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2011インターハイ~鹿児島実業高校

2011インターハイレポート 鹿児島実業高校

「本領」

最近、ツイッターをよく見ているのだが、「男子新体操」で検索すると、今だに「鹿児島実業」がらみのツィートが多い。いかにも、男子新体操なんて知らなかった・・・みたいな人が、鹿児島でのテレビ放送の影響なのか、You Tubeで発見したのか、「鹿実の演技はすごい! おもしろい!」と連日つぶやいている。

もちろん。
カジツだけが男子新体操ではない。
男子新体操=カジツと思われては困る!
そんな向きもあるだろうことは予想できる。

しかし。
ここまで話題になるカジツは、いわば男子新体操の最終兵器ではないかと私は思う。
8月11日に鹿児島で放送された情報番組「テゲテゲ」は、なんと1時間まるまる鹿児島実業男子新体操特集。青森のインターハイ会場にも取材で来ていたし、この番組でも、鹿実だけでなく、上位入賞チームの演技はさわりではあるが放送してくれた。

つまり「鹿実おもしろい!」でテレビを見た人たちが、井原や青森山田や神埼の演技も目にしたのである。
この宣伝効果ははかりしれない!(全国で放送されないものだろうか)

順位や点数でははかり知れない鹿児島実業の力!
それは、必ず男子新体操の未来にも大きく寄与するに違いない。

というわけで・・・。
今回は、鹿児島実業だ。


競技終了後のインタビューで、樋口監督は、「インターハイは、練習会場でほかのチームといっしょになるので、練習では生徒たちが緊張しているのがわかった。なるべくよそのチームを見ないように、自分たちも見られないようにして練習していました。」と言っていた。

6人中3人が新入部員、それも新体操未経験者という今年のチームは、インターハイ出場がかかった九州大会のときも公式練習を回避。強豪校の演技を目の当たりにして、委縮しないようにという秘策だったらしいが、インターハイではさすがにそうもいかない。一応、会場練習はやっていたらしいが、「なるべくまわりを見ないように」というのが、微笑ましい。

そんなチームをいざフロアに送り出すとき、樋口監督はこう声をかけたそうだ。

「お前たちが求めるのは結果じゃない。目標はお客さんを笑顔にすることなんだから、エキシビションだと思って自分の役割を果たせ。自分たちが楽しんで演技しないと、お客さんは楽しめないよ。」

2011インハイ10


3年間で初めて、やっとインターハイの舞台に上がるキャプテン・黒瀬竜虎が、「はい!」とコールに応え、いよいよ、鹿児島実業高校、4年ぶりのインターハイでの演技が始まった。

2011インハイ08

はじめのポーズは、6人そろっての直立不動。

そして、音楽は・・・。
なんとクイーンの「We will rock you」。
鹿児島実業にしては、かっこよすぎる!
なんだなんだ、芸風変えてきたの?

と思ったのは、演技開始から10秒ちょっと。


江頭2:50をイメージしたというポーズのときには、あの鹿実名物の間抜けな効果音も入り、いよいよ鹿実パワー全開!
その前に、問題のバランスが入ったが、なんとこれが見事に止まる。新人3人も微動だにしなかった。
このバランスが決まった直後から、曲がAKB48の「ポニーテールとシュシュ」に変わり、第1タンブリング。1年生の3人は、たしかに前宙+前転くらいしかやっていない。演技を破たんさせずに今の彼らにできる精一杯のタンブリングなんだろう。それでも、彼らがそのタンブリングを失敗しないでやることで、音楽に演技がどんどんノッきている。
それぞれが、自分にできる精一杯をやっている!
それが素晴らしいのだ。

2011インハイ07

このカニみたいな横移動も、はんにゃ走りも、なんとまあ音楽によく合っていたことか。走り方などは、足のはね上げ方もぴったりで、鹿児島実業の演技が「ただユニーク」なのではなく、同時性や音楽との一致という点で、ただならぬこだわりをもって作り上げられていることが感じられる。
1年生たちに、タンブリングで無理させないのもおそらくそのためだろう。このカニ移動のあとに、1年生3人が前から後へ、上級生たちが後ろから前へタンブリングで行き違うシーンがあるが、ここでも1年生は前宙+前転。しかし、上級生たちは、ロンダート+ひねり宙+前転やロンダート+バク転+ひねりスワン+前転をやっている。
本当に、自分たちのもっている力を、どう見せるか、工夫し尽くされた演技、だと思う。

2011インハイ06

上下肢運動になると、曲がマルモリダンスに変わる。ここの振り付けはまさに絶妙だったが、私がとくに好きなのは、体を横に傾けたところ。とくに前から2番目の向かって右側にいる矢野くん(2年)の動きがじつにいいのだ。こんな笑える場面なのに、彼の動きは、とても美しい。
さらに、お尻をつき出したポーズの、膝の曲げ方、体の傾け具合、この微妙な部分までがそろっていることには感動すら覚えてる。
笑いをとりながらも、彼らが一生懸命に、全力で演じている証しではないか。

2011インハイ05

鹿倒立は、あきらかに短かった。
それでも誰も倒れたり、つぶれたりしなかった。
おそらくこの短さも想定内なのではないかと思う。
大崩れしないうちに終わらせる、それでもいいという練習をしてきたのではないか。実際、これでは「難度はとれない(←女子的言い方)」だろうが、演技全体の印象は落ちない。

できない部分でのダメージは最小限に抑え、自分たちに見せられることを見せる。期待されている面で頑張る!
それが、今年の鹿実の演技ではなかったか。
だからこそ、もちろん、いつもの通りにおもしろくて、笑えたが、それ以上に感動があった。会場で、大笑いしながらも涙を流していたのは、きっと私だけではないだろう。

2011インハイ04

曲は、AKB48の「会いたかった」に変わり、フロア左手前のコーナーでは、渾身の「OK!」ポーズも決まった。斜めにタンブリングで移動したあとに、音楽がKARAの「ミスター」に変わり、まさかのヒップダンス! このときに、この日いちばんの大爆笑が会場に起きた。

ちょっと苦しそうな柔軟のあと、曲は、AKB48の「ヘビーローテーション」に変わり、矢野の見せ場である土台を使っての大きなジャンプ! のはずだったのだが、どうも踏み切りに失敗したらしく、ジャンプが失速気味になってしまう。
しかし、このとき、矢野は腕の動きと表情でおどけてみせ、まるでその失速ジャンプが予定通りだったように見えた。競技後のインタビューで、矢野は、「あのジャンプは力が入りすぎて失敗しました。でも、みんなが笑ってくれていたので、よかったかな」と照れくさそうに言っていた。あのジャンプは、失敗を失敗に見せず、「オチ」に転換した矢野のファインプレーだった。これは、「お客さんに楽しんでもらう」・・・それを最優先に考え、練習してきた賜物ではなかっただろうか。
矢野は、踏み切りで失敗しても、お客さんを笑わせることはあきらめなかった! それがあのジャンプでの笑いにつながったのだ。

2011インハイ02

演技のラストに、もう一度、一瞬クイーンに音楽が戻り、軽快な動きでの隊形変化を見せるが、最後はやっぱり「ヘビーローテーション」で、ラストポーズはまさかのキスの寸止め! このとき、会場には、「きゃー!」という悲鳴と爆笑が渦巻いた。

鹿児島実業高校は、「4年ぶりのインターハイ」で、存分にその本領を発揮したのだった。

2011インハイ01

演技終了後の樋口監督は、多くの報道陣に囲まれていたので、私はその脇でずっとお話を聞かせてもらっていた。
「目標にしていたみんなを笑顔にする、が達成できたのでよかった。
そして、生徒たちも満足した顔で戻ってきてくれたので、それもよかった。」

そして、ほっとした表情を見せながらこうも言った。
「いざ演技が終わるまでは、この演技で喜んでもらえるかな、というのは心配で、プレッシャーなんですけど。拍手も笑いも多くてよかったです。」

そうなのだ。
鹿児島実業が、こうやって「本領発揮」できた陰には、樋口監督のおおいなる工夫と努力があったに違いない。
だからこそ、2011年インターハイで、私たちは、この「カジツの演技」を見ることができたのだ。

2006年大阪インターハイのときに、初めて樋口監督にお話を聞いたときの忘れられない言葉がある。
「うちは強いチームじゃないので、ビデオで早送りされない演技をしたかったんです」

2008年の埼玉インターハイのとき(この年から団体は出場を逃していたが)にインタビューしたときには、
「高校から新体操を始めたあまりうまくない選手たちにも、フロアで拍手喝采を浴びる経験をさせてやりたいんですね」
とも言われた。

新人3人を入れたこのメンバーで、これだけの演技を見せ、会場を沸かせたこと。これぞまさに、樋口監督の本領発揮ではなかったか。

そして、最後に樋口監督は言った。

「うちはまだ若いチームだし、ジュニアも育ってきているので、もっともっと練習して、来年以降は技術も上げていけるようにしますよ。楽しみにしていてください。」

もちろん! 楽しみにするに決まってる!
鹿児島実業のいないインターハイなんて、もう考えられない!
きっと多くの人がそう思っているんだから。

<「新体操研究所」Back Numberより>

20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。