2013高校選抜~鹿児島実業高校
「異変」
高校選抜大会1日目の個人競技終了後、翌日の団体競技の公式練習が行われた。
次々に本番会場での練習を、試技順とおりに行っていく各校の様子を見ていた私は、9番目に登場した鹿児島実業高校を見て、なんとなく違和感を感じた。
とくに何がおかしいわけではない。
選手達の調子も悪くなさそうだ。
ただ、鹿児島実業が久しぶりにインターハイに出場した2011年から約2年間、このチームを見続けてきたが、今回はどこかが違って見えたのだ。
そして、迎えた団体競技本番。
鹿児島実業の演技は、インターハイと同じ「一休さん」だった。
が、去年の夏と違って、選手の髪型が普通。
そして、監督のいで立ちも普通だった。
それでも、演技は、夏と同じように、冒頭のドミノ倒しに始まり、ユニークで笑える鹿実らしい動きを繰り出してくる。
しかも、実施がとてもいい。
揃うべきところは揃い、動きも大きく、そして、キレもある。
おそらく。
2011年の青森インターハイ以来、全国大会で鹿実が見せた演技の中では、最高レベルではないか? と思われる演技を彼らは見せていた。
が、なんだか、いつもと会場の空気が違う。
笑い声が少ないのだ。
2011年夏の青森、2012年春の山梨、夏の福井。
鹿児島実業の演技のときは、常に観客からは笑い声が沸き、盛り上がっていたのだが、2013年春の佐賀では、観客席が「どっ!」と笑いが起こることはなかった。
ひとつには、すでに、夏に披露されていた演技だったため、目新しさはなかったということがあるだろう。
さらに、昨年末の佐賀フェスティバルにも鹿児島実業は参加しており、佐賀の熱心な新体操ファンの中には、鹿実の演技をすでに生でも見たことのある人も多かったようで、今までの他の会場のような、「これが鹿実か!!!」という感動や驚きは少なかったのかもしれない。
ただ、それにしても、この日の鹿実の演技中の会場の空気はやけに「しん」としていた。
いつも爆笑と歓声の中で演技している選手達はちょっとやりにくいのではないかな? と心配になるくらいだった。
新体操強国である九州では、やはり鹿実の演技は、異端、亜流と見られているのかな? などとも思った。
この会場の静けさは、鹿実の演技を、冷やかに見ている人が多い、ということなのだろうか? と。
ところが、演技中盤で、彼らの鹿倒立がぴしっと揃い、決まったときに、この日一番の大きな拍手が起きた。
「おお~っ」という感嘆の声も会場のあちこちから聞こえた。
さらに最後のタンブリングに入ると、鹿実の応援団以外からも大きな声援がおくられた。
見事に交差も決めたときには、鹿倒立のときを凌ぐほどの拍手が起きた。
そして、彼らが演技を終えたとき、会場からは大きな大きな拍手が起きた。
それは、今までの青森や山梨、福井での会場からの拍手とは意味が違っていた。
今までの拍手が、「楽しませてくれてありがとう!」「おもしろかったよ!」という拍手だとしたら、今回の拍手は、たしかに「いい演技だった! うまかった!」という拍手だった。
今回の高校選抜は平日開催だったせいもあり、おそらく会場を埋めた観客の中には、地元・佐賀の人が多かったのではないかと思う。おそらく佐賀の観客は男子新体操を見る目は肥えている。ただ、「面白くて話題性がある」というだけで、鹿実の演技をありがたがるような観客ではない。
そんな佐賀で、彼らが受けたオベーションには、得点17.325、8位という成績以上の価値がある。
本番での彼らの演技を見て、会場の空気を感じたそのときに、前日の公式練習から私が感じていた違和感の正体がわかった気がした。
今回の鹿児島実業は、いい意味で「普通のチーム」だった。
初心者3人を入れてやっと団体が組めた2011年は、会場での公式練習をエスケープしたり、他のチームを見て委縮しないように壁に向かって練習したりしていた。
演技直前には、「お前たちは、試合じゃない、エキシビションだ。観客を楽しませてこい」と樋口監督は声をかけた。
また、2012年には、前日の公式練習のあとで全員頭を丸めたり、本番は監督も袈裟がけで和尚スタイルを演出したりもした。
今までも鹿児島実業は、「本番での演技をよりよく実施して、少しでもよい結果を出す」ということを度外視しているかのような方法をとってきた。それは、そうすることで、彼らをリラックスさせ、力を出させようという樋口監督ならではの工夫だった。
ところが、今回は。
普通に公式練習を行い、普通に監督からは檄がとび、練習が終わればみんなで監督のアドバイスに耳を傾け、サポートの選手達は練習の間中、観客席から声をかけ続ける。
そんな「普通のチーム」になっていた。
その結果が、ついにたどりついた17点台だ。
彼らは、とうとうここまできた。
しかも、今回のメンバーは4人が1年生。まだまだ先がある。
2011年に鹿児島実業が全国の表舞台に復帰し、YouTubeやマスコミなどで話題になったことを、「男子新体操の普及」という面では喜びながら、「でも、あれが男子新体操だと思われるのは困る」「おもしろいけど、下手!」と厳しい指摘をする人もいた。
そのことは、当の鹿実の選手たちも監督もわかっていたはずだ。
だが、彼らは、「話題になればそれでよい」にあまんじてはいなかった。
そのことは、練習を見に行くたびに感じていた。
「おもしろいだけじゃない、強い鹿実を見せたい!」
という思いは、彼らの中に、しっかり芽生え育ってきていたのだ。
これからの鹿実は、「楽しませてくれる」だけのチームではなくなる。
鹿倒立と交差でもっとも大きな拍手をもらった今回の演技が、そのことを証明している。
<「新体操研究所」Back Numberより>
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