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2010永井直也(半田スポーツクラブ)

衝撃デビュー!~ユースチャンピオンシップ

さて。今回のユースチャンピオンシップについては、これからもこのブログで続けてレポートしていく予定です。上位選手はもちろん、順位には関係なく、「これは!」という選手を紹介していくつもりですが、その予告編として、今大会で見つけた大注目株を紹介しておきましょう。
個人総合成績では、16位の永井直也選手(半田スポーツクラブ)です。今までには聞いたことのない名前、見たことのない選手でしたが、私のメモには最初のスティックの演技から☆印がたくさんつけてありました。いわく「ダンサーぽくて美しい」と大きな字で書いています。2種目のクラブでは落下がありましたが、それでも、男子では珍しい上体の蛇動を入れていたり、とにかく上体をそらしたときの姿勢が美しいのです。そして、女子のオールタイツと見まごうような、黒が基調で片袖がブルーという斬新な衣装(昨年、平野泰新選手が着ていた「斬新な衣装」はたしかこれでした!)なのですが、それさえもよく似合う、そんな雰囲気をもっていたのです。

永井5

ロープの演技では、最初のポーズから動き始めてすぐに、片手をすうっと宙に向けて伸ばすのですが、もうその手の動きだけで空気が変わる。そんな魅力的な動きをする選手なのです。腕から指先の美しさ、脚のラインもまっすぐでタンブリング中の乱れも少なく、バレエ的な動きも見事にさまになっていました。キメポーズで、きっと前を見たときの表情もとてもいいのですが、演技中に伏し目がちになる場面もあり、その伏し目さえも、彼のもつ独特の雰囲気を際立たせていました。
男子新体操はかっこいい。
だけど、永井選手の演技は、「男子新体操らしさ」とはすこし違った魅力にあふれていました。中学に入ってから新体操を始めたという彼は、全国規模の大きな大会に出たのは今回が初めてだったそうです。中3の今年は、全日本ジュニアを目指しているとのこと。今年のおわりに全日本ジュニアで彼の演技をぜひ見たいと思いました。いや、私だけでなく、より多くの人に見てもらいたいです。

全日本ジュニア初優勝!

5月のユースチャンピオンシップで見たときに、「なんとまあステキな選手だろう」と、おばさんの目すらハート型にした永井選手ですが、中学生の男の子の急成長ぶりといったらおそろしいものがありますね。
半年足らずでこんなになるのか? という演技を見せてくれました。
男子の全日本ジュニアは、2種目なので、今回はクラブとロープでしたが、2種目がまったく違うテイストの作品だったので、いろいろな魅力を見ることができました。

クラブは、日本人ならおそらくだれもが知っているさだまさしの名曲「秋桜」を使って、どこまでも静かで美しい演技でした。彼の美しい動きの1つ1つが心にしみていくような演技で、あの大きな代々木体育館全体が彼の演技に引き込まれてしいんと静まり返り、息をのんでいるのがわかりました。女子側スタンドの観客、審判さえもです。

永井4

今まで数多くの大会、演技を見てきましたが、こういう空気は何回かしか経験したことがありません。昨年のオールジャパンでの青森大学の団体、それから、横地愛選手の引退試合となったオールジャパンで逆転優勝を決めた最後のクラブの演技のとき、そして、現在フェアリージャパンで活躍中の遠藤由華選手の最後の全日本ジュニアでの最終種目リボンの演技。どの演技も、ほんとうに会場が水をうったように静まり返っていたことを覚えていますが、今回の永井選手のクラブは、それに匹敵する、まさに「会場の空気を変える演技」でした。

永井選手は、男子新体操歴がそれほど長くないと聞いています。それだけに、いわゆる「男子新体操らしい部分」(タンブリングの強さ・技術・手具操作)などには、まだ成長の余地が多くあるようにも思います。しかし、この線の美しさ、表情を含む表現力の豊かさは、たぐいまれなものだと思います。これには脱帽するしかなく、今回の優勝も、観客審判ともに彼の魅力の前に平伏した結果のように感じました。

ロープでは、しっとりとしたクラブとは違う、スピーディーでクールな動きを見せて、かっこよさ全開でした。ちょっと北村将嗣ぽい印象だな、と思いましたが、それもそのはず。使用曲がピアノジャックの楽曲で、北村選手が使っているのと同じアーチストのものでした。(←おなじみAさんのご指摘です。さすがです。)北村将嗣といえば、現在のトップレベルの選手の中でも、表現力では抜きんでたもののある選手ですが、その選手のような雰囲気が出せる15歳って…。すごすぎます。

全日本ジュニア優勝で、オールジャパンへも出場することになった永井選手。大学生や高校生に交じっても、委縮することなく、この瑞々しい演技を見せてほしいと思います。オールジャパンでは4種目を見ることができるので、それもまた楽しみです。

「美的」

永井といえば、これ! クラブの「秋桜」は、今回も泣かせてくれた。「秋桜」は嫁ぐ前日の娘の心情を歌ったものだが、永井のこの演技からも、「育ててくれてありがとう」という思いが伝わってくる。15歳の男子に、そんな心情があるとはあまり思えないが、少なくともこの作品を演じるうえで、そういう気分はもって踊っているのではないかな、と思うのだ。今回は、すこしばかりミスがあったようで、演技終了後、ついていたコーチからおでこをぺちっとやられて苦笑いのような表情も見せていたが、ミスをミスとは感じさせず、世界観を壊すことなく踊りきったところに、彼なりの根性やこだわりが見えたように思う。ちなみにOさんは、この永井のクラブに対して「王子全開!」とコメントしている。たしかに。

永井1

まだ中学3年生の永井は、じつはタンブリングも手具操作も比較的ベーシックなものしかやっていない。驚くほどの強さや高さ、テクニック、で見せるタイプの選手ではない。しかし、とにかくその「線の美しさ」はジュニア選手の中では、群を抜いている。いや、こうして高校生・大学生に交じっても、美しさでは際立った存在なのだ。柔軟性があるので、すべての形が無理なく美しいし、大きい。Aさんは、「斜前屈、深い!」と感嘆コメントをしている。また、つま先の伸びもすばらしい。
持って生まれたものもあるのだろうが、意識の高さ、のなせるものでもあるだろう。「こうしたほうが美しい」ということを、半ば無意識に気をつけられる、そんな選手がときどきいる。女子にも男子にも。永井もそうなのではないか、そんな風に見える。

永井3

曲表現にも長けたものがあり、リングではフラメンコ調の曲、ロープではスピード感のあるピアノジャックの曲、そして「秋桜」と、いろいろなイメージの曲に挑戦しているが、どれもはまるのだ。表情1つとっても、しっとりした曲のときのせつなげな表情もよいが、今回の写真にあるようなきりりとした厳しい表情もなかなか決まっている。線が美しいので、美しい演技が似合うのは間違いないが、そこにとどまらずに表現の幅を広げていきそうな予感がする。「美しさと表現力を兼ね備えた男子選手」という意味では、フィギュアスケートの羽生結弦選手に通ずるものがあるようにも思う。シニアの舞台でもすでに結果が出始めている羽生選手に、永井直也もぜひ続いてほしいものだ。
今大会では、手具操作の面でのミスや、単調さが目立ったが、なにしろまだ中学生だ。人が望んでもなかなか手に入れられないものをすでに持っている永井直也が、これからどこまで努力で、技術を習得し、熟練してくるかが楽しみでならない。

永井2

ちなみに、ここに掲載した写真はどれもステキだが、カメラマンいわく「力が入りすぎて失敗したショットが多かった」のだそうだ(苦笑)。カメラマンを失敗させるほどの魅力が、永井直也にはある。実際、今大会でも永井の演技中のシャッター音の多さは半端なかった。常に絵になるし、撮り逃したくないと思わせる瞬間が多いので、カメラマンもつい気前よくシャッターを押してしまうのだろう。
永井直也は、そんな選手だ。
どんな進路を選び、どんな高校時代を送るのか、あれこれ想像も期待もふくらむが、とりあえず、ジャニーズやジュノンボーイ方面に転身するのだけは当分お預けにしてほしい。
彼には、男子新体操で見せてほしいものがまだまだあるから。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。