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「仮想(バーチャル)の時代に仮想の言語を!エスペラントの新戦略?」臼井裕之×J-MENT (第110回日本エスペラント大会 プレ企画第3弾報告) 【金子陽子】

第110回エスペラント大会プレ企画第3回は2023年5月27日(土)19時から行われ、34人(オンライン参加が30人、中継会場のエスペラント・ビーガンカフェSOJOから4人)が参加。前半は本誌編集部員でもある臼井裕之さん、後半はゲーム制作者で、『ことのはアムリラート』をより言語学習に特化させた『ことのはレルナード』を開発中のJ-MENTさんが発表した。司会進行は黒薔薇アリザさん。

「エスペラントはザメンホフの仮想言語」 臼井裕之さん

臼井裕之さん

 “出だしの機器操作の不手際からわかる通り、いわゆるアナログ人間である私が、バーチャルが今後のエスペラント普及のカギになるかもしれないと気が付いたのは、エスペラントを取り入れたゲーム「ことのはアムリラート」のヒットと、やはりヒットした「地球の歩き方」と「ムー」のコラボ「異世界の歩き方」がエスペラント会話を取り入れ、それが注目を集めたことによる。
 宮沢賢治の例もあるが、元来エスペラントはファンタジーと相性が良い。そもそも実際に話されていない新しい言語を作るというザメンホフの脳内でうまれた発想は、ファンタジーでバーチャルである。エスペラントが国連に代表されるような実際的な組織に採用されることを望んだり、大会などに出かけて直接の対話にエスペラントを使用する人はいるが、知らない人同士が直接つながるツールになったり、民族語の中での対話に困難を感じていた人にとっての別のオルタナティヴな可能性になったりするエスペラントのありようは、きわめてバーチャル的ではないか。
 かつて人々が共通の情報源からの共通の認識を直接的な人間関係の中で共有していた時代と違い、技術の発達とともに情報源が多様化し、与えられる情報はすべて現実ではなくフェイクかもしれないと皆が思っている現在は、ファンタジーとリアルがあいまいである。このような中でエスペラントはバーチャルでつながれるツールだというイメージをもっと利用すべきと考える。”

臼井裕之さんの発表要旨

「AIとエスペラントの可能性は利用者次第」 J-MENTさん

J-MENTさん

 “1つ目のテーマとして、AIをはじめとする新しい技術との付き合い方を考えたい。最近、急速に身近になったChatGPTなどの言語生成AIの有用性は、利用者自身の知識に依存する。便利とはいっても時間の節約が主な効用であり、判断したり創作することはAIにはできない。新しい技術はあきらめずに触れ続けるべきで、使い手の学習・研究が欠かせない。
 2つ目のテーマとしては、アムリラートを通じて興味をもった人(Juliamisto。Esperantistoになぞらえて、しばしばそう呼ばれる)が、せっかくエスペランティストと接点を持とうとしても、相手の興味に寄り添うことなく、一方的にエスペラントへの想いや知識をまくしたてられたり、ネットで得られる程度の情報を繰り返されたりして、結局エスペラントから離れてしまうことが、私の知る限り非常に多い。
 毎年開催される日本大会も、「同意を求めるだけの一方的な押しつけ演説」をするのではなく、問題提起をして、参加者と共に考える時間を作るべきだと考える。  
 大会のオンライン講演では、参加者はZoomで視聴するのみで意見すら発せず、時間がきたらそこで終わりという状況に慣れつつあり、本来エスペラントが目指していたはずの相互理解から外れつつあるのではないか。
 そして、Juliamistoは英語も日本語も通じない状況に遭遇し、たとえ相手がエスペラントを知らなかったとしても、多くの民族語との共通性をもつエスペラントの知識で、相手と理解しあうきっかけが得られるかもしれない。
 さいわい、エスペラント界は新規の人を受け入れる気風はあるのだから、エスぺランティストが消費者ではなく売り手側の立場となり、参加者目線で企画・アピールできればもっとうまくいく。”

J-MENTさんの発表要旨

Juliamistojを巻き込むためには

 お二人の話を受け、これからの時代のエスペラントの売り出し方、バーチャルな可能性、そして新規の人を受け入れる日本大会のあり方などについて、参加者から活発な議論が出た。
 臼井さんの話には、「エスペラントは本当にファンタジーやバーチャルなのか?」、「ザメンホフの理想の一部は現実となっているのだから、もはやファンタジーではない」という意見も出た一方、エスペラント広報のための斬新な切り口として称賛する参加者もいた。
 今回のプレ企画では、当初臼井さんひとりがAIについて話す予定だったが、専門家でもない臼井さんが、ニワカ知識で2時間話すことに不安を覚えた黒薔薇さんが、第2回プレ企画でも秀逸なコメントをいただいたJ-MENTさんに出演を依頼したのだという。
 J-MENTさんの「歴史や理念からエスペラントに入る真面目な人たちが多いのもわかるが、裾野を広げるためには、もっと“エンタメとしてのエスペラント”を考えてもいい」という話には、一同、耳が痛く思い当たる節があった。参加者からは、「エスペラント大会を内輪向けの企画で終わらせず、ゲームをきっかけに学習を深める人たちの橋渡しになれる大会づくりをしたい」との意見も出た。
 ちなみに、『ことのはレルナード』開発支援のクラウドファンディングは、6月12日に終了し、総額1050万2400円が寄せられ、達成率350%という大成功を収めた。9日には、ノーラ役の声優安齋由香里さんと、講師役の木村護郎クリストフさんによるYouTube対談イベントも配信された。
https://www.youtube.com/live/M5pOHxHqD-I?si=VcO2ew2OyeDxFwFQ
 最後に、当日の参加者であり、7月29日(土)に予定されている第4回プレ企画発表者である京都大学助教の都留俊太郎さんと、天理大学講師の須永哲思さんから、次回に向けた告知があった。
 「日本大会プレ企画」も残すところあと2回となったが、今後も内外のゲストスピーカーを交えて、忌憚なく討論する場が望まれる。
(RO誌2023年7月号p.2-3から)

La Revuo Orienta 2023年7月号

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