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2010全日本選手権~大学生(男子①)

☆野口勝弘(花園大学)

野口

正直、今年のインカレまで私は野口勝弘という選手を知らなかった。が、今年は堂々の6位。「こんなすごい選手を知らなかったなんて」と不勉強を恥じつつ、記録を調べてみると、2009年インカレでは18位、2008年は28位。着実に年々順位を上げてきている選手だった。では高校時代は? と調べてみたのだが、野口が高校生だった時期の全国大会の記録には野口の名前は見つけられなかった。
彼の高校時代は、埼玉栄高校の補欠だったのだそうだ。それが、花園大学に進学してから、年を追うごとにめきめきと力をつけてきた。そう、ここにも一人「遅咲きの星」がいる。
彼の特徴はその柔軟性だ。とくに後屈が柔らかく、リングのラストの技などは男子ではなかなか見られない柔軟性を見せてくれる。さらに、スティックではかなり大仰な曲を使っていたが、その曲調に負けずにドラマチックに踊り上げていた。インカレのときは、種目によって得手不得手が見える印象もあったが、ジャパンに向けては4種目とも精度を上げてきているだろう。期待したい。

☆篠原良太(国士舘大学)

篠原

数年前、テレビのバラエティー番組が男子新体操をよく取り上げていたころに、常に部員不足に悩んでいる高校として出ていたのが小松島高校だった。彼はその小松島高校の出身だ。2005年には全日本ジュニアにも個人で出場、2007年のインハイには小松島高校の団体メンバーとして、また2008年には団体、個人ともに出場している。
2009年に国士舘大学に進学すると1年生からインカレにも出場、このときは16位になり、オールジャパンにも出場を果たしている。1年生としては立派な成績だ。
篠原の特徴は、ふんわりと高く高く舞い上がる宙返りだ。空中でのひねりも速くキレがいい。とても素直でくせのない動きは見ていて気持ちがいい。きっと彼は、驕ることなくもくもくと、陽が当たっても当たらなくても、ただ新体操を好きで続けてきたのだろう、そう感じる演技だ。決して派手ではないのだが、国士舘大学でのあと2年で、もっと貪欲に上を目指していけば、かなり大化けするのではないか、そう予感させる選手だ。

☆静 真樹(花園大学)

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静正樹は、暑さに弱いのかもしれない。彼は、大学2年生だった2008年からインカレに出場しているが、2008年はインカレで9位、しかし、オールジャパンでは5位まで順位を上げている。2009年もインカレでは14位だが、ジャパンでは10位。秋になると調子を上げてくる選手なのか、はたまた夏には弱いのか。調べてみると、彼は、2006年の春、高校選抜大会で個人10位になっている。しかし、インハイには出場経験なし。そんなところにも「暑さに弱いのか?」と思わせるものがある。
容姿には恵まれた選手だ。女子ほど「スタイル」にうるさくはない男子だが、スラリとした長身で手足の長い彼はやはりフロアで映える。しかも、このスリムな体からは想像できないくらいにタンブリングが強い。宙返りの高さは、目を見張るほどだ。今年のインカレでは、初日の2種目ともに落下があり、順位をかなり落としている。すっかり涼しくなったこの季節、、オールジャパンでは、高さとスピード感のある演技を、びしっと4種目キメてくれるだろう。

☆植野慎介(中京大学)

植野

男子新体操では、その演技(作品)そのものが「傑作だ」と思わせる作品に出会うことがある。そして、植野のスティックは、その傑作の1つに数えられるだろうと思う。
曲は宇多田ヒカルの「ファーストラブ」だ。シャープでかっこいい曲を使う選手の多いスティックという種目で「ファーストラブ」とは…。一瞬驚いた。しかし、これが「珠玉の演技」というほかない名演技だったのだ。この手具で、タンブリングも十分に見せて、この曲を表現するなんて! 見ていて涙が出てきてしまうような、そんな演技だった。
もう大学4年生になる彼にとって、「初恋(ファーストラブ)」ではないにせよ、好きな女の子でも会場に来ているのかな、などと妄想してしまうくらいに、彼の動き、表情からは「伝えたい想い」があふれているように見えた。これが演技なのならば、たいした役者っぷりだ。
オールジャパンの男子新体操には、見どころはたくさんある。それほど注目してほしい選手、演技が多い。しかし、そのなかでも、植野の「ファーストラブ」は、私の中ではかなり上位にランクされている。男子新体操をまだ見たことのない人から、この先自分はどんな演技を目指していこうか、自分が預かっている選手たちにどんな演技をさせていこうかと模索している人にまでぜひ見てほしい作品だ。「新体操」は(男子でも女子でも)こんな風に、人の心を動かせる可能性をもった芸術スポーツだということを誇らしく思えるに違いない。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。