2014 京都の陣~網野高校
男子新体操が盛んな地域、といえば、どこを思い浮かべるだろうか。
東北? それとも九州?
もちろん、それは否定しない。
だが、今、絶対に忘れてはならないのは、「京都」だと思う。
ああ、花園大学が強いからね。
そう思う人は多いだろうが、「京都=花園大学」だけではない。
京都いう場所は、なぜか新体操とは縁が深い。
花園大学の近年の活躍はもちろんだが、そうなるべくしてなったといえる地盤が、京都にはある。
昨年のインターハイで、強力なタンブリングを武器に8位入賞した京都市立紫野高校を見てもそれはわかる。
紫野高校からは、それまでも数多くの名選手が育っている。ただ、個人では強い選手を輩出するが、団体ではもう一歩、そんな印象があったが、昨年のチームは違っていた。中学時代には体操競技の経験があるという選手たちが集まり、男子新体操としては破格のタンブリング力と、スピード感あふれる攻めの演技構成で、得点をもぎとった。
今年の西日本インカレでも、花園大学Bチームには、西村統真、福岡大学チームには、八木洸征という紫野高校を卒業したばかりの選手たちがいた。それほど力のある選手たちがいたのが、昨年の紫野高校だった。
しかし、その紫野高校をもってしても、インターハイへの道は楽なものではなかった。昨年も、そして今年もだ。
京都には、京都府立網野高校がある。
近年は、紫野高校の後塵を拝することが多かったが、以前は強豪校だった。また、国体で男子新体操が行われていたころは、紫野と網野の選手で京都選抜チームを組んで全国でも上位の成績をおさめていた。
その網野高校が、昨年も今年も元気だ。
網野高校は、今年の3月、岐阜で行われた高校選抜大会に久しぶりに団体で出場した。結果は、17.275の9位と入賞まではあと一歩だったが、「その時点での力は出し切った演技だった」と小倉監督は言った。
私は、選抜大会前の取材として1月の終わりに初めて網野高校を訪ねたのだが、あれから4か月弱が過ぎた5月19日、再び網野を訪れた。
京都府のインターハイ予選は、5月31日~6月1日だと聞いて、インターハイ予選前の彼らを見ておきたいと思ったからだ。
3年生が引退していた1月でも、網野の新体操部員は10名いて、男子新体操部としてはそこそこの大人数だった。そして、みんなとても元気で明るく、のびのびとしていた。
さらに、4月に新入部員も入ってきて、人数もいちだんと増え、部はますます活気づいてきた。
おそらく、選抜大会での健闘で、「もっと上までいける!」という手ごたえを自分たちでも感じていたのではないか。
1月よりも、さらに、彼らは意欲的に動いていた。
意識の高まりも、ひしひしと感じられた。
さらに、変わったことがもう1つあった。
昨年、ときどき網野高校に顔を出しては指導をしていた廣庭捷平が、今年も、網野高校近くの中学で講師として働くことになり、昨年以上に頻繁に指導に来れるようになったのだという。
廣庭も、大学を卒業して2年目となり、中学講師の仕事も、新体操の指導も経験を重ねてきた。少しずつ、指導者として自分のやりたいことやスタイルもつかめてきたようだ。
そして、網野高校監督である小倉とのコンビネーションも、かなりよくなっているように見えた。
「紫野高校出身の捷平が、なんで網野に来てくれたんだろう」と、昨年は半信半疑といった様子だった小倉も、すっかりこの助っ人を頼もしく思うようになっていることも感じとれた。
そして、なによりも生徒たちにとって、自分達とはまったく違う、そして、惹かれずにはいられない動きのできるこの先輩の存在は、大きいのだと思う。その証拠に、彼らの動きは、1月に見たときとは確実に違ってきていた。
技術的な変化がどれほどあったのか、は私にはわからない。
もちろん、進歩はしているには違いない。
だが、できないことができるようになった、とかミスが少なくなったというような変化や進歩ではない「なにか」が、明らかに変わっていた。
強いて言うならそれは、「伝える力」とでもいうべき部分だろうか。
1月に見たときには、彼らにとっては初めての全国大会となった選抜に出られることがうれしくて、うれしくて張り切っている! そんな選手たちに見えた。
それが、今回は、この演技で「なにか」を成し遂げようとしている顔をしていた。その「なにか」は、もちろん、インターハイ出場! なのだろうが、おそらくそれだけではない。
選抜大会で演じた昨年の作品以上に、今年の作品に懸ける思いが大きいのではないかと思う。昨年かすかに芽生えた自信が、選抜大会を経ていい形で、「欲」に成長してきているようにも見える。
昨年のインターハイでは8位入賞した紫野高校だが、高校選抜では、メンバーを1人欠いた5人編成となり、15.950で12位だった。しかし、1名欠けたことによる減点1.500がなければ、17.450。17.275だった網野高校を上回る。やはり、それだけの力を紫野高校はもっているのだ。
網野の進境も著しいことは間違いないが、紫野も急に力を落としているとは考えにくい。
6月1日に行われる京都府インターハイ予選では、どんな決着がつくんだろうか。
彼らの演技を見ているうちに、なんだかドキドキしてきた。
今のこの雰囲気のままで、インターハイまで練習し続けることができれば、彼らはどんなに化けるだろう、と思うと、なんとしてもインターハイ出場を勝ち取ってほしいと思わずにはいられない。
その可能性は十分にある!
ただ、そのためには、紫野高校を倒さなければならない。
が、それは決して簡単なことではないだろう。
競技人口の少ない男子新体操では、強豪と言われている学校でも、じつはインターハイ予選では楽をしている場合が多い。1つの都道府県には実質1校しか男子新体操部がない、ということが少なくないからだ。たとえ怪我人がいて、6人編成ではなくても、新しい作品が完成していなくて昨年の演技で間に合わせることにしても、新しい作品がこなしきれていなくても。
「インターハイまでに間に合わせればいい」
というチームも多いなかで、京都では、6月1日のインターハイ予選に全てが懸かっている! という厳しい代表争いがあるのだ。
競技人口の多いスポーツなら、ごく当たり前のことではあるが、そうではないところも多いことがわかっているだけに、今、網野高校が置かれている状況に、胸がしめつけられるような気がした。
「インターハイ出場を目指して」過ごせる日々は、彼らにはあと2週間ししか残されていなかった。
6月1日を過ぎたら、「インターハイを目指して」の日々になるか、そうでなければ、「インターハイには出場できない」という現実と折り合いながらの日々になる。
この日見た、彼らのひたむきさや輝きは、そんな貴重な日々だからこそ、のものだったのかもしれない。
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