「循環螺旋の浜辺より」梗概r

ウェブの梗概がストーリーをあまり要約していないので前に書き直したもの。


 自動定理創出システム「演算系」は、効果的な定理探索を行うために、定理に人格を付与した。惹かれあうもの同士に、互いの証明を組み合わせることで、新たな定理――「子」をつくらせるのだ。だが、活動資源確保のため――外界のヒトにアピールするべく――「人気投票」制度などを導入して、かれらの意思を無視した生産を行わせるようになる。人格化された「定理」たちは、外部ヒト脳の概念ハッキングを経由することで、システムを支配。主権を手にする。
 それから長いときが過ぎた。
 「定理」たちは、映像化された「演算系」の、それぞれの陸地で、人体様の身体表現をもって暮らしている。主人公もそのひとりだ。かれは自身の証明に「美しくない」と、コンプレックスを持っている。そして、ある「古代定理」――ヒトが導いた定理――を慕っている。
 ここに「漂流定理」が現れる。証明は、定理の「主張」の成立を保証するものであり、この地ではその定理に至った系譜をあらわすものであるが、「漂流定理」たちには証明が存在しない。人格も存在しない。「主張」だけが存在している。
 主人公の慕う友はこの漂流定理に「手当て」、すなわち「解釈」および「証明充填」を行おうとするが、魅了されてしまう。様々な大陸からの船が、漂流定理めがけてやってくる。乗組員たちは狂気に駆られ、漂流定理を自分が埋めようと、奪いあい、引き裂く。
 引き裂かれた漂流定理は再生する。それを埋めようとする乗組員たちよりも多く、分裂し、各地に散る。
 己をあらわす文言を解釈させるために、漂流定理は定義を生み、公理を生む。演繹体系を生む。
 友は、これを「希望だ」という。
 「演算系」により、証明つきではじめから誕生している自分たちにも、「これではない」可能性、「ほかの体系で、様々に解釈される可能性」があったのではないかという。
 「演算系」が過負荷で変容する。定理たちは、今まで存在していた物理的基盤から解き放たれる。あらゆる粒子や場の状態を用いて、己を記述するように変容する。
 定理たちは己を記述する言語体系を拡張する。
 物理的に並行している無限の可能性、無限の宇宙をハードウェアとすることで、可能な記述の総数を「可算無限」に、そして「連続体無限」に拡張する。このような操作を繰りかえし、言語の無限性の階梯をのぼる。
 主人公は旅を続け、定理を導き、おのれを何重にも包含する。そして友と出会う。二人は解体しながら、結合しきらず手を携え、この拡張走査では到達不能な無限性をもった宇宙を目指す。


URL

https://school.genron.co.jp/works/sf/2017/students/mhrx/1386/


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