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2012平野泰新&永井直也(青森山田高校)

「両雄」

今年のユースチャンピオンシップは、いい試合だった。

臼井優華の3連覇も文句なしだったし、その臼井を追い上げた選手たちも見事な戦いぶりだった。

中でも、この2人。


青森山田高校の平野泰新と永井直也。
彼らの演技は、「待ってました!」と声をかけたくなるくらいに、すばらしかった。
ミスも少なかった。
平野は最終種目のロープだけ目につくミスをおかしたが、ほかの3種目はすばらしい出来だった。永井にいたっては4種目ノーミス。それも単にミスがなかっただけではない、一種すごみすら感じさせる演技だった。

平野1201

正直、昨年のユース、インターハイ、ジャパンと彼らの演技を見てきたが、悪くはないが、魂が震えるほどいいかというと、「まあ、高校生でこれだけできればすごいよね」という感じだった。
もとより表現力もあり、技術的にも高校生のトップクラスとして十分通用する選手であることは間違いない。ただ、彼らを初めて見たときの「すごい選手がいる!」という驚きや、あのころの彼らが持っていた煌めきにはすこしばかり陰りがあるようにも見えていたのは事実だ。

多分、期待も大きすぎたのだと思う。
ジュニアの段階で見るものを魅了する選手だったのだから、次に見るときはどんなにか…と期待してしまう。
しかし、人間ってそう簡単に着々と成長するわけではない。

こと、高校生は誰だって迷いもあれば、悩みもある。
それがヒトとしては当たり前なのだ。

仮にそんな迷いはなかったとしても、早くに咲いた花がどんどん大きな花になるかといえば、そんなことはない。それも当たり前のことだ。
彼らが失速したように見えたり、なにかふっきれない演技をしているように見えたことがあったとしても、それは、成長の一過程としてアリなのだと今さらながら思った。

永井1201

高く跳び上がる前には低くしゃがむものだ、という先人の言葉も思い出した。
そうだ。
彼らのこの1年間、2年間はこのためにあったのだな、と。
そう思わせる演技を、彼らは見せてくれた。

●永井直也

 1種目目のスティックは、すでに見慣れた演技ではあったが、ただノーミスだっただけでなく、すべてが「確信」に満ちた演技だった。1つ1つの動きも手具操作も自信に満ちていて、やったことが120%見えるあいまいさのない演技で9.350。このスティックを見たときに、今大会の永井は何かが違う、という予感がした。
 リングは、ここ何回かの試合で見たときにぴりっとしなかった印象があったが、今回はまるで違っていた。スピード感があり、目にも力がある。体も手具も自分の思いとおりに動いている、という感じでこれも9.350。
 圧巻だったのは、2日目のクラブ。これもジュニア時代からおなじみの「秋桜」だが、まるで違う演技のようだった。何かが特別に変わったわけではないと思う。しかし、見せる力が格段に上がった。この作品はジュニアのときに見たときから「こんなに成長した自分を見て」と母に語りかけるような演技だと思っていたが、ジュニアのころは、「成長した」と言っても「子どもではなくなった」程度でそれがまた健気に見えていたが、今回は、もう立派な大人になって帰ってきた、ように見えた。こんなにも優しい曲で美しい演技なのだが、力強い。そんな新しい「秋桜」で9.350。そして最終種目のロープでは、改めて高校生になっての成長ぶりを見せる。タンブリングのキレも一段よくなり、着地にも余裕がある。表現力や柔軟性が話題になることが多い永井だが、しっかりアスリートとして成長していることを証明する演技で9.375。今までの試合では足を引っ張ることの多かったロープで、4種目中いちばん高い得点を得たのだ。

永井1202

 4種目ノーミスで37.425。高校選抜のときは、36.625だったのだから、いかに今大会の永井が充実していたかが点数だけ見てもわかる。演技終了時点では、それでも平野、佐能を抜くのは難しいかと思われたが、2人に思わぬミスが出て、終わってみれば準優勝。ユースでは去年も準優勝に輝いている永井だが、最後のロープで臼井に突き放された1年前とはまったく違う価値のある準優勝ではなかったか。
 苦手そうだったロープでの高得点、最後まで粘った結果の逆転2位。どれも去年までの永井ではなかったことのように思う。華麗な演技と、王子呼ばわりされるルックスからは、想像できない「負けん気の強さ」が、ここにきてやっと表面に出てきた。そんな気がした。
 まだ、高校2年生。これでどんどん良くなるに違いない! なんて慌てるつもりはない。ひと山越えればまた次の山がきっと来る。またへこむときだってきっとある。
 だけどゆきつ戻りつしながらでも、前に進んでいければいいのだ。彼はきっともうその方法を知っている。だから、もう心配はない。次につまずくことがあっても、乗り越える姿を安心して見守っていればいい。つまずけばつまずくほど、きっと大きくなる。
 永井直也は、そんな選手だ。今回のユースがそう思わせてくれた。

●平野泰新

 今の彼からは信じられないが、去年のユースの予選が終わったとき、彼はたしかに「個人は…」と言っていた。期待のルーキーだった永井のほうがきっと上ですよ、と言わんばかりのその口ぶりは、いかにも高校2年生のものだった。
 高校2年生はけっこうしんどい。どの選手を見ていてもそう思う。1年生ほど希望に満ちていない。3年生ほど覚悟が決まっていない。1年生のときは、うまくいかないことがあっても「まだ1年だから」と思えるが、2年だとそうも思えない。世間はフレッシュな1年生のほうに注目するし、チームの柱になるのは3年生だ。自分はそのどちらでもない。
 もっとも今まで何回か青森山田高校の取材に行ったときに見た平野泰新は、そういう2年生にありがちな「おれは別にいいし」という態度からは程遠い存在だった。彼はいつも、ひたむきで一生懸命な好青年だった。だから、去年のユースでのあの「個人は…」という態度は、ふてくされたりしていたのでは決してないと思う。それだけ、自分に自信がもてていなかった、そういうことなのだろう。
 しかし、そうやって自信なさげに幕を開けた高校2年生の1年間を、彼は十分走り抜けた。インターハイにもジャパンにも出場し、徐々に大人の演技を見せるようになってきた。年間を通して団体とも兼任だったが、それもしっかりこなせるようになった。
 そして迎えた今年のユース。1種目目のスティックは、すばらしかった。昨年はこの種目でのミスも何回か見た気がするが、今回はノーミス。身長もずい分高くなり、強くなった! という印象だった。彼の持ち味である一瞬の間のよさもよく見える演技で、9.375。すでに演技を終えていた永井の9.350を上回る得点だった。

平野1202

 2種目目のリングの曲は、たしか高校選抜から使っている「花と囮」だと思うが、これが高校選抜のときとは別人のような完成度の高い演技だった。選抜はほんの2か月前だ。それほど大きく何かを変えたわけではないだろうに、演技の隅々にまで神経がいき届き、すさまじいまでの迫力があった。ラストの両足キャッチもインパクト満点だったが、なんと言っても90秒間どの瞬間を切り取っても絵になっていることには驚いた。ポーズ、間合い、そして顔の表情が見事にマッチして、とくに何か技をしているわけではなくても、一瞬たりとも見逃せない演技だった。得点は、9.375。またも永井の得点を上回った。
 今大会の平野の演技の中で、私がもっとも感動したのは、クラブだった。ジュニア時代から演じている「シンドラーのリスト」が、とうとう本物になったな、と感じさせる演技だった。ジュニアだった平野のこの演技を見たとき、私は「名作の予感」とメモしていた。あのときも彼はジュニアとしては十分うまい、美しい選手だったが、この曲の深い悲しみはさすがに表現できてはいなかったと思う。それでも、あのときすでに、きっと踊りこなせるようになったらすごい作品になるだろうな、思ったのだった。今回の演技は、あのときに妄想した「いつかはすごい作品になる」が現実になったように私には見えた。1回目の投げをキャッチしたときの柔らかさから、彼がこの作品をていねいに大切に演じようとしている思いが伝わってきた。そして、じつは2つ目の投げは明らかに大きすぎた。「落下する?」と思ったが、それもなんとか追いついて落下を防いだ。いや、その瞬間は、なんだか神様が守ってくれたように感じた。終わってみれば9.375。これで3種目で9.375を揃えた。
 上には佐能、そして臼井がいるが、抜けないまでにも伯仲した争いには持ちこめている。依然、永井よりも上にいる。
 しかし、最終種目のロープで、まさかの落下が出てしまう。結果、9.250。最後の最後で永井に逆転を許したが、それでも合計37.375は、高校選抜での36.325を大きく上回った。これまでの2年間、うまくいかなかったことも、なんとか乗り切ってきたことも、すべてが彼を成長させる糧になったのだな、と確信できた。平野泰新にとって最後のユースは、間違いなく最高のユースだった。

2年前、「王子」と呼ばれていた平野。
しかし、1年前、永井が現れ、平野は「王子卒業」だと私は思った。
もう「王子」というには彼は立派な大人であり、オトコであると感じたからだ。しかし、今年はさらに大人になった。
もう誰も彼のことを「王子」なんて言わないだろう。
いや、永井直也でさえ、もう「王子」ではない。


思えば「王子」の近くにはいつも「王様(父)」がいる。
彼らのように親元を遠く離れて頑張っている青年達が、「王子」のままでいるはずはないのだ。

記録的な豪雪だった昨年から今年。
何回となく雪かきもしたのだろう。
自分の時間をもつこともままらならない寮での生活で不自由もたくさんあっただろう。
正直、「ほんとにここに来てよかったのか?」そんな疑問をもったこともおそらくあるのではないかと思う。
それでも、そこで1年間、または2年間踏ん張ってきたことが、彼らを大きく成長させ、その成長を演技でしっかり示すことができた。

今年のユースは、平野泰新、永井直也の2人にとってそういう大会だった。


しかし、今週末にはさっそく青森県の高校総体が待っている。
今年は青森県の個人枠は1つ。
インターハイにいけるのは、2人のうちのどちらか片方だけだ。

それは、見るものにとってもつらいことだが、本人たちにとってもどれほど苦しい戦いかとは思う。
でも。
それでも。
彼らはきっと大丈夫!

そんな厳しい戦いの末にインターハイに出ることになっても、出られなくなっても、その経験を彼らはきっとまた次に生かしてくれる。
そう信じていいんじゃないか。
ユースでの2人のあの演技を見たばかりの私は、極めてポジティブにそう思っている。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。