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2014 京都の陣~京都市立紫野高校

網野高校を訪ねた翌日から2日間、京都市で行われた西日本インカレを取材し、5月22日には、京都のもう片方の雄・紫野高校を訪ねた。

紫野高校に行くのは、約1年ぶりだった。
昨年の近畿大会での演技が話題になった紫野高校を、インターハイ前に一度見ておきたいと思い、昨年7月に訪ねて以来だったのだ。

この日は、テスト期間中で、紫野高校の体育館にはマットが敷いてなかった。そのため、部員たちは練習を始める前に、女子マネージャーも含めた全員でマットを敷き始めた。

4月に新入部員7名(1人はマネージャー)を迎え、総勢17名になった紫野高校新体操部の手にかかれば、マット敷きも早い。手慣れた様子で、またじつに楽しそうに彼らはマットを敷き終えると、ストレッチを始めた。


試合前であり、またテスト期間であまり長い練習ではないにもかかわらず、このストレッチには、思いのほか長い時間をかけていることに私は驚いた。昨年見た、あの紫野高校の演技からは、あまりイメージできない練習だったからだ。

木学監督やマネージャーが補助をして、負荷をかけられている選手は、「ぎゃー! やばいー!」と大げさな声をあげ、笑いをさそっている。しかし、その叫び声をあげていた当人が、ストレッチのあとは、普段より可動域が広がっていることを確かめるように、鏡の前でポーズをとって、満足そうな表情を見せていた。

たとえ叫び声はあがっても、これは彼らにとって「手ごたえあり」の練習なのだ。

この日は、マットの下にスプリングが入っていなかったため、タンブリングを入れた練習を見ることができなかった。

が、今年のレギュラーメンバーも、6人中5人は、中学時代に体操競技経験があるという。昨年のインターハイを経験しているメンバーも残っている。

このチームも、タンブリングは間違いなく強い。
それは想像に難くない。

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作品の部分練習が始まり、私はそのスピード感に圧倒された。
とにかく動きが速い。そして、力強く、大きい。

このパートは、とくに速いパートなのか。

そう思って見ていたが、次のパートも速い。
どのパートも速い。

これは疲れる演技だ。
そう感じた。

それだけ、「攻めている」演技だとも思った。
昨年のインターハイ8位は、正直快挙だったと思うが、それで満足しているわけではないのだ、とこの演技から感じとれた。

いや、インターハイでの結果に満足していないというよりは、この京都での戦いがあるために、安穏とはしていられない、という側面も強いのだろう。

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木学監督に、網野高校について話を振ってみた。とくに、教え子である廣庭捷平が網野の参謀になっていることについて、どう思っているのかと聞いてみた。

「捷平が、新体操に関わり続けてくれることは、嬉しかったので、網野で教えると聞いたときも、いいんじゃないかと思いました。ただ、こんなに短期間で脅威になるとはね。」

木学監督は、苦笑いを浮かべた。
でも、やはり、嬉しそうだった。

思えば、網野の小倉監督もそうだった。
どちらもインターハイ出場を逃したくはないはずだ。
負けたくない! その気持ちは強いはず。


しかし、どこかで。
「京都」という土地で、ある意味、全国一ハイレベルな代表争いができることを、嬉しく思っているような、誇らしく思っているような、そんな雰囲気をどちらの監督ももっていた。

昨年は、網野に勝ち、インターハイでも健闘した紫野高校だが、木学監督は「今年も当然勝てる」とは思っていない。
だから、いっさい手を抜くこともなく、無難に流れることなく、この「疲れる演技」でインターハイ予選に挑むのだ。

そんな監督の思いは、選手にも伝わる。
彼らは、自分たちには、タンブリングでのアドバンテージがあることはわかっているはずだ。

しかし、そこにあまんじようとはしていない。
きつい柔軟にも耐えているのは、その表れとも言える。

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タンブリング以外も、「やるな」と思わせる演技をする!
彼らのそんな決意が、この演技からは見える。


昨年の紫野高校の演技は、たしかにインパクトがあった。
それは、インターハイ前に練習を見せてもらったときにも十分感じられた。
ただ、それが評価されるかどうか。

私は、そこに確証はもてなかった。
そして、木学監督も同様の不安は抱えていたという。

「タンブリングだけ強くてもね…」
そう言われてしまうかもしれない。
正直、徒手などには、粗さがあるチームであることは、木学監督も認めていただけに、確固たる自信はもてないままのインターハイだったのだ。

しかし、結果的に紫野高校の演技は、高い得点を勝ち取り、ジャパンにも出場した。
これは、男子新体操の流れを少し変える出来事だったように私は思っている。
男子新体操特有の「味わい」や「ニュアンス」。
それはもちろん、大切なものだ。

だが、一方で、タンブリングや個人であれば手具操作など、誰が見ても「できているもの」「難しいもの」の価値をなかったことにはできないはず。そう考えれば、昨年の紫野高校の演技が評価されたのは、男子新体操がスポーツである証明だったように思う。


今年のチームも、去年にひけをとらない。
徒手や動きなどは、さらに向上しているようにも思う。

このチームもまた、インターハイまでの成長を見たい。
そして、インターハイでの躍動が見たい。
そう思わせるチームだ。

しかし。

網野高校の作品もまた、「インターハイ」という舞台にふさわしいものに仕上がりつつあった。
この2チームのどちらか片方しか、インターハイで見ることができない。
そのことが、あまりにも惜しい。

こんなしのぎを削るような「インターハイ予選」が、京都では行われる。
団体競技が行われるのは、5月31日。ちょうどユースチャンピオンシップと同じ日だ。

東京体育館での戦いも熱いが、京都の戦いは、もっと熱い。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。