見出し画像

81 反応性関節炎


キーポイント

•反応性関節炎は、特定の感染症によって引き起こされる脊椎関節炎の一種である。
•反応性関節炎の診断は、関節外疾患を含む脊椎関節炎の症状と徴候、および以前の感染の証拠にかかっている。ただし、クラミジア誘発性反応性関節炎の感染のきっかけがははっきりしないことに注意する必要がある。
•反応性関節炎はしばしばself-limitingだが、しばしば慢性化する可能性がある。
•未分化脊椎関節炎は、末梢および軸の特徴を有することがある。
•未分化脊椎関節炎は暫定的な診断であり、多くの症例は他の形態の脊椎関節炎に発展していく。
•未分化脊椎関節炎の治療は、軸性疾患と末梢性疾患のどちらが優勢であるかによって異なる。


Myths: 反応性関節炎の概念は20世紀初頭より諸学者の間で提唱されてきた。

Reality: The term reactive arthritis (ReA) was introduced in 1969 to describe this syndrome, which occurs after a triggering infection.1,3 Considerable ambiguity exists in the literature, however, in terms of the nomenclature of the condition, and many terms and eponyms have been used. Perhaps the most common eponym used to describe this condition until relatively recently was Reiter’s disease.…The historic literature is replete with descriptions of patients with ReA, and, importantly but more recently, the recognition of the interplay between host and pathogen. The earliest description of ReA may be from around 460 bc.

・反応性関節炎(ReA)という用語は、感染の引き金となった後に発生するこの症候群を説明するために1969年に導入されました。しかし、命名法に関してはかなり曖昧で、多くの用語が使用されてきた経緯があります。比較的最近までこの状態を説明するために使用された最も一般的な用語はライター病でした。
・元をたどると、1942年、ハーバード大学の2人の研究者、バウアーとエンゲルマンはReAの症例を認識し、文献をレビューした結果、ハンス・ライター博士が1916年に同じ症候群を記述していたことを発見しました。
・ライター博士の患者はドイツ軍将校で、赤痢の発作の後、急性関節炎、非淋菌性尿道炎、結膜炎を発症していました。近年、「ライター病」という呼称が問題となっているのは、第二次世界大戦後、ハンス・ライターがニュルンベルク戦争会議で逮捕され、裁判にかけられ、有罪判決を受けたからです。
・ライター症候群の名前が有名になりすぎたことで、ReAを過小診断したり、誤診を招いている実情があります。
・歴史的には、紀元前460年頃にヒポクラテスが記述した"Hippocrates wrote: “A youth does not suffer from gout until sexual intercourse”; at the time, the term “gout” was used indiscriminately to describe inflammatory arthritis of any origin.”と、今日でのReAを思わせる患者の記載があります。
・クリストファー・コロンブスが赤痢の症例の後に発熱と下肢の重度の関節炎を発症した1494年にReAを患った可能性があると推測したものもいます。
・1686年のトマス・シデナムによる関節炎と下痢の関連、1776年の赤痢後の関節炎に関するストールの記述、性病感染後に下肢の「眼症」と炎症性関節炎を発症したフランス人船長のイヴァンの説明があり、現代の臨床文献におけるReAの最も雄弁な記述は、1818年にブロディによって書かれたもので、彼は尿道炎、関節炎、結膜炎の5人の患者を描写しています。
・一方、1824年にクーパーは性感染症と関節炎、特に下肢の関節炎との関係を提案し、1916年には、ライターがドイツ軍将校のReAの症例を記述したのと同じ年に、2人のフランス人医師(FeissingerとLeroy)が別のReAの明確な症例を記述しました。

・このように、ReAの歴史は非常に古いものとなります


Myths: ReAの診断はHLA-B27に依存している。


Reality: Several studies have suggested a similar over-reliance on the presence of the HLA- B27 antigen to diagnose ReA.17 Because ReA represents the classic interplay between host and environment, and because bacteria and genetics vary worldwide, the incidence and prevalence of the disease vary widely. 

・いくつかの研究では、ReAを診断するのにHLA-B27抗原の有無に過度に依存していることが示唆されている。ReAは宿主と環境との典型的な相互作用であり、細菌と遺伝は地域によって異なるため、発症率と有病率は大きく異なる。

・1949年にReAの分類基準が検討された際にもすでにHLA-B27とReAの関連性は弱いことが指摘されており、ReAの診断基準に含めるべきではないことが明言されています。
・AIDS流行後のアフリカで見られるようになったReAとは、HLA-B27の関連は薄いという報告もあります。また、サルモネラやカンピロバクターによるReAではHLA-B27の割合が低いとも言われています。
・一方で、赤痢、エルシニア、C.trachomatisに続発するReAではHLA-B27の陽性率が高いこと(Campylobacter reactive arthritis: a systematic review, Semin Arthritis Rheum 37(1):48–55, 2007.)、また、急性発症、Reiter症候群に見られる古典的三徴が揃う場合にはHLA-B27陽性率が高いようです (Bacterial triggers and autoimmune rheumatic diseases, Clin Exp Rheumatol 26(1 Suppl 48):S12–S17, 2008, A comparison of self-reported joint symptoms following infection with different enteric pathogens: effect of HLA-B27, J Rheumatol 35(3):480–487, 2008.)。


Myths: ReAの原因微生物は腸炎を生じる細菌やSTDの起因菌に限られる。


Reality: Bacteria recognized as definitive etiologic triggers of ReA include various species from the genera Salmonella, Shigella, Campylobacter, and Yersinia, as well as the genital pathogen C. trachomatis (e.g., Table 81.1). Nevertheless, many other infectious agents have been implicated as potential causes of ReA, including C. pneumoniae (Table 81.1), Ureaplasma urealyticum, Helicobacter pylori, various intestinal parasites, Escherichia coli,  Clostridium difficile, and intravesicular Bacillus Calmette-Guerin (BCG). This chapter will focus on the definitive triggers.

・ReAの決定的な病因として認識されている細菌には、サルモネラ属、シゲラ属、カンピロバクター属、エルシニア属の様々な種や、生殖器病原体であるC. trachomatisが含まれる。
・それ以外にも、C. pneumoniae、ウレアプラズマ(Ureaplasma urealyticum)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、様々な腸内寄生虫、大腸菌(Escherichia coli)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、BCGなど、多くの感染因子がReAの潜在的原因として関与している。


・ReAをきたす腸内細菌は大きく4つに分けられます。
①サルモネラ菌:ReAのattack rateは6-30%と幅がある。
②赤痢菌:S. flexneri, S. dysenteriae, S. sonnei, and S. boydiiのいずれもReAを生じうる。多くの場合消化管病変が重度であればあるほどReA発生の確率が高くなる。
③カンピロバクター:関節原性はやや低めでattack rateは1-5%程度。
④Yersinia:attack rateは12-23%とやや高めだが、全体の感染症の頻度が低く、ReAの原因としては稀。

・C.trachomatisはReAの重要な起因菌です。A、B、BaおよびC型は眼/トラコーマの血清型、DからKは生殖器感染症の血清型、lymphogranuloma venereum;LGV(静脈リンパ肉芽腫)を生じるL1からL3の血清型にわかれます。ReAに対する生殖器感染症の血清型C.trachomatisによるattack rateは4-8%です。なお、LGVはMSMの肛門感染症として重要ですが、ReAの原因となりえます、また、C.pneumoniaについても頻度は低いもののReAの原因となるようです。

・C.trachomatisで非常に興味深いのは、滑膜に持続的に生存しながら感染するタイプのクラミジアは生殖器感染型ではなく、眼型のクラミジアに特異的なようです(Patients with Chlamydia-associated arthritis have ocular (trachoma), not genital, serovars of C. trachomatis in synovial tissue, Microb Pathog 48(2):62–68, 2010.)。
以下、Kelleyでの説明内容を記載します
”最近の驚くべき報告では、滑膜ベースの持続性クラミジアは、生殖器ではなく眼球の血清型に特異的に属することが示されています。 この異常な観察は確認される必要があるが、眼のクラミジア株の存在は、ReAの2つの不可解な特徴を部分的に説明できるかもしれない。第一に、眼球血清型は性器感染症の接種の一部としてめったに含まれず(1%から5%)、発作率を説明できる可能性があります。第二に、クラミジア誘発性ReAの患者はしばしば眼の症状を発症します。興味深いことに、最近の研究では、トリプトファンレベルの増加が持続性クラミジアを正常な二相性発達サイクルに再活性化できることが示されており、トリプトファン欠乏に対抗する眼および生殖器のC.トラコマチス血清型能力に有意差が存在することが知られています。眼球クラミジア血清型の明らかな関節原性への手がかりは、何年も前に見られた可能性があります。1960年代から1970年代初頭にかけて、ウサギに注射したReA患者から回収した「ベドソニア」(現在はC.トラコマチスと判明)は、100%の確率で関節炎を引き起こしました。同時に、これらの同じ生物の関節内注射はしばしば眼の関与を引き起こしました。”

・腸内細菌群では上記のように滑膜自体に微生物が生存していることは示されていませんが、Yersiniaは例外かもしれません(Clinical and experimental evidence for persistent Yersinia infection in reactive arthritis, Arthritis Rheum 42(10):2239–2242, 1999.)

・Yersiniaは興味深い病原体で、一部のjuvenile HLHの原因菌としてもしられているようです。

・HLA-B27の中でも特定のアリルがReAの発症リスクと関連があるかは以外に検討が少ないようです。最近の報告によると、HLA-B∗2705は、B27陽性のReA患者で観察される最も一般的な対立遺伝子です(Frequency of HLA-B27 and its alleles in patients with Reiter syndrome: com- parison with the frequency in other spondyloarthropathies and a healthy control population, Rheumatol Int 28(5):483–486, 2008.)。



Pearls: ReAに見られる皮疹は乾癬に似る

Comments: Typical skin lesions include keratoderma blennorrhagicum, circinate balanitis, and nail changes; more rarely, oral ulcers can occur. Keratoderma blennorrhagicum is clinically indistinct from palmoplantar pustular psoriasis. Relatively little information is available to define how frequently this rash occurs in ReA, but early reports describe it in about 20% of cases. The same is true for circinate balanitis; estimates suggest it occurs in ∼10% to 15% of cases. Interestingly, the histologic features of circinate balanitis resemble pustular psoriasis, and chronic cases can look like plaque psoriasis. Nail changes include onycholysis and pitting, and these occur in about 10% of patients. The relationship between distal interphalangeal arthritis and nail involvement is well recognized in PsA; the same also is likely to be true for ReA, but no definitive data exist in this regard. 

・典型的な皮膚病変は、 keratoderma blennorrhagicum, circinate balanitis, and nail changesである。まれに口腔内潰瘍を生じることもある。keratoderma blennorrhagicumは、臨床的に掌蹠膿疱性乾癬と区別できない。この皮疹がReAでどの程度の頻度でみられるかについての情報は比較的少ないが、初期の報告では約20%の症例にみられると報告されている。
・circinate balanitisも同様で、約10%から15%の症例にみられると推定されている。興味深いことに、環状亀頭炎の組織学的特徴は膿疱性乾癬に似ており、慢性化した症例では尋常性乾癬のように見えることがある。
・爪の変化にはonycholysis and pittingがあり、これらは患者の約10%にみられる。

・爪の所見とDIP関節炎にはReAにおいても関連があるとされています。


Pearls: 慢性のReAに対する明確に有効であると証明された薬剤はない

Comments: In those with established, or chronic ReA, the most efficacious approach is less clear. Traditional disease-modifying anti-rheumatic drugs (DMARDs), anti–TNF inhibitors, and antibiotics have been studied. Although several DMARDs are advocated as potential therapeutic agents for chronic ReA, only sulfasalazine has been formally evaluated in a prospective clinical trial. In that study, all patients had failed NSAIDs and were followed for 36 weeks’ duration. A trend was identified favoring sulfasalazine over placebo in terms of overall response, but the difference was not statistically significant. Sulfasalazine was, however, significantly better than placebo in some of the secondary endpoints. Methotrexate, azathioprine, and cyclosporine can be used in chronic ReA, but data supporting their use is largely anecdotal. No randomized trials in ReA are available to accurately assess the efficacy of anti-TNF therapy, but several case reports and two small open-label studies suggest clinical benefit with these drugs in the treatment of ReA. It should be noted that in vitro studies have demonstrated upregulation of chlamydial replication when TNF levels are decreased, so this treatment approach should be used with caution in those with suspected Chlamydia- induced ReA.

・慢性ReA患者では、最も効果的なアプローチは明確ではない。
・従来の疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)、抗TNF阻害薬、抗生物質などが研究されてきた。
・いくつかのDMARDが慢性ReAの治療薬として提唱されているが、前向き臨床試験で正式に評価されたのはスルファサラジンだけである。この試験では、全例が非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に無効であり、36週間の追跡が行われた。全奏効率に関しては、プラセボよりもスルファサラジンを支持する傾向が認められたが、その差は統計学的に有意ではなかった。しかし、いくつかの副次的エンドポイントではスルファサラジンがプラセボより有意に優れていた。
・メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリンは慢性ReAに使用できるが、これらの使用を支持するデータはほとんど逸話的なものである。
・ReAにおける抗TNF療法の有効性を正確に評価できる無作為化試験はないが、いくつかの症例報告と2つの小規模非盲検試験から、ReA治療におけるこれらの薬剤の臨床的有用性が示唆されている。
・In vitroの研究では、TNF濃度が低下するとクラミジアの複製が増加することが証明されているため、クラミジアによるReAが疑われる場合には、この治療法を慎重に行う必要がある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?