44 リウマチ膠原病における超音波検査


キーポイント

  • リウマチ学における超音波検査(RhUS)は、診断と治療の両面でリウマチ専門医に利用されている。

  •  RhUSは、関節や関節周囲構造の炎症性および非炎症性の状態を評価することができる。 

  • パワードプラおよびカラードプラ(PD/CPD)は、理学的検査では明らかでない炎症性変化を検出することができ、管理決定の指針となる。

  •  RhUSは、唾液腺や血管などリウマチ性疾患に関連する他の臓器系の評価も可能となっている。

はじめに

・滑膜炎に対するカラードップラーの使用が1994年に初めて報告されて以降、筋骨格系超音波(MSUS)に関する論文は、過去30年間で飛躍的に増加している。
・整形外科、リハビリテーション、放射線科など他の専門分野と同様に、リウマチ領域でもUSの使用が受け入れられつつある。
・リウマチ領域におけるUS(Rheumatologic Ultrasound:RhUS)には、他の画像診断法と比較して以下のような利点がある。①RhUSは高速で安全(放射線や造影剤を使用しない)、②非侵襲的で安価、③複数の部位や組織を静的/動的に撮像でき、対側とすぐに比較できる。
・RhUSは筋骨格系だけでなく、肺、血管、皮膚、唾液腺などのリウマチ性疾患に関与する臓器系も含むように進化してきた。
・RhUSの応用例としては、炎症性・非炎症性リウマチ性疾患の診断・治療に対する治療反応性評価・手技のガイダンスなどがある。
・RhUSには多数利点があるが、検査結果が検査者に依存し、機器やトレーニングのための初期費用が比較的高いといった難点もある。


Pearls:アーチファクトの理解は正確な超音波画像の描出と、画像の解釈にとって非常に重要である

Reality: Artifact refers to nonanatomic variances in the screen image, resulting from the process of image generation. The ability to avoid or utilize artifacts is critical to proper image generation and interpretation. 
・アーチファクトとは、画像生成の過程で生じるスクリーン画像における解剖学的特徴とは関連のないバリアンスを指す。
・アーチファクトを回避または利用する能力は、適切な画像生成と解釈に不可欠である。

・「この所見が病的所見なのかどうか…」エコーを始めたばかりのときは、見慣れない画像所見を見たとき、真に意味のある所見かどうかの見極めが難しいです。アーチファクトを理解しながら、検査の数をこなしていくと、正しい異常所見が身についていきます。

①Anisotropy: 構造物に到達した音波がトランスデューサーに直接反射しないために生じる。関心領域に構造がないように見えてしまう。例としては、腱のように整然とした構造物は、音波が垂直に入る場合にのみトランスデューサーに音波を返すため、腱に対して斜めに音波が入ると、音波がトランスデューサーに戻ってこないため、本来腱がある部位に無エコー域が現れる。トランスデューサーを腱に平行に配置すると、腱が描出される。しばしば液体貯留や腱内の病的な低エコー(腱炎や腱付着部炎)と間違えられます。

②Shadowing:音波が物体を透過できず、プローブに完全に反射して戻ってくる現象である。透過できない物体の深部や後方の領域は無エコーに見えてしまい、視界から遮られる。典型例は、骨や石灰沈着で、後方はshadowingのため無エコーになる。

③Posterior acoustic shadowing (attenuation artifact):腱のように丸みを帯びた構造物を描出する際に生じ、腱の縁は後方領域まで無エコーのshadowを引いてしまう。

④Increased through-transmission: shadowingとは反対の現象で、液体で満たされた構造物が音波の透過を増加させ、その部位の深部の構造物が同じ深さの隣接組織よりも、高エコーに見える。posterior acoustic enhancementとも呼ばれる。

⑤Reverberation artifact: 物体が音波を強く反射し、音波が構造物とプローブの間を繰り返し跳ね返るときに発生する。注射針、金属製の人工関節などで生じる。

⑥Interface sign: 軟部組織や軟骨、液体などの、インピーダンスの異なる組織面が接する部位の明るく細長い領域。滑液貯留のある関節の硝子軟骨表面が高エコーに見え、一見double contour sign?に見えてしまうことありませんか?

斜めに入ったらそれは違う


Myth: RhUSにおける滑膜炎の定義には、滑液貯留と滑膜肥厚のどちらか一方が存在すればよい。

Reality: The 2005 definition of synovitis included both synovial effusion and synovial hypertrophy, and presence of either one or both could indicate synovitis. The revised definition of US-detected synovitis delineates synovial hypertrophy in a semiquantitative graded B-mode feature and a graded Doppler mode feature. Hypoechoic synovial hypertrophy must be present for defining US-detected synovitis and grading Doppler activity.
・2005年の滑膜炎の定義には、滑膜貯留と滑膜肥厚の両方が含まれており、どちらか一方、または両方が存在すれば滑膜炎を示す可能性があった(J Rheumatol 32:2485–2487, 2005.)。改訂された滑膜炎の定義では、滑膜肥厚を半定量的なBモードとドプラモードで定義している。ドプラで血流シグナルを評価するためには、低エコーの滑膜肥大が存在しなければならない。
・滑液貯留のみで、滑膜炎とは言えないという定義に変わったようです。その理由は滑液貯留のみの所見は、健常者でも見られるから、ということでした。ただし、小児の滑膜炎の定義は、従来どおり滑膜貯留と滑膜肥厚のいずれか/両方となっています。
・腱鞘炎、腱付着部炎などの所見についてはJ Rheumatol . 2019 Oct;46(10):1388-1393.に総括があるので興味があればこちらをご参照ください。


Myths: リウマトイド結節と痛風結節はエコー上同様の所見となる。

Reality: RA nodules tend to be homogeneous, with a central well-defined hypoechoic area representing necrosis. This is in contrast to tophi, which can be multilobular with a heterogenous echotexture and a hypoechoic or anechoic rim. Tophi may also have adjacent bone erosions.
・RA noduleは均一であることが多く、中心には壊死を示す境界明瞭な低エコー領域がある。これに対して、痛風結節は不均一なエコーテクスチャーと低エコーまたは無エコーの縁を持ち、かつ多葉性である。また、痛風結節は隣接する骨のびらんを伴うこともある。


Myths: 上腕二頭筋腱鞘内の液体貯留や血流シグナルはRAでは通常見られない。

Reality:PD signal is frequently detected inside the biceps tendon sheath in patients with RA.43 Bilat- eral synovial, tenosynovial, or bursal effusions occur in 76% of patients with polymyalgia rheumatic (PMR) in comparison to 12% of patients with RA.
・肩関節の変性疾患とは対照的に、RA患者では上腕二頭筋腱鞘の内側にPD信号が頻繁に検出される。両側の滑液貯留、腱滑液貯留、滑液包貯留はリウマチ性多発筋痛(PMR)患者の76%にみられるのに対し、RA患者では12%である
・PMRとの鑑別にしばしば用いられる肩エコーですが、肩エコーで水が溜まってる/ドプラあり=PMRというわけではないようです。関節リウマチの患者さんでもしばしば見られる所見だと思います。


Myths: 臨床的に寛解にあっても、エコーでドプラ陽性の場合は骨破壊の進行が顕著である。

Reality: the degree of structural progression in patients in clinical remission, but with persistent Doppler signal, is mild, and less than 2% of joints in patients in clinical remission developed erosions overall.
・臨床的寛解期にあるがドップラー信号が持続している患者における構造的進行の程度は軽度であり、臨床的寛解期にある患者においてびらんが生じた関節は全体で2%未満であった。
・エコー所見が構造破壊の進行を含めた関節予後にどの程度予測するかは、色々な議論のあるところです。個人的にはエコーを当てるよりも、患者さんの手に触れて丁寧に診察するほうが、患者さんの満足度が高いと思っています。


Pearls:結晶誘発性関節炎の診断にはRhUSが有用である。

Comments: US is increasingly used to identify disorders associated with crystalline deposition affecting cartilage, synovium, and tendons. Due to its high resolution and sonic reflectivity, even small deposits of monosodium urate (MSU) and calcium pyrophosphate (CPPD) crystals can be detected by US, with an otherwise normal CR. 
・軟骨、滑膜、腱に影響を及ぼす結晶沈着に関連した疾患を特定するために、USが使用されることが多くなっている。高分解能で音波反射率が高いため、尿酸一ナトリウム(MSU)やピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶の場合、たとえレントゲン陰性の小さな沈着であっても、USで検出することができる。

①痛風gout:均一な点状から、大きさの異なる鋭い高エコーの集合体まで様々な所見を取りうるが、最終的には、後方の音響陰影を伴う高密度の構造物として現れる。関節軟骨表面に沈着し、軟骨表層の高エコー増強をもたらす場合があり、これはdouble contour signと呼ばれる。正常な軟骨界面とは異なり、MSU結晶のechogenicityは挿入角度に依存せず、軟骨-滑膜境界全体の高エコー像を見ることができる。MSU結晶が凝集すると、プローべの圧迫によってそれらが移動し、”吹雪(snowstorm)”に見れることがある。骨びらんは痛風にもよくみられ、位置、楕円形を特徴とする形状、境界が明瞭であること、痛風結節に隣接する、などの点がRAとは異なる。橈骨手根関節、膝蓋腱、下腿三頭筋腱にMSU凝集体が見られ、かつ第一MTP、距骨、第二MCP、大腿骨の軟骨面にdouble contour signがある場合、痛風に対する感度・特異度はそれぞれ84.6%, 83.3%である (Ann Rheum Dis 73:1522–1528, 2014.)。

②CPPD: 小さな高エコーの斑点から、音響陰影を伴う/伴わない大きな沈着物まで様々である。硝子軟骨では、軟骨中心部に存在し、かなり大きくなることがあり、この点がMSUとは異なる。きらめくようなエコー輝度で、微小な構造物の集合体のようにも見えることもある。線維軟骨では、高エコーの丸みを帯びた、もしくは無定形の凝集塊として現れ、X線の所見と似る。滑液中にも高エコーの凝集体が見えることもあり、通常は境界がはっきりした円形となる。腱内では線状もしくは点状のエコーとなり、posterior acoustic shadowを生じる。

・結晶誘発性関節炎は原因不明の関節炎として見逃されているケースがそれなりにあると思います。エコーで上記の所見を拾いに行きつつ、水が溜まっていたらエコー下で即穿刺、が結晶誘発性関節炎の診断の近道です。

https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanrhe/PIIS2665-9913(23)00136-4.pdf

Myths: RAとPsAでは、RhUSでの異常所見は共通している。
Reality:
・Isolated enthesitis and extensor hand tendon MCP paratenon Doppler signal may help distinguish patients with psoriatic arthritis (PsA) from those with RA. Central slip enthesitis, soft tissue edema around the flexor tendon, and paratenon hyperemia are four times more common in PsA patients compared to RA. Conversely, erosions of the MCP or PIP joints are three times more common in early seropositive RA than in early PsA.
・While both PsA and RA affect synovial and tenosynovial structures in the digits, PsA is more likely to affect the extra-synovial structures such as the extensor tendon, capsule, and periosteum.
・腱付着部炎かつMCP関節伸筋腱周囲のパラテノンにおけるドプラ信号は、乾癬性関節炎(PsA)患者とRA患者の鑑別に役立つ可能性がある。PsA患者では、central slipの腱付着部炎、屈筋腱周囲の軟部組織浮腫、パラテノンの充血がRA患者の4倍多くみられる。
・MCP関節やPIP関節のびらんは、早期RAでは早期PsAに比べて3倍多い。

・PsAの患者さんの手指をエコーで見ると、関節の外がやたら血流シグナルが乗ったり、皮下組織が浮腫っていたりします。RAの場合は、やはり関節裂隙から盛り上がる滑膜肥厚が典型像だと思います。関節の外がもやっている/ドプラがやたら乗る、ときはPsAを疑ってみるといいかもしれません。


Myths: 子供と大人の関節や骨のエコー所見は大差ない。

Reality: The unique US appearance of the articular cartilage, epiphysis, metaphysis, growth plates, and joint space have to be considered by age group.
The synovial membrane in a healthy child is not visualized using conventional US. The ossified portion of articular bone is detected as a hyperechoic linear region that may have interruptions at the growth plates and at ossification center junctions. Hyaline cartilage presents as well-defined, noncompressible anechoic structure that may contain bright echoes or dots, which are vascular channels in developing cartilage.
・関節軟骨、骨端、骨幹部、成長板、関節腔のUS所見は、年齢層によって考慮しなければならない。健常児の滑膜は通常のUSでは描出されない。関節骨の骨化した部分は高エコーの線状領域として検出されるが、成長板や骨化中心の接合部では断絶が見られることがある。硝子軟骨は、明瞭で非圧縮性の無エコー構造を呈し、明瞭なエコーやドットを含むことがある。
・成長板によって骨皮質の連続性が絶たれてしまうと、一見骨びらんのように見えてしまいます。ただ、年齢によって細かく正常像を覚えるのは難儀です。困ったらこちらを参照しましょう(Arthritis Care Res 67:136–142, 2015.)←オープンアクセスです


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