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2011井原ジュニア新体操クラブ

個人優勝の安藤梨友も圧巻だったが、団体で3連覇を成し遂げた井原ジュニアの演技も、ジュニアの域をはるかに超えた圧倒的なものがあった。

今年の全日本ジュニア、男子も女子も団体はじつにハイレベルだったと思う。男子では2位の恵庭RGも素晴らしい演技だったし、3位の華舞翔新体操倶楽部、4位のNPOぎふ新体操クラブまでが18点台をマークするという激戦だった。
しかし、それでも。
その中でも頭ひとつ抜けて見えたのが井原ジュニアの演技だった。

今年度インターハイ優勝演技のラストポーズから始まるこの作品は、彼らが「井原のDNAを受け継ぐ者たちである」ということを雄弁に語っていた。

どこまでも美しく、よそには真似のできない新体操。
美しい動きと、練り上げられた構成で、見る人の心を捉えて離さない新体操。

いばら

そんな「井原の新体操」を彼らは、しっかりと受け継いでいる。

男子としては破格に美しい脚のライン、神経のいき届いたつま先。
そして、柔軟性。
女子でも、10数年前までは、「とくべつ体の柔らかい子しかできない」と思われていたことがことごとく、今や「だれもできる」ことになっていった。2000年のシドニー五輪のときに、ロシアのアリーナ・カバエワしかできないとされていた柔軟技は、今では日本の小学生だってできてしまう。
そこまで、人間の体は、トレーニングで変わるのだ。

井原の選手たちを見ていると、それは男子も同じなんだな、と感じずにはいられない。
今までは、男子新体操は、中学やどうかしたら高校から始める子が多かった。となれば、それまで柔軟やつま先を伸ばすようなトレーニングをやったことがない子たちが、やっていたのだ。女子とは違って、思春期以降はごつごつと骨ばった体つきになってくる男子にとって、「美しさ」を追究しても限界がある、と思われていたのも無理はない。

だから、「男子は女子とは違う。男子なりのかっこよさがあればよい」という考え方もあったと思うし、それも間違ってはいないと思う。
女子と同じように、「柔軟性があること=すごい、えらい」にならなくていいと思う、男子は。
しかし、一方で、必要十分な柔軟性を男子も身につければ、どんなにか表現の幅も広がるだろう、と思っていたが、それを井原ジュニアの演技は体現して見せてくれた。

いばら2

男子でもここまでできるんだ!
という美しさと柔らかさ。
決して、曲芸的になることもなく。
ある意味、女子以上に「柔軟性」の見せ方に長けている。

そして、さらにすばらしいと思うのが、彼らは立っている姿が、もうそれだけで美しいのだ。ほどよく腰が入った、背中から脚につながるラインの描く曲線が、じつに美しく、それが6人そろった瞬間は、そのままストップモーションにしておきたいくらいだ。
こういう「なにをやっているわけでもない」部分に、井原の強さがあり、特異性がある。タンブリングや組み技などは、ほかにも強いチームはあるが、立っているだけでも点数を献上したくなるチームは、今のところ、絶対無二だ。

あの小さな井原の町に、並はずれた美意識や身体能力をもった男の子がぞろぞろいるわけではないだろう。みんな、トレーニングで育ててきたのだ。この体とこの意識を。
そして、なんと言っても「環境」が大きい。
周囲を見渡せば、大学チャンピオン、高校チャンピオン、数々の偉大な先輩たちがいる。彼らもそろって美しい選手たちだ。
そんな中で育つ子ども達の美意識に、変化がないわけはない。

3月に井原高校の取材に行ったときに、高校生の脇でマット運動をしていた小学生たちのことを思い出した。彼らはまだ、週1~2回練習に来ている子ども達で、選手というわけではなかった。しかし、彼らのマット運動は、じつに美しかったのだ。たかが前転、たかが開脚前転を、隅々まで神経を行き届かせようとしてやっていた。つま先を伸ばして、そろえるべきところでは膝をそろえて。
そして、休憩時間には高校生たちの練習をじっと見つめていた。

いばらっこ

今大会で、「井原ジュニア」として3連覇を成し遂げた選手たちも数年前まではおそらくああだったのだろう。そうやって育ってきた「井原の後継者」たちの、見事な優勝には拍手をおくるしかない。そして、この先、どこまで井原時代が続くのか、見届けたい気持ちにさせられた。


競技終了後、観客席で会った井原の父兄の方から少し話を聞くことができた。
「このメンバーで優勝できてうれしい!」と彼は何度も何度も言った。
今回のメンバーには、中学3年生が4人入っているそうだが、その中の1人は、広島県から通ってきているそうで、井原高校への進学はできないのだと言う。中学を卒業したら、彼とはもう一緒に新体操ができなくなる。同じ団体でやることもないだろう。
そんな思いがあったから、今年はその仲間のためにも絶対優勝したかったんだと。
どうしても優勝したかったから、高校生がインターハイに行っている間も、夏休みでも、あいつらは休みなく練習してきたんだと、彼は声を震わせて言った。
「ほんとに親から見ても大変だなあ、と思うくらい練習してた。でも、少しもつらそうじゃない。ほんとにいつも楽しそうなんだ。」とも彼は言った。
なぜ、そこまで練習しても、つらくないのか? 楽しくさえあるのか?

それは、彼らが新体操に夢中だから。
そして、いっしょに頑張れるきょうだいのような仲間がいるから。

今の井原高校メンバーもそうだと言う。
さらにさかのぼれば、初代メンバーである精研高校時代のメンバーたち(大舌兄弟や谷本竜也ら)もそうだったと聞いている。
彼らは、新体操で結びついた「きょうだい」のように育っている。
そこには、理屈を超えた一体感があるのだと思う。
そして、それは演技にも如実に反映する。
練習を重ねても重ねても難しい、「気持ちをひとつにすること」が、いとも簡単にできているように見えるのが、井原の演技だ。インターハイでの井原高校もそうだったし、今回のジュニアもそうだ。


井原の黄金時代は、はたしてどこまで続くのだろうか?
願わくば、井原が落ちるのではなく、ほかのチームが井原を凌駕することによって、井原の連覇がいつかは止まることを願いたい。
そんな日が来たときの、男子新体操のレベルは、いったいどこまで上がっているのか、じつに楽しみだ。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。