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91 オーバーラップ症候群


キーポイント

・混合性結合組織病(MCTD)のようなオーバーラップ結合組織病は、別個の疾患なの か、それとも古典的なリウマチ性疾患が進化した不完全な病態なのかをめぐって論争 がある。 
・いくつかの顕著な共通遺伝子座は、異なるリウマチ性疾患と関連しており、MCTDおよび類似の症候群の患者では臨床的特徴が重複している。 
・特徴的な自己抗体血清学的所見は、しばしば臨床症状、徴候および予後と相関し、重複結合組織病患者のより正確な表現型分類を可能にしている。
・ 全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(SSc)、炎症性筋炎、関節リウマチ( RA)などの症状が重なることが多いが、MCTD特有の特徴はない。
・ MCTDに分類されるオーバーラップ症候群の最も重篤な合併症の一つは肺動脈性肺高血圧症であり、これは重大な罹患率と死亡率を伴う。


Myths:MCTDはSLEとは完全に独立した形で定義された疾患群である

Comment: The concept of overlap CTDs is best understood in the historical context of how systemic lupus erythematosus (SLE) and mixed connective tissue disease (MCTD), a prototypic overlap syndrome, came to be recognized and defined.

・オーバーラップ症候群の原型である全身性エリテマトーデス (SLE)と混合性結合組織病(MCTD)がどのように認識され定義されるようになったかという歴史的背景から理解するのが最も適切である。
・19世紀、SLEは当初、特徴的な臨床所見、解剖学的所見、組織学的所見を有する皮膚疾患として報告された。 
・20世紀初頭には内臓の病変を認めるループス患者が増加しこのような観察から、SLEは皮膚を含む多 様な臨床症状を呈する単一の全身性疾患であるという概念が生まれた。
・蛍光ANA検査やヒト二本鎖DNAに特異的な自己抗体の同定など、血清学的検査のさらなる進歩により、SLEは 解剖学的疾患ではなく免疫学的疾患であるという、より現代的な統一概念に至った。
・1960年代から1970年代初頭にかけて、SLE、皮膚筋炎、全身性硬化症(SSc)の重複した特 徴を示す非典型的SLE患者の存在が認識された。
・SLE患者の多くと同様に、これらの患者もmacromolecular ribonuclear antigen derived froma  saline nuclear extract, the extractable nuclear antigen (ENA)に対する自己抗体 を示した。
・トリプシンとリボヌクレアーゼによる酵素処理によって抗原の特徴をさらに明らか にしたところ、「非定型SLE」患者は、古典的SLE患者とは異なる高分子の構成要素であるリボ核蛋白に反応することが判明した
・研究者たちは、臨床的説明とそれに合致する血清学的検査の両方を武器に、新たに報告されたオーバーラップ症候群を 混合性結合組織病と命名し、さらなる研究のためにこのような患者を同定するのに役立つ分類基準を提案した

・現在でもMCTDが実際には一つの疾患なのか、最終的に分類可能な疾患の中間段階なのかについてはまだ議論があります。


Pearls: MCTDではSLEやSScとは異なる特異的なHLAハプロタイプが知られている。

Comments: Other HLA DR polymorphisms confer significant risk for
developing MCTD and other overlap syndromes but not diseases
like SLE or SSc that share many of the same overlapping clini-
cal features. 

・具体的にはHLA DRB1*04:01は、表現型が安定しているMCTD患者を同定する可能性がある表現型が安定しており、SLE、SSc、多発性筋炎と区別できる。
・一部のMCTD患者では、DRB1*15:01とDRB1*09:01も本疾患発症の有意なリスクをもたらす可能性がある。
・スウェーデン人患者を対象とした別の研究ではDRB1*04がMCTDの感受性対立遺伝子がMCTDの感受性遺伝子と報告されている。

Pearls: UCTDに見られる特異抗体はSSーA抗原に対する抗体や、Scl-70に対する抗体が多い。これらのoverlap症候群で陽性となる抗体は、ポリペプチドや核酸からなる複雑な高分子で、スプライシング・転写・細胞機能に不可欠な分子機構に関与している。

Comments: Examples of specific ANAs found in UCTDs include antibodies to the Ro (SSA) antigen, reported in 8% to 30% of patients, and topoisomerase 1 (Scl-70), particularly in those overlap patients with clinical features of limited scleroderma and systemic sclerosis.53,57,58 Often, this autoantibody response targets unique autoantigens or distinct epitopes on more ubiquitous autoantigens and may correlate with specific clinical features and/or prognosis. These target antigens are usually complex macromolecules consisting of polypeptides and nucleic acids that are involved with splicing, transcription, or other molecular machinery essential for cellular function.

・ANAは、MCTD患者のほとんど全 てに認められ、UCTD患者の58%から100%にも認められる。UCTDにみられる 特異的ANAの例としては、患者の8%から30%に報告されているRo(SSA)抗原に対する抗体 や、特に限局性強皮症や全身性硬化症の臨床的特徴を有する重複患者にみられるトポイソメラーゼ1(Scl-70)に対する抗体がある。
・この自己抗体反応は、特異的な自己抗原や、よりユビキタスな自己抗原上の明 確なエピトープを標的とし、特異的な臨床症状や予後と相関することがある。これらの標的抗 原は通常、ポリペプチドや核酸からなる複雑な高分子で、スプライシング、転写、あるいは細胞機能に不可欠な他の分子機構に関与している。

・U1snRPはU1 small nuclear ribonuclear proteinと呼ばれるヒトのスプライソソームのサブユニットの一つでSLEやMCTDなどの CTDにおける自己免疫疾患で標的となる抗原である(U1RNPと同義と思われます)。





Myths:MCTDの分類基準は代表的な一つしか存在しない

Reality: After Sharp’s original description of MCTD and subsequent publication of classification criteria, three other sets of criteria have been developed to classify patients with MCTD

・シャープがMCTDについて最初に記述し、その後分類基準を発表した後、MCTD患者を分類するために3つの基準が開発された。
・いずれの基準も抗RNP抗体の存在を必須としている。
・上記の中で、Alacrcon-SegoviaとKasukawaの分類で感度が高く、Sharpの基準が最も感度が低いようです。

・個人的には強皮症に見られるような皮膚硬化ははっきりせず、典型的なSLEの皮疹が見られるというよりは、レイノーや関節痛、sclerodactylyが目立つようなAlarcon-Segoviaの分類がしっくりきます。
抗RNP抗体もhigh-titerな例をMCTDと呼びたい気もします。

・KelleyにはMCTDはSSc, SLE, myositisの他に、RAの合併にも触れられています。いずれの症状もMCTDの経過中、いつでも出現しうるようです。


Myths: MCTDの関節症状は一般的に軽症である。

Reality: The spectrum of joint involvement in MCTD varies from a mild non-erosive and symmetric polyarthritis akin to what is observed in SLE to a more severe, erosive, and potentially destructive polyarthritis practically indistinguishable from RA

・MCTDにおける関節病変のスペクトルは、SLEでみられるような軽度の非びらん性で対称性の多関節炎から、RAと実質的に区別できないほど重篤・びらん性・破壊的な多関節炎まで様々である

・関節炎が見られる症例ではRF陽性例が多く、しばしばACPAも陽性とな流ようです。

Myths: MCTDにおける腎病変の頻度は極めて低い

Reality: MCTD involves the kidneys in 25% to 40% of patients.3,95 In many cases this involvement is mild, patients are often asymptomatic, and the prevalence of severe kidney disease is rare.

・MCTDは患者の25%~40%に腎臓を侵す。多くの場合、この病変は軽度であり、患者は無症状であることが多く、重篤な腎疾患の有病率は稀である。
・膜性糸球体腎炎は、 最も一般的に観察される病理学的病変であり、多くの場はメサンギウムや上皮下に免疫複合体の沈着を伴います。それ以外にも、半月体形成、低補体血症、びまん性の増殖性GNとさまざまです。
・特に注意が必要なのは、小児のMCTDで、より増殖性のGNの有病率が高いことです。これはjuvenile/pediatric SLEと同じですね。
・MCTDでは悪性高血圧症、急性腎障害、SRCを生じることもあります。

・MCTDはさておき、そのほかのSScの臨床症状が前景に立つoverlapではステロイドを使用したときにSRC様の病態を生じるのかが疑問ですが、一般的にはdcSScなどと同様SRCのリスクが上がるようです(要参考文献)


Pearls: MCTDに伴う心嚢水貯留は時にタンポナーデやショックを引き起こすことがある

Comments: The most common cardiac manifestation is pericarditis, which can affect between 30% to 43% of patients. Although often silent, as with SSc, the pericardial effusions associated with MCTD can rarely be significant enough to cause tamponade physiology and hemodynamic compromise.

・心膜炎の合併はしばしばMCTDに見られます、基本的には無症状。
・症例①
Massive hemorrhagic pericardial effusion with cardiac tamponade as initial manifestation of mixed connective tissue disease, Cardiol Res 9(1):68–71, 2018.

81歳女性、息切れで来院
ECGで下壁誘導でQRS低電位、エコーで著明な心嚢水貯留、タンポナーデ、心嚢穿刺では700mlの血性、CRP高値、RNP陽性、心膜生検ではacute and chronic fibrinous pericarditis、ステロイドで改善

症例❷
Case report and review of cardiac tamponade in mixed connective tissue disease,Arthritis Rheum 55(5):826–830, 2006.

35歳女性、MCTDとしてフォロー中、急な発熱、胸痛、吐き気、血圧低下あり、心嚢水貯留あり、PSL60mg/日で改善

Myths: MCTDに見られる食道機能障害はSScと同様重篤な場合が多い

Reality: The esophageal dysfunction associated with MCTD appears to be less severe than what is observed in SSc, and many patients have only mild involvement or are asymptomatic.

・胃食道逆流症および嚥下障害 は、SSc、MCTDおよびUCTD患者のそれぞれ77%および61%で報告されており、圧倒的に 多い合併症である。 

・MCTD患者に限定した研究では、胸焼けが48%、嚥下障害が38%である
・ MCTDは筋緊張筋を含む 食道上部3分の1と、主に平滑筋からなる食道下部3分の2の両方を侵す可能性がある。
・MCTDに伴う食道機能障 害は、SScにみられるような重篤なものではなく、多くの患者は軽度か無症状である


Pearls: MCTDでの筋症状は、多くの場合CKや筋力低下を伴う

Reality:Myalgias are common, often without demonstrable weakness or abnormal creatine kinase (CK) levels, imaging, or electromyography (EMG) testing.

・MCTD患者の約80%~ 90%は、何らかの筋病変を有する。 
・筋痛は一般的で、多くの場合、明らかな筋力低下やクレ アチンキナーゼ(CK)値異常、画像検査、筋電図検査を伴わない
・筋電図上は非特異的なミオパチーの所見、病理ではPM/DMとの鑑別は困難で、両者の特徴が混在する場合がある
・亜急性な進行も多いが、発熱を伴って急性に発症するケースも多い


Myths: MCTDにおける神経病変はSLEと酷似する

Reality: CNS and peripheral nervous system involvement is relatively uncommon in MCTD compared to other CTDs such as SLE.

・中枢神経系および末梢神経系の病変は、SLEのような他のCTDに比べ、MCTDでは比較的 まれである。
・三叉神経痛はMCTDの初発症状となることが多く、しかも両側性、ステロイドが効果がある場合もある
・偏頭痛様の頭痛がしばしばあるが、psychosisや痙攣はまれ
・無菌性髄膜炎、視神経炎、脊髄炎(抗AQP4抗体陽性含む)などの報告もあり


Myths: UCTDの多くは数年で何らかの自己免疫性疾患に分化していく

Reality:The majority of patients ,however, who initially present with undifferentiated symptoms remain undifferentiated over the entire course of their illness.

・最初に未分化な症状を示した患者の大部分は、疾患の全経過にわたって未分化なままである。

・91人の患者を対象としたある研究では、UCTD患者の臨床的および血清学的プロフィールを平均5年間にわたって検討した。その結果、SLEに 移行した患者は13%であったが、SScや特発性炎症性筋炎に移行した患者はいなかった。SLEに分類された時期は平均3年であった。
・SSA単独陽性、RNP単独陽性例はUCTDのままで経過していくことが多い

・600人以上のUCTD患者を対象としたハン ガリーの大規模コホートでは、5年間の追跡調査後も2⁄3は未分化のままであり、レイノー、関節 痛、関節炎が報告された愁訴の大部分を占めていた(Clin Exp Rheumatol . 2003 May-Jun;21(3):313-20.)
・同研究でのUCTDの定義は何らかの膠原病っぽい症状と自己抗体(ANA,anti-dsDNA,-Sm,,-RNP,-SSA/SSB,-Scl70,-centromere,-Jo1,-PM-Scl)のどれかが最低でも一つ陽性

・UCTDにおいては、より軽度の臨床症状で、特に最初の数年間で他のCTDへの変化していかない、表現型の安定したCTDの一群を表している可能性がある(要は最初数年でしっかり症状が揃わないUCTDという一群はその後も症状の悪化は起こさず、未文化な状態、というよりは症状が悪化しない良性のCTDという別個の一群である可能性がある、ということ)


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