 白鳥士郎 (@nankagun) March 23, 2021
『のうりん』や『りゅうおうのおしごと!』で有名な、ラノベ作家の白鳥士郎氏が自身の著作の帯をネタにこの名ツイートを残した。
もちろん、将棋関係者だけではなく、その他のいろいろな人がこの4一銀についてツイートし、結果としてトレンド入りまで果たした。
この流れを見て、自分は正直恐ろしかった。
背中に冷たいものが流れ落ちた。
ここで問題だ。
囲碁の打ち手がツイッターでトレンド入りしたことがあるのだろうか?
答えはNoだ。そのようなことはない。
強いて言うなら、囲碁の打ち手で対外的に有名になったのは、Google Deepmind Challenge Matchにおける、アルファ碁の黒37手のカタツキと、イ・セドル氏の白78手のワリコミだろう。
はっきり言おう。
この知名度・影響度の差が今の将棋と囲碁の差だ。
安易な比較論には意味がないことは重々承知している。しかし、知名度・影響度において、囲碁は圧倒的に将棋より遅れている。周回遅れという言葉ですら生温い。
もちろん、藤井二冠という凄まじいスタープレイヤーの存在があってこそなせる業というのは事実だ。
しかし、ひとたび藤井二冠が何か凄まじい手を指せば、打てば響くようにいろいろなところが反応する。その反応の良さ、ソーシャルインパクトの大きさは、藤井二冠のみで達成できるわけではない。
その指し手を的確に響かせることができる素地があることこそ、将棋界の大きな強みだ。
そして、この強みが如実に表れたのがスポンサー獲得の場面である。それについては次項で述べるとしよう。
2.スポンサー獲得
ここ一年間の将棋界のスポンサー獲得は目覚ましいものがある。
まず、叡王戦の主催が不二家になった。これは、新聞社が主催していたこれまでとは打って変わったものである。不二家のお菓子ボックスの試みも面白いものである。
その他には、王位戦の特別協賛に伊藤園が入り、棋戦名も「お~いお茶杯王位戦」になった。
また、最近だと、王将戦の特別協賛にALSOKが入り、棋戦名も「ALSOK杯王将戦」になった。
さて、カンの良い方はお気づきだろう。
「あれ?囲碁は新規スポンサーを獲得したの?してないんじゃない?」
ご推察の通り、Noだ。ここ一年、日本棋院のお知らせのコーナーには新規スポンサー獲得の情報は一切ない。
先程、囲碁は知名度・影響度の点で周回遅れという言葉も生温いほどに遅れていると評したのは、これが理由だ。
かたや新規スポンサーを3つの棋戦で獲得し、かたや一つも新規スポンサーを獲得していない。
これを知名度・影響度の差でなくて何という。
しかも、このまずい状況に拍車をかけるのが、囲碁の棋戦のスポンサーは新聞社が大半を占めているという現状だ。
ご存知の通り、新聞社は今苦境に立たされている。販売部数は減少の一途をたどり、泣きっ面に蜂とばかりにCOVID-19の影響をもろに受けている。一例を挙げると朝日新聞の2020年度の経常損益が170億円の赤字の問題がある。
さて、当たり前だが、棋戦を開催するのもタダでは開催できない。スポンサーの協力がなければ動くことすらできない。しかし、既存のスポンサーの懐はカッツカツな訳だ。
となると、新しいスポンサーを獲得するために動く必要があるはず。新しいスポンサーを獲得しないと、棋戦が開けなくなってしまう。
なのに、ここ一年の新規スポンサー獲得数は0。
マズくないか……?
当然、スポンサーも慈善事業で棋戦に対してお金を出すわけではない。
きちんとリターンがあると分かっているから、お金をだすのだ。そして、そのリターンの中には自社製品の広告もあるだろう。
この広告に密接に結びつくのが、広告を掲載する対象の知名度・影響度だ。
広告を打って、それが世の中に波及する。その波及効果は広告の掲載対象によって変わってくる。
そうなると、将棋は広告の掲載対象として魅力的で、囲碁はそうではないということだ。
しかも、単に魅力的でないというだけではなく、新規スポンサーを何としても獲得したいこの局面で、魅力的でないという致命的な状況なのだ。
もちろん、既存のスポンサーである新聞社がそう簡単に倒れるわけはない。一気にスポンサー撤退ということも考えにくいだろう。
しかし、予算の削減は行われているはずである。そして、今後さらに削減が進むことが予想される。
「え?囲碁?うーん、(世の中への影響力が少ないから)お金を出してもウチにプラスにならないし、もっとお金を少なくしてもいいよね!ウチもカッツカツだし!」
この考えになっていてもおかしくない。
予算削減の煽りを一番うけるのがタイトル戦だ。
普及に絶大な効果のあるタイトル戦が端的に言ってショボくなる。そして普及が中途半端になり、さらに知名度・影響度を下げる。しまいには、その下がった知名度・影響度を見てさらに予算を削る。タイトル戦がさらにショボくなり……悪循環である。
逆に、知名度・影響度をアップさせれば、逆の好循環になる。新たにスポンサーが付くだけではなく、既存のスポンサーもお金を出し渋らない。そうして得た潤沢な予算で、高いクオリティのタイトル戦を行い、普及活動に好影響を残す。さらに知名度・影響度アップ……。
これが、今の将棋界で起こっていることではないだろうか。この好循環に加えて、藤井二冠が定期的に神の一手やタイトル獲得・挑戦という最強のバフを将棋界に付与する。向かうところ敵なしではないか。
これを踏まえて、囲碁界が何をすべきなのかを次項で述べよう。
3.これから囲碁界は何をすべきか
まず、知名度・影響度を上げるには、二つのことが挙げられる。一つ目は、「囲碁を知ってもらうこと」。もう一つは、「適切なSNS広報」だ。
なお、スタープレイヤーの登場に期待するのは無理な話だ。むしろスタープレイヤーがいない今だからこそ、スタープレイヤーが登場した時の素地を作っておく必要がある。
①囲碁を知ってもらうこと
まず、「囲碁を知ってもらう」ことから。囲碁はとにかく、何をやっているのか分かりにくい。自分の別の記事の使いまわしで恐縮だが、これを見て欲しい。囲碁の終局図、すなわちゲーム終了時のスコアボードだ。
はいそこの囲碁関係者、「囲碁は陣地取りゲームで……」とか言わない。
これを見て陣地取りってどうすれば分かるんだ?囲碁をプレイしないと分からないだろう。
そもそも、どこが陣地を理解するのに練習が必要なゲームを、陣地取りゲームと言っていいのか?
囲碁はここがネックなのだ。本質が陣地取りゲームのくせして、ゲームを継続して練習しないと陣地を判別する目が育たない。
比較対象として、素晴らしいものがある。
スプラトゥーンだ。
知らない人は、YouTubeでスプラトゥーンの実況動画を見て欲しい。
面倒な方はこれを見よう
(出典:ゲーマー情報.net「プライベートマッチの「観戦モード」操作方法」(https://gamers-info.net/splatoon2-kansen-mode/, 2021年4月14日最終閲覧)。)
どこが陣地かはすぐわかるはずだ。自分の色が塗られている場所が自分の陣地、相手の色が塗られている場所が相手の陣地。単純なだけに、これでもかとばかりにスッと理解できる。
それこそ、スプラトゥーンを知らない人でも分かる。
これを目指すべきだ。とにかく分かりやすさ重視をベースに。囲碁を知っている人ではない。囲碁を知らない人ですら、分かるレベルにする。陣地が分かる目を養う必要なく、ストレスフリーに陣地を理解できるレベルにする。
(別の記事でもこのことを書いたが、相変わらず日本棋院の配信コンテンツは初心者さん・初見さん放置の高段者サロン状態である。自滅の道と分かっていて歩むつもりだろうか)
②適切なSNS広報
これは、芝野虎丸二冠の名人獲得の時に強く感じた。最年少名人の獲得と最年少タイトル獲得というビッグニュースにも関わらず、話題は一過性のものだった。
本来なら、将棋の藤井二冠に匹敵する、凄まじいニュースであるはずなのに、伝わらなかった。(内容的に考えれば、藤井二冠の棋聖挑戦・獲得に匹敵する。)
自分はこの背景の一つに、SNSでの広報不足があると思う。既存のメディアで取り扱うべきという意見もあるかもしれないが、視聴率との兼ね合い上それは難しい。(何と言っても、知名度・影響度がない分、取り上げづらい)
そこで、SNSの利活用だ。最近は芝野二冠をはじめ、プロ棋士がSNSを運用している。しかし、個人的にはそれでは足りないと考える。
どこが足りないのか。それは観戦記者などに代表される囲碁界を横から支える人のSNSだ。
現状、毎日新聞や朝日新聞の囲碁担当記者のSNSは存在する。だが、まだ足りない。もっと分かりやすさを伝えられる人のSNSが必要だ。
将棋界であれば、有名な方として将棋ライターの銀杏氏がいる。
観戦記者はプロの棋譜を分かりやすく伝えてくれる。それをSNSで置き換えると、一般人とプロの橋渡しを短く端的に行うことができる。
とにかく分かりにくい囲碁において、一般人とプロの橋渡しは欠かせない。もっと橋渡しを意識した広報を展開し、SNSでそれをさらに広げていくことが必要なのではないか。
4.終わりに
またも、囲碁界に苦言を呈した記事だが、影響度・知名度の差はこれが現実なのだ。認めたくなくとも、現実がある以上、対応しなくてはいけない。
さらに、個人的には新聞社の予算の減額が、日本のプロ棋士の国際棋戦での活躍という点においてはプラスに働くのではないかと考えているのだが、それは別稿にて書くつもりである。
囲碁界は変革の時である。もう残された時間もあまりないのかもしれない。だからこそ、囲碁界が一致団結して変革へと導き、変わって欲しい。
ヘボ碁打ちの切なる願いである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?