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ギターバイオレンスのメモ⑨

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9回目のギターバイオレンスメモ。今回はGVのフルオーダーベース
「WIT-7」を紹介する。現存する希少なGVの多弦。

※所有者でありオーダー主のとりめあん氏に紹介許可を頂きました。ありがとうございます。


●GUITAR VIOLENCE WIT-7

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1994年9月のベースマガジン。ワクワクするベースが掲載されていますね。


●非対称ボディシェイプ
●シングルコイルのスプリット配置でロー側ハイ側のパラ出力
●ノーインレイ仕様エボニー(マグロ)指板
●サドルごと水平に動かして弦間が調整可能なケーラーの2460ブリッジ

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↑ kaller 2460
(記事ではシャーラーとなっているけど、間違いだと思われる)

●22Fから7~6弦側はカットされ、5~1弦は28Fまで延長される段差指板
●バーズアイメイプルでマホガニーをサンドした3層構造ボディ
●チャンネルロッド(コの字型のアルミフレームで補強されたトラスロッド)の2本ハの字仕込み
●ボリューム無しダイレクト出力。

オーダーされたとりめあん氏曰く、
「MEWを見て、ここ(GV)なら自分の理想を叶えてくれるだろう」
と思いオーダーを決めたとの事。

ギターやベースのオーダーって、トラディショナルシェイプからスペックを好みに弄るようなオーダーが普遍的に昔からあるけども、GVは土台から思想が個性的かつ実用的(←ここ重要)なアイテム…それこそMEWとかイソロクとか)を生み出していた。
弾き手が徹底的に楽器を追及するとき、楽器そのもののデザインも弾き手に合わせた形状がベストと僕は考えるけど、GVは90年代にそのアプローチを攻めていた。奇をてらわない、あくまで実用的で、新しいもの。


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改造や実験を繰り返し、全体的にすごいことになっている現在のWIT-7。
細部を見ていこう。


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指板が途中からなくなる段差構造が斬新すぎる(ザグリもこの段差形状)
指板の横幅が広く見えるけど、ブリッジの可変弦間ピッチ最大幅に対応できるクリアランスがある、と考えると合点がいく。
当初2シングルだったザグリには、ソープバータイプのPU2発+フィンガーランプ設置?等の痕跡。

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僕が10年以上前にネットで偶然見かけて保存していた画像。まさにこの
とりめあん氏のWIT-7だった。この時代は2シングルスプリット+1ソープバータイプ。コントロール穴も見当たらない。

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段差指板が良くわかる画像。この時点ではコントロール部の穴が増えている。


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完成時にボリュームすらないダイレクトアウト仕様にするメリットとして、
simplestである事以上に、完成後に拡張性をかなり自由に持たせられる点がある。

※9/27追記
とりめあん氏によると、時系列的なPUレイアウトの試行錯誤は以下の通り。

①完成当初はGVオリジナルのTLタイプシングル(ギター用)2発、
しかしギター用PUの為出力バランスに違和感→大阪のTSCを通じて後藤製絃にPU作成を依頼(画像の黒いシングルPU2つ。非常にクリアな出音)

②フロントにクオーターパウンドポールピース(フロント用ポールピースピッチ)のシングルPUを追加。
しかししっくり来ず、試しにリアに移すもピッチが違う為また合わず、
Bartolini PS46Cに交換。

③フロントの後藤製絃PU2発+リアのPS46Cをミックス出力化、そこに
NollのTCM3(3バンドプリアンプ、ミッドフリケンシー付き)も
搭載するも、普通のベースな音になってしまい、結果的にはPS46Cもプリアンプも外して、

④現在の後藤製絃PU2発をダイレクト出力、に落ち着いた

という変遷があったとのこと。


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バーズアイメイプルとウォルナットがサンドされた7ピースネック。
昨今の多弦では、国内外含めマルチラミネートのネックはよく見かけるようになった。剛性、見た目、サウンド特性、材料を無駄なく使える…
ペグは7~2弦がGB-7、1弦のみ恐らくH.A.P搭載のもの。ハイF弦は020ゲージ付近のプレーン弦を使う場合もあり、これによりテンション感の微調整が可能。
(ベース用のH.A.Pは今全く見掛けない為、かなり希少)


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ボディバック。滑らかなバックカット、裏通し穴、特徴的な5点ジョイント配置。
バックパネルが増やされ、舟形ジャックでパラアウト出力だった部分は1つに統合されている。

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ジョイント部分はスムーズに落とされている。そこへセンター材のマホガニーがカット中段に現れる。例えばフォデラのスルーネック裏の様な、美しい曲面ラインが形成される。

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画像から推測するに、おおよそ1:2:1の比率でラミネートされたバーズアイメイプルとマホガニー。

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音響特性目線よりも、見た目の美しさに目が惹かれる。
GVはバーズアイメイプルの使用率が非常に高い。


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氏によれば、このベースの塗装仕上げは「デュポン社のオイル」で施されているらしく、調べるとシーラー&フィニッシュという塗料が見つかる。
樹脂分多めのオイルのようで、「クリア塗装の様に仕上がり、重ね塗りも出来る」と土屋氏が言っていたらしい。
ただ、現在そのオイルは販売されていない(半日調べたけど売っているところが見つからなかった。)
買えるなら欲しい。試したい。

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一般的なクリア塗装だと光沢が出すぎる。
かといってつや消し仕上げはマットになりすぎる。
家具的な落ち着いた艶、とでも言うべきか。MEWにも独特の艶があった。


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トラスロットが2本仕込まれているのが見える。
チャンネルロッドというのは以下の様なトラスロッド。
アコースティックギターや昔のエレキギター等にもよく使われている。

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↑ チャンネルロッド。

締め込むとアルミの外枠が曲がる。ロッドの効き具合と同時に、
ネック補強材的な面、仕込みのし易さ等で有用。

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これは以前僕が所有していたagileの10弦ギター(指板剥がしてリペア中の画像)
ネックの側面ラインに合わせてロッドが仕込まれているのがわかる。
結果「ハ」の字配置になる。特に多弦ベースに於いてはナット幅と
ブリッジ幅の関係で指板幅の推移が大きくなる為、「均一」に内部補強するならハの字でロッドを組んだ方が良い。


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当時としては相当斬新なベースのスペック。
木材やパーツ以上に、プレイヤーの追求に対応したイメージを内包する
構造と形。GVのギターやベースは改造がされている個体が非常に多いと
以前記事で綴ったけども、それだけ「弾き手が試行錯誤を続けていけるワクワク感」が常に楽器内に存在していたのだなと思う。

「私の希望が全部入ってる。完成して28年くらい経つけど、いまだにネックはほどんど動かないよ」

オーダー主のとりめあん氏の言葉。

ネックはマジで重要です。マジで。製作しててほんとにそう感じます。


続く。